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気管支喘息は成人の約5%に認められるありふれた病気でありながら,対応をあやまると命にかかわるやっかいな病気でもあります.
アレルギー性疾患が全体として増える中,大気汚染も加味して,全世界でさらに増加傾向があります.
発作によって日常生活の質が脅かされるばかりでなく,喘息が原因で亡くなる方は,人口10万人あたり年間 3人にも達します.
(日本でも1年間に約3000人の方が亡くなる計算です.)
患者さまひとりひとりの切実な問題であるとともに,社会に与える影響も大きく,
がん,生活習慣病,肝炎などとならんで,国民的課題として取り組まなければならない病気だと思います.
喘息は古くから知られた病気ですが,近年多くの研究が行われ,気管支喘息発作は,単なる気管支の攣縮によっておきるものではなく,
発作の背景に気管支の慢性炎症があるということが確かめられました.
その研究の成果が,私たち臨床医が行う治療方法をまったく変えてしまいました.
気管支拡張療法だけにたよる治療では不十分であり,喘息の管理には,
背後にある炎症の治療が不可欠であるということが確かめられました
また 吸入補助器具の工夫により,副作用が少なく,効果が確実な吸入療法が臨床の現場に導入されるようになりました.
特に抗炎症作用にすぐれ,全身的副作用の少ない吸入ステロイドによる吸入療法が喘息治療に欠かせないものとなってきました.
さらに,ピークフローメータなどによる自己管理の方法も普及してきました.
以上のような喘息に対する基本的な考え方や治療・管理の方法はWHOや日本アレルギー学会などのガイドラインとして広く示されています.
このような治療・管理の方法が,普及するにつれ,発作のたびに点滴の治療をしたり,入院を余儀なくされるという事例も随意分減ってきました.
- 以上を要約すると
- 1)慢性気道炎症が気管支喘息の本体であるという疾患概念の確立
2)抗炎症療法が大切であるという認識
3)吸入療法,特に吸入ステロイドの有用性の確認
4)ピークフローメータによる自己管理の方法の普及
5)日本アレルギー学会のガイドラインなど標準的治療法の提示
ということです.
吸入ステロイド療法の有用性はすでに確立したものであり,その効果に疑問の余地はありません.
しかし,現在でもなお,そのような標準的治療法の恩恵に浴すことができない患者さまがおられます.
その原因は
- 1)ガイドラインがすみずみまでは,行きわたっていないことによるもの(わたしたちの責任です)
- 2)吸入ステロイドに対するいわれなき偏見によるもの(患者さまの側にもあり,また一部の医療者側にもあり)
ベクロメサゾンやフルチカゾンなどの吸入ステロイドを選択し,適切な吸入補助器具を使い,
定められた量をまもり,経験のある医師の管理下において適切に使用する限りにおいては,
全身的副作用は非常に少ないと考えなくて良いでしょう.
吸入ステロイドは内服や注射のステロイドとはちがうものです.
まれに咽喉頭の違和感,声がれ,口腔内カンジダ症など局所の副作用がありえますが,
うがいの励行などで,ほぼ予防が可能です.
吸入ステロイドは喘息が重症化するまで,取っておく薬ではなく,
むしろ咳喘息や,発症早期に積極的に使用することによって気管支の器質的な変化(リモデリング)を防ぎ,
重症化を阻止するための薬です. 早期治療が必要なのです.
自分は軽症だからと,発作の出たときに気管支拡張剤を使って様子をみているわけにはいかないのです.
リモデリングが起きてしまえば,治療はますます困難となり,喘息死につながる懸念もあるのです.
喘息の患者さまは喘息の治療薬以外の薬にも注意が必要です 吸入ステロイドを中心とした適切な予防療法を受け,きちんと管理されていても,
不用意に飲んだかぜ薬,または,胃腸薬よって,重症の発作が誘発されることがあります.
薬局で買った市販薬でも起こり得ますし,それと知らずに医療機関で処方される薬でも起こります.
主治医以外の医療機関にかかるときは,注意して,医師や薬剤師に必ず相談してください.
喘息の人が飲んではいけない薬はずいぶんたくさんあるのです. 特にかぜ薬に気をつけてください.
また防腐剤などの食品添加物も要注意です.
そのような患者さま(アスピリン喘息が疑われる患者さま)にはあらかじめ, 主治医から説明があると思いますが,注意が必要です.
インフルエンザなどの感染症にも注意が必要です.
感染症に伴って,それまで安定していた喘息が悪化することはよくあります.
特にインフルエンザについては,予防接種による予防とともに,過労とならないように日常生活に注意することが大切です.
もし罹患してしまったときは,はやめの治療を心がけてください.
残念ながら,現在のところ成人喘息を完全に治癒させることはかなり困難です.
しかし,発作を起こさないようにし,日常生活に何ら支障ないように管理することは可能です.
また早期治療を確実に行うことによってリモデリングの起こるのを阻止できれば喘息自体の治癒も視野に入れることが可能と考えられます.
患者さまはどなたでも,このような良質の標準的治療をうける権利があります.
不十分な治療を漫然と行えば少しずつ病状は悪化し,ついには喘息死につながる可能性もあります.
日本では,吸入ステロイドの消費量からみて,不適切な治療をうけておれる患者さまが,
まだまだ多数あると思われます.どうか適切な治療をお受け下さい.
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