The Guardian 2017年2月13日
’極めて高い’レベルの汚染物質が
マリアナ海溝の水深 10km で見つかる

地球上で最も離れた場所に人工の化学物質が存在するということは、
人に影響を及ぼさない安全な場所は最早どこにもないことを示すと、科学者らは言う。


情報源:The Guardian, 13 February 2017
'Extraordinary' levels of pollutants found in 10km deep Mariana trench
Presence of manmade chemicals in most remote place on planet shows
nowhere is safe from human impact, say scientists
By Damian Carrington
https://www.theguardian.com/environment/2017/feb/13/
extraordinary-levels-of-toxic-pollution-found-in-10km-deep-mariana-trench


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2017年2月16日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_17
/170213_Guardian_Extraordinary_levels_of_pollutants_found_in_10km_deep_Mariana_trench.html

 科学者らは、’極めて高い’レベルの有害汚染を地球上で最も離れた、近づきがたいマリアナ海溝の水深 10km で見つた。

 ロボットのような海底探査機により捕獲された海溝の真っ暗な水中に棲む小さな甲殻類は、中国のひどく汚染された河川で生きているカニ類より50倍、有害化学物質で汚染されていた。

 ”我々はこれまで、このような深海は人間の影響から隔絶され、清浄な領域で、安全であると考えていたが、我々の研究は、悲しいことにこのことは真実とはかけ離れていた”と、この研究を主導したイギリスのニューキャッスル大学のアラン・ジェイミソンは述べた。

 ”我々がそのような極めて高いレベルの汚染物質を見つけたという事実は、人間が地球上に持っている長期的で壊滅的な影響を実際に悟らせる”と、彼は述べた。

 ジェイミソンのチームは、1970年代後半に禁止されたが、環境中で分解しない、残留性有機汚染物質(POPs)として知られる非常に有害な産業化学物質のふたつの主要なタイプを特定した(訳注0)。これらの化学物質は以前に、カナダ北極圏のイヌイットの人々、そして西ヨーロッパのシャチとイルカに高いレベルで発見されている。

 『Nature Ecology and Evolution』誌に発表されたその研究 (訳注1)は、POPs は死んだ動物やプラスチックの粒子が落下するように海洋の最深部に潜入するということを示唆している。POPs は脂肪中に蓄積し、したがって食物連鎖の上位の生物中に濃縮される。それらはまた撥水性なので、プラスチック廃棄物に付着。

 ”マリアナ海溝の様に深い海溝のまさに底部は、我々が採取した2センチ長の端脚類(たんきゃくるい:甲殻類の目の一つ)のような非常に効率的な腐肉食動物(scavenging animals)が生息しており、したがって落下してくるどのような有機物質の細片でも、膨大な数のこれらの動物が現れて、それらを食べ尽くすとジェイミソンは述べた。

 彼は、POPs のあるものが海洋の最深部で見つかるということは不思議ではないと述べた。”海溝に落下すると、他に行くべき場所はなくなる。驚くべきことは、それらの動物中の汚染のレベルは極めて高いということである”。
マリアナ海溝とケルマデック海溝に生息する小さな甲殻類は、中国のひどく汚染された河川で生きているカニ類より50倍、有害化学物質で汚染されていたことが発見された。
Mariana_Kermadec_Trenches.jpg(12916 byte)
Guardian graphic
  ポリ塩化ビフェニル(PCBs)と呼ばれるある POPs のレベルは、北西太平洋に位置する汚染のブラックポイントとして悪名高い相模湾(日本)に匹敵する。研究者らはまた、マリアナ海溝から7,000km 離れたケルマデック海溝で採取した端脚類中にひどい汚染を見出した。その汚染はいたる所にあり、”両方の海溝の全ての水深で全ての種にわたる全てのサンプル”で見出されたと、科学者らは述べた。

 PCBs は1930年代から、人間と野生生物へのすさまじい影響が認識された1970年代まで、製造された。製造された130万トン(訳注2)のうち約3分の1が既に海岸の堆積物中及び外洋に漏れ出しており、防護が不十分な埋立地から未だに一定量が流出していると考えられている。

 アメリカ海洋大気庁(NOAA)によって実施された調査隊もまた昨年、マリアナ海溝の一部であるシレナディープに達する斜面、及びエニグマ海山の近くに様々な人工物を見出した。それらには、スパム(SPAM)の缶、バドワイザー ビールの缶、いくつかのプラスチック・バッグなどがあった。

 その結果は、意味深長であり、不安にさせるようなものであったと、この研究チームの一員ではないオーストラリアのニューサウスウェールズ大学の海洋生態学者キャサリン・ダフォーンは述べた。”それらの海溝はどのような産業地帯からも遠く離れており、またこれらの汚染物質は1970年代以来規制されているが、時間をかけて長距離を移動して到達した”。

 ”我々は、海底のことより月面についての方をより多く知っている”とダフォーンは述べた。彼女は、新たな研究は深海の海溝は人々が想像しているほどかけ離れていないことを示したと述べた。”ジェイミソンのチームは、深海は遠隔地より地表水に高く関連しているという明確な証拠を提供した。彼らの発見は、これらの独自の環境の監視と管理にとって重要である”。

  POPs は、生物の、特に生殖系に広範な損傷を及ぼす。ジェイミソンは現在、指先で1トンの荷重を支える(訳注3)のと同等の水圧と1度C の水温の下で生きる頑丈な海溝生物への影響を評価している。

 彼はまた、海洋に広く拡散されているとみられ、最近特に注目されてイギリスとアメリカでは化粧品中でのマイクロビーズの禁止をもたらしたプラスチック汚染(訳注4)の証拠のために深海動物を検証している。”私はそれがそこにあると思っている”と彼は述べた。

 ジェイミソンは、 POPs の危険性は特定されており、使用されなくなっているが、プラスチック汚染は海洋汚染についての新たな懸念を示しているということは疑いないことである述べた。”我々はまたやった”と彼は言った。


訳注0:特定された二つのPOPs
オリジナル研究論文によれば、ポリ塩化ビフェニル(PCBs)とポリ臭素化ジフェニルエーテル:PBDEs)
Two key POPs are polychlorinated biphenyls (PCBs, used as dielectric fluid) and polybrominated diphenyl ethers (PBDEs, used as flame retardants).

訳注1:Nature Japan による紹介
海洋最深部で化学物質に汚染された甲殻類を発見 (Nature Ecology and Evolution 2017年2月14日)

訳注2:世界のPCBs 総生産量 (参考)
PCB の蓄積 (新間脩子/東海区水産研究所)
 ・・・世界中の生産量は各社 が生産高を公表しないため詳細は不明であるが、「アメリカ科学アカデミー」 は、全世界の PCB 生産量を年産約 10万t、いままでの総生産量は約100万に達するものと推定している。・・・

訳注3:深海の水圧
1平方センチにかかる水圧は、水深 1cm で 1g、水深 1m で100g、水深 10m で1kg、水深 10,000m で 1,000Kg(1トン/cm2)

訳注4:海洋のプラスチック汚染
CBC News 2017年1月28日 マイクロプラスチックがスーパーマーケットの魚介類で見つかる

訳注:関連情報
Washington Post, February 13, 2017 Scientists discover pollution 10,000 meters below the ocean’s surface in the Mariana Trench


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