双眼望遠鏡 APM/LZOS 130/f6 BINO その1

望遠鏡も双眼が基本です!

 公開:2010年2月1日〜
更新:2011年7月12日 *アイピースの組み合わせのレイアウトを変更しました。

 

双眼の魅(威)力     -- 2009年4月12日 記 --

 現在、いろいろな分野で使われている顕微鏡などでは、すべて双眼である。双眼により、見え方、疲労度がケタ違いに良くなるからで、今どき単眼のものは皆無、といって良い。しかし、天文では、未だほとんど単眼だ。単純に、コストも重量も2倍になってしまうし、単眼でも十分楽しめるからである。しかし、 一旦双眼の世界を体験すると、もう双眼以外には考えられない。望遠鏡も、基本は “双眼” である。

 昔、Atom という望遠鏡店があった。同社から双眼装置が出ていて、私は、Meade LX-200 20cm F10 Pentax XL 21mm で使用していた。現在は、TeleVue の双眼装置に受け継がれているが、これで球状星団などを見ると、立体感があり、グッと引き込まれてしまう。トラペジウムも立体的に見える。無限遠の光源なので、脳が作り出す錯覚でもあるのだが、両眼で見る、見やすさ、解像度の向上は圧倒的だ。

 我が家から700m離れた所に高圧線の鉄塔があり、屋上では、ちょうど手を伸ばした親指の先位の大きさに見える。私は、いつもこれで光学系のチェックをしている。この鉄塔のガイシを大きく視野に導く事も可能であるが、近傍のパラボラ・アンテナの文字がはっきり見えるのは、Nagler 5mm でも TMB Super Monocentric 5mm でもなく、双眼装置+ Pentax XL 21mm だ。しかも見やすさは圧倒的である。これが双眼の魅力・威力である。

    

双眼望遠鏡に至る経緯

 1992年にMeade LX-200 20cm F10 を購入したが、家の前の空きスペースで観望するためには、階段を10段少々降りなければならず、また、住宅環境や転勤、多忙生活のため、自然と望遠鏡の稼働率は低くなってしまった。Al Nagler の名言 「望遠鏡は、使わない時間が長い」。

 時は流れ、2005年に家の建て替え計画が持ち上がった。当然、“屋上にドーム”も頭をよぎったが、23種類の望遠鏡を使い分けたかった事、予算が無かった事で見送った。ただし、将来、簡易型ドームなどを設置できるように、しっかり屋上にスペースは確保しておいた。紆余曲折あり、20072月に完成。膨大な音楽関係の資料等の片付けに1年近くかかったが、一段落してくると、屋上が気になってきた。幸い、ペントハウスを望遠鏡収納スペースとして占領する事に成功し、以前の観望の煩雑さの反動から、Kowa High Lander Prominar を購入した。屋上に出して2分後には観望できる簡便さ、10cm程度の優秀な屈折望遠鏡を無用としてしまう程の恐ろしく優秀な光学系、アイピースを交換して21×(実視界3°)〜96×(実視界0.8°Meade UW 4.7mm を使用)まで対応できる応用力、アイピースまで純正トランクに収納できて総重量が11kg、非の打ち所が無い。その後、第1回双望会に参加 し、天候には恵まれなかったが、圧感!の望遠鏡群を見る事ができた。

 EMSを使用した2インチ・アイピースの双眼の世界は流石であった。双眼鏡もそうだが、一度広い見掛け視界に慣れてしまうと(しかも、あっという間)、狭い視界は、随分と窮屈に感じてしまう。また、ちょうどその頃、仕事で大変お世話になった同世代の方が亡くなり、EMS双眼をやらずして死ねるか、という強い思いと、松本さんと親交を持つに至り、ついにEMS双眼望遠鏡を発注する事となった。

  

鏡筒選び - 楽しくもあり、悩ましくもあり

  鏡筒を選ぶのは実に楽しいが、明確なコンセプトがあったので、選択肢はあまり多くはなかった。

  1.      優秀な屈折。
  2.      低倍率指向(嗜好)。EWV 32mm で実視界3°確保。
  3.      EMS双眼望遠鏡を丸ごと移動可能(総重量20 kg、できれば18 kg以下)。
  4.      生涯を共にするEMS双眼望遠鏡(only one を目指す)。

  優秀な屈折というと、真っ先にTOA-130 が候補に挙がる。今まで覗いた中で最高の1本であったが、鏡筒重量が10.5kgなので、これでは重くて移動できない。いくら高性能でも、観望する度に組み立てるのは、私の場合、結果的に疎遠になってしまうのは体験済みなので、ここは諦めざるを得ない。また、TOA双眼はいくつか報告もあり、追従では面白みに欠ける。ASTRO-PHYSICS は全ての点で条件を満たしているが、納期に何年かかるか見当もつかない。TEC140mmだが、F7 で重さが8.6kgという事で却下。BORG 125SD は重さがわずか3.5kg、しかも焦点距離は750mmなので、EMS双眼にうってつけである。実際に覗いてみると、ヌケが良いクリアーな像であるが、色収差、解像度で、TOA には敵わない。そこで登場したのが、APM/LZOS APO 130/780 LW であった。780mmという焦点距離も、7.4 kgという重量も申し分無い。有り余るバックフォーカスも魅力だ。解像度もTOA 並み、という事であったが、いかんせん予算がかなりオーヴァーしてしまう。同シリーズには、3.5"フォーカサーのCNC-LW II という、実に美しく眩しい鏡筒があるが、重量は8.3kgで、価格もさらに高価だ。松本さんに、「2.5"のフォーカサーと3.5"のフォーカサーがあるのですが、どちらが良いでしょう?」と聞いたら、「断然3.5"のフォーカサーの方が良い」との事。随分悩んだが、ああ、もうこうなったらやるしかない! 円高も手伝って、一目惚れしたCNC-LW II を注文する事となった。焦点距離を1%以内で揃える、というリクエストも快諾していただいた。今は、大幅に値上げとなってしまったので、運が良かった。

APM/LZOS  APO 130/F6 CNC-LW II

 

鏡筒が到着。しかし

 鏡筒を注文したのが200811月初旬で、1月末に出来上がるとの事。3ヶ月あるので、その間に、まず架台の準備をした。ピラー脚にキャスターを付け、ペントハウスからゴロゴロと移動する事に決めていたので、ピラー脚はVixen85cm)を採用。足のネジは12mmφなので、東海キャスター F100N12S がぴったり入る。デザイン上、グレイ色と100mm径を選択した。

 我が家に鏡筒が届いたのは2月中旬、ほぼ予定通りで、焦点距離も1%以内に収まっていた。何と美しく魅力的な望遠鏡であろう。フードを短縮すると、信じられない位短くなり、2本並べると、潜水ボンベが2本並んでいるよう だ。名付けて “ツイン・タンク”。3.5"のフォーカサーも頼もしく、この鏡筒にして本当に良かった!と思 った。ところが、メーカーが鏡筒出荷の段階で鏡筒バンドが品切れである事に気づき、これから製作するので1ヶ月待ってくれ、という連絡が入ってきた。その上、レンズには恐ろしい程のホコリが入っており、へなへなと腰が抜けてしまった。レンズ・セルを外してみると、幸いホコリはレンズ後面のものだったので、きれいにクリーニング。さっそく覗いてみると、色収差の無い素晴らしい解像度の鏡筒で あった。不思議なのは、TOA は、あっさりしたクリアな像 だが、APM/LZOS は、PLフィルターを通して見たような濃い色で、ずいぶん見え方が違っていた事で あった。しかし、この“濃い色”が、きっと + の方向に働いてくれるに違い 。EMS双眼望遠鏡の大成功を予感し、鏡筒は松本さんの所へ旅立って行ったのであった。

  

EMS双眼望遠鏡の製作

  鏡筒バンドが届く間、フレーム以外の部分の製作開始だ。製作は、松本さんに全て一任した。たまたま注文が少ない時だったので、あっという間に心臓部のEMS-LS が完成。ドロー・チューブの末端の所に接続するEMS専用のアダプターを製作していただ いたが、この美しい鏡筒のデザインにマッチする、素晴らしい仕上げのアダプターであった。フレームは、鏡筒バンドを利用したシンプルなものとし、耳軸の連結部等はアルマイト加工を希望した。もっとも、私があれこれリクエストしなくても松本さんは全て把握していて、今回ほど以心伝心という言葉を感じた事はなかった。

 結局、鏡筒バンドは、到着まで1ヵ月半もかかった。もう3月中旬を過ぎている。この間、ジリジリとした思いで待ったのだが、不安と夢は膨らむばかり。別な鏡筒バンドが届いたらどうしよう 早くしないとトラペジウムが沈んでしまう! 春のメシエ・マラソンには間に合うのか?

 鏡筒バンドを松本さんの所へ送ってから完成までは、まさに電光石火。2日後にはフレームが出来上がり、1週間後には完成してしまった。何とシンプルで機能美あふれるフレームなのだろう! HF経緯台の延長も見事な仕上がりだ。長年の松本さんの経験とエッセンスが凝縮されているのを感じ、すっかり感動してしまった。

  

鳥取訪問

 遂に4月初旬の週末、“恋人”を引き取りに、鳥取へ行く事になった。強風のため、飛行機が着陸できず、空中旋回している。フライト・アテンダントに聞いたら、「冬などは、よく名古屋か大阪に着陸する」との事。夜に名古屋で下ろされたら、どうやって鳥取まで行けばよいのであろう.....  フライト・アテンダントの答え 「私共は、その後については分かりかねます」。また先週は、風の影響で成田で飛行機が落ちている。「半年も待って、覗かずに死んでたまるか!!」 幸い30分程旋回したところで天候が回復し、無事鳥取へ着いたのであった。

 ワクワク・ドキドキ。半年の思いが脳裏を駆け巡る。ああ、ついにこの瞬間が 何と美しい佇まいなのだろう。さっそくBINOを覗いてみると、闇夜の水銀灯が高解像度で迫ってきた。色収差はわからない。少し頭を冷やした所で、“鏡筒をねじる光軸調整”等を教わった。夜も更けてきたところで空を見上げたら、天候が回復し、月が見えてきた。少しモヤがかかっているが、BINO を外へ出し、観望する事になった。EWV 32mm に続いてEthos へ。おおっ、何というシャープな像であろう! Nagler 6 5mm では、宇宙船の窓から顔を出して、すぐ近くの月面を見ているようだ。エラストテネスなどは、今、隕石が衝突してできたばかりのように見えている。月齢8.9 だが 、表情は豊かだ。見慣れているクレーターなのに、BINO から目を離す事ができない。さらにNagler Zoom でぐんぐん倍率を上げてみたが、2mm 390倍でも像は崩れなかった。感無量

鳥取砂丘と さじアストロパークの太陽望遠鏡

  

架台と合体

  BINO が横浜に無事届き、さっそく架台と合体だ。耳軸高は137cmなので天頂付近を見るのには良いのだが、BINO を持ち上げるのは 、これでは大変。翌日、近所の鉄工所でポールを12cmカットしてもらった。これだとBINO を持ち上げて設置する時、両方の耳軸受けを見ながら載せられるので、安全だ。

 

  

横浜でファースト・ライト

  さっそく我が家の屋上で観望開始。鳥取で見た月面はどうだろうか? モヤが無い分、コントラストがくっきりしている。少しグリーンが入った月面の色がきれいで、月の砂の感触が伝わってくるような感じは初体験だ。これは、やはり “色が濃く見える” 特色が + に働いているためだろう。最初のねらい通り、温度順応も迅速だ。続いて、すぐ近傍の土星へ。表面の帯のみならず、輪の影など、恐ろしくシャープだ。シーイングの影響で、クックッと像が変化するが、時々見せる素晴らしい像には言葉も無い。「ご飯よ〜」に応答が無いので、次女が様子を見に来た。Nagler Zoom 2.5mm で土星を見せたら、「この前の土星とぜんぜん違う〜!」と目が離れない。この前の土星とは、ORIONドブ 300mm F4.5(高精度+増反射マルチコート)+ Baader V + 2"GPC + Ethos 8mm だったのだが(都会では大口径が生かせず、オフ・アキシス・シャドウ・マスクを使用しても小口径/High Lander に負けてしまう事も度々)。

 宇宙を100億分の1に縮小すると、いろいろな事が見えて くる。100億分の1の宇宙では、太陽は14cm、地球は15m離れた所の1.3mmの粒 だ。シャトルは地球の表面0.03mm を飛んでいる。ちなみに、光速は毎秒3cm。我々は、1.3mmの地球から、128m程離れた所の1.2cmの大きさの土星を見てい る。望遠鏡って、凄いと思いませんか?

  ちなみに、使用しているアイピースと実視界、倍率、等をまとめてみた(2011年6月末現在)。

 

焦点距離

  倍率

実視界 

見掛視界

アイ・レリーフ

射出瞳径

APM 130mm f6 780mm          
EWO 40mm 20 3.54° 69° 20mm 6.7mm
EWV 32mm 24 3.49° 85° 20mm 5.3mm
NAV-HW 17mm 46 2.22° 102° 16mm 2.8mm
NAV-HW with EiC 14mm 56 1.83° 102° 16mm 2.3mm
Docter UWA 12.5mm 62 1.35° 84° 18mm 2.1mm
Ethos 8mm 98 1.0° 100° 15mm 1.3mm
Ethos 3.7mm 211 0.52° 110° 15mm 0.6mm
Nagler Type 6 5mm 156 0.51° 82° 12mm 0.8mm
Pentax XO 5mm 156 0.28° 4 3.6mm 0.8mm
Nagler Zoom (4-2mm) 4mm 195 0.24° 50° 10mm 0.7mm
  3mm 260 0.19° 50° 10mm 0.5mm

 

使い勝手

 操作ハンドルで空をスイープしていると機銃掃射みたいで、私などはラット・パトロール(1960年代の戦争アクションTV)を思い出してしまう。ファインダーは無くても導入には不自由しない程、全てが自然に動いてくれる。正面に見えている対象物を正像のままどんどん拡大して両目で見れる、という事が、どれ程人の生理に適っているか、改めて実感する。

 ハンドルの下にはバランサーが付いていて、このハンドルをトロンボーンのようにスライドさせる事で、様々な重さのアイピースに対応できるようになっている。しかも、このカウンター・ウエイトは、アイピースと対側の低い位置にあるので、重量級アイピースでBINO が高仰角になった時の安定作用もある。何という絶妙なアイディアなのだろう。また、鏡筒が短いので、ハンドルを固定したままでもバランスは大きく崩れる事は無い。

 よく話題に上る “光軸調整” だが、フォーカシングの時間よりも短いし、幸いEWV 32mm Ethos 17-8mm 間では、わずかの補正で済んでいる。私の場合は、悩む間も無く、すぐに馴染んでしまった(その後、鏡筒の光軸調整を入念に行い、今ではアイピースを交換しても、ほとんどEMS調整ノブをいじる必要が無くなった)。

 EMS調整ノブに付いた原点復帰 “←” マークの効果は絶大だ。まず、この ← 2つ(水平用・垂直用)を手前に一直線になるように向け、この時点で大きく光軸がずれていたら、鏡筒をねじって光軸を補正すれば良い。 だから、安心して鏡筒を脱着できるし、移動の際、光軸がずれたとしても、冷静にすぐに復帰する事ができる。EMS調整ノブを回しすぎて、迷路に迷う事も無い。この “鏡筒をねじる光軸補正” だが、実際に教わらないと理解は難しいかもしれない。鳥取までは遠いが、訪問の価値は計り知れない。

 優れた製品・工芸品を使う、という事は、設計者・製作者の意匠を感じ対話をする、という事でもある。時に生き甲斐すら与えてくれる事もある。生涯を供に過ごせるBINO を持つことができて、私は本当に幸せである。

  

導入

 いつも、SkyScout を使用している*。実視界3°あれば、ほとんど視野に導入してくれるので、大変重宝している。基準星で設定する必要が無く、いきなり導入してくれるので、条件の悪い都会の空にもピッタリだ。しかし、経緯台でブンブン振り回して気ままに観望し、その上、導入や天体の確認ができる Sky Tour は大変便利だったので、今回は奮発してスーパー・ナビゲーターを取り付け た。

   *現在は使用していません。

 High Lander には、Vixen XYスポット・ファインダーを取り付けている*。これをそのままBINO に取り付る事が可能だが、今回は、国際光器の正立ファインダーを取り付ける予定である(2009年4月現在、納入待ち)。“正立像” で統一だ。前述した通り、実際にはファインダーが無くても導入に不自由しない程、使い勝手は良い 。

   *現在はSky Surfer IIIを使っています

  

都会の空も捨てたものではない

都会の空は明るい。私の住んでいる横浜は、相当明るい。こんな所で星なんか見えるの?と思う方も多いと思うが、夜も10時を過ぎると、天頂付近は、条件が良ければスカッと見え る。夏はM57 なども良く見え る。また、イザとなれば、1時間半少々で富士山・新五合目まで行けるので、便利な都会かもしれない。ただ、最近は静かに観望を楽しんでいる脇で、我が物顔で発電機をブリブリ回して撮影をする人が増えてきて、大変迷惑 だ。もし 、お知り合いにこのような行為で写真を撮って喜んでいる人がいたら、厳しくモラルを問いただし、即刻やめさせていただきたい。

  

腰痛対策

 BINO の総重量は、3.5"フォーカサーを採用した事で、22kgになってしまった。鏡筒は8.3kgで鏡筒バンドが11kgあるので、これだけで20.6kgになってしまう。だから、総重量が22kgで抑えられた、というのは驚異的である。とはいうものの、腰痛に悩まされないようにするには、BINO を持ち上げて移動する時間をできるだけ短くしなければな らない。幸い、ペントハウスから出して架台に載せた後は、キャスターでガラガラ移動すれば良いのだが、BINOの保管も考え、カンガルー・リフター:KGL-25 導入した。普段は、地震が来ても大丈夫なようにテーブルを低めにしておき、BINO 設置の時は数回ペダルを踏めば、BINO の取手が1m位まで高くな る。床から持ち上げる時に一番腰に負担がかかるので、これで腰痛対策は万全だ。
 リフターは各社から様々な機種が出ているが、カンガルー・リフターが、最も少ないペダル回数でテーブルをトップまで上昇できる機種であった。

 *カンガルー・リフターが自然降下するようになってしまった(2011年6月)

 購入して2年少々。いつもは、床面から20〜30cm位浮かせてBINO を保持し、使う時に上昇させるのだが、ある日、テーブルが下まで下がっているのに気づいた。その後、時々チェックしているが、けっこう下がる。時に1時間に4cmも下がる。今までは、自然下降は全く気づかない位、テーブル面は保持されていたのだが。

 生産している(株)スギヤスの東京の営業所に問い合わせたが、「油圧のものは下がるものだ(同社の基準では、1分間に0.2mmまでは許容範囲(1時間なら1.2cm) 。」、「まあ、油を交換すればマシになるかもしれない。」といった返事で、“今まで大丈夫だったのに、急にこうなってしまった考えられる原因” の答えも対策の情報も得られなかった。そういえば、同営業所にわざわざ見に行った時も、質問に何も答えられない(カタログに普通に書いてある事も知らない)社員がでてきて呆れたのを思い出し、今度は本社に聞いてみた。「パッキンかもしれないが、お宅の使い方なら、どうせまた起きる。」、「下がるなら、下のアームに細工して、下がらなくするストッパーを付けたら。」という返事。しかし、口のきき方が横柄で会話を続けるのが苦痛になってしまい、途中で問い合わせを止めてしまった。リフターそのものは悪くないと思うのだが、こんな会社では修理・メンテナンスに出しても期待が全く持てない。今の所、上昇には何の問題も無いし、ストッパーを付けて下降防止をする位なら、下に物を置いてそれ以上下がらなくすれば良いだけの事なので、しばらくはそれで使う事にした。

 どの世界でもそうだが、何に困っていいるのか把握できず、それに対してどのような解決策があるのか提案ができない人と会話をしても、時間の無駄であり、不愉快なだけである。 また、壊れた事に対するクレームではなく、直したくて聞いているのに、それすらも理解できず、マニュアル通りに決まった答えしかできない窓口対応の会社が多いのにも辟易する。

 

20094月 記

 写真歴は36年でカメラも大好きだが、徹底した眼視派で、天体写真を撮ることは無い。また、夜の仕事をしている訳では無いが、1年の1/3は帰宅が遅く、星を見るチャンスは多くはない。一つ一つの機会を大切にしたいと願って、このBINO を注文した。まだ満月なので、これからディープ・スカイへ旅立つのを心底楽しみにしている。

 小学生の時は、ボール紙で作った屈折望遠鏡、某社の廉価版屈折望遠鏡で、すっかり屈折(挫折)してしまった。高校の頃は、木辺成麿さんの「反射望遠鏡の作り方」を幾度も幾度も読んだが、資金が足りず、計画のみで終わってしまった。友人は、20cmを作る、と意気込んでいたが、そんな大きな物を作ってどうするの? と真剣にアドヴァイスしたのを覚えている。35年前は20cmの反射は相当重く、据付方法を本気で考えなければならなかった。今のシュミカセやドブソニアン、見かけ視界100°のアイピースを考えると、まさに隔世の感がある。

 EMS との出会いは割と古く、1994年に松本さんにいろいろ問い合わせて沢山FAXを送っていただいた事があった。この時は、自作に自信が無く見送ったが、それから15年。やっと実現に至った。EMS双眼は、鏡筒2本分の価格+αがかかるが、効果は√2倍ではなく、2乗以上ではないか、と思う。鏡筒のクオリティが上がると、これまた2乗で効いてくるように感じる。

 今回のEMS双眼望遠鏡を通じて多くの事を学び、そして、心温まる交流が何よりも財産として残った。また、このBINO の製作にあたり、多くの方々から貴重なアドヴァイスをいただいた。国際光器の小山さんにも大変お世話になった。この場を借りて、厚くお礼を申し上げたい。そして何よりも松本さんに、心より感謝申し上げる次第である 。どうもありがとうございました!

   

ちょっとだけディープスカイ      -- 2009年5月21日 記 --

 月面や土星のシャープな像は、相変わらず本当に魅力的だ。しかし、春霞のために、さらに明るくなってしまった横浜の空のディープスカイは、悲惨である。M8182 の存在は痕跡程度だし、M104 は見えない。また、M13 の、まあ迫力の無いこと。どんな優秀な望遠鏡でも、この空では残念ながら魔法のようには見えない。

 ゴールデンウィークも予定があれこれ詰まっていたが、後半は月が出てくるし天気も崩れてくるし、5月は後半まで予定が一杯だし、梅雨入りもするし おお、どうしよう、等と考えていた429日、急遽、午後の予定をキャンセルし、伊豆・天城高原へ行く事にした。翌30日は早朝からハードな仕事を控えているので、頑張ってもせいぜい4 時間程度しか見れないが、もういてもたってもいられない。さっそく我が愛器とORION 300mm/F4.5 ドブを車に積み、出かける事となった。

 まず、沈み行くM42 へ。流石に空気も厚く星はお団子状態だったが、とりあえず「見た」という満足感。続いてM44 へ。EWV 32mm だと実視界3.1°なので、全景がきれいに収まる。黒い背景から星星が浮き上がって見え、いかにも動き出しそうだ。まさにBeehive(蜂の巣箱)、散漫に見える中〜長焦点望遠鏡や双眼鏡とは美しさの次元が違う。また、月も沈み、空の状態も、このあたりから断然良くなってきた。続いて、アルギエバ。分離と輝きの対比が綺麗だ。そして、Ethos 17mm に切り替え、スカイウォーク。無数の星星に目を埋め、大口径低倍率BINO でしか味わえない至福のひと時である。しばらく、この “特権” を味わってから、今度は、M818297 などの北天の空を楽しみ、続いて、おとめ座銀河団へ。空が良いと、俄然、ORION ドブの本領発揮だ。このORION で星雲・星団を見る場合、最初にEWV 32mm 等で導入した後、Baader V + 2"GPC + Panopic 24mm で見るのが私の定番である。この組み合わせで最も実視野が広くとれるのだが、1.7倍の2"GPC を介さないとピントが出ないので、結局、実視界0.65°、96倍になってしまって いる。ただ、この双眼装置はアイピースまで一体化してケースに保存しているので、普通のアイピースの交換と同じ手間で、いきなり星雲・星団をドーンと双眼で大きく見る事ができる。300mmの口径を存分に発揮して、春の銀河団を微細構造まで浮き立たせてくれたが、我がBINO も負けていない。口径のハンデをものともせず、さほど遜色無く見せてくれた。念のため、良い空の条件の下、我がBINONagler Zoom)とORION ドブ + Baader V + 2"GPC + Ethos 8mm で土星を見比べたが、解像度とシャープさで、我がBINO が上回った。ちなみに、Nagler Zoom は実視界が50°だが(経緯台だと、まめに追っていかなければならないが)、この焦点距離では解像度とクリアさでNagler 6 を上回っていて、オススメである。

 この夜、マカリアン・チェーンを追っていった時、急にピントが出なくなった。というより、見えない! 少し離れてBINO を見ると、アイピースの高さが左右違っている。目幅調整のクレイフォードを動かしても変化がない。「何かがおかしい!」 注意深く見ると、左側のEMSユニットが、途中から抜けかかっていた。もう少しでアイピースごと落下する所であった。丁寧に外した所でちょうど時間切れ。帰路についたのであった。

 

地上編 〜夜だけでは、もったいない!

 このBINO で、我が家の屋上から数十m以内の地上風景を見ると、実に驚愕すべき風景が展開する。両目に高性能望遠レンズが直結し、しかも目幅は65mmから175mmへ拡大しているので、日常ではありえない超立体的な映像が視覚中枢を刺激するのだ。

 近所のアンテナや電柱、木々が、美しくボケた背景にくっきりと浮かび上がって見えるが、背景も立体紙芝居のように距離に比例して段階的にボケるので、何とも不思議な感覚だ。10倍以上の双眼鏡、例えばCANON 10×42L ISWP や、HighLander でもこのような感覚を味わえるが、このBINO では程度が違う。始めに右側のピントを合わせ、そして左側のピントを合わせていくと、ある瞬間に像が浮かび上がり、そして脳にカタルシスが訪れる。だから、ピント合わせも、けっこうエキサイティングなのである。アイピースは、Ethos 13mm8mm だと、本当に凄い。望遠鏡の性能の半分は、アイピースで決まる(どこかで見たような)。広い視界にくっきりとシャープに浮かび上がるアンテナの錆、電柱の砂粒、電線の汚れ、揺れ動く木々の葉の、何と魅力的な事であろう。また、これらの立体拡大像は、普段見ることのできない高い位置で、そして至近距離で見ているので、これも実に不思議な感覚でもある。私は、すっかり近所の屋根上風景マニアにもなってしまった。

  

-- 進化するAPM/LZOS  BINO -- 

   

ファインダー台座を交換 〜互換性が無い!

 ファインダーの台座は、Vixen のものを黒色に塗装したものが付いていたが、少しずつ塗装が剥げてきてしまったため、笠井トレーディングの「GSアリミゾ台座」に交換した。台座のネジ穴の位置は同じだったので、そのまま交換できた。ついでにネジも黒色のものに換えた。黒色の平ネジは、秋葉原の西川電子部品で入手した。

 問題なのは、本来は規格品であるはずの台座の大きさが各社まちまちで概ね Vixen 製より小さく、台座に入らないものが沢山ある事である。笠井トレーディングのものでさえ、届いた計3個が、それぞれ大きさが違っていた。また、TeleVue のダブテール・ブロックは大きすぎて、どの台座にも入らなかった。結局その都度削らなければならず、困ったものだ。おそらく中国で(勝手に?)作った金型が小さめで、未だにその金型を使っている下請けに各社が発注しているためであろうか? 是非、大田区などの日本の町工場に発注し、改善していただきたいと思う。

 

ハンドルのぐらつきを直してもらう

 左側の操作ハンドルに少しグラツキがあったが、さっそく支持棒の下側にネジを入れ、ここで支持具合を調整できるように改善してもらい、操作上、気にならなくなった。このネジの頭にはテフロンが付いていて、固定の具合が直線的ではない。流石!

   

アイピースホルダーをバンド・クランプにした

 私のアイピースは重量級が多く、何とかバンド・クランプにならないか、と考えていたところ、鏡筒に付属していた2インチの延長チューブがあったのを思い出した。この延長チューブは、真鍮リングのバンド・クランプだ。さっそくこれをカットしてタップを切ってもらい、特製のアイピース・ホルダーを作ってもらった。アイピース固定用のネジの径は松本さんのオリジナルのものと同じで、こちらの方が大きく使いやすいので、上下とも松本さんオリジナルのものとした。EMS固定用のネジの頭にもテフロンが付いる。

  

ファインダーが届いた

 ファインダーは正立だと、操作性が格段に向上する。国際光器の正立ファインダーは今年からシルバー色になってしまったので、お願いして白色を作ってもらった。5月初旬にやっと届き、さっそく装着した。以前のヴァージョンでは先まで白色で、こちらの方がデザインが圧倒的に良いので、是非復活していただきたいところだ。このファインダーは秀逸で、間違いなくお薦めである。

 ちなみに、ファインダーの脚は鏡筒付属のものだが、デザインに惹かれ、ホルダーの部分だけTeleVue のものに換えた。固定ネジはプラスチック製なので、ファインダー本体に傷が付かない。

    

レーザー・ポインターと水準器も付けた

 レーザー・ポインターも装着できるようにした。レーザー・ポインターはペンライト型が主流だが、ここでも他と違ったかっこ良さを求め、写真のようなものにした。出力は以前では考えられないような強力なものであるが、海外のsite を閲覧していると、もはや武器のようなものまであり、ビックリだ。

 ホルダーは、30mmファインダー用のホルダーの足を切断し、ファインダー台座に固定できるように加工した。うまく装着でき、気に入っている。また、スーパーナビゲーターの校正用に、小型の水準器も取り付けた。これは、ETSUMI 水準器S で、両面テープで接着した。

 (2010年5月22日追加)
   
ETSUMI 水準器は正確さが今一であったので、土牛 デジパスミニDWL-80G を購入した。スパッと正確に水平・垂直を教えてくれる。
        cal.
がしっかりできるようになったので、導入誤差が小さくなった。

  

スカイスカウトも付くようにした (注:現在は お譲りして使っていません)

 何といっても、手軽。そして、雲や障害物などが空の半分以上覆っていて、それでも隙間から星を見る場合など、SkyScout の本領発揮だ。今までは鏡筒の上に置いて使っていたが、置き方で導入精度が異なってくるので、右側のファインダー台座を利用してSkyScout が付くようにした。

  ETSMI ボールヘッド・シューという超小型の雲台があるが、シュー固定用の丸い回転部分を下まで下げ、さらに上面の端を斜めに0.51mm程ヤスリで削ると、ファインダーの台座に入る。削った所は、油性ペンで塗るだけで、加工がわからなくなる。この小型雲台は優秀で、しっかりとSkyScout を支えてくれる。また、使わない時はSkyScout の専用ケースにしまっておけるので、便利だ。

 始めに明るい星で望遠鏡とSkyScout の位置の校正が必要だが、ボールヘッドなのですぐに固定でき、良いようだ。後は導入の補助をしてくれるが、時々動かさないと勝手に電源が落ちてしまうのでやっかいだ。本社に問い合わせたら、「どうしようもない」、とつれない返事であった。

 ちなみに 、継ぎ足し充電ができる、エネループとEVOLTA のニッケル水素充電池も使っ てみたが、電圧表示が少なめ、と表示されていても導入誤差が多い場合があり、現在は乾電池のみ使用している。また、電池交換にはドライバーが必要が、SUNFLAG のウルトラ・ミニNo.99-B が小型・軽量で専用ケースにも入り、お薦めだ。

 

EMSのネジは点検しよう

 “ちょっとだけディープスカイ” でも述べたが、EMS のネジが緩んでいると、EMS がアイピースもろとも落下する可能性があり、大変危険だ。定期的にネジの緩み等無いか、チェックしよう。

 ちなみに、私は防塵フィルターを常時外して使用している。その代わり、ミラーのクリーニング等、良い状態を保つように気を付けている。当然ながらミラーは命なので、ここが汚れていてはクリアーな像は得られない。

   

腰痛対策 〜より設置しやすい持ち方

 重量級のAPM130-BINO だが、持ち方で重さの感じ方が違うのに気づいた。今は、まず右手でBINO のハンドルを掴み本体を持ち上げ、すぐに左手をBINO の背面に添えて鏡筒のレンズ面が上になるように垂直に保持し、架台まで運ぶようにしている(といっても、リフターから架台までは、12歩だが)。架台に設置の際も、垂直に持ち上げるようにして行っている。

  

耳軸の手入れ

 少し使ってくると、耳軸に滑らかさが減ってきた。そこで、自転車のメンテで有名な、Wako’s メンテループというテフロン配合のオイルを使ってみた。このオイルは556 のようにベタつかず、しかも恐ろしくスムーズになる。ティッシュにこのオイルを少量吹き付け、そして耳軸を拭き上げるようにする。直接吹き付けると、ツルツルし過ぎてBINO が固定しなくなるので、ご注意を! (経験済み)

 

湿度対策

 除湿機は、水を捨てるのが面倒だ。梅雨時には、大型のものでも、半日ほどでタンクがいっぱいになってしまう事もある。また、エアコンは、使う電気量のわりに、除湿は今一だったりする。昨年は、梅雨時〜秋まで望遠鏡群をペントハウスから楽器を置いている私の部屋へ避難させたが、今回、ペントハウスにダイキン・ルームドライヤー JTK 10BS を設置した。これからの季節、デジタル式温・湿度計で監視だ。
 (結局、これでは梅雨時はダメで、三菱
MJ-180DX を購入する羽目になった)。

   

20095月 記

 手にして、はや1ヶ月が過ぎた。不思議なのだが、最高のBINO を手にした、というのに、何か面白いBINO や架台ができないか、いつも考えている。歩いていても、ここでBINO で見たらどうなるだろう、とか常に創造性を刺激されている。

 この間までシリウスが明るく輝いていた、と思っていたのに、もう東の空には夏の星座が見えている。時の流れを感じ、あと何回見れるのかな、等と思ったり、病気で片方の視力が失ってしまう前に(幸い兆候は無いが)、できるだけBINO で見ておこう、等と考えてしまうこの頃である。

   

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