距離空間(R,d)上のコンパクト集合の定義 : トピック一覧   


 ・距離空間(R,d)上のコンパクト集合/位相空間上のコンパクト集合との関係  
 ・距離空間(R,d)上の点列コンパクト
 ・距離空間(R,d)上のハイネ・ボレルの被覆定理

【関連】
 ・コンパクト集合の性質:R上のコンパクト集合の性質/R2上のコンパクト集合の性質/Rn上のコンパクト集合の性質 

 ・コンパクト集合の定義:R2上のコンパクト集合/Rn上のコンパクト集合/一般の距離空間上コンパクト/位相空間上のコンパクト 集合  

 

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定義:距離空間(R,d)上でのコンパクト集合Compact Setの定義    

【設定】

 R   :   実数全部をあつめた集合(実数体) 
 (R,d)  : 実数全部をあつめた集合(実数体)Rに、距離dを与えてつくった距離空間
 A    :   実数の集合。つまり、R部分集合。 

【定義】

・「《実数の集合A》がコンパクトである」 「《実数の集合A》がコンパクト集合である」 とは、
  A任意の距離空間(R,d)における開被覆」が、 「距離空間(R,d)における有限部分被覆」をもつこと。 

【詳細】



【文献】
 ・杉浦『解析入門I』p.70
 ・志賀『位相への30講』第17講コンパクトな距離空間(pp.122-24) 
 ・『岩波数学事典』項目14Sコンパクト性;項目92Fコンパクト距離空間

※性質:ハイネ・ボレルの被覆定理


 手順1: A任意の距離空間(R,d)における開被覆」をЦ={ Uλ}λΛとおく。 
      すなわち、
      以下の2条件を満たすR部分集合族{ Uλ}λΛЦとおく。

           ・条件1:   A被覆すること。すなわち、   A  

Uλ
λ∈Λ

 

            ・条件2: 距離空間(R,d)の開集合のみからなること。  すなわち、   λΛ aUλ Uε(a) Uε(a)Uλ   

  手順2: Ц={ Uλ}λΛ有限部分被覆{U1,U2,U3,…,Un}が存在するかどうかチェック。 
        すなわち、
        { Uλ}λΛから、「AU1U2U3Un」を満たす、「集合の有限列」{U1,U2,U3,…,Un}を
         取り出せるかどうかをチェック。 

  手順3: ・ Ц={ Uλ}λΛ有限部分被覆が存在しないならば、
               すなわち、{ Uλ}λΛから、どういう組合せで {U1,U2,U3,…,Un} をひねり出してきても、「AU1U2U3Un」 と出来ないならば、 
           Aは、コンパクト集合ではない
       ・ Ц={ Uλ}λΛ有限部分被覆が存在するならば、
               すなわち、{ Uλ}λΛから、{U1,U2,U3,…,Un}をうまく選べば、「AU1U2U3Un」 を満たす {U1,U2,U3,…,Un} をつくれるならば、
          手順4へ進む。

  手順4: Aの「距離空間(R,d)における開被覆」を、他のものに変えて、手順1-3をテストしてみる。
        Aのあらゆる「距離空間(R,d)における開被覆」に対して、有限部分被覆が存在するならば、 Aコンパクト集合である


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性質:距離空間(R,d)上のコンパクト集合と、位相空間上のコンパクト集合との関連性

【性質】

 ・距離空間(R,d)上のコンパクト集合は、位相空間上のコンパクト集合の定義を満たす。

 ・具体的にいえば、
   距離空間(R,d)上のコンパクト集合は、
     距離空間(R,d)の開集合をすべてあつめた集合系を ドイツ文字のOd とした際の、位相空間(R,ドイツ文字のOd)上のコンパクト集合にあたる。

【説明】

  事実:  距離空間(R,d)の開集合をすべてあつめた集合系 ドイツ文字のOd は、位相空間上の開集合系定義を満たし、Rの位相となる。(

  この事実から、
   距離空間(R,d)におけるコンパクト集合の定義 「R部分集合Aコンパクト集合であるとは、A任意の距離空間(R,d)における開被覆』が、『距離空間(R,d)における有限部分被覆』をもつこと。」
  は、
   位相空間上のコンパクト集合の定義 「位相空間(Xドイツ文字のO )の部分集合Aがコンパクト集合であるとは、部分集合A任意のXにおける開被覆』が、『Xにおける有限部分被覆』をもつこと。」
  を満たす。

  (1)上記の事実より、 距離空間(R,d)には、つねに、位相空間(R, ドイツ文字のOd )がついてくる。 したがって、「距離空間(R,d)上の部分集合A」という設定は、 「位相空間(R , ドイツ文字のOd )上の部分集合A」という設定にほかならない。
  (2)上記の事実より、距離空間(R,d)の開集合は、位相空間(R, ドイツ文字のOd )の開集合の定義を満たす。ゆえに、『距離空間(R,d)における開被覆』とは、『位相空間(R, ドイツ文字のOd ) における開被覆』にほかならない。 


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定義:点列コンパクトsequentially compact

【設定】
 ・R:   実数全部をあつめた集合   
 ・(R,d) : 実数全体の集合Rに、距離dを与えてつくった距離空間 
 ・A:   R部分集合  
 ・{xn}:  Aに属す実数ばかりを集めた数列 
       つまり、任意の自然数nについて、xnA(R)を満たす数列 
        ※この数列は、収束しないものでもかまわない。   
 ・{xn(k)}: 上記数列{xn}の部分列 

【定義】

 「R部分集合Aが点列コンパクトである」とは、
  Aに属す実数ばかりを集めた数列{xn}を、どのようにつくってみても、
    1. 数列{xn}には、収束する部分列{xn(k)}が少なくともひとつ存在し、
    かつ
    2.この収束部分列{xn(k)}の極限αはA(R)に属す 
  という条件をAが満たすことを言う。

【性質】ハイネ・ボレルの被覆定理

【活用例】 ・「2変数連続関数による有界閉集合の像は、有界閉集合」の証明→最大値最小値定理

【文献】
 ・杉浦『解析入門I』p.64;
 ・ 矢野『距離空間と位相構造』4.1.2(p.126);
 ・志賀『位相への30講』第5講(p.38);
 ・『岩波数学事典』項目14Sコンパクト性;項目92Fコンパクト距離空間

Reference

日本数学会編集『岩波数学事典(第三版)』岩波書店、1985年、項目92距離空間Fコンパクト距離空間。
矢野公一『距離空間と位相構造』共立出版、1997年。 4章コンパクト空間4.1コンパクト性4.1.1コンパクト空間(p.123-125)
斉藤正彦『数学の基礎:集合・数・位相』東大出版会、2002年。第5章位相空間(その2)§2コンパクト性5.2.1-6 (p.142-3)
松坂和夫『集合・位相入門』岩波書店、1968年。第5章§2コンパクト性-Aコンパクト位相空間(pp.208-211)。
彌永昌吉・彌永健一『岩波講座基礎数学:集合と位相 I・II』 岩波書店、1977年。 II.位相第3章コンパクト集合§3.1コンパクト位相空間-§3.2有限交叉性とコンパクト性(pp.243-8)
志賀浩二『位相への30講』朝倉書店、 1988年、第5講コンパクト性、第17講コンパクトな距離空間(pp.122-24)普通コンパクト性といっているものを有限被覆性、普通点列コンパク トといっているものをコンパクト性といっていることに注意、第27講コンパクト空間と連結空間(pp.187-172)。
西村和雄『経済数学早わかり』日本評論社、1982年、第六章位相数学§3コンパクト集合3.1-3.2 (pp.295-300)。卑近な例もまじえつつ、具体的に説明。
佐久間一浩『集合・位相―基礎から応用まで―』共立出版、2004年、4.3節pp.87-92。
杉浦光夫『解析入門I』岩波書店、1980年、pp.33-48;55;66-7;70;.75-79;
小平邦彦『解析入門I』 (軽装版)岩波書店、2003年、pp. 13; 21;36; 46;53-65; 73.
高木貞二『解析概論改訂第三版』岩波書店、1983年、p.16.