Rock Listner's Guide To Jazz Music


その他


Clifford  Brown with Strings

曲:★★★★
演奏:★★★
ジャズ入門度:★★★
評価:★★
[Recording Date]
1955/1/18-20

[1] Yesterdays
[2] Laura
[3] What's New
[4] Blue Moon
[5] Can't Help Lovin' Dat Man
[6] Embraceable Me
[7] Willow Weep For Me
[8] Memories Of You
[9] Smoke Gets In Your Eyes
[10] Portrait Of Jenny
[11] Where Or When
[12] Stardust
Clifford Brown (tp)
Richie Powell (p)
Barry Galbraith (g)
George Morrow (b)
Max Roach (ds)
Neal Hefti (Arr, cond)
クリフォード・ブラウンの有名盤。ずらりと並んだスタンダード曲にカウント・ベイシー楽団のアレンジャー、ニール・ヘフティがストリングスを加え、バラード系の曲を彩る。誠実で伸びやかにブラウンのトランペットが歌い上げるのは確かに味があるといえばあるんだけれど、トランペットのスタイル、そして特にアレンジのスタイルはいかんせん古く、おまけに録音も古くて音が悪いことからノスタルジックなムードを味わうべきアルバムになっている。その古さはとても55年の録音とは思えず、僕の耳には30年代のサウンドに聴こえる(30年代にこうした曲や音楽の形式はまだないんだけれど)。当時名手と言われたブラウンも今の水準では上手いとは言い難く、そうかといってカッコよさが未だに色あせないリー・モーガンのような魅力もない。ブラウンを聴くなら、ヘレン・メリルのアルバムや、ローチとのクインテット、あるいはアート・ブレイキーの「Biradland」の方が断然おすすめできる。(2022年12月4日)

Booker Little

曲:★★★
演奏:★★★☆
ジャズ入門度:★☆
評価:★★★
[Recording Date]
1960/4/13
1960/4/15

[1] Opening Statement
[2] Minor Sweet
[3] Bee Tee's Minor Plea
[4] Life's A Little Blue
[5] The Grand Valse
[6] Who Can I Turn To
Booker Little (tp)
Wynton Kelly (p)
Tommy Franagan (p)
Scott La Faro (b)
Roy Haynes (ds)
エリック・ドルフィーとのコンボによる「At The Five Spot Vol.1」などでの、あまりにも素晴らしい演奏で有名なブッカー・リトルのリーダー・アルバム。率直に言うとファイヴ・スポットほどには夢中になれない。原因は録音状態にある。60年だというのに雲がかかったような妙なコモリがあるし、各楽器の音をご丁寧に左右に振り分けていて極めて不自然な音場であるところが残念。音楽的な観点で見ると、ここでの演奏は確かにジャズ、しかし新主流派ともまた質が異なった新しいフィーリーングが漲っている。少しヒネった曲とやや風変わりなメンバーの組み合わせにより、他では聴けない独特のムードのジャズになっているのは確か。表面的にはアヴァンギャルドではないものの、万人向けなサウンドでもない。また、ここでのトランペットは、ファイヴ・スポットのときよりも抑え目、しかし、やや柔らかめのトーンで伸びやかに吹くスタイルで、クールで閃きを感じさせる。スコット・ラファロの参加は貴重なのでファンなら当然注目すべし。そしてこのユニークなサウンドでも違和感なく溶け込めるロイ・ヘインズの個性に畏敬の念を抱いてしまう。(2006年9月11日)

Modern Art / Art Farmer

曲:★★★★
演奏:★★★
ジャズ入門度:★★★★
評価:★★★
[Recording Date]
1958/9/10
1958/9/11
1958/9/14

[1] Mox Nix
[2] Fair Weather
[3] Darn That Dream
[4] The Touch Of Your Lips
[5] Jubilation
[6] Like Someone In Love
[7] I Love You
[8] Cols Breeze
Art Farmer (tp)
Benny Golson (ts)
Bill Evans (p)
Addison Farmer (b)
Dave Bailey (ds)
アート・ファーマーという人はなんとも表現に困るトランペッターだ。リー・モーガンやフレディ・ハバードのようにバリバリ吹きまくるわけでもなれば、マイルス・デイヴィスのようなクールさがあるわけでもなく、ケニー・ドーハムのような哀愁があるわけでもない。もちろんテクニックがないということはないんだけれど、これといった特徴がない。このアルバムはなじみのある曲が取り上げられているし、ベニー・ゴルソンの編曲と相まって実に聴きやすい。その反面、引っかかるところも特になく、堅実なファーマーのトランペットをじっくり味わう嗜好。ビル・エヴァンスの参加に目が行くものの、脇役に徹していてエヴァンスらしさは薄く無難なハードバップ的演奏で通しており、あくまでも安定志向なサウンドになっている。でも僕はなぜかドナルド・バードよりもファーマーの渋さを欲してしまうときがときどきある。(2006年6月3日)

Meet The Jazztet / Art Farmer & Benny Golson

曲:★★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★★★★
評価:★★★★
[Recording Date]
1960/2/6
1960/2/9
1960/2/10

[1] Serenata
[2] It Ain't Necessarily So
[3] Avalon
[4] I Remember Clifford
[5] Blues March
[6] It's All Right With Me
[7] Park Avenue Potite
[8] Nox Nix
[9] Killer Joe
Art Farmer (tp)
Benny Golson (ts)
Curtis Fuller (tb)
McCoy Tyner (p)
Adison Farmer (b)
Lex Humphries (ds)
アート・ファーマー、ベニー・ゴルソン、カーティス・フラーによる3管編成のこのグループは特定のリーダーを決めず、ジャズテットを名乗る。しかしながら、曲目を見ても予想できる通りゴルソンのカラーが濃厚。そのゴルソン・ハーモニーは、誰かのソロでも背後でハモれる3管以上の編成でこそより生きるという当たり前のことを改めて認識。ただし、このアルバムは歴史に残るような革新性を売りにしたものではない。果敢にチャレンジした[4]にしても、アート・ブレイキーの十八番[5]にしてもオリジナルの演奏の方が良い、というかオリジナルを越えようという気がそもそもなく、刺激よりは全体的にリラックスして聴けるジャズを目指している。そして、狙い通り楽しく心地よく聴けるのは、やはりゴルソンの曲とアレンジに負うところが大きい。個人的には[6]でテーマから飛ばし、[7]では一転柔らかい音色で魅了するフラーのトロンボーンが印象に残る。ちなみにこのアルバム、まだ素朴なマッコイ・タイナーのデビュー作としても知られている。(2006年12月19日)

Star Bright / Dizzy Reece

曲:★★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★★★★
評価:★★★★☆
[Recording Date]
1959/11/19

[1] The Rake
[2] I'll Close My Eyes
[3] Groovesville
[4] The Rebound
[5] I Wished On The Moon
[6] A Variation On Monk
Dizzy Reece (vib)
Hank Mobley (ts)
Wynton Kelly (p)
Paul Chambers (b)
Art Taylor (ds)
マイルス・デイヴィスが絶賛したとされることで知られ、しかし、決して一般的知名度が高くないディジー・リース。演奏はオーソドックスながら、なるほどしっかりしたテクニックを持った良いトランペッターで十分に聴く価値があると思う。曲もオーソドックスで、[1]こそブルースでややゆったりしているものの、バラードがないこともあってアルバム全体を通して活気あるスウィング感が印象に残る。それを演出しているのは、実はこのアルバムの聴きどころと言っても過言ではないサイドを固めるブルーノート看板ミュージシャンたち。いつものスムーズなフレーズの中にも力強さが漲っているモブレー、軽快で溌剌としたスウィング感の中枢を成すと同時に見せ場もたっぷりとあるウィントン・ケリー、躍動感と粘りを変幻自在に繰り出すポール・チェンバース、出しゃばった目立ち方こそしないもののバンドをプッシュしているアート・テイラーのドラム、すべてが高水準で全員がベストと呼んで差し支えない好プレイ。しかも、59年という時代相応に、従来のハードバップよりは少しだけ進んだ感じが今聴いても古さを感じさせない要因になっている。主役の知名度の低さのせいで聴かれる機会が少ないのだとしたらあまりにももったいない、オーソドックスで軽快なモダン・ジャズが好きな人なら必聴の1枚。もちろんモブレーとケリーのファンも必聴。(2008年12月13日)

Smithville / Louis Smith

曲:★★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★★★
評価:★★★★
[Recording Date]
1958/3/30

[1] Smithville
[2] Wetu
[3] Embraceable You
[4] There Will Never Be Another You
[5] Later
Louis Smith (tp)
Charlie Rouse (ts)
Sonny Clark (p)
Paul Chambers (b)
Art Taylor (ds)
名門ブルーノートは、数々の有名アーティストの名盤がある一方でジャズの歴史に名前が出てこないような人のリーダー・アルバムが少なからずある。このルイ・スミスも、その代表格の一人。なんでも学校の先生が本職で、ワケあってブルーノートに迎え入れられたらしい。そのトランペットは特にクセがあるわけではないものの、腕のほうは確かでドナルド・バードやアート・ファーマーなどと比較しても決して見劣りしない。そこに、躍動感、スピード感、柔軟性いずれも申し分ないチェンバース、手堅くソツのないアート・テイラー、哀愁を帯びたシンプルかつブルージーなソニー・クラークという当時のブルーノート自慢のリズム・セクションが万全のサポート。とりたてて個性的ではないチャーリー・ラウズのテナーもこの組み合わせに良く合う。スピーディなプレイからバラードまでハイレベルでこなすリーダーの魅力とハード・バップなら盤石の演奏を誇るサイド・メンの個性が滲み出ていてしかも相性も良い。知名度の低さだけで敬遠するのはもったいない好盤。(2008年2月16日)

Complete Communion / Don Cherry

曲:★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★
評価:★★★
[Recording Date]
1965/12/24

[1] Complete Communion
 a. Comlete Communion
 b. And Now
 c. Golden Heart
 d. Remembrance
[2] Elephantasy
 a. Elephantasy
 b. Our Feelings
 c. Bishmallah
 d. Wind, Sand And Stars
Don Cherry (colnet)
Leandro " Gato" Barbieri
                            (ts)
Henry Grimes (b)
Ed Blackwell (ds)
オーネット・コールマンのパーナーとして知られる、というかそれでしか知られていない感もあるドン・チェリーのリーダー・アルバム。ここでも軽めの音でチェリーらしいプレイを聴かせている。サウンドのキーになっているのはガトー・バルビエリで、アルゼンチン出身でラテンのポップなフィーリングをアヴァンギャルドに聴かせるプレイはチェリーの持ち味と相性が良い。曲は2曲のみでいずれも長尺でありながら、チェリーとバルビエリの絡み(作曲されている部分)とアドリブ・パートを巧く織り交ぜて飽きさせない。セシル・テイラーのグループでも知られ、太い音を送り込むヘンリー・グライムスとスコンスコンと小気味良いドラミングの盟友エド・ブラックウェルという選択も妥当という感じ。ただし僕の場合、バルビエリのラテンなんだけどアヴァンギャルドという個性が少々居心地が悪く、通して聴いてもそのモヤモヤ感が残ってしまう。(2008年9月13日)

Where Is Brooklyn? / Don Cherry

曲:★★
演奏:★★★★☆
ジャズ入門度:★☆
評価:★★★☆
[Recording Date]
1966/11/11

[1] Awake Nu
[2] Taste Maker
[3] Thing
[4] There Is the Bomb
[5] Unite
Don Cherry (colnet)
Pharoah Sanders
             (ts, piccolo)
Henry Grimes (b)
Ed Blackwell (ds)
演奏もサウンドも予想を裏切らないもので、あのちょっと奇妙なムードを持つメロディとフレーズをいつも通りに展開している。エド・ブラックウェルの小刻みで畳みかけるようなドラムが印象的なピアノ・レス編成は旧知のサイド・メンが支えているとあって意外性はなく、好きな人には安心して聴ける。このアルバムは、そんなチェリーにとっての王道音楽にファラオ・サンダースを加えて混沌を狙ったと思われる1枚。ファラオ・サンダースは意外にも普通に吹いているシーンもあるものの、あのノイジーなフレーズを炸裂させ、チェリーのコルネットと絡むところはやはりスリリング。録音時期に開きはあるけれど、実質的にはコルトレーンを迎えたチェリーのリーダー・アルバムだった「The Avant-Garde」との聴き比べも一興。(2006年9月9日)

Backstone Legacy / Woody Shaw

曲:★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★
評価:★★★★☆
[Recording Date]
1970/12/9-10

[1] Backstone Legacy
[2] Think On Me
[3] Lost And Found
[4] New World
[5] Boo-Ann's Grand
[6] A Deed For Dolphy


Woody Shaw (tp)
Gary Bartz (as, ss)
Bennie Maupin (ts, bcl fl)
George Cables (p, elp)
Ron Carter (b except [1])
Clint Houstone
               (b except [3])
Lenny White (ds)
エリック・ドルフィーやラリー・ヤングなど、60年代の前衛派ミュージシャンに若いときからサイド・メンとして起用されてきたウディ・ショウ。その鋭くテクニカルなトランペットは一度聴けば「おお、コイツはデキる」と思わせる実力がありながら、例えばフレディ・ハバードなどと比べると知名度が低い。参加アルバムに有名盤がないこともあって書物に目を通しても名前を見かけることは少なく、さらにリーダー・アルバムとなると話題にもなることすら稀。そこでこのアルバム、これが初のリーダー・アルバムでいきなり(アナログ)2枚組、トータル78分というボリューム。曲は短くて9分、14分以上の曲が3曲という大作揃い、そしてメンバーが2人被っていることも手伝ってマイルス・デイヴィスの「Bitches Brew」との近似性をも指摘されている内容。それでも聴いてみれば、とにかくカッコいい当時最先端のジャズ。この「当時最先端」という言葉、決してネガティヴな意味ではなく、この時代でなければ生まれ得ない、尚且つ今聴いてもまるで古びていないという賞賛だと受け止めていただきたいところ。そして「Bitches Brew」のオリジナリティと比べるとここで展開されているのはあくまでもジャズであるところが良いところ。当時既にマイルス・グループのメンバーだったゲイリー・バーツは、ここでは激しくもそこそこ重みを伴ったフレーズで一味違うところを聴かせ、「Bitches Brew」では低音で浮遊するだけが役割だったベニー・モウピンも負けじとアブストラクトにバスクラとテナーで激しくブロー。リーダーを含めた3人のブローだけで聴きどころ十分なところ、流麗なピアノと歪んだエレピで2面性を打ち出すジョージ・ケイブルズの好プレイでダメ押し。そしてドタバタした落ち着きのないレニー・ホワイトのドラムに2本のベースが絡み、混沌さを増長させていく様はもうスリリングとしか言いようがない。ショウのトランペットは素晴らしく、そして時に前衛的に歌っていて演奏者としての力量を堪能できる。初のリーダー・アルバムでこんなカッコいい音楽を作ってしまったことも同様に賞賛されるべきでしょう。(2007年4月29日)

Choices / Terence Blanchard

曲:★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★
評価:★★★☆
[Recording Date]
2009/3/5-8

[1] Byus
[2] Beethoven
[3] D's Choice
[4] Journey
[5] Hacia Del Aire
[6] Jazz Man In The World Of Ideas
[7] Him Or Me  
[8] Choices
[9] Hugs (Historically
Underrepresented Groups)
[10] Winding Roads  
[11] When Will You Call
[12] New Note Angel
[13] New World
     (Created Inside The Walls Of
      Imagination)  
[14] Touched By An Angel
[15] Robin's Choice
Terence Blanchard
                 (tp, synth)
Walter Smith V(sax)
Lionel Loueke (g)
Fabian Almazan (p)
Derrick Hodge (b, elb)
Kendrick Scott (ds, per)
Dr. Cornel West
              (spoken word)
Bilal (vo, effects)
2009年の3月にブルーノート東京で観て、好印象だったテレンス・ブランチャード、その直後のアルバム。そのときの演奏曲とカブっているかどうかは定かでない。なぜなら曲に掴みどころがなく、抽象的なものが多いから。しかし、ライヴではカルテットだった編成が拡張され、ヴォーカルや詩の朗読らしきものが加わったとしても、表現しようとしている世界はいささかもブレていない。この格調高い音楽性は、気軽にジャズを聴こうという向きには重すぎる。というか音楽的には一般でイメージされているジャズの枠をはみ出てしまっているのは間違いない。それでも、根底にはジャズに対するリスペクトと誇りが確かにあり、表面的な激しさよりも内面から湧き出るブラック・ミュージックの真髄を聴き取ることができる。難解であることは間違いないものの、それはアヴァンギャルドな方向性ではなく思慮深い表現に負うところが大きい。一度聴いてその魅力を理解することが難しいだけに、この感覚にひっかかりを感じ取ることができれば、その深さ知りたくなり、何度も聴きたくなるに違いない。恐らくは敬遠される音楽には違いないけれど、これが現代のジャズであるというブランチャードの主張が貫かれたコンセプチュアルなアルバムに仕上がっている。BGMとして流すのではなく、オーディオの前にじっくり座って聴き込みたい。(2009年8月23日)

Relaxin' With Nick / Nicholas Payton

曲:★★★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★★★
評価:★★★★★
[Recording Date]
2019/5/30-6/1

Disc 1
[1] Relaxin' With Nick
[2] C
[3] El Guajiro
[4] Stablemates
[5] Eight
[6] Jazz Is A Four-Letter Words
[7] Othello
[8] Tea For Two

Disc 2
[1] 1983
[2] F (for Axel Foley)
[3] A
[4] I Hear A Rhapsody
[5] Five
[6] When I Fall In Love
[7] Praalude
Nicholas Payton
 (tp, p, elp, vo,
  effects & samples)
Peter Washington (b)
Kenny Washington (ds)
名前こそ古くから知っていたとはいえ、あまり聴いたことがなかったニコラス・ペイトン。それでもトランペッターとしての実力は高いことは十分知っている。そんなペイトンが放つこの新作になぜ関心が向いたかというと、ベースとドラム以外はすべて自分で演奏しているから。しかもマンハッタンのスモークというジャズ・クラブでのライヴ(SMOKE Seesion Recordsという自主レーベルからのリリース)だと言う。本業のトランペットだけでなく、ピアノとエレピ、ヴォーカルまで披露している。知らなかったけれど、どうやら近年はマルチ・プレイヤーとして自身の音楽を表現する活動をしているらしい。恐らく知らない人が聴いたら、ベースとドラム以外を1人で演奏しているとは気づかないだろう。トランペットは相変わらず素晴らしい。テクニックがあるのはもちろんジャズならでは遊び心と歌心に満ちている。ピアノと(マイルス・グループにいたころのチック・コリアのように歪ませる場面もある)エレピは正直なところ上手いとまでは言えないし特別個性的ではないけれど、ツボを得たジャズのエッセンスを感じさせ、付け焼き刃的なムードはまったくない。いや、むしろ素朴でオーソドックスジャズであり、重要なのは歌心に溢れていることにある。ラップ調、ヒップホップ調のヴォーカルは一部であり、しかもオーソドックスなジャズに混じって何の違和感もない。マルチ奏者としてのパフォーマンスを見せつけてやる、といった気負いがなく、タイトル通りいかにもジャズらしいリラクゼーションに満ちている。現代のジャズ・ミュージシャンは50年代のジャズを繰り返すわけにはいかず、変に捻ったオリジナル曲で気難しいジャズを展開している。このアルバムを聴いていると、ジャズの本質はそうした技法的な複雑化でないことがわかる。近年のジャズ・アルバムで、ここまでジャズの本当の良さに迫ったものはない。もうやり尽くされたと思われているジャズがこんなに素晴らしい音楽だと再認識させてくれる素晴らしき自然体ライヴ集。(2019年12月8日)

Smoke Sessions / Nicholas Payton

曲:★★★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★★★
評価:★★★★★
[Recording Date]
2021/4/29, 30

[1] Hangin' In And Jivin'
[2] Big George
[3] Levin's Lope
[4] No Lonely Nights
[5] Lullaby For A Lamppost (for Danny
Barker) Part 1
[6] Lullaby For A Lamppost (for Danny
Barker) Part 2
[7] Q for Quincy Jones
[8] Gold Dust Black Magic
[9] Turn-a-Ron
[10] Toys
Nicholas Payton (tp, P, elp)
George Coleman (ts [2][9])
Ron Carter (b)
Karriem Riggins (ds)
近年は、Smoke Sessions Record(マンハッタンのジャズ・クラブSMOKEのオーナーが設立)からのリリースが続くニコラス・ペイトンの今回のアルバムは、ロン・カーターと(ゲストながら)ジョージ・コールマンという自身にとってのアイドルであったであろうベテランとの共演盤。となればサウンドの傾向は伝統的なアコースティック・ジャズであることは多くの人が予想できる。そして実際、まっとうでオーソドックスなアコースティック・ジャズが堂々と演奏されている。派手さはなく、前のめりな若々しい熱量こそないものの、適度な緊張感を根底に備え、ジャズらしい良い意味でもリラクゼーションもあるという絶妙なバランスで成り立っているジャズは聴いていて実に心地良い。曲はキース・ジャレットの[8]、ハービー・ハンコックの[10]の除きペイトンの自作ということから、ただのノスタルジックなジャズを追うだけじゃやないよという姿勢も見える。ペイトン自身の演奏も、特別今風スタイルを出すことはなく、ここには所謂新しいと思えるサウンドはない。すっかりおなじみになったペイトンの二刀流は堂に入ったもので、「こっちもできます」というレベルを超えた、独り立ちした鍵盤演奏家のそれと言って差し支えない。指が高速に回るといった類の技術ではないけれどジャズ・ピアノに必要なタッチ、表現や歌心は十分以上に聴き手を魅了する力量。鍵盤に時間を割く分、持ち時間が減ったトランペットは却って効果的に響くという副作用も出ている。近年の演奏を聴いていなかったロン・カーターは音使いと推進力は相変わらずと思いつつも曲に合わせてのものなのかドッシリと腰を落ち着けた(誤解を恐れずに言えばレイ・ブラウン的な)実にジャズ・ベースらしいベースを聴かせていて、全体の落ち着いたトーンを決める重要なファクターになっている。ただのオーソドックスで古いスタイルのジャズで終わらせていないのが、ヒップホップにも脚を置くカリーム・リギンズのドラム。大御所に敬意を評してか、多くは典型的なジャズ・ドラムのスタイルで叩いているけれど、フォー・ビートでない曲でのドラミングではそのヒップホップ系リズムが顔を出し、オーソドックスなジャズ系の曲であってもヒップホップ的なリズム使いが垣間見えるところもある。そんなベテラン勢のスタイルとの交わりもこのアルバムの聴きどころ。タイトで微細な楽器のニュアンスもしっかり捉えた録音も良好(2022年7月17日)

Standard Time Vol.1 / Wynton Marsalis

曲:★★★★
演奏:★★★★☆
ジャズ入門度:★★★
評価:★★★
[Recording Date]
1986/5/29, 30
1986/9/24, 25

[1] Caravan
[2] April In Paris
[3] Cherokee
[4] Goodbye
[5] New Orleans
[6] Soon All Will Know
[7] Foggy Day
[8] The Song Is You
[9] Memories Of You
[10] In The Afterglow
[11] Autumn Leaves
[12] Cherokee
Wynton Marsalis (tp)
Marcus Roberts (p)
Robert Leslie Hurst III (b)
Jeff Wats (ds)
現代のトランペッターとして最高の評価を受け、芸術家ジャズ・ミュージシャンとして扱われているといっても過言ではないウィントン・マルサリス。その中でも長きに渡って、もっとも支持されているのがこのアルバム。お馴染みの曲を、実力者サイド・メンに従えて演奏。その演奏レベルはまさに最上級。マイルスとは異質のハードボイルドさで迫る[1]、小気味良いミュート・トランペットを吹かせれば右に出るものがないと思わせる[3]、柔らかく甘いトーンで迫る[4]など、聴きどころは多く、ウィントンの完璧なトランペットを堪能できる。しかし、「どうも辛気臭くて」 と拒絶されるムードはここにもあって、このあたりに好き嫌いが別れるところ。本来シンプルな伝統的なジャズを真面目に追及しすぎるあまり、そしてジャズを高尚な芸術として表現することに情熱を傾けてすぎて難しくしてしまったウィントンだけれども、ここでは比較的素直な表現でスタンダードを演奏しているところが人気の理由のようだ。でも僕は、聴いているうちにどんどんうつむいてしまいたくなるウィントンの重苦しさがどうも苦手で中盤からはちょっと付き合いきれなくなってしまう。後半では、テンポを連続的かつ自在に変えて行く[11]が面白いかなあと思えるくらい。(2006年11月18日)

Selections From The Village Vanguard Box
                                               / Wynton Marsalis

曲:★★★★★
演奏:★★★★☆
ジャズ入門度:★★★★
評価:★★★★☆
[Recording Date]
1990-94

[1] Welcome
[2] The Cat In The Hat Is Back
[3] Embraceable You
[4] Reflections
[5] Buggy Ride
[6] I'll Remember April
[7] Misterioso
[8] Flee As A Bird To The Mountain
[9] Happy Feet Blues
[10] Cherokee
[11] Juba And A O'Brown Squaw
[12] Local Announcements
[1] [2] [7] [10]
Wynton Marsalis (tp)
Todd Williams
        (ts, ss, clarinet)
Wessell Anderson (as)
Wycliffe Gordon (tb)
Mercus Roberts (p)
Reginald Veal (b)
Herlin Riley (ds)

[8] [9]
Wynton Marsalis (tp)
Victor Goines
        (ts, ss, clarinet)
Wessell Anderson (as)
Wycliffe Gordon (tb)
Eric Reed (p)
Reginald Veal (b)
Herlin Riley (ds)

[3]-[6] [11] [12]
Wynton Marsalis (tp)
Victor Goines
        (ts, ss, clarinet)
Wessell Anderson (as)
Wycliffe Gordon (tb)
Eric Reed (p)
Ben Wolfe (b)
Herlin Riley (ds)
7枚組「Live At The Village Vanguard」ボックス・セットから、タイトル通りセレクトして1枚に収めたもの。セプテット編成とあって、カッチリとしたホーン・アンサンブルとステディなリズム・セクションをバックに、ウィントンが自由奔放に伸び伸びとトランペットを吹く。なんといっても良いのは、ウィントン特有の辛気臭さが感じられないところ。それは他のメンバーにも言えることで、ひとことで言って演奏が楽しい。そんな楽しさと高度な演奏がうまくバランスした上質なジャズが味わえる。クラブでのライヴであることがその楽しさを演出している、という要素も少なからずありそう。前半はコンボ然とした演奏で、後半はバンド全体で現代風ニューオーリンズ・ジャズを自分流に再現した曲が中心とあってウィントンの出番はやや少なめな印象。録音時期はバラバラなのにもかかわらず統一感があるのが不思議だけれど、このクラブにはバンドをインスパイアさせる何かがあったのかも。ウィントンのジャズは伝統を重んじていながら、その伝統的ジャズが持っていたおおらかさや緩さ、楽しさに欠けていて、そこがつまらないというのが僕の意見なんだけれど、このライヴにはそういう伝統的ジャズの魅力があるところがいい。(2007年2月11日)

Live At The House Of Tribes / Wynton Marsalis

曲:★★★★
演奏:★★★★☆
ジャズ入門度:★★
評価:★★★☆
[Recording Date]
2002/12/15

[1] Green Chimneys
[2] Just Friends
[3] You Don't Know What Love Is
[4] Donna Lee
[5] What Is This Thing Called Love
[6] 2nd Line
Wynton Marsalis (tp)
Wessell Anderson (as)
Eric Lewis (p)
中村健吾 (b)
Joe Farnsworth (ds)
Robert Rucker (per [1] [2]
[5] [6])
Orland Q. Rodriguez
(tambourine [6])
伝統あるジャズを現代に継承するべく、すっかり文化的偉人になってしまったウィントン・マルサリスが久しぶりにクインテット編成でスタンダードを演奏、しかも狭い会場でのライヴとあってかなり注目されたアルバム。往年のブルーノートの精神を受け継ぐジャケットがまたカッコいい。さて肝心の演奏は、活動基盤にしているジャズ・オーケストラとは違ってコンボ・ジャズの熱気が感じられる。ウィントンはもちろん、共演者の演奏も熱い。トランペッターとしてのウィントンがいかに完璧かもよくわかる。一方で驚いたのはアルト・サックスのフレージングが結構アヴァンギャルドで現代的であること、ピアノのトーンがかなりダークな感じがすることで、これらシリアスな演奏にウィントンの生真面目さが加わると、なんとも「遊び」のない窮屈なジャズという印象を受けてしまう。ありきたりなスタンダードも、ただのお気軽ジャズに陥っていないのは、そんなウィントンの個性であるとわかっていながらも、僕は酸欠状態で息苦しくなってしまう。ファンの人には怒られそうだけど、ジャズの普及に執心しているウィントンのジャズは、実はもっとも初心者を遠ざける気難しさに溢れているような気がしてならない。(2007年2月11日)