被団協新聞

非核水夫の海上通信【2012年】

このコラムは、川崎哲氏(ピースボート地球大学)によるもので、
「被団協」新聞に2004年6月から掲載されています☆☆

2012年12月 被団協新聞12月号

日本を脱・核依存へ
非人道性から非合法化へ

 10月22日、国連総会第1委員会で35カ国(オブザーバー国含む)が核兵器の非人道性に関する共同声明を発した。近年のNPT再検討会議や国際赤十字の決議などをふまえ、核の非合法化に向けた努力の強化を各国に呼びかけたものだ。
 日本は署名を求められたが、拒否した。「わが国の安全保障政策と合致しない」からだという。米国の核の傘に頼っている以上、非合法化は求められないというのだ。これが被爆国日本の実態であることを、国内外の人々は思い知った。
 日本は核廃絶を掲げた国連決議を毎年提出し採択されている。こちらは「究極的廃絶」をめざすという内容だ。政府は、核兵器は確かに非人道的である、だが国際法で禁止するのは今は反対だという。二枚舌である。
 核のない世界を求める以上、非合法化は不可避である。なのに非合法化への「努力を強化する」という声明にすら署名できないというのは理解に苦しむ。共同声明には、NATOで核の傘の下にあるノルウェーやデンマークも署名している。
 しかし、仮に日本が署名をしていればそれで済むという話ではない。署名問題で明らかになった日本の核政策の矛盾を解消することが本質的な課題だ。
 それは日本自身が核依存から脱却することである。時間がかかるのなら、段階的でもいい。まずは先制使用を禁ずるとか、非核地帯条約を結ぶとか、とにかく日本が「核の使用を求める」という想定を断っていくことだ。
 ノルウェー政府は来年3月、核兵器の非人道性に関する国際会議をオスロで開催する。核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)はこれを核兵器禁止への好機ととらえている。
 オスロに向けて私たちがすべきことは何か。第1に、広島・長崎の被害の非人道性を世界に伝えること。第2に、核兵器禁止への動きを日本政府が妨害するのを防ぐこと。第3に、日本自身を脱・核依存させる行動を全国で起こすことである。
川崎哲(ピースボート)

2012年11月 被団協新聞11月号

軍縮に力を
お金を武器から平和へ

 8月、潘基文国連事務総長は「世界は兵器で溢れ、平和にはお金が来ていない」と題する論説を世界10カ国の主要紙に寄稿した。
 論説は、武器貿易条約の国連交渉が七月に決裂したことに触れ「おそるべき人的犠牲」を生んでいる武器貿易の規制に国際社会が失敗したと指摘。核軍縮の停滞も指摘し、広島・長崎の記念日を機に改めて軍縮に力を入れよと強調した。
 昨年の世界の軍事支出は1.7兆ドルを超えており、1日に換算すると46億ドル。これは国連全体の年間予算の約2倍だという。経済危機の中このような支出を続けることを潘総長は「人間の機会のコスト」と呼び、貧困、不公正、環境悪化、伝染病、組織犯罪など「武器では対処できない問題」に目を向けるよう呼びかけた。
 年4・6兆円の軍事支出をする日本は昨年、武器輸出三原則を緩和し欧米との兵器共同開発に乗り出した。戦争産業育成は経済回復のレシピではない。
川崎哲(ピースボート)

2012年10月 被団協新聞10月号

領土問題
国家主義をこえて

 日本と韓国、中国、ロシアの領土紛争が深刻化し、敵対感情と国家主義を煽る報道が続いている。
 紛争問題で世界的に権威のある「国際危機グループ」(ICG、ブリュッセル)が05年に出した東北アジア報告書は、問題の地域的な解決を提唱している。同書は、無人島の固有の価値よりも周辺の経済活動が本質的問題だと指摘。海域の共同開発や資源保護のための地域行動規範を作るよう提案している。歴史問題に関する地域共通の取り組みを促すと共に、各地の博物館が協力し、戦争被害の展示を普遍的な人間の苦しみに焦点を当て、国家主義を煽らないものにするよう提案している。
 これらを市民レベルで実践しているのが紛争予防のNGOネットワーク「GPPAC」だ。今年7月にウラジオストックで日韓中台露を含む地域市民会議を開催し、「軍事演習など紛争を悪化させる行為の禁止」をうたい市民対話のさらなる促進を約束した。
川崎哲(ピースボート)

2012年9月 被団協新聞9月号

オスロ会議
核の非人道性伝えよう

 8月21日、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の会議が広島で開催された。ICANは核兵器禁止条約を求める運動で、メルボルンとジュネーブに拠点がある。25カ国から百人が参加した。
 会議では、ノルウェーやスイス政府また国際赤十字が「核兵器の非人道性」に焦点を当てていることを好機ととらえ、核兵器を人道問題として訴えていく運動方針を確認した。
 ノルウェー政府は来年3月にオスロで「核兵器使用の非人道的結果」に関する国際会議を開催する。これに合わせICANは市民会議を同地で行う。
 被爆国・日本の取り組みは政府も市民も遅れ気味だ。原爆投下が67年後の今日まで続く苦しみをもたらしている現実は多くの国々では理解されていない。核の非人道性を国際社会に伝えていくには、証言活動だけでなく説得的な資料や議論が必要だ。オスロ会議を支援し、そこから核兵器禁止交渉が始まる情勢をつくりだそう。
川崎哲(ピースボート)

2012年8月 被団協新聞8月号

エネルギー政策
いま、行動のとき

 週に1回都内の女子大で講義しているが、授業の最後に学生に書いてもらう感想に、こんなのがあった。
 「戦争のとき国民を守らなかった国は、地震と原発事故の後も国民をだまし痛めつけている。今が日本のラストチャンスだと思う」
 若者に厳しく教えられた気がした。
 政府は今、今後のエネルギー政策を決めるためにパブリックコメントを集めている。締切は8月12日で、誰でも提出できる。まさにラストチャンスだ。
 2030年の原発への依存度が注目されているが、使用済み燃料の処理問題も重要だ。原子力委員会は6月、全量再処理は適さないという結論を出した。ところがいま政府は「原発ゼロ」なら再処理は止めるが、それ以外の場合は再処理をどうするかは国民に問わずに「政府が決める」というのだ。勝手に決めさせてはならない。再処理は核兵器にも直結する問題であり、私たちがいま意見していかねばならない。
川崎哲(ピースボート)

2012年7月 被団協新聞7月号

日本の責任
福島の教訓を語ること

 6月、国連持続可能な開発会議(リオ+20)が開催された。資源を乱獲し環境を汚染するのではない、次世代に責任ある発展のための国際会議だ。
 ピースボートは、福島の教訓を語ることが必要と考え、飯舘や南相馬の市民代表団と共に参加した。原発こそ持続可能でない開発の象徴であるからだ。
 しかし政府は原発にだんまりだ。玄葉外相は演説で大震災の教訓を語ったが、原発事故については触れなかった。政府間の合意文書は、「持続可能なエネルギー」を掲げたが、原発には言及がない。「福島の事故後に原発問題に言及がないのは驚くべきこと」と世界のNGO代表は批判した。女性団体代表は、原発やウラン採掘で被害を受けている人々の健康や権利について各国は向き合えと語った。
 広島・長崎を語るのと同様に、福島の現実を語ることは今や日本の責任だ。原発こそ発展の要だと信じている国々に、教訓を語らなければならない。
川崎哲(ピースボート)

2012年6月 被団協新聞6月号

再処理中止を
政策転換させる好機

 使用済み燃料の再処理を止めるべきと3月号に書いたが、その好機がいま訪れている。
 原子力委員会の核燃サイクル小委は今後の使用済み燃料政策について、全量を再処理するという方針の継続、再処理をやめ全量を地中処分、その併存という選択肢を示した。今後国民的議論を踏まえて政府のエネルギー環境会議が夏に結論を出す。新聞各社は再処理政策転換を求める社説を掲げている。再処理に巨額を注ぎ続けるのは非現実的という見方が強まっているのだ。
 再処理で生み出されるプルトニウムは、原爆の原料となる。使用目的のないプルトニウムを日本が大量生産するのは世界に説明がつかない。核不拡散・セキュリティが叫ばれている中なおさらだ。
 再処理中止を求める日本NGO共同声明をNPT会議で発表したところ、世界の学者や法律家らの大きな賛同をえた。今声を大きくすれば、政策を変えさせることは可能である。重大な岐路だ。
川崎哲(ピースボート)

2012年5月 被団協新聞5月号

中東非核地帯
NGOが洋上会議

 中東非核地帯を作るための国際会議が本年末にフィンランドで開催される。中東では、核保有国イスラエルに対してアラブ諸国が核不拡散条約(NPT)加盟を求めてきた。近年ではイランが核開発を進め、核軍拡競争の危険が顕在化している。
 中東非核地帯は70年代から提案され多くの決議が採択されてきたが、具体的な行動はとられてこなかった。ようやく一昨年のNPT再検討会議で12年の国際会議開催が決まった。
 この動きを応援するため、ピースボートは3月に地中海で洋上市民会議を開いた。エジプト、イスラエル、イランなどのNGOが集いフィンランド会議への提言をまとめた。すべての国が出席すること、市民の参加を認めること、次に続くプロセスを作ることなどである。原爆や化学兵器の被害者の声を聞くことも求めた。
 イスラエルによるイラン攻撃が公然と語られている。戦争を止め、非核地帯へ進むことを求めよう。
川崎哲(ピースボート)

2012年4月 被団協新聞4月号

非核地帯
東北アジアも実現を

 2月メキシコで開催されたラテンアメリカ非核地帯条約45周年の国際会議に参加した。非核地帯条約は世界に五つあるがラ米が史上初だ。メキシコの遺産の名にちなみトラテロルコ条約と呼ばれる。
 この条約の特徴は、執行にあたる国際機関があることだ。OPANALという機関で、今回の国際会議を主催した。ウベダ事務局長はコスタリカの女性大使で、市民社会との連携に前向きだ。今後の協力を約束しあった。
 中央アジア非核地帯の立役者カザフスタンからは、やはり女性のアイティモバ大使が闊達な発言で存在感をみせた。これら非核地帯条約の加盟国は5年ごとに会議を開き、連携を確認しあっている。
 「非核地帯に加盟している我々こそがメインストリームだ」とブラジル大使は語り、核なき世界を主導する意欲を示した。
 東北アジア非核地帯を実現していくためにも、OPANALの事務局や各国との経験交流が有益だろう。
川崎哲(ピースボート)

2012年3月 被団協新聞3月号

使用済核燃料
再処理やめるとき

 政府のエネルギー政策見直しの焦点の一つは再処理問題である。使用済み燃料を再処理しプルトニウムを取り出し、燃料として利用するというのが核燃料サイクル構想だ。だが技術的にも経済的にも見通しは立っていない。六ヶ所再処理工場は事故を繰り返している。これは核兵器にも直結する問題だ。プルトニウムをため込むことは日本核武装という国際的疑念の原因になる。
 いま国際社会は、北朝鮮やイランに核開発をやめよと説得している。日本が非核国の中で独り再処理に走ればどうなるか。韓国だって「わが国も」となろう。これでは核不拡散への逆行だ。さらにプルトニウムの警備・防護体制も心配である。
 民主党でも有志が再処理中止を提言し始めたが、政権中枢はいまだ推進論だという。プルトニウムがいかに危険な物質であるか忘れてしまったようだ。日本がいま再処理を止めることは、世界の核不拡散ひいては核廃絶への大きな貢献になる。
川崎哲(ピースボート)

2012年2月 被団協新聞2月号

市民運動
放射線の中で生きる

 1月の「脱原発世界会議」は、2日間で1万人以上が参加する成功をおさめた。会場の熱気を作りだしたのは3・11後に活動を始めた人たちのパワーだった。小さな子をもつ親や、若者たちである。「放射能から子どもを守る」というセッションは日曜日の朝早くから満員であった。
 会議前日に福島を視察した海外ゲストたちは、飯舘村や南相馬の市民たちに触れ、放射能汚染の中で人々が事実上放置されていることに一様に驚愕していた。測定や除染、生活再建に取り組んでいるのは市民自身なのだ。
 放射線の影響は、空間線量だけの問題ではなく、食品から住宅まで、もはや生活の隅々にわたっている。
 かつてビキニの「原爆マグロ」問題から主婦が立ち上がり、原水爆禁止運動を切り開いたという。日本全国が放射線の中で生きるという現実に直面した今日、市民運動はどこへ向かうのか。当事者として考えながら、歩みを進めたい。
川崎哲(ピースボート)

2012年1月 被団協新聞1月号

脱原発会議
核時代集結への道筋を

 来る1月14〜15日、「脱原発世界会議」がパシフィコ横浜で開催される。福島の原発事故の現実を見つめ、原子力に頼らない世界を構想しようという国際市民会議だ。  初日は「世界のヒバクシャから学ぶ」というセッションがある。チェルノブイリの原発事故、マーシャル諸島やタヒチの核実験被害者、豪州ウラン鉱山の先住民族代表らが参加し、放射能被害や対策の経験を共有する。
 会場には「ふくしまの部屋」が置かれ、被災者や避難者が語り合える場となる。当事者の生の声は、そこから国内外へ発信される。
 福島の事故を受けてなお、原発推進を掲げる国は少なくない。これらの国の人々は被害の実相を知らぬまま、原発は大切だと安易に考えている。日本の私たちが安全神話を信じ込んできたのと同様に。広島・長崎そして福島を経験した日本から核時代を終わらせる道筋を世界に示したい。会議詳細は03‐3363‐7561。
川崎哲(ピースボート)