トラベル望遠鏡  その1
トラベル・ドブ? フライング・ドブ? トラベル・ニュートン? これで世界中、どこへでも行くぞ!

  公開:2011年11月13日〜
更新:2011年11月29日 *笠井ミニ・フェア を追加しました。

西オーストラリア 2011年5月

  理想的な星空を求め、出かける。車で移動できるなら問題ないが、遠隔地へ公共交通機関で出撃なら、何たってハイランダーの出番だ。でも、やっぱり口径はもう少し欲しい。西オーストラリアでは、APM-Bino で素晴らしい体験をしたが、これは13cm屈折双眼。架台も含めると30数sになり、海外に手荷物として持っていくには、ちょっと現実的ではない。そこで、今後、海外等での遠征用に、手荷物としても預けられる望遠鏡を考えてみる事にした。

 

屈折なら?

 
BORG 125SD

  一番軽いのは、Kowa のフィールド・スコープ:Prominar TSN-883 三脚も1sなので、超軽フローライト9cm望遠鏡なのだけれど、これを持っていくなら、やっぱり 双眼:ハイランダーでしょう。口径がもっと欲しいなら、BORG 125SD の選択になるだろうか。口径が12.5cmなのに、本体は、わずか3.5s。金属鏡筒をダイレクトに連結し、中軸式架台でEMS双眼にすれば、本体は10s程度に収まる。しかも、対物レンズが外せるので、収納の点でも有利だ。フォーカサーは、ヘリコイドでも良い。また、これなら手持ちの三脚でも対応できる。欠点は、高価である事。また、私にはAPM-Bino があるので、同じような口径のBinoがあっても、ちょっと競合してしまう。でも、このような鏡筒は今後なかなか出てこないとも思うので、宝くじが当たったら、是非買い込んでおきたいところだ。

  

カタディオなら?

 
笠井トレーディング
GS-200RC

  そこそこ軽量で、自動導入し放題のものがある。でも、何か味気ない。海外の絶好の空なら、やっぱり屈折双眼か、良質のニュートンでしょう。 ただ、リッチー・クレチアンを使う、という手もある。例えば、笠井トレーディングの GS-200RC など。ただし、低倍が得られない。

  

ドブソニアンなら?

  ニュートンの重さの半分以上は主鏡だ。ドブソニアンの場合、この重さでバランスを取っている部分もあるが、ここを軽くできれば、運用面ではだいぶ楽になる。方法としては、軽量ミラーWangsness OpticsZERODURなどの新素材の活用、あるいは、カーボンなどの軽い素材に薄いガラスを接着させて、ガラスを研磨するとか、あるいは宇宙望遠鏡のようにSiCミラーにするとか、いろいろアプローチの仕方はある。ニュートンの口径は素直に見え方に反映してくるので、口径は欲張りたいところではあるが、トラベル用としての運用を考えると、30cm程度が上限か。できれば、我がORION 30cmの主鏡を流用したドブを製作したいところだ。

      
Sumerian Optics 社の Alkaid とCanopus.

 トラベル・ドブ、といえば、笠井トレーディングから、タイムリーにREISEシリーズというものが出た。小型・軽量で、20cmなら、そのまま飛行機の手荷物として持って行ける。ただし、オーストラリアやニュージーランドでは、木材や食料の持ち込みが厳しく制限されており、税関で申告が必要。長蛇の列に並ばなくてはならない。また、虫に食われたら、アウト(入国できない)。耐久性は不明。納期も遅れていて、いつになるか不明だ。 また、組み立ても、ちょっと面倒くさそうな感じも受ける。でも、極めて現実的なコンセプトで作られているので、これからブレイクするだろう。
 同じ木製なら、
Sumerian Optics Alkaid もコンパクト。Canopus は、何と20”にまで対応していて、デザインが秀逸。問い合わせてみたら、代表のMichael Kalshoven 氏によれば、あまり移動しないなら、Canopus の方が安定していて良い、との事。Sumerian Optics の良い点は、ORION UK のミラーが選択できる点だ。日本で一般的に入手できる中国製ミラーより精度が良く、軽量。来年(2012年)の双望会には、この望遠鏡が並ぶかもしれない。

   
たまたまネットで見つけた、トラベル・ドブの例。

 フレーム・ドブの方法もある。たまたまネットで見つけたのが、これ(写真左)。テレスコ工作工房の斉藤氏は、同様のフレーム 形状で40cmのトラベル・ドブを製作し、ニュージーランドへ遠征している。星ナビ2011年11月号に素晴らしい記事が掲載されていて、これは是非目を通しておきたいところだ。同氏は、30cmドブを計画中、との事。大注目である。さらにフレームを簡素化したのも(写真中央)ある。もっと簡素化したのも(写真右)あった。 実は、一番最初に考えたのが、この1本アームで斜鏡とフォーカサーが浮いているタイプ。しかも、このアームがカーボン三脚を利用した伸縮性のもの。ただし、架台はF2を大きくしたような経緯台のようなタイプだった。 これだと、製作する楽しみがあり、見た目にインパクトが出るが、光軸の再現性が難しそうだし、コントラスト向上のため、シュラウドを被せる等々になると、結局1本アームではなくなってしまう可能性がある。

  
Officina Stellare 300 mmRCOS 16” と、わたなべ氏の“完全”自作のリッチー・クレチアン。

 また、このフレーム・タイプでは、魅力的なリッチー・クレチアンのようなデザインでの製作が可能だし、実際に個人で製作している方もいる。 トラベル・ドブではないが、「わたなべ」さんは、ミラーの研磨やフレームの製作のもならず、アルマイト加工からミラーの蒸着 (ご本人によると、2011年11月の時点では、まだ蒸着装置は制作途中との事)まで、 何から何まで全て“完全”自作。YouTube も必見、もう驚愕の世界、流石としか言いようが無い。大森さんのブログでは、きれいな写真で紹介されていて、これも必見。

 
バックヤード・プロダクツの25cmドブソニアン(完成品

 逆に、完全な筒にする方法もある。FRPを使った小型Ninjya だ。幸い、バックヤード・プロダクツでは、パーツとして販売しているので、25cmドブなら、すぐにできそうだ。完成品もある。FRPは衝撃に強いので、海外への運搬等では適材だ。 また、Springhills Farm では夜露が物凄く、トラス構造ではすぐに失神してしまう可能性があり、その点でも、このタイプは有利だ。光軸も狂いにくい。ただ、 海内への運搬用としては径が太いのが難点。主鏡25cmの筒が318mmもある。逆に、工夫すれば、30cmの鏡が入るかもしれない。ただし、筒内迷光の乱反射で コントラストは下がるだろうけれど。また、車の移動等では分割できるのは利点だが、飛行機に荷物として預ける場合は、一体化して梱包した方が良さそうだ。

 

ニュートンなら?

      
Vixen R200SS と ORION (UK) VX8, CT8

  もし、口径を欲張らず、20cmにするなら、普通に市販されているニュートンが、そのまま運搬して使える。 また、いつも使っているカーボン三脚に簡単な経緯台で対応できる。小型・軽量、といえば、Vixen R200SS が真っ先に思い浮かぶ。鏡筒の長さは700mmで、本体重量は5.2s! ただ、もともと撮影用なので(f4、800mm)、バーローで焦点を延長しないと、良像は得られないかもしれない。また、斜鏡は75mmもある。斜鏡はオフセットしているようなので、光軸調整は、ちょっと面倒かもしれない。トラベル望遠鏡の場合、光軸の調整は大切だ。屈折でも衝撃に弱く、簡単に光軸がずれるのもあるようだが、これではお手上げ。その点、ニュートンは有利だ。

 もう一つの候補は、ORION (UK)VX8。こちらは長さが860mmで、鏡筒バンド込みで7s。ただし、f4.5で斜鏡も63mmなので、このままアイピースを突っ込んで見れそうだ。さらに、主鏡、フォーカサーをグレードアップして、カーボン鏡筒にしたCT8 もある。これだと、鏡筒バンドや取り付けプレート込みで重量は9sになるが、運搬も運搬の衝撃も夜露も万全だ。ただ口径は20cm。でも、空が良ければ、これでもかなり行けそうだ。 南天では、APM-Bino + NAV-HW17.5mm の実視野2.2°が、極上の世界だった。実視野2°を確保するとなると、EWV32mmで焦点距離は1360mmが上限。やはり、口径は30cmが上限か。

 

ニュートンなら、架台は?

 

 国際光器のT-REX は、しっかりしていて良いのだが、8.5sあり、三脚込み、となると手軽には持ち運べない。軽量で、となると笠井トレーディングのAYO 経緯台(バランス・ウエイト軸込みで3.2s)が候補に挙がる。AOK 社のsiteを見ると、AYO Mark II が出る模様。しかも、エンコーダーも入れられると言う。10年程前に購入した私の中型カーボン三脚は、Gitzo G1349(G1348+G1318) だが、本体重量2.6sで、耐荷重12s、三脚は広げて固定できるので、バランス・ウエイトが無くても大丈夫かもしれない。

 しかし、私の場合はAPM-Bino の幅広HF経緯台があるので、これを三脚に装着すればOK。しかも、スーパー・ナビゲーターも使える。 重さは4s。鏡筒取り付けのアームは1s以下で製作できると思う。強度は、そうとうありそうで、安定性も良い。旅行トランクにも収納できる。ただ、架台の総重量が7sを超えるので、ドブソニアン的専用架台を作っても良いかもしれない。

 

費用は償却できるか?

 さあ、海外に遠征するぞ、と張り切っているが、実際どれだけ行けるかわからない。休みだって、自由には取れない。もし、チャンスがそんなに無いなら、追加重量を払って、現行機材を持っていった方が安上がりだ。西オーストラリアなら、何の問題も無い。南米なら、軽快な荷物にしないと、無理か。

 

笠井ミニ・フェアへ行ってきました(2011年11月29日)


TORINO-400DX と 300DX

 中目黒で、笠井トレーディングのミニ・フェアがあったので、行って来た。個人的には「何とタイムリーな企画」で、既発表のREISEシリーズのみならず、未発表のトラベル・ドブがたくさん展示してあった。TORINO-400DX の30cm版300DX は、同様の機能を持った30cm。光軸調整ネジに長い延長棒を接続することができ、光軸調整アイピースを覗きながら光軸調整ができる。実際にやってみたら、何と快適な! あっという間に合わせられた。デザインも秀逸。

  

 で、ここから驚いた機種をいくつか。まずはトラベル・ドブの本命、独 Hofheim-Instruments RD-300DX。30cm f 5だが、何と総重量12s。難なく本体を持ち上げて移動できる。本体は2分割でトランク式に収納(写真中央)。小さい方は主鏡ユニットが入り、手荷物で運べる。これは飛行機の移動で便利だ! 仕上げも美しい。フォーカス粗動は抜き差し、微動はヘリコイド(写真右)。

  

 鏡筒のバランスは、水容器の箱が主鏡部に引っ掛けられるようになっていて、至れり尽くせり(写真左)。主鏡ユニットも驚くほど軽量に良く作られているが(写真中央)、きちんと筋交いが渡されていて(主鏡ユニット前面にもバーが交わされている)、剛性も持ち合わせる。水平軸の回転は、3点テフロン支持で、ここに小ベアリングが付いていて、丸い支持部分の中に安定して固定される。 写真には写っていないが、主鏡の周りは衝立式シュラウドが取り付けれ、蛙がやってきて、主鏡に飛び乗るのも防げる(蛙が、という話が双望会であった)。他にもアイディア満載、とにかく良く出来ている! ここまでうまく作ってあると、自作しようという気持ちは失せてしまう。ちなみに、価格未定、冬発売予定、との事。これは下手すると納期が何ヶ月待ち、とかの人気商品になるかもしれない。

 

 同社のRD-200DX は、20cm f 4で、総重量8s。もはや、卓上ドブソニアンで、写真右のように、トラスが折り畳める。これまた驚愕、考えてるなあ〜。収納は本体の下の箱で、ちょっとわかり難いが、手前に iPhone を置いてみた。

 

 伊RP-Astro & 笠井製 Zingaro-6。15cm f 6で総重量3.2s。Zingaro というと、バルタバス率いるフランスの騎馬アートが有名だが、本来は流浪の民:ジプシーという意味。主鏡と接眼部はバーで連結され、ショルダー・ベルトが付いている。これを引っさげ、どこへでも気ままに出かけてくれ、というメッセージが嬉しい。写真右の八角形の箱は弁当箱ではなく、主鏡+接眼部を収納したところ。こんなにコンパクトになってしまう! 似たような形では、同じイタリアのLazzarotti Optics を思い出してしまう。信じられないような高解像度の写真が掲載されているが、本当にあんなに見えるかどうかは別として、とにかく美しい。美術品として飾っておきたい位だ。


Lazzarotti Optics (*今回の笠井トレーディングのフェアとは関係ありません)

 
気になっていた架台も展示(小型の経緯台 -これから発売- は右)

 という訳で、大興奮のフェアだった。会場には、見慣れた顔があちこちに... 入った時、ワインをいただいたので(皆さんに配っていた)気付かなかったが、出口(入り口)に、こんなポスターが!

 笠井トレーディングの上に何と書いてあるかというと、左から順に、「マニアの巣窟・眼視派の別天地」「マニアの魔窟・眼視派のアジト」「マニアの殿堂・眼視派の楽園」。いや〜、もう万歳〜〜!

   

    その2 笠井/Hofheim-Instruments RD-300DX
   その3 BORG 125SD Bino へ
   その4 「BORG 125SD Binoでテカポ遠征」 へ

   その5 「BORG 125SD Binoで 西オーストラリア遠征」 へ
   その6 「BORG 125SD Binoで 南米アタカマ・ウユニ遠征」 へ

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