Chemical & Engineering News 2018年3月13日
洪水がマイクロプラスチック汚染を
川から海に押し流す


情報源:C&EN: March 13, 2018
Floods can flush microplastic pollution from rivers into the sea
By Katherine Bourzac
https://cen.acs.org/articles/96/i12/Floods-flush-microplastic-pollution-rivers.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2018年3月26日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/c&en/
180313_Floods_can_flush_microplastic_pollution_from_rivers_into_the_sea.html

淡水中のマイクロプラスチックに関するかつてない最大の調査は、科学者らがその汚染のレベルを過小評価していることを示唆している。
 淡水系中の粒子に関するかつてない大きな調査の結果によれば、マイクロプラスチック汚染は、湖、河川、海の中で、従来推定されていたよりはるかに広がっているかもしれない。イギリスのマンチェスターで実施されたこの調査はまた、プラスチック汚染の大部分は都市及び郊外の排水路に源を発し、大洪水が大量のプラスチックを河川から海に押し流すことを示した。(Nat. Geosci. 2018, DOI: 10.1038/s41561-018-0080-1

 2000年代初頭以来、環境科学者らは、海洋中のプラスチックのマイクロファイバー、ビーズ、及びその他の断片の潜在的な環境的影響を調査してきた。”マイクロプラスチックの陸地側の状況についてはほとんど注意が払われてこなかった”とマンチェスター大学の自然地理学者ジャミー・ウッドワードは言う。”河川系マイクロプラスチックに関するデータは極めて少ない”。データがないので、研究者らは海洋マイクロプラスチックの約80%は淡水系排水路に由来すると推定している。他の科学者らは、その大部分は、大型のプラスチックごみが海に到達した後に、それらが分解することに由来すると提案している。

 マイクロプラスチックの発生源に関するもっと決定的な答えを得るために、ウッドワードは、ひとつの水域に流れ込む河川と小川が集まる集水地域全体における全ての種類のマイクロプラスチックに関する包括的で複数シーズンの調査を実施したいと望んだ。今回、研究者らは、アイルランド海に流れ込むイギリス北西部の 10の河川全てを調査した。ウッドワードと同僚のレーチェル・ハーレー及びジェームス・ロスウェルは2015年の春と秋に、人口が密集したこの地域の40か所で河床の堆積物を採取した。

 研究者らはサンプルを実験室に持ち帰り、堆積物のサンプルからマイクロプラスチックを抽出し、顕微鏡、赤外線分光法、密度ベース抽出法を用いて粒子をサイズ、形状および成分によって分類した。同チームはまた、マイクロプラスチックが海水中で浮揚性があるのかどうか、すなわち粒子が容易に海洋を移動することができるかどうかを調べた。

 マイクロプラスチックの異なるタイプの濃度は取水地域によって変動する。例えば、リバー・アーウェルのある場所はマイクロビーズが多数を占め、下流はマイクロプラスチックの断片が広く行き渡っている。マンチェスター市の中心に近づくとマイクロビーズが再び支配的になる。リバー・テイムのある場所では、研究チームは1平方メートル当たり約 517,000 粒子を見つけたが、これは淡水中でかつて測定された濃度としては最高であった。

 2015年冬、マンチェスター地域は記録的な洪水に見舞われた。そこで研究チームは彼らの 40 の場所に戻り、再びそこでサンプルを採取した。洪水の後、”マイクロプラスチックのレベルに非常に大きな減少があった”と、ウッドワードは言う。これらの比較と集水地域全体の推定に基づき、研究者らは洪水は約170億の浮揚性マイクロプラスチック粒子を海に押し流したらしいこと計算した。

 ウッドワードは、現行のモデルは世界中の海のマイクロプラスチックの濃度を過小評価しているかもしれないと信じている。今回のマンチェスター調査で発見された海水浮揚性マイクロプラスチック片の約半分は幅が 300μmより小さく、したがって海洋マイクロプラスチック数調査のために使用された網を通り抜けたであろうと彼は言う。また、イギリスにおけるただ一度の洪水で海に押し流されたマイクロプラスチックはかなりの量であり、それは世界中の海のマイクロプラスチック粒子の推定される総数、4兆8,500億粒子の約 0.5 %に相当した。

 ”これは、いままでに私が見た中で淡水系マイクロプラスチックに関する最大規模の調査であり、それは甚大な汚染を示している”と、ノルウェー科学技術大学の環境毒性学者マーティン・ワグナーは言う。

 ワグナーは、マンチェスター調査の様な淡水系研究をもっと見たいという。それは河床の堆積物中に住む生物がこれらの汚染物質を摂取することができるからである。それらの生物はウミガメのように美しくはないが、蠕虫(蠕動(ぜんどう)によって移動する虫)やミジンコ、及びその他の生物は生態学的に重要であり、また魚の様なもっと大きな生物が小さな生物を捕食するので、マイクロプラスチックは食物連鎖の中で蓄積し、上位に移動する。この生物蓄積の環境的影響はまだ明確ではない。

 この研究は、地方のものではあるが、国際的な影響を持っているとウッドワードは言う。”人が住み、排水系があるところにはマイクロプラスチックがあり、都市に汚染ホットスポットがあると思う”と彼は言う。この調査はまた、科学者らが今年発効したイギリスの化粧品中でのマイクロビーズ禁止の効果を追跡することを可能にするであろう。”現在私たちは、この禁止がマイクロプラスチック汚染を低減することに何らかの影響をもたらしているかどうかテストすることができる”と、彼は言う。


訳注:当研究会が紹介したプラスチック・リサイクル、プラスチック廃棄物、プラスチック汚染、及びマイクロプラスチック等に関連する情報

■プラスチック・リサイクル
■プラスチック関連規制
■プラスチック汚染
■プラスチック生活
■プラスチック問題への NGO の取り組み


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