トラベル望遠鏡  その2
Hofheim-Instruments  RD-300DX

  公開:2012年2月14日〜
更新:2013年11月23日 *
身辺整理のため、手放しました

  昨年(2011年)の笠井のミニ・フェアで出会ったHofheim-Instruments RD-300DX は、とにかく良くできていて、驚いてしまった。しかも美しく仕上げられている。各パーツは、自作では望めないような軽量化がなされていて、しかも強度は保たれている。収納に使われているネジは、そのまま組み立てに使われ、よくもこんなに考えたものだ、と感心してしまう。で、トラベル望遠鏡はこれに決定。やはり口径が欲しかった事と、驚異的な軽量化、製品としての完成度の高さが物欲を大きく揺さぶった。APM-Bino のところでも書いたが、優れた製品・工芸品を使う、という事は、設計者・製作者の意匠を感じ対話をする、という事でもある。

 補助パーツで注文したものは、接眼部遮光用虹彩絞り(4枚の虹彩絞りが付属しているが、4本ビス止めなので、アイピースに合わせて交換していられない。必需品)と遮光シュラウド(単純にポールに布を巻きつけると、ケラれてしまう)。 遮光シュラウドが\12000、他が各\16000と随分高価だが、仕方が無い。冷却ファンは、PCのパーツを流用すれば2千円位で済むので、購入せず。また、錘はObsession を流用する事にした。


オリジナル・ステー(左)と交換後(右)

 2012年1月中旬に届いた。とりあえず組んで見てみたら光学系も優秀で、 完成された製品だと感じた。いつもはあれこれ手を加えるが、今回はこのまま使う事に決定。ただし、ファインダーはレチクル型ではなくドット型が好みなので、Sky Surfer III に付け替える事にした。取り付けステーが唯一無骨なので、これを取り外し、Baader Planetarium の スタンダード・クランプ 2457000A をトップ・リングにタップを立てて取り付けた。

 概略は、笠井のwebsite その1 をご覧頂くとしても、やはり組み立て・収納をまず紹介。

 

組み立て・収納

 笠井のwebsiteでは、ゆっくり組み立てて10分、慣れれば5分、と書いてあったが、普通に組み立てて(2回目)15分かかった。不動産屋の早足以上に超人的なテクニックが無いと、10分は切れないのではなかろうか。5分は、おそらくギネス・クラス? ただし、実際に組み立てていると、感覚的には15分ではなく、10分位。 組み立ては意外と面倒ではなく、苦にならない。また、旅の移動中には、大まかに分割して移動する場合もあるだろうと思う。

 まず、本体のネジ:上と左右の3箇所を外す。このネジは組み立てに使うので、足で蹴り飛ばさないように、保管しておく。
 この本体の重さは、8.8s。
 フタを開けたところ。フタは本体を受けるロッカー・ボックスになり、中にはパーツがきちんと収納されている。
 写真は小さいのでわかりにくいが、斜鏡は四角い仕切りできちんと保護される。
 フタを反転してロッカー・ボックスになったところ。サイド・ベアリングの受けはテフロン。  さらに、部品収納プレートを外すと、ポールが出てくる。ポールは3分割。中央の短いポールは、サイド・ベアリングの補強用ブリッジ・ポール。

 3分割されたポールを繋げ、計.6本組み立てる。
 この組み上げたポール1本の重さは、何とわずか198g!

 ミラー・ボックスのネジ:左右計.4箇所を外す。このネジも組み立てに使うので、大切に保管。
 このミラー・ボックスの重さは10.2s。飛行機手荷物ギリギリの重さ。

 外したネジは、計.7本。

 ミラー・ボックスのカヴァーを引き 上げると、主鏡セルが出てくる。

 主鏡セルに、ポールをねじ込む。

 ちなみに、1回目の組み立ての時に木製の支えのパーツが剥がれてしまった。木工ボンドで補修。

  トップ・リングは、ポール固定用ネジで、しっかり部品収納プレートに固定されている。これを取り外す。

 トップ・リングを固定。ここの固定の仕方が光軸の安定性を左右する。トップ・リングの重さは1s。
 斜鏡は、以前、ルフトハンザで至急された直線状の靴下を折り返して被せて保護。
 部品収納プレートから、水平回転台座を取り出す。

 水平回転台座をロッカー・ボックスにはめ込み、反転して地面に置く。

 部品収納プレートからサイド・ベアリングを外し、保存していたネジ4本で固定する。サイド・ベアリングを取り付けた状態でも本体は平置きでき、安定して直立する。
 サイド・ベアリング1個の重さは、何と260g!

 部品収納プレートから外しておいたサイド・ベアリング用筋交いとブリッジをで装着。
 筋交いは専用ネジで取り付け、ブリッジは保存していたネジ2本で取り付ける。

 組みあがった本体をロッカー・ボックスに載せる。
 本体上部の重さの重さは11.6s、ロッカー・ボックスの重さは1.8s。合わせて総重量、13.4s。

 遮光プレートを装着。 

 ファインダーを装着。

 部品収納プレートは、残りのネジ1本で、箱に固定する(写真右側のネジ3本の真ん中)。
 中央の四角は、斜鏡保護用ボックス。
 光軸調整は、表側のノブ2つでできる! 主鏡保護カヴァーはアクリル製で、被せたまま光軸調整もできる。あまりにも良くできていて、外すのを忘れて覗き、何だこの像は? と悩んだ事が2度もあった。

 遮光シュラウドを装着。重さは、何と、わずか37g しかない!
       
 遮光プレートの収納は、ポールを収納した後に被せるようにすると良い。

 遮光シュラウドまで入れると、嵩が若干高くなり、最後にフタを閉じてネジ止めがしにくくなる。
 部品収納プレートの上に置く方法もあるが、0.5mm厚みのVANE型スパイダーの黒艶消し塗装が剥げる可能性があるので、 ここには入れない方が良いかもしれない。  右側のピンク色は、Sky Surfer IIIを保護して同梱したもの。しかし、最後にフタを閉じてネジ止めがしにくくなる場合がある。アイピースと一緒に持ち歩いても良いかもしれない。  

 

主鏡セルと保護カヴァー

 主鏡保護カヴァーはアクリル製で秀逸。透明なので、被せたまま光軸調整までできる。組み立ての時、ネジを落とす事もあり、このカヴァーが無かったら主鏡はとっくにダメになっている。右側の写真は、3箇所のストッパーを外し、白い取っ手を持ってカヴァーを外したところ。2時、10時方向の黒いツマミは、光軸調整ノブ。
 主鏡保護カヴァーを外した後は、再びストッパーで主鏡を止めておく。これをしないと、主鏡セルをケースから取り出した時、鏡筒が水平方向を向いた時に、主鏡がセルから落下する。

  

アイピース

 トラベル・ドブなので、アイピースは必要最小限、しかもできるだけ軽くて小さいものが良い。2"で最大実視野が得られるEWV 32mm は当然の選択。しかも軽量。あとは、Leica Vario Zoom ASPH で、実視野約 0.8〜0.5°をカヴァー。ほとんどこれで見る事になるだろう。惑星、高倍率は、Pentax XO 5mm か、Zeiss ABBE II 4mm。あとは、馬頭用にZeiss Ortho 25mm があれば十分だと思う。実際に観望してみて決まると思う。

  焦点距離   倍率 実視界 見掛視界 アイ・レリーフ 射出瞳径
RD-300X  300mm F5 1500mm          
EWV 32mm 47 1.8° 85° 20mm 6.4mm
Leica Vario Zoom ASPH. 17.8mm 84 0.7° 60° 18mm 3.6mm
8.9mm 169 0.47° 80° 18mm 1.8mm
Pentax XO 5mm 300 0.15° 44° 3.6mm 1mm
Zeiss ABBE II 4mm 375 0.11° 43°   0.8mm
Zeiss Ortho 25mm 60 0.87° 52° 21mm 5mm
           

 

接眼部

 大変美しい接眼部だが、ヘリコイドのピント調節は、ちょっとピントの山はつかみにくい。Zeiss の望遠鏡もそうだけれど、ドイツ人はヘリコイドが好きなのだろうか。で、実は、この2”スリーヴにゆとりが無い。アイピースによっては、すんなり入っていかないのだ。気温が低いのでなおさらか。挿入角度がすこしでも傾くと、挿入はかたくなに拒まれる。NAV-HW のところでも書いたけれど、“受け る側もアイピースも規格の範囲内なのだろうけれど、受ける側は許容できる最大径、挿す側は、許容できる最小径で作っていただきたい”ところだ。

  

オーストラリア遠征
ーナバラブラン Coonabarabran   2012年8月


世界3大美港の1つとされるシドニー湾。3大〜には怪しいものも多いが、ここは美しい。

 今年のお盆は新月。よし、宇宙に最も近いアタカマに遠征だ!と 張り切って計画を始めたが、 現地のツアー会社は、実にいいかげん。まともに日程通り帰ってくるのは、望めない感じだ。また、この季節は寒いし強風も吹き荒れてそうで、せっかく行っても1時間位しか観望できないようでは寂しい。で、せっかくのチャンスだったけれど、アタカマは見送った。

 それでは、ニュージーランドか、再びオーストラリアか? 南半球は冬なので、やはりできるだけ寒くなくて、晴天率の良い所に行きたい。いろいろ情報を収集した結果、東オーストラリアのクーナバラブラン Coonabarabran に決定。晴天率が良く、極端に寒くなく、サイディング・スプリング天文台のお膝元で、「星の町」が売りで有名な所だ。古くは、ハレー彗星の時に、日本から3000人程訪れている、との事で、ここを拠点に何度も訪れている先達も少なくない。また、同市の空港は緊急時等以外はほとんど使用されておらず、ここで見渡す限り360°の視界で星空に会える、という。という訳で、このトラベル・ドブで遠征する事になった。

 「貴方は、オーストラリア派か? ニュージーランド派か?」というのを目にした事があるが、どっちも幾度も行っている人なら「〜派です。」と答えられるだろうけれど、私には当分無理。

 

準備

 今は、国際線は1人23kgが2個まで無料だ。2人なら、何と92kgまで持ち込める。昨年はカルネを使って行ったけれど、相当割高だった。それにしても、望遠鏡持参で遠征なんて、随分幸せな時代が来たものだ。だって、口径30cmですよ!

 ミラー・ボックスは、ちょうど10kgで、、本体は8.8kgだ。両方段ボールに入れて梱包する事もできるが、やはりミラー・ボックスは手荷物の方が安全だ。ただ、大きさと重量で、航空会社によっては、ひっかかる事もあるかもしれない。

 
スーツケースに入れる途中の本体+アイピースと、トート・バッグに丁度良く収まるミラー・ボックス。

 本体の木は薄いので、運搬(海外の空港では、トランクはぶん投げられる)で割れないよう、段ボールであてがった上で、十分なエアークッションで保護して、RIMOWA の一番大きなトランクに入れた。このトランクは、とにかく軽量でキャスターが優秀なので、それこそ指でも押して運べるし、ミラー・ボックスを上に載せて運ぶ事もできる。ミラー・ボックスは、東急ハンズで見つけた トート・バッグが純正品のようにピッタリ。これも十分なエアークッションで包んで入れた。10kgを手で持って歩くのは難儀だが、肩に下げれるようにすると、けっこう大丈夫だ。
 ちなみに、本体の外側のケースを外してトランクに入れる方法もある。これだと2.9kg軽くなり、厚みが3cm薄くなる。ただ、今回はいろいろな実証・人柱を兼ねているので、オリジナルの形で収納した。

 アイピースは、EWV 32mm (最大実視野用。南空では低倍で美しい天体が多い)、Leica Vario Zoom ASPH. 17.8-8.9mm (deep sky用)、Zeiss Astronomical Eyepiece 25 mm 52° (PL 10x/25 Br. Foc.) focusable (馬頭用。笠井HΒフィルター装着)、Zeiss Abbe II 4mm (惑星、高倍率用)の4本で、フィルターは、笠井HΒの他、笠井Super Nebula Filter HTと笠井 OIII。アイピース情報については、ここに記載。レーザー・コリメーターは、いつものFARPOINT  FP210 & FP261 と CATSEYE。これを前回の西オーストラリア遠征と同様、スーパー・ナビゲーターを入れていたCORONADO のケースに入れて収納し、本体とスーツケースに同梱(写真左上)。

 双眼鏡は、Nikon TC-E2 テレコン・ビノCanon 10×42 L IS WP この2つは、どこへ行くのにも必需品。防寒は下着で決まる。これに、ヒートテックを重ね着すれば、かなり大丈夫だ。靴下は、普段履き+厚めのもの(DIY店にあった工事用・格安のが便利)を重ね履き。ここも重要で、薄いと立っていられなくなるし、凍傷の危険も生じる。

 今はSkySafari 3 があるので、iPad で表示すれば、最強のガイドになる。昨年は同定できなくて停滞する時も少なからずあったが、今回はかなり能率が上がりそうだ。ちなみにiステラは、何と誰でも肉眼で見える大・小マゼラン雲もオメガも表示されず、役に立たない。

 海外旅行では、トランクの重さの測定は重要。吊り下げ式のデジタル秤が安くて便利だが、デザイン優先で、MAQUINO のラゲッジ・チェッカー 071020 を購入した。これ、けっこう良いです。思わず、ハイランダーやケース等、いろいろな重さを量って確認してみた。

 

空路

 いつもはスター・アライアンスだけれど、オーストラリア直行便が無い。昨年はカンタスの格安チケットで行ったが、JALのマイレージには加算できない、と言われてしまった。という訳で、今回はJAL。

  成田での手荷物チェックは何なくパス。座席の上の収納棚にも無事収められた。ミラー・ボックス、といっても厚みがあまり無いので、バッグには何か軽いちょっとした物が入っている、としか他人には見えないだろう。

 夜、成田出発で、朝オーストラリア着、と効率が良い。寝てれば良いのに、やはり映画を見てしまう。今回は、「宇宙兄弟」。以前の日本映画は何もかもが稚拙で、見終わった後、何という時間の無駄だ、と呆れるものも沢山あったが、今は状況が一変して面白くなった。ネタばらしになるので内容には触れないが、野口宇宙飛行士や、 あのオルドリン氏が役者で出てきてビックリ。私には昔から3つの夢があって、一つは「皆既日食」、これは3度体験した。二番目は「オーロラ」で、これはまだ。太陽の活動が活発な、ここ1年位の間に実現したい。三つ目は絶対不可能なのだが、「丸い地球を見る」 こと。丸い地球は、ISSでは無理で、もっと遥かに離れないと見れない。この映画では、私の三つ目の夢が最後に絡んでくるのだが、この場面でド〜ンとやられてしまった。

 オーストラリアでは、食べ物や木製品は申告が必要で、申告を怠ると、罰金が科せられる。「木製品」にチェックを入れて入国管理に並んでいたら、係員がやってきて、並んでいる人のカードのチェックを始めた。「どこ製?」、「日本製」と答えただけで、あっさりとパス。パースでは長蛇の列だったが、拍子抜けする位、普通に通過した。

 

シドニー


シドニー、といえば、世界遺産のオペラハウス。内部見学ツアーでは、「この中に歌手はいますか?」と聞かれ、挙手した人は中で歌える。
誰も名乗り出なかったので、プッチーニの歌劇「蝶々夫人」の第1幕の終わりの愛の2重唱の冒頭を歌ってきた。

 シドニーは物価が高い! 感覚的には普段の生活の2倍以上。迂闊に食事にも入れない。昔、円が230円台だった頃の海外旅行のようだった。主な観光ポイントは、シドニー湾周辺にあり、歩いて回れる。1858年に作られたオーストラリア最古の天文台もロックスの上にあり、行ってきた。

 ルネッサンス様式の風格ある建物で、現在は博物館として見学できる。本当の古スコがいろいろ展示してあった。メインの屈折は29cmだそうで(ドームは銅板製)、夜にはシュミカセで観望会も行っていた。惑星(火星、土星)等を見せる、との事だったが、曇天・雨天でも 予約料金$18は戻ってこない(次回に延期)、との事で見送った。

 

 午後1時には、塔の上の黄色い球体が落下して時報を行う。これは、シドニー湾に停泊中の船に正確な時間を知らせるためで、これで航海に使われるクロノメーターの校正を行っていた、との事。たまたまこの時刻に行ったので、この球の落下を見る事ができた。
 また、タロンガ動物園はおすすめ。ここ特有の動物に出会え、触れる事もできる。

 

エアーズロックへ

 エアーズ・ロックから、直接クーナバラブランへ行く便は無く、ここでは予定がビッチリだったので、望遠鏡のスーツケースとミラー・ボックスはシドニーのホテルに預かってもらい、エアーズ・ロックへ向かった。国内線は、23kg 1個だけ無料だが、2個だと超過料金が発生する。


機内からの風景。ウルルは、水平ではなく、垂直に大地に飛び出したもの。近くで見ると、断層は皆垂直に立ち上がっている。

 機内から見る風景は、まるで他の惑星に来たみたい。オーストラリアの赤茶けた土は、火星と同じ酸化鉄を成分としているので、いわば火星旅行か。昔、行ったイスラエルのマサダ、死海周辺も、とても地球の風景とは思えない位物凄かった。地球を旅するということは、他の惑星にある であろう風景を擬似体験する事なのかもしれない。


カタジュタとウルルのサンセット

 エアーズロック観光は、宿泊から空港送迎、サンセット・サンライズ観光、ウルル登頂等が全部パックになったものを利用した。カタジュタ(写真左。写真では小さく見えるが、高さは460mもある巨石群)では、「風の谷」を散策。ビル風と同じなのだろう 、ここだけ風が吹いていた。定番の、ウルル・サンセットも見た。国立公園は日没とともに閉鎖されるので、ツアーに参加しないと、間近の展望台へは行けない。

 ウルルの写真(右上)で、水平線付近に灰色のモヤがあるのにお気づきだろうか。これは、雲ではなく、オーストラリアでは冬など雨が無い時に多く行われる野焼きの煙。星見の場合、運悪く巻き込まれると、アウトなので注意(でも、どう注意したら良いのだ?)。

 サンセットの後はバーベキュー&星空トーク。暗くなってくると、西の空には、スピカと火星と土星が3つの点として並び、南西の空には、ポインター(とても明るいα、Βケンタウリの並びが、南十字星の位置を示す)と南十字星が見えてきた。これを見ると、ああ、南半球に 来たんだ、と実感が湧いてくる。ちなみに、南十字星を国旗に取り入れている国がいくつかあるが、オーストラリアや他の国々は、ε星まで5つの星を使っているが、ニュージーランドだけは、星4つ。 ちなみに両国は国旗が似ているだけでなく、年金がどちらでも受け取って生活できるそうで、合衆国の州のような感じだ。


バルコニーからの眺め。手抜きの大・小マゼラン雲の写真とウルルの朝焼け。

 ホテルの部屋は、たまたまディスカウントしていた、ウルル・ビュー、南向き側になった。ホテルのバルコニーからウルルだけでなく、南天の空が楽しめた。オメガや小マゼランにある大変美しいNGC104などは肉眼でも見えるので、素人の家内でも、キャノンの双眼鏡で、「あら、オメガがきれいだわ。」等と言っている。双眼鏡での天の川流しは、とにかく絶景。
 ちなみに冬だったので、昼間の温度は20数度、湿度は10%少々で、夜はぐぐっと冷え、明け方は4℃位だった(日によっては、氷点下になる)。星を見るには良い環境だが望遠鏡の温度順応には過酷なので、大口径には厳しいかもしれない。


ここでは、地球照が非常に明るい。写真は、クーナバラブラン空港で8月19日(新月の翌日)に撮影したもの。
サンライズの時は、物凄い朝焼けだった(国立公園内の展望台にて)。

 サンライズのツアーは5時にモーニング・コールがかかるが、その前に起きて、冬の星座を確認。冬の大三角の一番上はシリウスで、その上にリゲルが輝く。 月と金星は近接。日本では金星食だったけど、残念ながら天候に恵まれなかったようだった。とにかく驚いたのが、地球照の明るさ。空に球体が浮いていて、その一部に光が当たっているのが明確にわかる。こんな月を見たのは初めてだった。


先住民の聖地なので、敬意を払って登頂(先住民は決して登らない)。右は、山頂にある方位板。

 サンライズの後は、ウルルの登山。ただし、写真の通りの角度で(写真で蟻のように見えるのが人)鎖をつかまりながら登って行く。入り口の看板には「ここへは登ってはいけません。何人も死者が出ています。」と書かれている。確かに足を滑らしたら、そのまま下まで落下するので、大変危険だと思った。登頂は、かなりハードで、諦めて引き返す人達も 少なからずいたが、1時間半で往復してきた。 翌日は、お決まりの筋肉痛に襲われた。なお、登頂を希望しない人には、散策コースが用意されている。

 世界の観光地は、中国人観光客で溢れている。日本人の10倍、時には100倍以上はいるだろう。しかし、なぜか、ここエアーズロックでは、本当に少なかった。

 

いよいよクーナバラブランへ

 濃厚なエアーズロック観光を終えた後、一旦シドニーへ戻り、いよいよクーナバラブランへ向かった。クーナバラブランに行くには、シドニーからレンタカーで7〜8時間のドライブ、という方法と、ダッボー Dubboまで飛行機で1時間程飛んで、そこからレンタカーで2時間、という方法の2つある。国内線では、23kg 1個だけ無料だが、2個だと超過料金が発生するが、さほど高額でないようなので、時間と手間の節約のため、Dubboに飛び、レンタカーで行く事にした。レンタカーはカンタス航空の現地siteでの便の予約と同時にできる。


ダッボー空港に到着(友人撮影)。

 シドニー空港のセキュリティー・チェックで、ミラー・ボックスが引っかかった。何度もX線を通し、何度も持ち上げてみて、係員が集まってきた。「これは何ですか?」、「望遠鏡の部品でミラーです。」と答えたが、普通の人には理解できないだろう。でも、結局それだけで、中身を見る事も無く、パスできた。引っかかったのはこの時だけで、あとは全く問題なかった。小さい飛行機で、座席の上の棚にはミラー・ボックスは収納できなかったので、足元の床に置いた。ミラーボックスを入れたトート・バッグは、座席を固定している金属の足の幅より狭く、すんなり収納できた。超過料金は、望遠鏡のスーツケース17.8kgの分にかかり、わずか$30だった。 往復で\5000程度なら、全くもってありがたい。


道路脇の看板。下の文字に注目。ASTRONOMY CAPITAL OF AUSTRALIA!

 クーナバラブランをsiteに掲載するに当たって、悩んだ事があった。というのも、滞在してみてあまりに環境が良かったので、これをネットで紹介するのは、どうなのだろうか、という点がずっと引っかかっていた。もし、本当に美味しい行きつけのレストランがあったら、決してネット等では紹介しないし、マスコミに取り上げられたら、迷惑千万だからだ。また、常連客を大切にするなら、レストランだって軽薄な番組にほいほい出る事も無い。私がここを紹介する事で、ずっとここを拠点に活動してきている方々に迷惑はかかならいだろうか。

 先達の方々に相談し、また、滞在先の最終日にオーナーからの相談もあり、紹介する事にした。というのも、この町も、農業位しか無く、町としての産業が必要なようなのだ。また、後述するモーター・ロッジとミルロイ天文台 に存続してもらうのが大きな鍵となっているので、多くの良識のある日本の天文ファンが支えるのが良い、と思う。某国(最近は暴か)の観光客のように、写真のポイントが来たら、自分の欲望のまま、他の人はぐいぐい押しのけるは、足を踏みつける位なんのその、では本当に辟易してしまうし、皆呆れ果てている。


アカシア・モーター・ロッジ。ここだけでなく、皆さんが必ずお世話になる隣の中華料理店など、各店舗には割り当てられた天体写真が飾ってある。
また、市内の道端には大きな土星があったり(サイディング・スプリング天文台を中心として、太陽系が形成されている)と、さすが、天文の町だ。

 クーナバラブラン(以下、クーナと略)では、市内のアカシア・モーター・ロッジに宿泊し、ここから10km離れた空港へ行くのが定番 のようだ。また、郊外には、ミルロイ天文台もある、という。日本からは、このモーター・ロッジに予約を入れていたが、連絡を取っている内に、日本語のメールが来た。ミルロイ天文台の管理をしている方が日本人で、この天文台はこのロッジのものだ、という。また、ロッジには宿泊施設もある、という。事情がよくわからなかったが、とりあえず同ロッジと天文台に半々の予約をする形となって現地入りした。


のんびり行こう、クーナへの道。ただし、後述する注意が必要。

 友人と合流し、ダッボー空港に着いたら、声を掛けられた。何とミルロイ天文台の管理人の佐藤さんが迎えに来てくれていたのだった。佐藤さんはシドニー在住で、天文台の管理はボランティア、私達のような訪問者が来ると、案内して下さる、との事。これを皮切りに、一から十までお世話になり、本当に恐縮の至りだった。佐藤さんの先導で、クーナへ向かった。自然豊かな裏道のドライブは、心が洗われる思いだった。160kmのドライブだけれど、オーストラリアでは、隣町の感覚だ、という。ここの人達は、1日に数百kmの運転は普通の事らしい。

 オーストラリア、特に田舎道での運転の注意点は、 まず看板表示の時速を遵守する事。海外では、日本のように一律40km、60kmなどという誰も守らない速度表記は無く、郊外では100km、街が近づくと50km、40kmと表示され、この通りに走ると納得の安全速度になっている。オーストラリアも同様。動物との衝突は日常茶飯事のようで、道路には動物の死骸が普通に転がっていて、カラスが啄ばんでいる。100kmで走行中、カンガルーが飛び出したら、間違っても急ハンドルを切ったり急ブレーキは危険で、そのまま走行する事。筋肉の塊のようで、ポーンと飛ばされるらしい。牛の場合は車は大破するので、これは避けるのが賢明。また、カラスのような大型の鳥がフロント・ガラスに当たると割れる事があるので、減速した方が良い、との事。

 道路の脇には、C10や、D70等の標識が5kmごとに出てくる。これは、Coonabarabranまで10km、Dubboまで70kmの意味で、自分が走っている道が正しいかどうか、あと 、どの位なのかがわかり、ありがたい。

 

ミルロイ天文台


天文台・南側と、40”望遠鏡を覗き込むオーナー: David氏。

  クーナ市内、ほぼ真ん中にアカシア・モーター・ロッジがあり、ここよりダッボー寄り10kmにクーナ空港があり、その反対側10kmの所にミルロイ天文があった。ミルロイ天文は、アカシア・モーター・ロッジ所有のファーム内の高台にあり、ある大学で不要になった40インチ(約1m)の反射望遠鏡が設置されていた。 赤道儀はドイツ式。まだ設置の途中でガイド鏡も備わっていないので、天体の導入には時間がかかっていた。初日、火星(今は口径1mでもあまり見えない)、土星(さすが、1mの解像度)、そしてオメガ(まるで散開星団を見ているような、どアップ)を見せていただいた。

 また、この天文台には、Ninja 320500が貸し出し用として置かれている。Ninja 500 は、若くして逝去したオーナーの遺志と笠井さんの尽力によって、ここに寄贈されたもの、との事。他にも、協同購入したドブソニアンなどが置かれていた。この天文台の前の南側に面した空き地で観望もできるし、天文台のロッジでも観望ができるようになっている。


ファームのロッジと観望スペース。

 天文台付属の宿泊施設、と聞いて、最初は質素な部屋を想像していた。が、訪れてみて驚愕! 豪華な別荘のようなロッジで、フル装備の広いキッチンやランドリー設備、プールまである。無線LAN完備。各部屋はカーペット敷きだが、土足禁止になっているので、床に物が広げられる。全部で5部屋あるが、何と言っても嬉しかったのは、電気毛布! 観望の後、ここに入って包まれる幸せは、極上の天国だ。思わず「ふう〜っ。」と声が出てしまう。ロッジの前には観望スペースがあり、南側に開けている。ただし、写真のように木が立っているので、西側の視界が少々遮られる。初日は天文台での観望の後、夕食を取り、ロッジの前の観望スペースでトラベル・ドブで南天でしか見れないものを中心に観望。翌日は、家内が一足先に帰国するので空港まで送らなければならず、0時過ぎには 就寝。といっても翌朝5時には冬の星座を楽しんでいた。馬頭もOK。5時半には薄明で、気温は0.5℃だった。

 そういえば、家内にM8 を見せたら、「少し赤味ががっている。」と言った。彼女は、干潟星雲がどういうものか知らず、つまり、先入観で「赤く」見えたのではなく、純粋に「赤色」を感じた訳だ。私も、色付きのM8 を見たのは初めてだった。ただ、最終日はNinja 500 でも色は見えず、やはり空のコンディションに大きく左右されるのだろう。ちなみに、いて座、さそり座は天頂。銀ミラーでなくても、条件が良ければ色を感じる貴重な体験だった。

  

ロッジでの観望

 2日目、さあ、今日から本腰を入れての観望だ。明るい内から望遠鏡をセット。写真左側に写っている白い袋は、Obsession で使っている500gの鉛。これでバランスが取れる。また、風の強い時は、写真右のように地面にぴったり置く事ができるので、転倒の危険が無い。本当に良く出来ている望遠鏡だ。

 定番の観望イスは、天文台にあったものを借用。これを一番上まで上げて、ここにiPad を置いた。2日目も快晴。気温は8℃だったが、風が強い。お陰で雲一つ無いclear sky! あまりに天の川が明るく見事なので、写真を撮ってみた。繰り返しになるけれど、私は眼視派で天体写真を撮る事に情熱は無く、あくまで記念写真。

 とにかく、空が明るい。影が見えるのではなかろうか、と三脚の脚を見たら、地面に影が見える! そんなバカな、と注意してみたら、シャッターが開いている時・撮影後の処理中に点灯するカメラのLEDでできた影だった。言うまでも無く、星明りは空全体が明るいので、影はできません。

 ここで、簡単な南天紹介。図は、訪れた時期の日没後のもの。 赤色で示した点が、説明に出てくるキーの星/天体。


ステラ・ナビゲーターで製作(2012年8月中旬19時頃の空)。

 空が暗くなってくると、まず、この図左上にある星2つが見えてくる。これが、太陽から最も近い恒星:αケンタウリ(上)とΒケンタウリ(下)。αケンタウリは二重星で、望遠鏡で容易に分離して見える。この2つの星はポインター(pointers)と呼ばれ、この先に南十字がある。ちなみに、この下に“ダイヤモンド・クロス”、さらにその下に“にせ十字”と、南天には3つの十字があるので、ポインターが指し示すのが南十字、という訳だ。昨年5月には、空に3つの十字がきれいに並んで見えた。
 この2つの星の右下に星が見え、Βケンタウリとのちょうど2倍の距離に巨大な球状星団:オメガ
ω NGC5139 が肉眼でも見える。その延長上の少し上に、ケンタウルスA NGC5128 があり、笠井のSuper Nebula Filter HT で見ると、見事にコントラストが上がる。
 図の南十字の上にある星(十字を縦に見ると左側)のすぐ左上には、大変美しい
Jewel Box 宝石箱
NGC4755 が見え、双眼鏡でも楽しめる。図の南十字の右側の星(十字を縦に見ると一番上)Gacrux は美しい二重星で必見。南十字の左上には、暗黒星雲:コールサックが確認できる(図では薄くなってしまった)。
 図示はしなかったが、球状星団
NGC5286、エッジ・オン銀河NGC4945 もこの近くにあるので、見ておこう。

 この南十字から、さそり座、いて座への天頂方向、りゅうこつ座への地平線方向の天の川下りは圧巻。APM- Bino + NAV-HW 17mm で見るこの世界は、本当に極上の世界だった。さそり座、いて座は北半球でも見えるので、ここでは触れないが、りゅうこつ座の方向についても、少し紹介。

 図は、SkySafari 3 iPhone 表示。南十字が上に表示されていて、下の濃い所は、有名なη(エータ)カリーナNGC3372。肉眼でもここの所は濃くなっているので、同定は難しくない。Super Nebula Filter HT で見ると、見事にコントラストが上がり、立体的に見える。OIIIではコントラストが付きすぎて、かえって星雲が見えなくなる感じだ。その左上の青い散開星団が、南のプレアデス IC2602。南のプレアデスとは良くいったもので、元祖プレアデス同様、青くひんやりとした明るい星々が広がっていて、まるで兄弟のようだ。夜半過ぎには、両プレアデスが同時に見えた。プレアデス同様、低倍で見ないと はみ出してしまうので、屈折がない場合は双眼鏡で。すぐ右下には、美しい散開星団Gem Cluster NGC3293 で、右上は、散開星団NGC3532
 南十字の
Acrux とηカリーナの中間地点にLambda Centauri Cluster IC2944 + Running Chicken Nebula IC2948 がある。Running Chicken Nebula は、薄い。その右側は、美しい散開星団pearl cluster NGC3766。ただ、このあたりは、どこを見ても絶景なので、気ままに流しても時が経つのを忘れてしまう。また、Lambda Centauri Cluster IC2944 + Running Chicken Nebula IC2948 の右側には、惑星状星雲 Blue Planetary Nebula NGC3766 があるので、これも見ておこう。以上が、このあたりの代表的な観望ポイントで、これに大小マゼラン雲を併せて、私は「南天オールスターズ」と呼んでいる。 このあたりは、毎日かかさず見ていた。

 西の空には、日没とともにスピカと火星と土星が正三角形のように並んで見えていたので、毎日土星でシーイングをチェックしていた。左には、からす座があるので、ついでにソンブレロや電波銀河もチェック。当然だけれど、天頂のさそり座、いて座からへび座、へびつかい座のdeep skyも毎日訪れた。水平線に近いdeep skyも沢山見たが、これは北半球でObsession で見ているものより劣り、これは仕方のないところだけれど、日本では全く見れていなかったので、どうにも止まらない。

 大マゼラン雲も、くまなく流して見ていたが、タランチュラは、やっぱり見応えがある。これもSuper Nebula Filter HT で見ると、見事にコントラストが上がる。小マゼラン雲にある、大変美しくて見とれてしまう球状星団NGC104は肉眼でも見え、双眼鏡でも楽しめるし、毎日何度も訪れた。また、球状星団NGC362 も肉眼で存在がわかる。

 気が付くと、さそり座は頭から地平線に沈み行き、オリオン座が上がってくる。木星や金星を伴った、派手な夜明けだ。2日目は、メジャーどころばかり訪れた。だって、明日 以降、晴れる保証は無い。

 
 
クーナバラブラン空港での観望

 

 3日目は、滞在先をアカシア・モーター・ロッジ (ここも、無料の無線LAN完備)に移し、クーナバラブラン空港での観望だ。途中、農道を通るので、牛やワラビーと出会う。必ずお互いに見つめあう形になるのが不思議で、思わず笑みがこぼれてしまう。

 望遠鏡は、写真のように分割して運搬した。この日は、厚い雲に覆われていて、早々に観望を諦めた。友人と祝杯を上げ、就寝。3時半に目が覚めて、もしや、と外を見たら星が見えている。友人を起こし、すぐに空港へ向かった。雲一つ無い快晴。
 望遠鏡を組み立てる時間がもったいなくて、双眼鏡で楽しんだり、写真を撮ってみたりしている内に、あっという間に薄明になった。気温は1℃だった。


写真って、縮小すると、星が見えなくなるんですね。

 明け方の空は、冬の大三角(左がベテルギウス、上がシリウス、下がプロキオン)と、より明るい木星と金星の5つの星の共演だ。写真ではわかりにくいが、金星の下、水平線近くには、水星も写っている。縮小表示でわかりやすい写真を選んだが、実際には、もっとド派手な夜明けだ。

 地平線から、いきなり太陽が上がってきた。ちょうど樹の陰になってしまって、グリーン・フラッシュが確認できなかったのは残念だった。

 

空港での観望 - 翌日


ファームのロッジの方が圧倒的に居心地が良かったので、アカシア・モーター・ロッジから、ファームのロッジへ戻った。今日は、快晴。


遠くに見える山の稜線には、サイディング・スプリング天文台のドームが見える。あそこは海抜1000m以上で、口径3.9mの望遠鏡がある。
今度来る時は、行ってみよう。


黄道光も明るい。


満天の星、とはこの事をいう。どこから見ようか.....

 気温13.9℃の中、観望開始。快晴だったが、所々に雲が出てくる。雲を避けながら、片っ端から導入して観望。2時まで一気に見続けたが、遂に雲に覆われてしまった。気温-1.5℃。靴下は2枚履き+中敷カイロの装備だったけれど、それでも足底は冷たい。2時間仮眠して4時に再開。気温-2.1℃。シーイングは悪く雲も出てきたので、ここで引き上げた。

 ちなみに、クーナとシドニーとの間にはブルーマウンテンがあるが、この分水嶺のおかげで、強烈なシドニーの光害がカットされる、との事。

  

Hofheim-Instruments RD-300DX という望遠鏡

 

 大変良く設計されていて、よくぞこんなにうまく作ったものだ、と感心してしまう。口径30cmの望遠鏡を海外に持っていって観望できる、なんて本当に凄い事だ。昨年は、13cm屈折双眼で極上の世界を堪能したが、今回のテーマは「さらなる大口径、ただし単眼」との比較だ。EWV 32mm で最大実視野、最低倍率が得られるが、散開星団は、もっぱらこれが活躍。倍率が上がってくると星の密度が下がり、美しさが薄れて行く。ただし、大口径の方が、星の色の諧調は豊かになる。この望遠鏡は、その良いとこ取りのような感じだ。周辺像の流れも気にならず、まるで屈折望遠鏡のようにきれいな像を届けてくれる。

 Leica Vario Zoom は、本当に凄いアイピースだ。deep skyは、これ1本でOK。球状星団は、きれいな粒子に分解して見せてくれるだけでなく、系外銀河だってコントラスト良く描出される。惑星、高倍率用のZeiss Abbe II 4mm は、ちょっと失敗だった。シーイングが悪い時には過剰倍率になってしまい、かえって見えない。同6mm か、Pentax XO 5mm にしておけば良かった。

 
クーナのDIY店

 唯一の欠点は、今回の旅行記の手前に書いているフォーカサーのスリーヴ。きつめなので、EWV 32mm は挿入困難。アイピースを交換するとなると、せっかく導入した天体は大きく視野から外れてしまう。EWV 32mm を誤って一度落下させてしまってからは、挿入不能となってしまった。また、CATSEYE アイピースは最初から入らず、正確な光軸調整が出来なかった。現地から笠井さんにメールで相談したら、最初、150〜200番の粗い紙やすりで削り、その後、400〜500番、最後に1500〜2000番で仕上げてみたら、との事。クーナ時計台とアカシア・モーター・ロッジの間にあるDIY店にあった、120番、400番、1200番の紙やすりで削る事とあいなった。


削る前(左)、後(右)

 格闘する事3時間。CATSEYE アイピースは、すんなり入るようになったが、EWV はダメ。帰国してバレルを交換してみたら、OKだった。つまり、アイピースの落下で、アイピースのバレルが楕円変形を起こしたと思われる。アイピースのバレルは、かくも微妙なものなのだ、と勉強になった。皆さん、アイピースの落下には気をつけましょう!
 指はマメこそ出来なかったが、指はけっこう痛くなって、翌日、みかんの皮が剥けなかった。

 

再びファームでの観望

 19時に観望開始、気温4℃。地球照が明るい。思わず望遠鏡で月の暗い所ばかり見てしまった。細い月だけれど、その周りのdeep skyは見えない。その後、いつものように南天オールスターズを見ていたら、19時50分に曇ってしまった。夕飯後、時々空をチェックしていたが、星は、たまに顔を出す程度。0時には完全に雲に覆われ、空は真っ暗になってしまった。諦めて就寝。翌朝、起きてみたら、雲ひとつ無い快晴だった。ここでは、一晩全滅、という日が無い。まともに付き合っていたら、体が持たない。

  ちなみに、視界では空港が上、空の暗さではファーム(天文台)が上、と聞いていたが、確かに、その傾向はあるかもしれない。しかし、空港だって十二分に暗いし、どちらを取るかは、その日のメニュー次第だろう。

 

最終日、Ninja 500での観望

 過ぎてみれば、あっとういう間の一時だった。明日朝には運転してダッボー空港へ向かわなければならないので、徹夜は避けた。お世話になった望遠鏡はスーツケースにしまい、荷造りも、あらかた済ませた。今晩は、天文台のNinja 500 をお借りして大口径で南天の旅だ。午後、早い時間にNinja 500 を設置。最強のファインダー:笠井のWide Finder 28 があったので、これを装着。これがあれば、スパスパ導入が可能だ!

 
写真では小さく見えるけれど、これNinja 500です。

 ここは、日没とともに、急に暗くなる。だから、毎日、ゆとりを持って待ち構えていた。今日は、ロッジのオーナーの話を聞いていたので、天文台へ向かったのは18時だった。気温は12℃で、ダウンは不要な位暖かい(下着重装備なので)。西の空には、細い月とスピカ、火星、土星が接近していたので、まずは撮影してみた。

 さて、観望開始。今までNinja 500 は覗かせてもらうだけで使った事がなかったので、粗相が無いように気をつけて扱った。アイピースは私の持参セットで、まずは、月、火星、土星から。流石の50cmの解像度で、像もシャープ。それから、見えるものを片っ端から導入して見まくった。というのも、今晩は天候が怪しいのだ。それにしても、鏡筒の動きはスムーズだし、狙えばピタッと止まる。アイピースを交換しても、ターゲットは視野から外れる事もない。とにかく扱いやすい望遠鏡なので(笠井チューン効果もあるだろうけれど)、すっかり感嘆してしまった。50cmの大口径で見る星雲の濃さは、やはり別物で、また新たな世界を堪能した。この望遠鏡の最初のオーナーの遺志 とご家族に、心より感謝! 南天で生かせるなんて、何て素敵なことだろう。ただし、観望を始めて1時間程で雲ってしまったので、一旦夕飯、引き上げ。22時まで待ったが、思わしくないので0時まで仮眠。再び天文台へ向かったが、気温9℃、暖かく感じる。雲の隙間から見えるものを観望。NGC24725330055 あたりを見ようとしたら、ぽつり、と雨の気配が! あわてて撤収。その後も様子をみたけれど、遠くでは雷鳴が轟いている。諦めも肝心だ。これにてクーナでの観望終了。


ロッジのロビーとお世話になった車。

 すっかりお世話になったロッジ、佐藤さんともお別れだ。それにしても、ここは天国だ! こんな快適な環境で観望が堪能できるなんて、第二の故郷ができた感じだ。もし、ここがもっと近かったら、間違いなく、スライディング・ルーフ付きの個人天文台を作るだろうなあ..... 
 安全運転で、ダッボー空港へは2時間で到着。レンタカーの返却は、空港の決められた場所に車を止め、カウンターにあるボックスにキーを入れるだけ。係員もいない。この小さい空港は、チェック・インして荷物を預けたら、その隣が出発ゲート。つまり、手荷物検査も何も無い。飛行機が到着して乗客が降りたら、今度は我々が歩いて飛行機に乗り込む。つまりピストン輸送だ。気付いたら、シドニーの都会に舞い戻ってきていた。

  

オーストラリアの最後の夜

 ロックスを歩いていたら、月とスピカと火星と土星が、最接近していた。ファインダーを覗いたら、星が4つ。ん!?... 左のは飛行機でした! 写真右は、ロックス・旧倉庫街にかかる同天体(写真を縮小したら、星の三角は見えにくくなってしまった。ちゃんと星の色も映っているのだが)。

 NEXUS は優秀だけれど、エンコーダーの数が違う望遠鏡に使う場合、設定が煩雑で、しかも、SkySafari 3 に設定が反映されなかったりするので、望遠鏡別に用意したほうがよさそうだ。私の場合、接続して使う望遠鏡が2台あるので、もう1台、NEXUS を4月に注文していた。ところが、時々失神していた現象が、改善されそうだ、というメールが届いた。では、これが直ってから送ってくれ、という事にしていたが延び延びになり、結局、ここシドニーで受け取ることになった。NEXUS はシドニーの会社なのだ。連絡を取っていたら、代表のSerge氏が、滞在先のホテルに最新のNEXUS を持ってきてくれる、という。という訳でお会いし、いろいろと話をした。

 彼は、わざわざエンコーダーとバッテリー、iPad など一式持参し、フリーズの無いことをデモして見せてくれた。最新のNEXUS は、外観は全く同一。Wi-Fiのモジュールが違うらしい。IPアドレスも変更になっていた。また、失神する旧タイプも、送料当方負担でヴァージョン・アップしてくれる事になった。彼はメールのレスポンスも早いし、対応も迅速。啄同時だ、実に気持ちがいい!

 

帰路

 シドニーは朝発ち、夕方に成田着。時差が無くて良い、というのは一般観光の場合で、天文屋の場合は昼夜逆転しているので、むしろ時差があった方が良い人もいるだろう。帰りの便では、また映画を 見た。日本映画 の「岳(がく)」。以前、どこかの便で見ていたら、着陸で時間切れ。今回は、その続きだ。今は映画もテレビも元ネタは漫画が多く、世界中に影響を及ぼしている (”宇宙兄弟”も”岳”も元はコミック)。また、最近の日本の子役は、とにかく皆うまくて感心してしまう。

 「遠い空の向こうに」 という映画も見た。寂びれ行く炭鉱の町の高校生が、スプートニクを見て、自力でロケットを飛ばす物語。後にNASAのロケット・エンジニアになった人の実話に基づいた物語で、涙なくして見れない。結局、最後まで宇宙漬けの夏休みとなった。


見よ! この眺望!

 南半球は、低倍で美しい天体が多い。反面、ガスの濃さは口径に比例するし、系外銀河も口径がもろに効いてくる。結局いつもと同じ、屈折双眼+大口径ニュートンの組み合わせが理想だと思う。屈折双眼は、やはり13cmは欲しい。星の色の豊かさが違う。散開星団も、球状星団も、適度に密集していた方が美しく、丁度良い倍率があると思う。

 軽量屈折双眼のアイディアは以前からあるけれど、これを新たに製作する予算があるなら、今のAPM-Bino を何度も持ち込めるなあ....

 2度目のオーストラリア。今回は、Hofheim-Instruments 社のRD-300DX という素敵な友との遠征だった。そして至福の旅でもあった。この望遠鏡を設計・製作しているHofheim-Instruments 社 、これを輸入し、今回の遠征の情報を惜しみなくご教授して下さった笠井氏、アカシア・モーターロッジ&ミルロイ天文台のオーナーご夫婦: David and Brendaさん、普段からお世話になっている多くの方々、そして本当に何から何までお世話になったミルロイ天文台の佐藤さんに、心より感謝申し上げます。どうもありがとうございました!


クーナ空港に続く道にて。


もう一つおまけ。シドニーのホテルのロビーにて。

  

写真データ、そしてカメラの事など (2012年9月16日追加)

 オーストラリア遠征の写真が好評で、何で撮ったのか(一般人での反応で一番多かったのが、これ、自分で撮ったの? ガイドブックからの引用じゃなかったの?というもの)、撮影データは? という問い合わせがいくつかあったので、まとめて公表します。

 カメラは、CANON EOS-5D Mark III で、このページの冒頭の機材の説明写真(及び、最近の機材写真の多く)は、EF 100mm F2.8L Macro IS USM。このレンズはマクロ・レンズ(及び単焦点望遠レンズ)の傑作で、本当に素晴らしい。旅行の写真のほとんどは、EF24-105mm F4L IS USM。フィルム時代には、35mmカメラではF2.8より暗いレンズは考えもしなかったし、F4なんでクズだ、と思っていたが、デジカメが進化してISO 3200が普通に使えるようになって、レンズのラインナップが大きく変わってしまった。望遠は、EF70-200mm F4L IS USM で、時に、EXTENDER EF1.4×III を併用。望遠もF4なんて考えられなかったが、ISO 3200が常用できるようになってからは、屋内で手持ちで200mm F4で写真がぶれない。以前はF2.8を使っていたが、今のF4に買い替えて(ヤフオクでF2.8を手放してF4に買い替え、おつりまで出た)軽量になり、旅行へも持ち歩けるようになった。デジカメが進化して、撮影スタイルも以前とは全く変わってしまった。夜間の撮影でも、風景写真なら三脚を使う事は無いし、EOS-5D Mark III になってからは、ISO 8000、時に12800も使えるようになったので、IS 機能の働きも相まって、手持ちでも星野写真が一応撮れる(エアーズロックの夜のバーベキューでトイレに行った時、天頂のさそり座を手持ちで撮ってみたが、ちゃんと写っていた)。これは、カメラの大革命と言って良いと思う。ちなみに、私はフィルターが嫌いなので、どのレンズにも装着していない。

 超広角/魚眼レンズは、EF15mm FishEye。もっと高性能なレンズが沢山あるのは知っているが、私の場合、この手のレンズの出番は少なく、天体写真に情熱は無く、そして良いレンズはとても高価なので(私がEF15mm FishEyeを買った時は値崩れしていて、けっこう安く買えた)、これを使っている。
 天の川の写真2枚は、これで撮影。1枚目、樹をからめて撮ったものは、ISO 6400、F4、25sec.、2枚目の空港での全天星野写真は、ISO 6400、F3.2、30sec.、両方ともマニュアル・フォーカス、ミラーアップ、三脚・レリーズ使用。

 機内からの撮ったウルルの写真2枚とウルル山頂の方位板の写真は、Leica D-Lux 4。中身はPanasonic LX-3 だが、現像エンジンがちょっと違うのと現像ソフトCapture One が使えるので、こちらを購入。家内からは、ブランド・バカ親父だ、と嘲笑されているが、写真は見ての通り(ちなみに、金星の日面通過のベンチのスナップ写真は、左がEOS-5D Mark III で右がD-Lux 4)。

 私は、フィルム時代は、35mm一眼レフはNikon ユーザーだった。しかし、デジカメになって数年は使い物にならなかったので、CANON ユーザーに替わってしまった。Nikon は電子系統も遅れていたが、シャッター・ユニットもひどかった。F5 では、シャッターが感性と直結していて、直にその瞬間が切り取れたが、F90 の系統のシャッター・ユニットの、まあレスポンスの鈍い事! とても耐えられるものではなかった。今は、Nikon も頑張って、再びCANON のライヴァルとなったが、もう遅い。

 また、初期のコンパクト・デジタル・カメラ(コンデジという呼び方は嫌いだ)は電気屋が作っていたので、およそカメラの感覚でないものばかりで、これまた使いにくいものばかりだった。1段露出を補正するのに、いくつものステップを踏まなければならず、常にイライラを強いられた。コンパクト・デジタル・カメラで、やっとまともなものが出た、と感じたのは、CASIO EXILIM EX-P600 か。EXILIM EX-P700 は優秀で、ギトリスの写真(一番下のもの)は、これで撮った。いまでも職場で使っている。

 フィルム・カメラもいろいろあったが、1台を除いて全て手放してしまった。現像機材もほとんど手放してしまった。国内の印画紙は、全て製造中止と聞いた。時代とはいえ、寂しいなあ。

 *工芸品と呼ぶに相応しい美しい望遠鏡だったが、私の場合には双眼望遠鏡を選択、身辺整理のため、2013年11月手放した。手元に置いておきたかった1台だった。オーストラリアの素敵な思い出、ありがとう!!

 

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   その4 「BORG 125SD Binoでテカポ遠征」 へ
   その5 「BORG 125SD Binoで 西オーストラリア遠征」 へ

   その6 「BORG 125SD Binoで 南米アタカマ・ウユニ遠征」 へ

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