矩形上の2重積分 double integral

VII. 閉矩形における累次積分
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    矩形中の2重積分の性質パラメーターを含む積分の性質 

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V-1. 面積の定義


【文献】

 ・小平『解析入門II』323-326
 ・高木『解析概論』8章93節(pp.334- 337.)
 ・和達『微分積分』140-4
 ・Lang, Undergraduate Analysis,471-482.)。

  ・杉浦『解析入門I』IV章§7(pp.248-254):わざわざ矩形上の重積分に限定して説明;
  ・吹田新保『理工系の微分積分学』196; 一般の積分区間で。

 
定義:累次積分・逐次積分 iterated integral [微分積分142.], repeated integral [解析入門II324.]
[小平『解析入門II323-4;杉浦『解析入門IIV章§7(p.248.):わざわざ矩形上の重積分に限定して説明;
 高木『解析概論893(p.334.);和達『微分積分142;]
(舞台設定)
 
K : Kは、R2上の閉区間(閉矩形) { (x ,y ) | axb, cyd }=[a,b]×[c,d]を表すとする。
 
f (x ,y ) : ここでは、関数f (x ,y )として、Kの上で定義された有界関数のみを考える。
(本題)
  積分記号下の積分

  
  を、
累次積分逐次積分などとよぶ。
  また、これらを、以下の記号で表すこともある。
  

 ※これらの定義を読む際、前提として留意しておくべきなのは、
    、 
  が、それぞれ、
yの関数、xの関数であるという点。
  さらに、
xで積分可能なyの関数、yで積分可能なxの関数であるかどうか、が、
  累次積分が可能となるかどうかの分かれ目となる。


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定理:重積分の累次積分への還元可能条件 

[高木『解析概論』8章93節定理79(p. 335.);杉浦『解析入門I』IV章§7定理7.1(pp.249-251.)]
(舞台設定)
 
K : Kは、R2上の閉区間(閉矩形) { (x ,y ) | axb, cyd }=[a,b]×[c,d]を表すとする。
 
f (x ,y ) : ここでは、関数f (x ,y )として、Kの上で定義された有界関数のみを考える。
(本題)
1
 f (x ,y ) K可積分
 
xを固定してyの関数となったf (x ,y )が、
 
x[a,b]上のどんな値に固定しても [c,d]y方向に可積分
            すなわち、が存在する
 
ならば
 
x[a,b]上の固定位置と、y方向の積分値とを対応付けた関数  
  
  は、
[a,b]可積分となって、
  
 
2
 f (x ,y ) K可積分
 
yを固定してxの関数となったf (x ,y )が、 
 
y[c,d]上のどんな値に固定しても [a,b]可積分
            すなわち、が存在する
 
ならば
  
       
(yの固定位置によって積分値が変わってくる)
  は、[c,d]可積分となって、
  
 
3
 ・f (x ,y ) K可積分
 ・
xを固定してyの関数となったf (x ,y )が、
  
x[a,b]上のどんな値に固定しても [c,d]y方向に可積分
 ・
yを固定してxの関数となったf (x ,y )が、 
  
y[c,d]上のどんな値に固定しても [a,b]可積分
 
ならば
  
 
(直感的な説明) 和達『微分積分pp.140-2.を参照せよ。
(1証明)  [高木『解析概論893節定理79(p. 335.);杉浦『解析入門IIV章§7(pp.249-251.)] 
Step1: 閉矩形K=[a,b]×[c,d]分割=x×yをとる。
   
分割xによって、[a,b]を、I1=[a, x1], I2=[x1, x2],,Im=[xm1, b] (a=x0<x1<x2<<xm1<xm =b)分割し、
   
分割yによって、[c,d]を、J1=[a, y1], J2=[ y 1, y 2],,Jn=[ y n1, b] (c=y0<y1<y2<<yn1<yn =d)分割する
   ことで、 
   
分割凾ノよって生じたmn個の小矩形を、
    
Kij =[ xi1, xi ] × [ yj1, yj ] (i=1,2,,mj=1,2,,n) (a=x0xm =bc=y0yn=d )で表すことにする。
    
Step2: f (x ,y )K上の有界関数との仮定より、
   
f (x ,y )はすべての小矩形Kij (すべてのi=1,2,,m, すべての j=1,2,,n )でも有界で、上限下限をもつ。
   小矩形
Kijにおけるf (x ,y )上限Mij下限mijで表すことにする。 
Step3: xを固定してyの関数となったf (x ,y )は、x[a,b]上のどんな値に固定しても
    
[c,d]y方向に可積分とするという仮定より、
   
xを固定してyの関数となったf (x ,y )は、x[a,b]上のどんな値に固定しても
   
[ yj1, yj ] (j=1,2,,n) (ただし、c=y0yn=d )y方向に可積分
Step4: step2-3より、積分の第1平均値定理〇1を適用できるので、
   すべての小矩形
Kij =[ xi1, xi ] × [ yj1, yj ] (すべてのi=1,2,,m, すべてのj=1,2,,n)において、
    
x[ xi1, xi ]上の任意の値ζiに固定すると、
     
   が成り立つ。
Step5: 区間加法性より、(y0 =cyn=dに注意)
    
   これと、
step4の不等式から、  
    
       
(iについて固定して、j 方向に(j=1,2,,nの場合を)足しあげたかたちになる)
    よって、
    

     (確認:この不等式は、すべてのi =1,2,,mについて成り立っている)
Step6-1:
 i=1のとき、step5の不等式は、
     
 この各辺に、
(x1a)をかけて、   
    
   分配則によって、次のように書きかえられる。
      
Step6-2:
 i=2のとき、step5の不等式は、
     
 この各辺に、
(x2 x1)をかけて、
     



Step6-m:
 i=mのとき、step5の不等式は、
     
 この各辺に、
(b xm-1)をかけて、
      
Step7: (閉矩形K上のリーマン和とその下限・上限を示す)
 step6-16-mの不等式を、足しあげる。
    もちろん、一番小さいものどおしを足し合せたものは一番小さく、
         一番大きいものどおしを足し合せたものは一番大きく、
         中間のものどおしを足し合せたものは中間になるから、
  
            
(a=x0xm =bc=y0yn=dとの記号の取り決めに注意。)
 よく見ると、
 この最左辺は
閉矩形Kにおける分割凾ノ関するf(x,y)の不足和
 最右辺は
閉矩形Kにおける分割凾ノ関するf(x,y)の過剰和の定義にほかならない。
 両者にはさまれた真ん中の辺は、
[a,b]上の分割x・代表点{ζk}に関するF(x)リーマン和となっている。
 だから、次のように書いても同じ。
  
s []R [F(x); x ; {ζk} ]S []  
Step8:
 ・ f (x ,y )は、K有界と仮定されているので、ダルブーの定理が成立し、
      
||0のとき、S[]上積分Ss[]下積分s  
 ・ 
f (x ,y ) K可積分と仮定されているので、
   

    =f (x ,y ) K上の上積分S= f (x ,y ) K上の下積分s 
 以上
2点から、||0のとき、
   

   
 
 これと、
step7の結果を付き合せると、
 
||0のとき、|x|0にもなって、
   
  
 これは、
F(x)が、[a,b]可積分であり、
 
 
 であることの
定義に他ならない。
 よって、
  
  
(2証明) 〇1の証明と同様。 
 
(3証明) 〇1、〇2より。 
 

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定理:連続関数の重積分は、累次積分に還元可能 

[高木『解析概論』8章93節定理78(p. 334-5.); 小平『解析入門II』p.323;和達『微分積分』pp.140-2.]
(舞台設定)

 
K : Kは、R2上の閉区間(閉矩形) { (x ,y ) | axb, cyd }=[a,b]×[c,d]を表すとする。
 
f (x ,y ) : ここでは、関数f (x ,y )として、Kの上で定義された有界関数のみを考える。
(本題)
 f (x ,y ) K上連続ならば
1  
2  
が成り立って、ゆえに、

3  
(直感的な説明) 和達『微分積分pp.140-2.を参照せよ。
(証明1)  
Step1: f (x ,y ) K上連続ならば定理より、f (x ,y ) Kリーマン積分可能
Step2: f (x ,y ) K上連続ならば定理より、
   
f ( x, y ) K上でyを固定したとき[a,b]xについて連続、xを固定したとき[c,d]yについて連続  
   よって、
yを固定してxの関数となったf (x ,y )[a,b]可積分
   
xを固定してyの関数となったf (x ,y )[c,d]可積分
   (∵
閉区間上の連続関数はその閉区間上リーマン積分可能
Step3: step1-2の結果から、重積分の累次積分への還元可能条件が成立し、〇1-3が成り立つ。 
(証明2)  [小平『解析入門IIpp.299-300;p.323;] 
 
f (x ,y ) がK上連続ならば
      
 [a,b]上連続 (→なぜ?)。
 ここから、積分の第1平均値定理〇2を適用して、

 重積分の累次積分への還元可能条件と同様に証明。



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(reference)

日本数学会編集『岩波数学辞典(第三版)』 岩波書店、1985年、202項積分法(pp.520-525)→リーマン積分、
I.わざわざ矩形上の重積分に限定して説明しているテキスト。
小平邦彦『解析入門II』 (軽装版)岩波書店、2003年、第7章§7.1.c) (pp.323-326;)。連続関数に限定。
杉浦光夫『解析入門I』東京大学出版会、1980年、IV章§7(pp.248-254)。
黒田成俊『21世紀の数学1:微分積分』共立出版、2002年、第10章1節(pp.349-351.)。連続関数に限定。
高橋陽一郎『岩波講座現代数学への入門:微分と積分2』 岩波書店、1995年、1章1.4節(pp.18-26.):フビニの定理→累次積分。このテキストは、リーマン積分とルベーク積分の間という特殊な立場を進んで行っている気がする。ついていってよいのかどうか。

II. 閉区間(矩形)に限定せず、一般の積分区間で。
高木貞治『解析概論:改訂第3版』岩波書店、1983年、8章93節(pp.334- 337.); .
吹田・新保『理工系の微分積分学』学術図書出版社、1987年、第7章2節(pp.196-199).
和達三樹『理工系の数学入門コース1:微分積分』岩波書店、1988年、pp.140-4.
高橋一『経済学とファイナンスのための数学』新世社、1999年、第3章3.8節II(pp. 109-110) 全然詳しくない。
小形正男『理工系数学のキーポイント7:多変数の微分積分』岩波書店、1996、90-94.厳密な議論なしにアイデアを示し、すぐ、実際の計算の手順の手ほどきへ。
片山孝次『微分積分学』(現代数学レクチャーズB-8)、培風館、1980年、10.2.2定積分・反復積分(p.205.)ごく簡潔に。
Lang,Serge.Undergraduate Analysis(Undergraduate Texts in Mathematics),Springer-Verlag New York Berlin Heidelberg Tokyo,1983,Chapter 19. Multiple Integrals. §3.Repeated Integrals (pp.485-487.)。