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定理:
一次写像の定義域の基底と、Ker・Imageの基底との関係
[永田『理系のための線形代数の基礎』定理1.6.2(p.36)証明付;斎藤正彦『線形代数入門』4章§5(p.116)]
(舞台設定)
K:体 (例:有理数をすべてあつめた集合Q、実数をすべて集めた集合R、複素数をすべてあつめた集合C)
V :K上の有限次元ベクトル空間
V' :K上の有限次元ベクトル空間
「f :V→V'」:一次写像
(定理の確認)
「Ker fの基底」に、「Image fの基底のfによる逆像」を付け足したものは、Vの基底の定義を満たす。
(
定理の置かれた文脈の確認)
・基礎事項の確認(1)
Ker fは、Vの部分ベクトル空間(∵)であって、
「Ker fの次元(fの退化次数)」は、Vの次元をこえない(∵)。
したがって、V が「K上の有限次元ベクトル空間」という設定下で、
Ker fも、「K上の有限次元ベクトル空間」であって、dim(Ker f)≦dimV を満たす。
次元の定義に遡って、この意味をとらえなおすと、
Vの基底は、Vの基底のとりかたにかかわらず、有限(dimV)個のベクトルからなる構成されており、
また、Ker fの基底は、Ker fの基底のとりかたにかかわらず、有限(dimV)個以下のdim(Ker f)個のベクトルから構成される、となる。…(1-1)
・基礎事項の確認(2)
Image fは、V'の部分ベクトル空間(∵)であって、
「Image fの次元」すなわちrank f は、V'の次元をこえない(∵)。
したがって、V 'が「K上の有限次元ベクトル空間」という設定下で、
Image fも、「K上の有限次元ベクトル空間」であって、rank f≦dimV' を満たす。
次元の定義に遡って、この意味をとらえなおすと、
V'の基底は、V'の基底のとりかたにかかわらず、有限(dimV')個のベクトルからなる構成されており、
また、Image fの基底は、Image fの基底のとりかたにかかわらず、有限(dimV')個以下のrank f個のベクトルから構成される、となる。…(1-2)
・(1-1)より、Ker fの基底の定義を満たす、dim(Ker f)個の「Ker fに属すベクトル」が存在する。
これを{v1,v2,…,vdim(Kerf)}とおく。 …(2-1)
・(1-2)より、Image fの基底の定義を満たす、rank f個の「Image fに属すベクトル」が存在する。
これを{v'1 , v'2 , …, v'rankf }とおく。 …(2-2)
・Image fの定義により、Image fに属すベクトルはすべて、Vのなかに、fによる逆像をもつ。
したがって、(2-2)のrank f個の「Image fに属すベクトル」についても、
f (w1)=v'1 を満たすw1∈V
f (w2)=v'2 を満たすw2∈V
: :
f (wrankf )=v'rankf を満たすwrankf ∈V
が存在する。…(2-3)
・「Ker fの基底」(→2-1)に、「Image fの基底のfによる逆像」(→2-3)を付け足したもの
{v1,v2,…,vdim(Kerf),w1,w2,…,wrankf} …(2-4)
が、Vの基底の定義を満たすということが、
この定理の主張である。
(証明)
[永田『理系のための線形代数の基礎』定理1.6.2(p.36)証明付;]
Step1:設定
・Ker fの基底の定義を満たす、dim(Ker f)個の「Ker fに属すベクトル」を
{v1,v2,…,vdim(Kerf)}とおく。…(2-1)
・Image fの基底の定義を満たす、rank f個の「Image fに属すベクトル」を
{v'1 , v'2 , …, v'rankf }とおく。…(2-2)
・f−1 (v'1 ),f−1 (v'2 ),…, f−1 (v'rankf )をw1, w2,…,wrankf とおく。
f (w1)=v'1 を満たすw1∈V
f (w2)=v'2 を満たすw2∈V
: :
f (wrankf )=v'rankf を満たすwrankf ∈V
となる。…(2-3)
・上記の設定で、「{v1,v2,…,vdim(Kerf),w1,w2,…,wrankf}が、Vの基底の定義を満たす」というのが、定理の主張。
・{v1,v2,…,vdim(Kerf),w1,w2,…,wrankf}が、Vの基底の定義を満たすことを示すには、
{v1,v2,…,vdim(Kerf),w1,w2,…,wrankf}が線形独立であり(→Step2)、
かつ、
{v1,v2,…,vdim(Kerf),w1,w2,…,wrankf}の一次結合として、Vに属す任意のベクトルを表せること(→Step3)
を示せばよい。
Step2
・{v1,v2,…,vdim(Kerf), w1, w2,…,wrankf}が線形独立であることを示す。
そのためには、
スカラーα1, α2, …, αdim(Kerf), β1 , β2, βrankf ∈Kにたいして、
α1v1+α2v2+…+αdim(Kerf)vdim(Kerf)+ β1 w1+ β2w2+…+βrankfwrankf=〇 …(3-1)
が満たされるならば、
α1=α2=αdim(Kerf)=β1=β2=…=βrankf=0
であることを示せばよい。
・(3-1)が満たされるならば、(3-1)の両辺の「fがV'に写した像」をとった、次の等式も満たされる。
f (α1v1+α2v2+…+αdim(Kerf)vdim(Kerf)+ β1 w1+ β2w2+…+βrankfwrankf )=f (〇) …(3-2)
・(3-2)の右辺f (〇)=〇 (∵)
・(3-1)の左辺
f (α1v1+α2v2+…+αdim(Kerf)vdim(Kerf)+ β1 w1+ β2w2+…+βrankfwrankf )
=α1 f (v1)+α2 f (v2)+…+αdim(Kerf) f (vdim(Kerf))+ β1 f (w1)+ β2f (w2)+…+βrankf f (wrankf ) (∵)
=α1〇+α2〇+…+αdim(Kerf)〇+β1 f (w1)+ β2f (w2)+…+βrankf f (wrankf )
∵(2-1)により、v1,v2,…,vdim(Kerf)∈Ker fだから、
Ker fの定義より、f (v1)=f (v2)=…= f (vdim(Kerf))=〇
=〇+〇+…+〇+β1 f (w1)+ β2f (w2)+…+βrankf f (wrankf ) ∵零ベクトルのスカラー倍
=β1 f (w1)+ β2f (w2)+…+βrankf f (wrankf ) ∵零ベクトルの定義
=β1v'1 +β2v'2 +…+βrankf v'rankf
・上記2点から、(3-2)は、次のように書きかえられる。
β1v'1 +β2v'2 +…+βrankf v'rankf =〇 …(3-3)
・(2-2)で、{v'1 , v'2 , …, v'rankf }は、Image fの基底の定義を満たすものとして定めた。
したがって、{v'1 , v'2 , …, v'rankf }は線形独立である。
よって、(3-3)が満たされるならば、β1=β2=…=βrankf=0でなければならない。
そして、ここまでの議論を振り返ると、
「(3-1)が満たされるならば、(3-2)が満たされ、(3-2)が満たされるならば、(3-3)が満たされ、(3-3)が満たされるならば、β1=β2=…=βrankf=0」
となっているから、
要するに、(3-1)が満たされるならば、β1=β2=…=βrankf=0でなければならない
ということである。…(3-4)
・(3-4)の事実を踏まえると、(3-1)は、
α1v1+α2v2+…+αdim(Kerf)vdim(Kerf)=〇 …(3-5)
と書いても同じである。
・(2-1)で、{v1,v2,…,vdim(Kerf)}は、Ker fの基底の定義を満たすものとして定めた。
したがって、{v1,v2,…,vdim(Kerf)}は線形独立である。
よって、(3-5)が満たされるならば、α1=α2=αdim(Kerf)=0でなければならない。
そして、ここまでの議論を振り返ると、
「(3-1)が満たされるならば、(3-5)が満たされ、(3-5)が満たされるならば、α1=α2=αdim(Kerf)=0」
となっているから、
要するに、(3-1)が満たされるならば、α1=α2=αdim(Kerf)=0でなければならないということ
である。…(3-6)
・(3-5)と(3-6)をあわせると、
(3-1):α1v1+α2v2+…+αdim(Kerf)vdim(Kerf)+ β1 w1+ β2w2+…+βrankfwrankf=〇
を満たされるならば、
α1=α2=αdim(Kerf)=β1=β2=…=βrankf=0でなければならない
ということになる。
これは、{v1,v2,…,vdim(Kerf), w1, w2,…,wrankf}が線形独立であることの定義にほかならない。
Step3 {v1,v2,…,vdim(Kerf),w1,w2,…,wrankf}の一次結合として、Vに属す任意のベクトルを表せることを示す
・Vに属す任意のベクトルをxと置く。
・任意のx∈Vにたいして、f (x) ∈ Image f ∵Image fの定義 …(4-1)
・(2-2)において、{v'1 , v'2 , …, v'rankf }は、Image fの基底の定義を満たすとした。
したがって、
{v'1 , v'2 , …, v'rankf }の一次結合として、Image fに属す任意のベクトルを表せる。(∵)…(4-2)
・ (4-1) (4-2)から、
任意のx∈Vにたいして、
あるスカラーβ1 , β2, βrankf ∈Kが存在し、
f (x) =β1v'1 +β2v'2 +…+βrankf v'rankf
と表せる。…(4-3)
・(2-3)より、(4-3)は、次のように書き換えても同じことである。
任意のx∈Vにたいして、
あるスカラーβ1 , β2, βrankf ∈Kが存在し、
f (x) =β1 f (w1) +β2 f (w2) +…+βrankf f (wrankf ) …(*)
と表せる。…(4-4)
・(4-4)内の式(*)は、Image f上でなされたものであり、Image fはV'の部分ベクトル空間(∵)であるから、
V'というベクトル空間にそなわった演算とその規則をつかって、式(*)を変形してよい。
まず、(*)の右辺の逆ベクトルを両辺にくわえて、
f (x)+{−(β1 f (w1) +β2 f (w2) +…+βrankf f (wrankf ) )} =〇
として、
(4-4)を、次のように言っても同じことである。
任意のx∈Vにたいして、
あるスカラーβ1 , β2, βrankf ∈Kが存在し、
f (x)+{−(β1 f (w1) +β2 f (w2) +…+βrankf f (wrankf ) )} =〇
を満たす。…(4-5)
・−(β1 f(w1) +β2 f (w2) +…+βrankf f (wrankf )
=(-1)(β1 f (w1) +β2 f (w2) +…+βrankf f (wrankf ) ∵逆ベクトルのスカラー積での表現
=(-1)β1 f (w1)+(-1)β2 f (w2)+…+(-1)βrankf f (wrankf ) ∵スカラーに関する分配則
であるから、(4-5)は、次のように書いても同じことである。
任意のx∈Vにたいして、
あるスカラーβ1 , β2, βrankf ∈Kが存在し、
f (x)+(-1)β1 f (w1)+(-1)β2 f (w2)+…+(-1)βrankf f (wrankf ) =〇
を満たす。…(4-6)
・一次写像の性質より、
f (x)+(-1)β1 f (w1)+(-1)β2 f (w2)+…+(-1)βrankf f (wrankf )
=f (x+(-1)β1 f (w1)+(-1)β2 w2+…+(-1)βrankf wrankf )
なお、左辺の+とスカラー積はV'およびImage f上で定義された演算、
右辺f ( )内の+とスカラー積はV上で定義された演算である。
したがって、(4-6)は、次のように書き換えてよい。
任意のx∈Vにたいして、
あるスカラーβ1 , β2, βrankf ∈Kが存在し、
f (x+(-1)β1 f (w1)+(-1)β2 w2+…+(-1)βrankf wrankf ) =〇
を満たす。…(4-7)
・Ker fの概念を用いて、(4-7)を言い表すと、
任意のx∈Vにたいして、
あるスカラーβ1 , β2, βrankf ∈Kが存在し、
x+(-1)β1 f (w1)+(-1)β2 w2+…+(-1)βrankf wrankf ∈ Ker f …(4-8)
・(2-1)において、{v1,v2,…,vdim(Kerf)}は、Ker fの基底の定義を満たすとした。
したがって、
{v1,v2,…,vdim(Kerf)}の一次結合として、 Kerfに属す任意のベクトルを表せる。(∵)
つまり、
任意のy∈Kerfにたいして、
あるスカラーα1, α2, …, αdim(Kerf)∈Kが存在し、
y =α1v1+α2v2+…+αdim(Kerf)vdim(Kerf)
と表せる。…(4-9)
・(4-8) (4-9)から、
任意のx∈Vにたいして、
あるスカラーα1, α2, …, αdim(Kerf) , β1 , β2, βrankf ∈Kが存在し、
x+(-1)β1 f (w1)+(-1)β2 w2+…+(-1)βrankf wrankf =α1v1+α2v2+…+αdim(Kerf)vdim(Kerf)
を満たす。…(4-10)
・逆ベクトルのスカラー積での表現より、
(-1)β1 f (w1)+(-1)β2 w2+…+(-1)βrankf wrankf=(−β1 f (w1))+(−β2 f (w2))+…+(−βrankf f (wrankf ))
であるから、(4-10)は次のように書きなおしてよい。
任意のx∈Vにたいして、
あるスカラーα1, α2, …, αdim(Kerf) , β1 , β2, βrankf ∈Kが存在し、
x+(−β1 f (w1))+(−β2 f (w2))+…+(−βrankf f (wrankf )) =α1v1+α2v2+…+αdim(Kerf)vdim(Kerf)
を満たす。
上記等式の両辺に、β1 w1+ β2w2+…+βrankfwrankfを加えると、次のようになる。
任意のx∈Vにたいして、
あるスカラーα1, α2, …, αdim(Kerf) , β1 , β2, βrankf ∈Kが存在し、
x =α1v1+α2v2+…+αdim(Kerf)vdim(Kerf)+ β1 w1+ β2w2+…+βrankfwrankf
を満たす。…(4-11)
・(4-11)は、{v1,v2,…,vdim(Kerf),w1,w2,…,wrankf}の一次結合として、Vに属す任意のベクトルを表せるということの定義に他ならない。