せっかくヨーロッパにいるのだから久しぶりに友人と会いたい、ということで急遽ドイツ行きを計画。はじめは数日間のつもりだったのだが、英国内に滞在している外国人(つまりわたし)が欧州のほかの国に行ってまた戻ってくる場合一週間以上の滞在のほうがなぜか航空券が安くなる、ということが判明したため、訪問を一週間に延長することに。ヒースロー空港から40分ほどでフランクフルト空港に到着。日本のような島国に住んでいると、飛行機とはいえこんな短時間で別の国に着いてしまうというのが何となく不思議。友人が空港まで車で迎えにきてくれた。彼女は大学で日本語と日本経済を学んでいて、大学のカリキュラムに従って実際に一年間日本企業で仕事をしていた間に、同じ学生会館に住んでいたわたしと親しくなったのだった。わたしと同い年の彼女はやはりこのときまだ学生だったが、すでに卒業論文の制作に入っていたため大学にはたまにしか行っていないということだった。 | これまで見た中で最も芸術的な郵便ポスト。 |
わたしがここを訪れた3月の半ば過ぎは、ドイツ南部とはいってもまだまだ空気が冷たかったが、復活祭(Oster)がすぐそこに迫っていることもあって、街は何となく春めいた気分に包まれていた。着いたのが週末だったこともあって通りにはちょっとしたバザーのようなものが出ていたり、地元のブラスバンドが繰り出したりしていた。 この時期、街中でショウ・ウインドウが一番華やかで楽しい店は何と「薬屋さん」。イースターの時期は一般家庭でも卵の殻をきれいな色に塗って、単体または作り物の小鳥や花かごと合わせたりして飾るのが一般的だが、卵を染めるときに使う木や草を原料にした染料が売られているのが薬局なので、各店とも自分たちの店の染料で染めた卵を使ったデコレーションを競うように店先に飾っているのだった。そしてまたこの薬局が、街のどこにいてもふと見回せば必ず視界の中に一件はあるというくらい多い。友人の家がある辺りは住宅街というか村なので、行けども行けども家ばかりで普通の店は車で街まで出ないとないのだが、薬屋だけは必ず数ブロックごとに建っている。医者の名前を掲げた「何とかクリニック」とか「マッサージ」とかいう建物も妙に多くて、「医療の国ドイツ」という言葉が頭をよぎるのだった。 |
赤い"A"は罪の印、ではなくて ドイツでは薬局(Apotheke)の印。 |
この時期はまた「墓参り」の時期にも当たっているらしく、友人とお母さんにわたしも同行することになった。ドイツではそれぞれの季節に一度、つまり一年に四回墓参りをするらしい。まず花を買うために花屋さんへ行こう、ということだったのだが...これがまた、ふつう日本で「花屋さん」といって連想するようなものとは大違いだった。ガラス張りの広大な空間はどう見ても植物園か巨大温室。が確かにそれぞれの花には値段が着いているし、さまざまな種類の花に混ざって庭石や置き物などの庭用オーナメントが置かれている。中には石灯籠とか釣りをする白髪の老人などの怪しい東洋趣味のものもある。 わたしたちは春の花パンジーを買うことにした。これがまたプラスティックの箱に入ったままさまざまな色のパンジーが、市場のようにずらーっと置いてある。そしてそのパンジーの列に挑む友人も半端ではなかった。「いくつくらいいるの?」と聞くわたしに「そうね、50株くらいかな」。 あっちがいいいやそっちのほうがきれい、と迷っている暇もなく黙々と黄色と紫のパンジーを50株ほど選んで車に積み込み(「乗せる」ではなく「積み込む」のほうが情況的に近いと思う)、一路墓地へ。もちろん日本の墓地のような墓石が立っているとは思っていなかったが、あまりにユニークなものが多くて驚いた。故人の職業や趣味にちなんでいるのか、音符や楽器が彫られていたり、墓石に本人の写真があるものもあった。幼くして亡くなった子供のお墓には風船やかわいいモチーフが彫られている。友人がしばらく一緒に見て回って説明してくれたが、名字を見れば大体どこの出身かとかいうことも分るらしい。ほとんどのお墓には前に何もないスペースがあって、そこにそれぞれの季節の花などの飾り付けができるようになっている。石でできた小さな箱のようになっているところにランプを灯せるようになっているものもあった。この前の季節はクリスマス・シーズンだったので、まだ家人が訪れていないところは松や木の実のリースなどの飾り付けが残っている。周りの既に新しく飾り直されたところもパンジーが多い。友人のところも古い飾りを取って、持ってきた移植べらで50株のパンジーをせっせと植えると、春らしく明るい感じになった。 |
「花屋さん」に置いてあった素焼きの 鉢(?)。欲しかったけど一番小さい ものでも日本に持ち帰るのは無理そう なので、せめて写真を。 |
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ドイツでは家を建てるとき、その家に住む人たちが自分で建てるというのが珍しくないらしい。といってももちろん全く素人の人がとんでもない家を建ててしまっては困るので、それぞれの段階で専門家にきちんと見てもらって、問題ないことを確かめてもらわなければならない。それにしても基本的に「自分のものは自分で作る」ということが普通のお国柄らしく、「日曜大工」をしているお父さんの手つきは半端なものではないし、置いてある作業道具も日本ではプロの職人でなければ使えないのではないかというような本格的なものだったりする。日本でも最近は別荘用のログハウスなどを自分で建てるなどというのは聞くようになったが、あれほど大きくてしっかりした3階建て(しかも地下におばあちゃんの部屋もある)の家をほとんど家族だけで建てる、というのは、そうできるだけの環境が日本に比べてずっと整っているとはいえかなり大変だと思うのだが、「だってそのほうが安いし、自分の好きな家が建てられるし」とこともなげに言う友人に再び「合理性のドイツ人」という言葉が頭を... 写真は居間の一部。奥の白い陶器の物体はドイツの伝統的なストーブ。昔は本当に下に火を入れたのだけれども、ここでは飾りのような形で作られているので、実際は電気で暖房している。色も普通は茶か暗い緑色をしているらしい。滞在中に訪ねたいくつかの城には、それぞれのタイルに肖像が彫ってあったりと凝ったデザインのストーブが必ずあった。 |
ドイツの街中を徒歩や車で回っていると、レストランや居酒屋らしき場所にはたいていその店で出しているビールの銘柄の看板が出ている。が、これが地域ごとに全く違っていて、一つの街を抜けて次の街に入るとさっきまであちこちに見えた看板が姿を消して、代わりに違う銘柄の看板がどの店先にも掲げられている。日本のようにドイツ全域どこでも平均的に飲まれているビールというのはないらしく、どこの店でもその土地で一番おいしいビールを出すということだ。残念ながらわたしはアルコールに弱いのだけれども、ビールやワイン好きの人なら訪れた土地土地の地ビールや地ワイン(?)を味わうのもまた楽しいのだろうと思う。ちなみに英国人(ドイツと英国のハーフ)の友人によると、ドイツ人は国産の一番おいしいワインは決して国外に出さず、輸出するのは2番目においしいもの(かそれ以下)だということで、彼女がドイツのおばあちゃんを訪ねた帰りにはいつもその「一番おいしいワイン」を手みやげに帰ってくると家族から大喜びで迎えられるらしい。写真は近くの街中のレストラン。ここにはビールの看板は出ていないが、左側の金色の馬をかたどった店の看板がきれい。 |
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