焼却代替のための世界連合(GAIA) 2015年10月2日
”流れを止める”報告書に関する
オーシャン・コンサーバンシーへの公開状


情報源:Global Alliance for Incinerator Alternatives (GAIA), October 2, 2015
Open Letter to Ocean Conservancy regarding the Report “Stemming the Tide”
http://www.no-burn.org/downloads/
Open_Letter_Stemming_the_Tide_Report_2_Oct_15.pdf


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2015年10月28日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/basel/GAIA/
151002_GAIA_Open_Letter_regarding_Report_Stemming_the_Tide.html


 私たち、アジア太平洋地域の環境、健康、気候、社会正義の運動体は、オーシャン・コンサーバンシーにより委託されて最近発表された報告書 ”Stemming the Tide (流れを止める)” について深く憂慮しています。

 私たちは、オーシャン・コンサーバンシーに対する公開状をこの報告書の中でなされた勧告と仮定に対する私たちの考えを述べるために、そしてそこに述べられている技術と解決に対する最初の技術的批判を提出するために、書いています。この技術的批判書 (Technical Critique of “Stemming the Tide”)はここから入手できます。この書簡を通じて、私たちはまた、この報告書に対する私たちの心からの考えを共有したいと思います。

 私たちは、私たちのリソースをどのように利用するかについての考え方の転換、地域の解決を創出するために地域住民と政府との連携、及び抽出、製造、消費、処分という際限のないサイクルに根を張る持続可能ではないシステムを変更し、廃棄物及び廃棄物処理への地域の解決を促進するために活動している団体及び自治体です。

 私たちは、公的基金の最善の使用をもたらし、生計と積極的な公的関与のための機会を作りだす、廃棄物と問題ある製品の削減、再設計、再使用、修理、用途変更、リサイクル、堆肥化及びその他の解決を通じて、適切な資源の利用と管理を求めることにより、直ぐになくなる天然資源のうち残っているものを大事に使うために私たちの自治体及び地域住民とともに、活動しています。

 そして私たちは、海洋のプラスチック汚染を削減することを目的とする報告書がこの目標を支える基本的な事実を見落としているように見え、報告書の中で列挙されている諸国(訳注:中国、インドネシア、フィリピン、タイ、ベトナム)で、目的達成のために多くの人々が非常に熱心に取り組んでいる真の解決に著しく反するものであり、それを壊すかもしれない”解決(訳注:焼却炉の増設)”を勧告していることに狼狽し、立腹しています。

 私たちは、報告書の著者らが述べている、今日世界中で起きているプラスチック汚染は、わしたちの海だけでなく、学校、地域社会及び自治体で起きているということに同じ懸念をもっています。私たちは、厄介なプラスチック及び、プラスチックと一般廃棄物の不適切な処分が公衆の健康、環境及び気候に大きなダメージを引き起こしているということに同意します。私たちはさらに、人の健康と壊れやすい生態系をさらに傷つけることなく、そして気候に不可逆的なダメージを及ぼすことのない方法で廃棄物とプラスチックを適切に管理する緊急の必要性があることに同意します。この必要性は過大に評価され得るものではありません。

 報告書の序文は次のように述べています。”我々は、海に流れ込むプラスチック廃棄物の問題に対し、汚染がすでに起きた後に措置をとるのではなく、まず第一に流れ込むことを止めることが最善の解決であると信じている”。これは私たちをまごつかせます。その理由は、この文言が紛れもなく明らかであるように見える”海に流れ込むプラスチックを減らすための最善の解決はまず第一にそのように多くのプラスチック及び使い捨て製品の生成を減らし、またその目標に反することではなく目標に向けて機能するシステムを作りだし、解決策を実施すること”に言及していないからです。使い捨て用として設計された消費者商品は当然投棄されますが、そのことが廃棄プラスチックが投棄場所、埋立地、水路、及び海に行き着くことの理由です。

 私たちは、プラスチックが水路に入り込むのを防ぐためには、陸上での解決に注力すべきであるということに同意しますが、この報告書の勧告は製品のライフサイクルについて十分に検証していません。プラスチック廃棄物の流れ込みを止めるために、私たちはプラスチック廃棄物自身を止めなくてはなりません。真の解決の道筋は、製品の再設計、容器包装と包括的なシステム、及び現在プラスチック産業がその達成を熱望する大規模成長を防ぐことを含める必要があります。

 この報告書の著者らは、まず第一に問題ある製品を設計しないという責任あるアプローチではなく、2015年の2億5,000トンから2025年の3億8,000トンという世界的なプラスチック製造の急速な拡大を図るということを明らかに甘受しているように見えます。この考えは明らかに廃棄物をもっと多く作りだすことを許しますが、私たちはこの種の考え方に賛成することはきっぱり拒否します。このことが、フィリピン、インドネシア、インド、中国、及びアジアのその他の諸国の NGOs が、、地域レベルから国家レベルにいたるまで、問題があり使い捨ての製品を禁止する政策を実施するために、地方政府組織(local government units (LGUs) )及び国家政府と一緒になって活動している理由です。

 私たちはまた、プラスチックの流入に対応するために、主要な”解決”のひとつとして焼却技術を利用することを重く強調していることに不安を感じます。それはこれらの焼却炉を建設するためにかかる多額のコスト、ましてや日々の運転コスト、そしてそのように多量の廃棄物を焼却することの健康と環境への影響についてひどく過小評価しています。言及されている諸国の市民らは既に、地域における大気汚染の大問題と苦闘しているのに、これらの諸国で焼却率を高めることを勧告するなどということは、とんでもないことです。

 この報告書を作成したときに、言及されている諸国で市民らが焼却炉に依存しない解決を促進するために一生懸命取り組んでいるということを、そして彼らは地域に汚染をもたらす有害な技術を望んでいないかもしれないということを、まず第一に、少しでも考えたことがあったのでしょうか? これらの諸国で実施されている、地域に基づく分散化された廃棄物分離と収集、増大された資源回収、堆肥化、リサイクル、廃棄物削減に依存する数百の解決策があり、それらは数百万人の廃棄物労働者のための経済的機会を開き、一基の焼却炉を建設するためにかかるであろうコストの内のほんの少しでまかなうことができます。これらの物語の一部は、ゼロ廃棄物の目標に向かって真の進展をする場所を綴った事例研究の集大成である報告書”On the Road to Zero Waste: Successes and Lessons From Around the World (ゼロ廃棄物への途上:世界中からの成功と教訓)”で見つけることができます。

 プラスチック汚染に対する中期的解決としてエネルギー回収のための廃棄物焼却及び廃棄物固形燃料(RDF)を提案しながら、なぜ今すぐ、石油とプラスチックのような化石燃料製品を止める必要があるのかということを無視しています。廃棄物とプラスチック製品の焼却は、急速に涸渇しようとしている資源からの気候変動を起こす化石燃料の抽出を継続させます。それはまた、私たちが海のためになす最悪の行為のひとつです。焼却は極めて高いレベルの温室効果ガスを排出し、それは気候変動を通じて、海面レベル上昇、海の毒性増大、サンゴ礁やその他の海洋生物の破壊をもたらします。

 ”この報告書は、焼却炉に反対し、廃棄物危機に対する本物の上流での解決のためのキャンペーンを実施している地域の団体や第一線の地域住民の懸命な活動と努力の全てをなきものにする企てである”と、ゴールドマン環境賞受賞者でグリーンピース東南アジアの元代表フォン・ヘルナンデスは述べました。”問題を悪化させるどのような解決策も間違った解決策である。エネルギー回収のための廃棄物焼却炉と廃棄物固形燃料は、焼却のための新たなプラスチック需要を持続させ、したがって、現在の資源抽出という産業側の考え方を維持するが、私たちはこのことの継続を許してはならない”と、彼は付け加えました。

 報告書で廃棄物焼却を80%まで増やすことが提案されている中国では、廃棄物に対して活動している非政府組織は、焼却炉の 18〜30%は環境規制に合致する能力がないと報告しています。稼働中の自治体廃棄物(MSW)焼却炉 160基のうち、40%は公衆が入手できる大気排出データが不完全であり、データがあるもののうち69%が新たな環境大気汚染基準に違反していました。

 ”政府の文献と市民社会の報告書により上記に示された極めて低い遵守率と不透明性があるのだから、自治体廃棄物(MSW)の焼却を拡大すれば、許容できない汚染物質排出の増大、もっと多くの環境法違反、及び公衆の健康のより高い犠牲をもたらすことになる。もっと重要なことは、焼却に依存するということが、防止、分離及びリサイクル/堆肥化に基づく持続可能な廃棄物管理を求める中国の取組みを継続的に邪魔することになる”と、ロック・エネルギー環境研究所の共同創設者マオ・ダは述べています。

 特にフィリピンのような国で気候変動によってもたらされる疾病リスクが、人の生活、家庭、公共基盤、農業及び経済に大きな打撃を既に引き起こしているのに、プラスチック材料の生成と焼却の増加を許すことにより生じる気候への影響がこの報告書ではほとんど無視されているということは、とんでもないことです。

 しかし、この報告書の運営委員会の会社(ダウケミカル、アメリカ化学工業協議会、及びコカコーラを含む)の全てが、現状のシステムから利益を得ているのだから、この報告書が、根底にある”掘る、燃やす、投棄する (dig, burn, dump)”という経済の問題を変革するのではなくて、むしろ増え続けるプラスチック供給を管理することを我々に求めることは驚きではありません。これらは、私たちが本当に必要とするこの種の解決策を支持する会社はではなく、彼らは、人権、公衆の健康、そして気候にとって悲惨な結果をもたらす意思決定をした実績があります。

 私たちは、この報告書で詳しく論じた大きな仕事、プラスチックが私たちの海にどのように入り込むかについて批判的に検証した称賛に値する努力、及びこの重要な問題に対応するための解決策を提案した努力を高く評価します。しかし海の健康を子どもたちの健康と交換しないでください。私たちは両方を満たすことができることを知っています。


訳注:関連情報



化学物質問題市民研究会
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