Rock Listner's Guide To Jazz Music


Kenny Dorham


Afro-Cuban

曲:★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★★
評価:★★★☆
[Recording Date]
1955/1/29 [6]-[9]
1955/3/29 [1]-[5]

[1] Afrodisia
[2] Lotus Flower
[3] Monior's Holiday
[4] Monor's Holiday
[5] Basheer's Dream
[6] K.D.'s Motion
[7] La Villa
[8] Venita's Dance
[9] K.D.'s Cab Ride
Kenny Dorham (tp)
J.J. Johnson (tb [1]-[5])
Hank Mobley (ts)
Cesil Payne (bs)
Horace Silver (p)
Oscar Pettiford
               (b [1]-[5])
Percy Heath (b [6]-[9])
Art Blakey (ds)
本作は2つのセッションで構成されており、[1]-[5]は10インチ時代にレコード化されたもの、[6]-[9]はそれとはまったく別のセッションのときのもの。その成り立ちから、ブルーノートのレコードとしてはトータルの統一感はもうひとつ。タイトルのコンセプトを表しているのは[1]-[5]。このラテンなノリとジャズの融合は、既にディジー・ガレスピーが得意としていたジャンルとはいえ十分に魅力的。ポコポコという音が必要以上に大きめの音量でミックスされているコンガと、4人のホーン隊によるアンサンブルが効果的かつ印象的。J.J. やモブレーが控えめながら実に気分良さそうに演奏しているのもいい。そしてもちろん主役はドーハムで、ドーハムならではの力みのない、しかし歌心あふれるトランペットの活気が素晴らしい。一方で [6]以降は、コンガと J.J. が抜けて個性的という意味では交代しているものの、バリトン・サックスを外し、ベースを入れ替えるとそのままジャズ・メッセンジャーズの「At The Cafe Bohemia」になるという雛形的編成で興味深い。あくまでも[1]-[5]を聴くべき作品ながら、[6]以降を含め、[5]を除くすべてがドーハム作ということから、全体として作曲家ケニー・ドーハムを味わうという側面も持っている。録音が古いために音質に難があるのは仕方のないところ。(2007年1月16日)

Round About Midnight

曲:★★★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★★★★
評価:★★★★★
[Recording Date]
1956/9/10

[1] Monaco
[2] 'Round About Midnight
[3] Mexico City
[4] A Night In Tunisia
[5] Autumn In New York
[6] Hill's Edge
Kenny Dorham (tp)
J.R.Monterose (ts)
Kenny Burrell (g)
Bobby Timmons (p)
Sam Jones (b)
Arthur Edgehill (ds)
ジャズ・メッセンジャーズを脱退した後、ケニー・ドーハムがごく短期間率いたジャス・プロフェッツなるグループによるライヴで、プロデューサーであるアルフレッド・ライオンの進言によりケニー・バレルが加わった編成になっている。先に結論を言ってしまうと、これは歌心に溢れたトランペットを満喫できるドーハムの最高傑作。有名なスタンダード([6]は別名"Tune Up")はもちろんのこと、それ以外の曲を含めてメロディアスで非常に聴きやすいし、アップ・テンポからバラードまで幅広い曲調のおかげで、次の曲が始まるたびにワクワクしてしまう。モンテローズの軽めのテナーとバレルのギターが良く合っているのに加え、ティモンズのブルーでメランコリックなピアノが全体の印象を決定付けている。喧騒的なジャズでなく、いい意味でドーハムの控えめなところが出ているけれど、演奏じたいには熱気があり、56年という時代の良さを実感できるハード・バップの名作でもある。モノラルながら生々しい録音もいい。尚、輸入盤は2枚組あるいはVol.1とVol.2の形態で、バレル抜き、本来のジャズ・プロフェッツの演奏を中心としたコンプリートで発売されている。(2006年11月16日)

Blue Spring

曲:★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★★★
評価:★★★☆
[Recording Date]
1959/2/18, 20

[1] Blue Spring
[2] It Might As Well Be Spring
[3] Poetic Spring
[4] Spring Is Here
[5] Spring Cannon
[6] Passion Spring
Kenny Dorham (tp)
J.R.Monterose (ts)
Cannonball Adderley (as)
Kenny Burrell (g)
Bobby Timmons (p)
Sam Jones (b)
Arthur Edgehill (ds)
キャノンボール・アダレイとの共同名義。[1][3][5][6]にドーハムのオリジナルを配するも、典型的なブルースを中心にリラックスしたムードに溢れた演奏で占められている。モダンジャズ転換期という時代であることを考えると決して進歩的なところや尖ったところはなく、スリルや面白みを求めると物足りない。テーマを Spring に置いたと思われるコンセプトも肩に力が入ったものではなく単なるきっかけのようで特殊なカラーを持たせる意図は感じられない。でも、内容はイイ。厚いハーモニーを上手く配して至極の心地良いジャズが展開される。 ドーハムのヒョロっとしたトランペットはこんなジャズにピッタリだし、実は器用なキャノンボールもバッチリ合わせた演奏。例えば大人数の食事時にBGMで流すのに調度良いと思える明るさと落ち着きがちょうど良い塩梅にバランスしている。名盤になり得る主張こそないものの、これもジャズの楽しさ。(2017年3月4日)

Quiet Kenny

曲:★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★★★
評価:★★★★
[Recording Date]
1959/11/13

[1] Lotus Blossom
[2] My Ideal
[3] Blue Friday
[4] Alone Together
[5] Blue Spring Shuffle
[6] I Had The Craziest Dream
[7] Old Folks
[8] Mack The Knife
Kenny Dorham (tp)
Tommy Franagan (p)
Paul Chambers (b)
Art Taylor (ds)
ケニー・ドーハムの代表作として扱われているワン・ホーン・カルテット編成のアルバム。バラードやブルースを多く取り上げた構成は、歌心に溢れたドーハムのトランペットにピッタリ。この編成となると重要度が増すピアノのフラナガンが控えめながら的確すぎるサポート、チェンバースとアート・テイラーは盤石の安定感でいつも通りの仕事をしている。トランペットという楽器によるワン・ホーン編成は、どうしても音が軽くなって線の細い印象を与えがちになるけれど、選曲とサイド・メンの好演によってそんなハンデを払拭。59年といえば、オーネット・コールマンが脚光を浴び、マイルスが「Kind Of Blue」でモード・ジャズに踏み込み、コルトレーンは「Giant Steps」で名実ともに自立した、そんなジャズにとって大きな変換期だった年で、その同じ年の作品としてはあまりも保守的と言われれば確かにその通り。しかし、ここでのドーハムのトランペットを聴けば、そんな時代とは関係ない普遍的な魅力に満ち溢れていることがわかる。ヒョロヒョロとした独特の音色のトランペットは、一般的なドーハムとして定着、しかしここでのドーハムは持ち味の一部を披露しているだけにすぎない。ドーハムがもっと表現の幅が広い才能あるトランペッターであることは他のアルバムを聴けばわかるはず。(2006年9月10日)

Whistle Stop

曲:★★★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★★★
評価:★★★★★
[Recording Date]
1961/1/15

[1] Philly Twist
[2] Buffalo
[3] Sunset
[4] Whistle Stop
[5] Sunrise In Mexico
[6] Windmill
[7] Dorham's Epitaph
Kenny Dorham (tp)
Hank Mobley (ts)
Kenny Drew (p)
Paul Chambers (b)
Philly Joe Jones (ds)
いかにもブルーノート、そしていかにも50年代のハードバップという顔ぶれ。でも実はモダン・ジャズが変動真っ只中である61年の録音。テーマのメロディの捻り方に僅かながら60年代を感じるものの、繰り広げられる演奏は驚くほど迷いのない痛快なハード・バップ。ドーハムのトランペットの歌いっぷりといったらそれはもう気持ちがいいことこのうえなし。最も脂が乗っていた時期のハンク・モブレーも悪かろうはずがなく充実したプレイで応酬。ケニー・ドリューはきつめのテンション・ノートを多用して全体を引き締める。ポール・チェンバースの躍動感とスピード感は数ある彼の録音の中でも屈指のもの。そしてなんといっても素晴らしいのがフィリー・ジョー・ジョーンズのドラム。キレといい勢いといい申し分のないプレイでバンドを強烈にプッシュ。全曲ドーハムのオリジナルで、タイトかつ硬派なサウンドをグループとして表現できているところがまた素晴らしい。ここに安易なスタンダードを入れなかったところがブルーノートがブルーノートたる所以。殆ど話題になることのない隠れた名盤。(2007年4月1日)

Una Mas

曲:★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★★
評価:★★★★
[Recording Date]
1963/4/1

[1] Una Mas (One More Time)
[2] Straight Ahead
[3] Sao Paulo
Kenny Dorham (tp)
Joe Henderson (ts)
Herbie Hancock (p)
Butch Warren (b)
Tonny Williams (ds)
ケニー・ドーハムはもちろん一流のハード・バッパーとして名声を確立したトランペッターで、その一方でラテン/キューバ系の資質ももうひとつの重要な部分として持っていて、このアルバムにはそちらの要素を打ち出した1枚。[1]は、15分に及ぶアフロなリズムを延々と展開。ハンコックは後のショーターの「Adam's Apple」表題曲と同系の軽快なリズム感でイマジネイティヴにバッキング、それにブッチ・ウォーレンと若干17歳のトニー・ウィリアムスが控えめに追随する。そんなリズムに乗ってドーハムが持ち味の哀愁漂うトランペットで実に気持ち良く歌う。これがデビューのジョー・ヘンダーソンもよく溶け込んでいる。まさに心地よいという言葉がピッタリ。[2]はタイトル通り、63年相応のストレート・アヘッドなフォービート・ジャズ。[3]は哀愁と親しみやすさを持ったテーマに導かれ、再びラテン風リズム感を取り入れた曲。もちろんまごうことなきジャズなんだけれども、哀愁+ラテンという意味ではタンゴに通じるものがあるかも。こういった曲にまたドーハムのトランペットがよく似合う。トータル32分弱、わずか3曲というコンパクトさながらドーハムの持ち味が良く出た作品。尚、トニー・ウィリアムスは脇役に徹しているけれど既に演奏は光っている。でも、激しいプレイは期待しないように。逆に、この若さにして作風に合わせた「お仕事」を事も無げにやっていることに感心する。(2006年12月18日)

Trompeta Toccata

曲:★★★☆
演奏:★★★★☆
ジャズ入門度:★★★
評価:★★★★☆
[Recording Date]
1964/9/14

[1] Trompeta Toccata
[2] Night Watch
[3] Mamacita
[4] The Fox
Kenny Dorham (tp)
Joe Henderson (ts)
Tommy Flanagan (p)
Richard Davis (b)
Albert Heath (ds)
表題曲の [1]はラテン・リズムで重くシリアスなムード。同じラテンのリズムでジョー・ヘンダーソンが相棒というのも同じであるにもかかわらず「Una Mas」で聴かせた楽しげなものとはぜんぜん違う。それもこのリズムセクションとなれば当然というもので、やはりリチャード・デイヴィスの太く主張するベースの存在感は絶大。トミー・フラナガンのピアノはフレーズの紡ぎ方こそまったく違っているものの、アンドリュー・ヒルに近い浮遊感漂うムードさえ感じられる。そんなムードにジョー・ヘンダーソンのフリーキーなテナーが良く合うことは自然なことではある。そして、50年代にニオイがほとんどしないサウンドの中でケニー・ドーハムのトランペットが驚くほど冴えわたっている。「Quiet Kenny」 の知名度のせいで哀愁味ばかりが取りざたされるドーハムだけれども、マイルス・デイヴィスもその実力を賞賛していたように、自分だけの音色を持った、これだけ上手いトランペッターはそうは見当たらないし、その個性は60年代になっても色褪せることのない輝きを持っていた。稀代の名トランペッターのリーダー・アルバムがこんなに少ないことがなんとも惜しまれる。シリアスなジャズにおけるドーハムのカッコよさと、ジョー・ヘンダーソンの大活躍が聴きどころの最後のリーダー作。(2007年6月17日)