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北イタリア二人旅・その5 チンクェ・テッレ (Cinque Terre, Liguria, North Italy)

翌日は街からそう遠くないチンクェ・テッレと呼ばれる地域に行くことになっていたので、8時頃には起きて階下に朝食を食べに行く。ここのダイニングも陽の光がさんさんと降り注ぐ部屋だが、これがまた入った途端にうわあと声に出してしまいそうな華やかさ。広さだけでも今まで泊まったホテルよりずっと大きく、テーブルも淡いピンクのクロスで統一されていて上品で明るい雰囲気なのだが、とにかく食べるものの品数が半端ではない。やはりバイキング形式だが、ずらりと並んだガラスの容器に入った色とりどりのジュースから始まってクロワッサンなどパン類はもちろんケーキ類もナッツ、ドライフルーツ、チョコレートなどのマーブル・ケーキやパイのようなもの、キッシュに近いもの、何種類ものハムにチーズ、とどめに大きなテーブルの真ん中にてんこ盛りになった果物類。メロンなど食べやすくカットされたものと、葡萄やプルーン、りんごなど丸ごとどさっと盛ってあるものとに分かれている(最初これは飾ってあるだけかと思った)。これで調理された肉や魚類があればローマ皇帝の晩餐もかくやという雰囲気である。白黒の制服で揃えたウェイターの人数も多く、みんなにこやかに挨拶をしつつ宿泊客の間を縫って飛ぶように立ち働いている。新しいお客が入ってくるとすかさず席に誘導するし子供連れの対応も迅速。よく訓練されているのだなあと感心しつつ、一体何を選べばいいのかケーキとパンの間で逡巡する。友人は特に果物が好きなので新鮮なメロンや桃がたっぷりで大喜びしている。無論最後はカプチーノで締め。

ゆったりしたダイニングでたっぷり朝食をとった後、準備をしていよいよ出発。前に書いた通り旅行社のお勧め訪問地の地図はあっても必ずしもそこを訪ねる必要はないのだが、今日はまずこのチンクェ・テッレなるところを目指す。ここでワインのテイスティングができるチケットを貰っているというのもあるが、ここは観光地としてもかなり人気が高いらしいのだ。cinqueは数字の5、terreは陸地。つまりCinque Terreは5つの土地と言う意味で、海岸沿いに点在している村でも特に美しい5つの村が集まっているため総称してこう呼ばれるらしい。まずはモンテロッソ(Monterosso)という村に車を停めて、ワインの試飲をさせてくれるという場所に向かうことにする。一度時間で失敗したので時間の設定がないか何度も確かめた上、現場には早めに!を心掛けようと心を入れ替えたわたしたち。村の入口は低いのだが、ここも前は海、後ろは山の地形のため中心に向かうには坂か階段を結構登らなければならないようだ。と、通りかかった建物だか穴蔵だかよく分からない建造物の奥の暗がりを見ると、金属製の謎のドアが。横を見るとボタンが一つ。

「これはもしかして...エレヴェータ?」
「でも数字も何も書いてないけど」

取りあえずボタンを押してみると...動くらしい。おお、開いた。乗ってみる。ずずずず、と扉が閉まってがくん、ごごごごと動き出す。

「...どこに行くの?」
「...上でしょ」

もしかしてかなり勇気ある行動をとってしまったんだろうか、と思ったところでごーん、と扉が開く。取りあえず閉じ込められはしなくてよかった、と外に出てみると、おお、高い!右手の眼下には青い海が拡がり、左手に山なりにそびえる家々。どうやら足で山登りをする手間をかなり省けたらしい。今降りたエレヴェータを振り返ると、左の写真のような状態。エレヴェータしかない。ボタンが一つしかないのは「下か上か」どちらかしかないからだし、数字がないのはそもそも建物ではないのだから階数などないからである。背後に青空と新緑の山々を背負っているのが何とも言えない趣。わたしたちが出てきたのを見て何人かの観光客らしい人達が何だこれは?え、エレヴェータなの??という様子で近付いてきてうろうろしている。もしや多くの人は下から歩いてここまで来たのだろうか。確かに何の目印も説明も書いていないし、下の建物など暗くて古そうで見過ごしてしまいそうだった。上のここなどちょっと見には公衆トイレか何かのようである。地元住人なら当然知っている、のだろうが...

さて、向かうワイン工場か何かはすぐ近くらしいが、辺りにはそれらしい建物は見当たらない。この辺の筈だけどこんな商店街にワイナリー?と地図を見ながらきょろきょろしていると、酒屋さんらしい店が眼に入る。店の前では椅子を出して店主らしいおじさんと少し若い男性がのんびり話している。ここで聞いたらワイナリーの場所が分かるかも。...いや、ちょっと待て。地図とワイナリーの名前を確認。分かるかも、ではなくてわたしたちが目指していたのはまさにここだ。どう考えてもここだ。しかしワインが並んでいるとは言え普通の酒屋さんにしか見えないので、恐る恐るチケットを見せてみる。するとおじさんが何となくついてくるようにというような素振りをして店の奥に入るので、本当にいいの?と思いつつ中に入る。おじさんはカウンターの後ろに入ると、グラスと何本かの赤白のワインを出してくる。...やはりここなのだ。若い人もこの店の店員なのか、後ろで手伝っているようないないような。

おじさんも店員さんも英語は全く話さないらしく、ひたすらグラスにワインを注いでくれる。こちらも無言で飲んでは「...うん、おいしい」「そうね」となぜか日本語で言い合う。妙な雰囲気が漂う店内。やがておじさんが壜を出さなくなった。どうやらこれで終わりらしい。

「...終わりみたい」
「そうね。...買う?」
「いや...」

友人もワインは好きだが、とにかく一切言葉が通じないため一体どういうワインなのか、ここの店のオリジナルなのかなど聞きようがないし、車とは言えこの暑さの中ワインを乗せておくのも何なので、買おうという考えはないらしい。じゃあ、ま、帰ろうか、ということで、どうにも妙な雰囲気のまま「じゃ、どうもありがとう」だけイタリア語で言って店を出る。右は「撮ってもいいですか?」と(英語で)一応聞いてカメラを向けたもの。固まって眼があらぬ方を見るおじさん。隠れようとしているのか何なのかよく分からない店員さん。わたしたちが帰った後、二人は一体何を話し合ったのか。

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この間のパルマで言えば、ハム工場かと思って行ったら町のお肉屋さんの店頭で熟成後の見事なパルマハムを見せられた、というような展開に友人といささか複雑な顔を見合わせる。でも話が通じればいい感じそうなおじさんと店員さんだったので、やっぱりイタリア語を勉強すればよかったと後悔。何となく申し訳ないので、何か買えそうな小さいものはなかろうかと店の外に並んでいる土産物などを見てみるが、やはり酒屋さんだけあってお酒ばかりなので断念。おじさん、ごめん。

さて今度はやはりツアーについている切符で、列車を使って「5つの土地」を回る。一日に5ケ所全部を回るのは忙しいしゆっくり見られないので、2ケ所くらいにしようということになる。駅について切符を出すが、どうも改札らしきものがない。英国などでも田舎の駅はそのままプラットフォームに行けてしまうところもあるので、まあ切符はあるし大丈夫、と中に入る。目的地へ向かう列車のプラットフォームに向かおうと構内の階段を登ろうとすると、その手前に何やらスロットのようなものがついた器械が設置されている。
「もしかしてこれ、改札装置?」と恐る恐る友人が切符を差し込んでみる。がっちゃん。どうやらそうらしい。 「あ、やっぱりこれでいいのね」と自分の分もがっちゃん。

(友人)「あ!」
「なに?」
「...それ、帰りの切符なんだけど。一枚で二人分...」
「...早く言って」

どうしよう、と言っても鋏を入れてしまったものはどうしようもないので、車内で検札が回ってきませんように、と祈りつつ列車に乗る。駅やプラットフォームはいかにも田舎風だが、外国人が多く訪れる観光地だけに列車は思ったよりずっと綺麗でよく手入れされた感じ。乗客はほとんどが観光客のようだ。一日の本数もそう多くないので地元の人は車を使うことが多いのだろうか。時期が時期だけに一般の人達は休暇でどこかよそへ行っているのかも知れない。10分余りで最初の目的地ヴェルナッツォ(Vernazzo)に到着。

村と言っても観光地と言うことと結構な広さがあるためそれぞれの村は小さな町といった感じで、海辺に近い麓の方は土産物や飲食店の店などが立ち並んでいるが、やはりすぐに急な勾配の坂や階段が民家のある山の上へと続いている。村のあちこちにオレアンダー(西洋夾竹桃)の木が赤やピンクの花を沢山付けていて美しいが、この辺りはレモンもよく育つようで、レモンから作ったリキュールも名物らしく、籠に入った葉付きのレモンを山積みにしている店も多い。お土産に小さい壜があれば買ってみようかな、とも思ったが、小さいのはいかにも土産物、という感じで壜がとんでもない色に彩色されているため却下。実はさっきのワイン・テイスティングの店先に、地元産なのかちょっといい感じの素焼きの小壜に入ったのがあったのだが、きっと他の店にもあるだろうと買わずにしまったのだった。結局この後もあれと同じような壜は見つからず、やはり買物は気になったときに買うのが一番、と改めて学んだのだった。

あちこち歩き回っているうちにそろそろお腹も空いてきたので、お昼にすることにして賑やかな通り沿いの店に入ってみる。バールというのだろうか、ちょっと立ち寄ってカウンターでお酒やコーヒーを飲んでいる人やアイス・バーをかじっている若い女の子もいれば、テーブルでスナックなど軽いものを食べている人も。わたしたちはテーブルに座って、ブルスケッタ(オープンサンドウィッチのようなもの)とパニーノ(ナンのような厚みのないパン)のサンドウィッチ、サラダなどを頼む。海をイメージしたらしい内装の店内を見回すと、誰が描いたのか壁には風景画や似顔絵など所狭しと絵が貼ってある。奥の梁のような所にはなぜか「五つの大陸」と日本語ででかでかと書いてあったりして、なかなか怪しい。なぜかBGMには「コーヒー・ルンバ」とか何とかラテン・アメリカ系の音楽がかかっていて(まあ日本だって邦楽が流れている飲食店のほうが珍しいが)、やたら陽気なポニー・テイルのお兄さんがカウンターの後ろで同僚やお客に喋る傍ら、歌ったり踊ったりしている。イタリアに来てから街角のあちこちで歌っている人がいるのを目にしているので結構慣れてはいたが、それでもこの人はかなり賑やかだ。
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右端の背中を向けているのが件の陽気(すぎ)なお兄さん。
先に来た飲み物やサラダなどをつついていると、お兄さんがさらに元気に歌い踊りながらカウンターから出てくる。...いやな予感。案の定こちらのテーブルに来ておもむろに手を出すではないか。こういうとき乗らないと場の雰囲気が悪くなるのだが、友人はどう考えても助けてくれない。仕方ない、これも国際交流だっと覚悟を決めて立ち上がると、お兄さんは待ってましたとばかりに踊り出すが、それでも大声で歌う。これはかなり恥ずかしい。まだこのときはあまりたくさんお客がいなくてよかった。ひとしきり踊ると満足したらしく、彼はカウンターに戻る。友人は涼しい顔で「ほんとによくあるねえ、こういうこと」とか言っている。その場の雰囲気と日本の印象を悪くするまいと努力しているわたしの身にもなってはくれまいか。
そうこうしているうちにブルスケッタとパニーノがくる。やはりお兄さんが運んでくるのでちょっと警戒したが、今度は大人しく帰って行った。わたしのサンドウィッチはパンにハムや野菜をたっぷり挟んだもの、友人のブルスケッタはスライスしたパンにトマトやチーズなどを載せてちょっと焼いたもの。どちらもおいしくて(友人のももらった)ボリュームも結構あって、満足。立ち寄っては何か飲んで涼んで行く人達が出たり入ったりする店を後にして、午後の日射しの中に出る。

そろそろ次の村に移動することにして再び列車に乗り、今度は終点リオマッジョーレ(Riomaggiore)まで行く。ここもまた海も山もまさに絶景。大分暑くなってきているので、海辺で日光浴をしたり泳いだりしている人も多い。今回の旅行では海辺に行く度にああ、水着を持ってくればよかったとつくづく思う。5月の終わりだと日本ではいくら何でも海水浴などとは考えないので、イタリアとは言えこれほど好天続きで暑いとは思わなかったのだ。わたしはこの後英国とアイルランドを回ることもあったので、服装もせいぜい「春の終わりから初夏」程度。カーディガンなどを脱げば半袖なのだが、そうすると思いきり焼ける!ということでジレンマが。湿度が低いと思ってうっかり日射しの下を歩き回ると後で驚く、というのはイタリアに入って2日目あたりに早々に思い知ったのだった。手頃な値段のサマードレスなどを売っている店に行くと、涼しそうだし色合いが綺麗なものが多いので買ってしまおうかなとも思うのだが(日焼けはどうした)、いかんせんほとんどがサイズの大きなものばかりで、わたしが着たら大笑い間違いなしなので思いとどまる。 on the beach (8k)

hotel staircase (8k)
これだけ美しい風景に恵まれていれば、当然芸術家たちがインスピレーションを求めて集まってくるのだろう、あちこちに絵や手作りの装飾品の店などがある。二人ともこういう店が好きなので、歩いていて面白そうなところがあるとついふらふらと迷い込んでしまう。特に絵が沢山ありそうな店はどちらからともなく無言の同意が成立する。麓の商店の並びでなくても、坂や階段を登った住居のあるあたりにひょっこりこういう店があって、そういうところに限って画家などが自分のユニークな作品を所狭しと並べていたりして面白い。きっとこの土地に住んで芸術活動をしているのだろう。左はそういう店の一つ。女性の作家が、日本の絞り染めにもちょっと似た色合いの抽象画を売っていた。カードを何枚か買って、チラシ(?)のようなものも貰ってくる。麓でも坂の途中でも、画架を立てて絵を描いている人も多い。特にこの時期は日射しも強く植物も競うように色とりどりの花を咲かせているので、太陽の国イタリアらしい絵が描けるのだろうなと思う。

階段があると登ってみたくなるのも、二人に共通した性質である。細くて入り組んでいるほど何か面白いものがありそうで魅力的なのだ。というわけでここでも階段から階段へとうろうろする。そろそろ下りようかな、と思うとまた面白い店などを見つけたりしてふらりと入り、また別の階段を登り、とかやっているうちにかなり上まで登ってしまったりする。
hotel staircase (8k)

最後に再びモンテロッソに戻って少し歩いたとき、たまたま立ち寄った土産物とちょっと面白いオーナメントなどの店で、素焼き(?)の板のようなものに渋い色合いで彩色した地元の風景画を見つけた。土産物ではあるが一つずつ手で彩色してあるのか、同じ場所の風景でも微妙に違っていて、別の黒い板の上にマウンティングしてあるので結構重みがある。店員のちょっとチャーミングな女性が「綺麗でしょう(Bella)!」と言うのにもつられて買ってしまう。

ちなみに友人はその近くに置いてあったやはり素焼きの「聖家族セット」を購入。これは何かと言うと、聖マリアとヨセフ、幼子イエスのいわゆる聖家族と、他に羊だの馬だの三賢人だのセットによって少しずつ違う人形と家具などが、舞台セットのような「お家」(「厩」もあり)と一緒になっていると言うものである。しまうときには家の中に入れて一まとめにして、飾るときは出して好きなように配置するという、リカちゃんのお家セット・聖家族版(素焼き製)のようなもの。イタリアは基本的にカトリックの国なのでこういうものが年中置いてあっても不思議はないのかな、とも思うが、熱心なクリスチャンでもないのにこの季節に「クリスマスにいいかも。可愛いし」とか言いながら結構な重さと大きさのセットを購入する友人もなかなかつわものである。北イタリアを車で回っていると言うと、店員さんは壊れないようにと梱包を厳重にしてくれたが、友人のものはとにかくアイテムが多いため一つ一つぐるぐる包むのになかなか時間がかかる。「これくらいすれば大丈夫だと思うけど」と包装材を総動員してくれた。こんなに大掛かりにして持って帰った置物、ちゃんとクリスマスに出して並べたのだろうか。今度聞いてみなければ。

ちなみに、帰りの列車に乗る際に既に切符に鋏が入れてあるのを見とがめられまいか、と多少心配だったが(この頃にはイタリア気質に慣れてきたので何とかなるだろう、とは思ったが)、誰にも何も言われず無事帰りの列車で車を置いたモンテロッソに戻ることができた。ビバ、イタリア。

24.10.2002


チンクェ・テッレのことをもっと知りたい!と思われた方はこちらへどうぞ。(イタリア語/英語)

前回のセストリ・レヴァンテと今回のチンクェ・テッレの写真が溢れてしまったので、おまけの写真頁を作りました。大分重くなってしまったかと思いますが、よろしければこちらからどうぞ。

次回はちょっとリッチな雰囲気の避暑地ポルトフィノを訪ねます。どうぞお楽しみに。


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