TakePart 2016年2月7日
新たなマイクロビーズ禁止は
マイクロプラスチック汚染問題を
解決しないであろう

エミリー J. ゲルツ

情報源:TakePart, Feb 7, 2016
The New Microbead Ban Won't Solve the Microplastic Pollution Problem
By Emily J. Gertz
http://www.telegraph.co.uk/news/worldnews/zika/12157747/
http://www.takepart.com/article/2016/02/07/new-microbead-ban


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2016年2月20日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_16/160207_TakePart_Microplastic_Pollution.html

microplastic.jpg(20047 byte) Photo: Algalita/algalita.org
 ある一流のアメリカ人環境毒性学者によれば、マイクロプラスチック汚染はマガキ(Pacific oysters)の低繁殖率に関連するとする新たな研究は、石油に基づくプラスチックの使用を徹底的に見直すことの必要性を力説している。

 ”我々がこれらの生物種を研究した理由は、それらは我々に何が起こっているのかを示す指標であることを知っているからである”と、フレドニアにあるニューヨーク州立大学の環境化学者で、水生生態系に広がっているプラスチック汚染について報告しているシェリ・メイソンは述べた。”人々は貝やその他の海産物を食べるときにマイクロプラスチックを摂取している”。

 新たな研究で、フランスの研究者らはマガキ(Pacific oysters)を 2か月間、太平洋ゴミベルト(Great Pacific Garbage Patch(訳注1)でみられる量に相当する濃度で、外径が5分の1インチ(約5mm)以下のマイクロプラスチックで汚染された水に、暴露させた。

 彼らは、プラスチック汚染のない水域で育ったカキと比べて、暴露したカキは数が少なく小さな卵細胞、動きの遅い精子、そして成長の遅い子孫を生成することを発見した。

  ”我々は、プランクトンを捕らえるために水を濾しとる濾過摂食動物(訳注2)は、特にこの種の汚染に脆弱であることを知っている”と、研究の主著者で、フランスのナントにあるフランス海洋開発研究所の海洋生物学者ロザンナ・スサレルは述べた。”従って我々は、ハマグリやホタテガイのような他の貝類もまたリスクにさらされていると推定できる”。

 この研究は、マイクロプラスチック汚染が海洋食物連鎖の底辺の動物をそこなう可能性があり、人の食物供給系に入り込んでいるという証拠に加わるものである。


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 ”マイクロプラスチックは即座に生物を殺すことはないが、生物はそれらを他の生物に渡すことができるという多くの証拠を我々は持っている”と、メイソンは述べた。”それらは他の生物、例えば魚類によって摂食されるので、それらは直ぐに移行せず、上位捕食者により容易にとらえられ、そして全てのプラスチックとそれらに付随する有害物質をその上位の捕食者に渡している”。

 2013年、研究者らは、時には海のミミズと呼ばれる巣穴に潜むゴカイ(lugworms)は、マイクロプラスチックでひどく汚染された沈殿物中に住むと食物摂取が少なくなり、活動が鈍ると報告した。

 もう一つの2014年の研究で、ベルギーの科学者らは、ヨーロッパの消費者を1年間に最大11,000個のマイクロプラスチックに暴露させるのに相当する量のマイクロプラスチックを食用に養殖されているムラサキイガイとカキの体内に発見したことを報告した。

 昨年、研究者らは中国全土のスーパーマーマーケットで売られている海塩中にマイクロプラスチックを見つけたと報告した。

 人の健康へのリスクは潜在的な有害要素をはるかに超えている。それは環境中のマイクロプラスチックは、かつては電気機器中で使用された PCB 類や化石燃料の燃焼の副産物である多環芳香族炭化水素類(PAHs)など 、がんを引き起こしたり生殖健康を損なう残留性有機汚染物質を吸収するからである。

 2015年、研究者らは、サンプルとして採取した地中海のホンマグロ、ビンナガ、及びメカジキの18%以上にプルフタル酸エステル類、臭素系難燃剤、及びその他の残留性汚染物質で汚染されているマイクロプラスチックを見つけたと報告した。

 ”プラスチックは小さ有毒錠剤のようになる”とメイソンは述べた。”それらが摂取される時にはこれらの化学物質の全てが摂取され”、動物の消化器系の湿気があり暖かい臓器に取り込まれると、”これらの化学物質はプラスチックから放出され、脂肪組織に蓄積される傾向がある”。

 昨年、国連の環境専門家らが、マイクロプラスチック汚染が海洋生物に引き起こしている危害に言及しつつ、身体手入れ用品や化粧品のマイクロビーズの世界的な禁止を勧告した。

 いくつかの欧州諸国は EU 全土でのマイクロビーズの禁止を求めており、その中には2014年に禁止法を制定したオランダが含まれる。

 カナダ政府は、6月にマイクロビーズを禁止するための計画を発表した。

 五大湖がマイクロプラスチックで高度に汚染されていることを明らかにしたメイソン自身の研究活動は、議会が 2015年に練り歯磨き、洗顔剤、その他の消費者製品中のプラスチックマイクロビーズを連邦レベルで禁止する法案を採択したが、その採択を促進するのに役立った。研究者らは、米国だけでも毎日、8兆個のマイクロビーズが水生生態系に入り込んでいると推定している。

 オバマ大統領は、会社に約 2年の猶予期間を与えてマイクロビーズを完全に廃止する禁止法に署名した。

 メイソンはそれを、”驚くべき第一歩”と呼んだが、マイクロビーズはマイクロプラスチックの主要な汚染源ではないということに言及した。

 マイクロプラスチックは、環境中で分解して大きめの細片を形成する。”プラスチックバッグが平均12分間使用されると例えれば、環境中に100年間残留する勘定になる”とメイソンは述べた。

 2011年の研究は、ポリエステルのフリース(柔らかい起毛仕上げの繊維素材)及びその他のプラスチック繊維は洗濯されると微細なプラスチック繊維が脱離することを示した。その研究の後で研究者らは 6大陸の 18の海岸線でプラスチック汚染を発見した。

 メイソンは、マイクロプラスチック危機の解決とは、現在はほとんどが石油から得られるプラスチックをより安全な材料に代替することであると信じている。”重要なことは、再生可能な資源から得られ、たとえどこで環境に放出されても本当に生物分解するプラスチックを発見することであると私は考える”と彼女は述べた。

 ”マイクロプラスチックは非常に小さく、それらが存在する生態系の生物に取り込まれるので、保護しようとしている生態系を破壊せずにプラスチック汚染を浄化することはできない”と彼女は述べた。母なる自然に母なる自然がなすこと−時間をかけて生態系中の汚染物質を分解すること−をさせるということである。

 地球は、”45億年間、存在している”と彼女は付け加えた。”地球はそれなりに非常に堅固であり、もし機会を与えれば自身を上手に対させる。我々がしなくてはならないことは我々の影響を小さくすることである”。


訳注1:太平洋ゴミベルト - Wikipedia

訳注2濾過摂食

訳注:当研究会が紹介したマイクロビーズ又はプラスチック汚染に関連する情報


化学物質問題市民研究会
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