POLITICO 2018年2月12日
ヨーロッパのプラスチックのジレンマ
欧州委員会は有害化学物質を含むプラスチックの
リサイクルについての決断を迫られている
ギンガー・ハーベイ

情報源:POLITICO February 12, 2018
Europe's plastic paradox
The Commission faces a decision about recycling plastics that contain harmful chemicals.
By GINGER HERVEY
https://www.politico.eu/article/circular-economy-goals-
clash-with-chemicals-safety-rules/


訳:安間 武/化学物質問題市民研究会
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2018年3月14日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/eu//news/
180212_POLITICO_Europes_plastic_paradox.html

 欧州連合(EU)の二つの取組み,すなわち、もっと多くのプラスチックをリサイクル(訳注1)することと、有害化学物質の流通を禁止することは衝突が避けられない。

 EUは先月のプラスチック戦略の中で、プラスチックの再使用とリサイクルの拡大を望んでいると述べた。EUはまた、有害物質の流通を既存の化学物質法を通じてなくすことも望んでいる。しかし、化学物質規制が緩かった時代に製造された古い物質のリサイクルは、その後禁止された物質と対立することを意味する。

 EUの化学物質政策の重要な原則は、有害物質は市場から除去されるべきというものである。そして、循環型経済(訳注2)の中核は、可能な限り長期間、製品を使い続けることにある。

 欧州化学物質庁(ECHA)、欧州委員会(EC)、及び欧州司法裁判所(ECJ)がそれぞれ個別に、プラスチックの柔軟性を向上させるために使用される DEHP (フタル酸ビス(2-エチルヘキシル))(訳注3)という有害物質の遺産としての将来への影響に取り組むので、この問題は今後数か月中に取り上げられるであろう。理事会は来月の環境理事会でプラスチック戦略と化学物質法の両方について議論することを計画していると、理事会の報道担当官は述べた。
 
DEHP はまた、不妊や子どもの発達障害に関連する内分泌かく乱物質でもある

 有害物質の遺産への取組みは先月、で欧州委員会により、その伝達文書(communication)(訳注4)の中で示されたが、それはより多くの材料を安全にリサイクルし、製品中のそのような物質の量を削減するための最善の方法について、”広範な議論を促進し、選択肢を特定する”事が意図されていると、欧州委員会の広報官は述べた。

 欧州委員会は二つの選択肢を提案している。ひとつは、全ての製品は同じ法的基準に基づくべきであり、したがってもしある製品が有害物質を含んでいるなら、それはリサイクルすることはできないとするものである。もう一つは、決定は ”物質固有” とし、経済的要素及び潜在的リスクの分析に基づくべきとするものである。

 もし二番目の選択肢が採用されるなら、その伝達文書によれば、”注意深い分析、例えば懸念ある物質を含む予備品による修復を容認するのか、あるいは機器を早期に解体する又は陳腐化させるのかのトレードオフ分析、がなされなくてはならない”。

EUの二つの選択肢;もっと多くのプラスチックをリサイクルすること又は有害化学物質を市場(循環)から禁止することは、このままでは衝突する。

可塑剤

 DEHP 又は同様な可塑剤がなければ塩ビ管(PVC pipes)は脆いので広範な使用は望めない。それはまた、数あるあるプラスチック製品中で、特にブーツ、ヨガマット、車の内装等にも使用されている。

 しかし、DEHP はまた、不妊や子どもの発達障害に関連する内分泌かく乱物質である。

 2009年に欧州化学物質庁は、それらが及ぼす潜在的な危険性のために、明示的に許可を得ており、また適切な代替物質がないことを示した会社によって、限定された場合においてのみ、使用することができる物質を示すリスト(訳注5)に追加されるべきことを勧告した。

 他のEU組織も同意した。2013年と2014年に、ある会社は新たなプラスチック中でその化物質の使用を継続することを希望して、また他の会社はその物質を含有するリサイクルされたプラスチックの販売を継続することを希望して、いくつかの会社が適用除外を申請した。

 欧州委員会は、現在までのところリサイクルされたプラスチックについてにのみ、その適用除外を認めたが、新たな製品への要求はまだ回答待ちであり、その間、申請会社は DEHP の使用を継続することができる。

 欧州化学物質庁(ECHA)は昨年、異なる計画を提案した。すなわち、会社に特定の適用除外許可するのではなく、産業用途、及び、主に屋外で使用される製品中の化学物質を除いて、それらを制限することを示唆した。

 DEHP の危険性のほとんどは消費者の暴露に起因し、特に子どもたちが DEHP を含むおもちゃやボトルを口に入れると深刻であると、ECHA において認可申請とリスク管理に責任ある部門長マッティ・ヴァイニオは述べた。そのようなことは道路用の三角コーンの様な屋外用製品の場合には起きそうもない。

 ”もし、リサイクルされた塩ビ(PVC)がこれらの分野で使用されるなら、そのリスクは非常に小さいので、焼却又は埋め立てをせざるを得ないような代替物質に比べて合理的である”とヴァイニオは述べた。

   ECHA は、欧州委員会が DEHP のある用途を制限する計画に関する、及び申請した会社がそれを新たなプラスチックの中で使用を継続できるかどうかに関する決定を発表するのを待っている。

提訴

 いくつかの NGOs は、その化学物質の使用を制限するための ECHA の計画についていまだに懸念を持っている。

 ”道路用三角コーンの寿命が尽きたときに何が起きるのか?”と、 NGO である ClientEarth の弁護士アポリーヌ・ロジェは述べた。”それらを、今、焼却するのと、10年後に焼却するのと何か本当に違いがあるのか、明確にする必要がある”。

 ClientEarth は、欧州委員会が 3つのリサイクル会社に DEHP をリサイクルすることを許可したことについて欧州委員会を提訴した。その訴訟の中心的な主張のひとつは、彼らの製造プロセス中で DEHP を使用するための許可求めておらず、彼らは DEHP を含有する材料を販売することができることだけを望んでいたということである。

 元々の製品中で DEHP を使用したいと望んだ会社とは違い、これらの会社のために、”その化学物質はどのような特定の機能的な役割をも果たさない。それは単に、収集され、保管され、加工され、そして再生材料(recyclate)の形で市場に出される廃棄物中の(望まれぬ)不純物として存在するだけである”とその訴訟は述べた。

 ClientEarth の弁護士アリス・バーナードは、”彼らが許可を得た、という事実は、我々を安全に保つことになっているはずのシステムに重大な欠陥があることを明確にしている”と、その時に述べた。

 その訴訟は、欧州司法裁判所で現在行われているが、公聴会の日程はまだ決まっていない。

 DEHP を含有する回収プラスチックを販売する許可を得た会社は、もし販売の継続を望むなら、4年後にレビューを提出しなくてはならなかったが、3社のうち2社が提出した。彼らのレビュー報告書は、ECHA 内の二つの委員会によって検証されるであろう。ひとつは今月末、もうひとつは3月上旬である。


 ”懸念ある化学物質を規制しているときには、適切なバランスを見つける必要がある”
  ECHA の部門長マッティ・ヴァイニオ

   ECHA の部門長マッティ・ヴァイニオは、このレビューは、”そのシステム自身は機能している”ことの証明であると指摘した。ひとつの会社は再申請はせず、その代わり代替物質を見つけたのみまらず、他のふたつの会社は DEHP を含有するプラスチックを取り扱う労働者のための安全措置を具体的に詳しく説明した。

 ”現在、使用に関連するリスクは小さくなっており、使用条件はより明確になっており、好ましい役に立つ循環がある”と彼は述べた”。

 欧州委員会と ECHA は、より多くの化学物質が規制されれば、まず市場における有害物質を含む製品は少なくなり、したがってそれらをリサイクルするリスクが低減するであろうことを希望している。

   ”懸念ある化学物質を規制するときには、適切なバランスを見つける必要がある”と、ヴァイニオは述べた。”欧州委員会は疑問も懸念も極めて適切に提起した。今、我々はそれらに取り組む必要がある”。


訳注1:リサイクル プラスチック
訳注2:循環型経済
訳注3:DEHP
訳注4:欧州委員会伝達文書
訳注5:認可リスト

訳注:当研究会が紹介したプラスチック・リサイクル、プラスチック廃棄物、プラスチック汚染、及びマイクロプラスチック等に関連する情報

■プラスチック・リサイクル
■プラスチック関連規制
■プラスチック汚染
■プラスチック生活
■プラスチック問題への NGO の取り組み

化学物質問題市民研究会
トップページに戻る