Rock Listner's Guide To Jazz Music


Miles Davis(70-78年)

A Tribute To Jack Johnson

曲:★★☆
演奏:★★★
ジャズ入門度:★
マイルス入門度:★
評価:★★
[Recording Date]
1970/2/18
1970/4/7

[1] Right Off
[2] Yesternow
Miles Davis (tp)
John McLaughlin (g)
Herbie Hancock (key)
Steve Grossman (ss)
Bennie Maupin (bcl [2])
Sonny Sharrock (g [2])
Michael Henderson (elb)
Dave Holland (b [2])
Billy Cobham (ds)
Jack DeJohnette (ds [2])
僕はジョン・マクラフリンの良さがあまりよくわからない。特にマイルスと競演しているときのマクラフリンに魅力を感じない。[1]ではマクラフリンのギター・サウンドを大きくフィーチャーしていることから、マイルス・ファンの中でも人気があるらしい。ビリー・コブハムもここではごく普通のロック・ビートを刻んでいてらしさがまったく出ていない。2人ともマハヴィシュヌ・オーケストラでの演奏の方が断然良い。そもそもこのアルバムは、録り溜めてあったいわば残りもの音源を映画のサントラ用にテオ・マセロが編集したもので、そういういきさつからしても、それほど内容的に凄いものを求めても仕方がないような気がする。アルバムのオビには有名なマイルスの言葉「お望みなら、世界最高のロック・バンドを組んでみせるぜ」が引用されているけれど、そもそもこのアルバムに対してのコメントではなかったはずだし、このアルバムはロックを狙ったものでもないと思う。オビの文句を信用してマイルスが演るロックを期待して聴いたらガッカリする可能性大。特に、ロックのドラムに慣れている人でも[2]の単調なリズムを延々と聴くには相当な忍耐が必要。しかし、この時期の前後のマイルスのサウンドを考えると、このアルバムはちょっとはみ出ているような気がするし、その独自性が好まれているのかもしれない。(2006年5月27日)


Ann Arbor 1970 (Bootleg)

曲:★★★
演奏:★★★★
音質:★★
評価:★★★
[Recording Date]
1970/2/21

[1] It's About That Time
                       (Imcomplete)
[2] I Fall In Love Too Easily
[3] Sanctuary
[4] Bitches Brew
[5] Masqualero
[6] The Theme
Miles Davis (tp)
Wayne Shorter (ts, ss)
John McLaughlin (g)
Chick Corea (elp)
Dave Holland (elb)
Jack DeJohnette (ds)
Airto Moreira (per)
コモリ気味で薄っぺらなブートレグらしい音質でお勧めするにはちょっと厳しいレベル。管楽器の大音量時には音が割れてしまって聴き苦しい。それでも各楽器が単独で鳴っているときは割りとクリアに聴こえる部類。ロスト・クインテットの活動が終わり、新しいステップに入るマイルス・グループ。実はそのメンバーはロスト・クインテットと同じなんだけれど、ホランドがエレキ・ベースに持ち替え、パーカッションが加わっただけの変化で印象が結構違う。このブートレグは、そのメンバーに加えてジョン・マクラフリンが入っているという貴重な音源。演奏はこの時期のクオリティをクリアしていて問題なし。特にチックのエレピは、このころからかなり暴れ方がいい感じになってきている。[5] は冒頭から全力でマイルスがハイ・ノートを決めて気迫十分。演奏もグチャグチャで大変なことになっているんだけれど、音が悪くて迫力がイマイチ伝わってこないのが残念。マクラフリンは [1] と [5] で活躍。彼の愛好家なら聴く価値ありかも。(2006年5月28日)


More Live At Fillmore East (Bootleg)

曲:★★★
演奏:★★★★★
音質:★★★★★
評価:★★★★★
[Recording Date]
1970/3/6

Disc 1 (1st set)
[1] Directions
[2] Miles Runs The Voodoo Down
[3] I Fall In Love Too Easily
[4] Sanctuary
[5] It's About That Time
                       〜 The Theme

Disc 2 (2nd set)
[1] Directions
[2] Miles Runs The Voodoo Down
[3] It's About That Time
                        〜 The Theme
Miles Davis (tp)
Wayne Shorter (ts, ss)
Chick Corea (elp)
Dave Holland (elb)
Jack DeJohnette (ds)
Airto Moreira (per)
70年3月6日と7日、新しいセクステットはロックの聖地フィルモア・イーストでライヴを行う。恐らく2日間ともライヴ・レコーディングしたものの、当時はリリースされず、7日の分が2001年頃に突如オフィシャル・リリースされた模様。そして6日の分がこちらのブートレグで日の目を見ている。そういうこともあり、音質は完全にオフィシャル・レベルで楽器のバランスも良好とあって安心して購入できる。ただし、果たして2日分4セットも買う必要があるのか、と言われると、この時期のチックが大好きな僕のような人ならともかく、普通(?)の人には 7日のオフィシャル盤の分だけで十分かと。もちろん、6日も内容については申し分なく、圧倒的で濃厚なパフォーマンスで、特にセカンド・セットの壮絶に猛り狂った演奏は特筆モノ。(2006年5月28日)


Live At The Fillmore East

曲:★★★☆
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★
マイルス入門度:★
評価:★★★★★
[Recording Date]
1970/3/7

Disc 1 (1st set)
[1] Directions
[2] Spanish Key
[3] Masqualero
[4] It's About That Time
                    〜 The Theme

Disc 2 (2nd set)
[1] Directions
[2] Miles Runs The Voodoo Down
[3] Bitches Brew
[4] Spanish Key
[3] It's About That Time
     /Willie Nelson 〜 The Theme
Miles Davis (tp)
Wayne Shorter (ts. ss)
Chick Corea (elp)
Dave Holland (elb)
Jack DeJohnette (ds)
Airto Moreira (per)
そしてこちらが、2001年頃に突如リリースされたオフィシャルのフィルモ ア・イースト。ロスト・クインテットでの編成から、ベースがエレキに変わり、パーカッションが加わったニュー・マイルス・グループはさらにロック化を強め、サウンドはさらに凶暴化。特筆すべきはチックのエレピ。エレピといえば70年代に流行った、バッキングでピロピロと地味な(それはそれで味があるんだけれど)音を出す楽器だと思っていた僕は、チックの歪んだエレピを聴いて完全に認識が変わってしまった。この時期のチックのプレイは、ジョン・ロードやキース・エマーソン(2人は主にハモンドだけど)よりも激烈だと断言する。もちろんマイルスもショーターのブローも壮 絶、デジョネットも叩きまくっていて、もうこれはハード・ロックと言ってもいいような爆発的な演奏。僕は、この後に加入するキース・ジャレットがそれほど好きではないことと、この後脱退するショーターのファンであることから、このフィルモアはかなり貴重かつ重要な作品。各セット約40分程度という気軽に聴ける長さであることもありがたい。(2006年5月28日)


Complete "More Black Beauty" (Bootleg)
9th April At Fillmore West (Bootleg)

曲:★★★★
演奏:★★★★
音質:★★★
評価:★★★☆

曲:★★★★
演奏:★★★★
音質:★★★★
評価:★★★★

[Recording Date]
1970/4/9

[1] Directions
[2] Miles Runs The Voodoo Down
[3] This
[4] It's About That Time
[5] I Fall In Love Too Easily
[6] Sanctuary
[7] Spanish Key
[8] Bitches Brew 〜 The Theme
Miles Davis (tp)
Steve Grossman (ss)
Chick Corea (elp)
Dave Holland (elb)
Jack DeJohnette (ds)
Airto Moreira (per)
音はコモリ気味でも楽器をしっかり聴き分けることができて、ベース音のレベルもそこそこ出ている(ただしモワモワした感じ)。シンバル系の高音は厳しいもののチックのエレピはしっかり捉えており全体的にまずまずの音質、そして一応ステレオ録音。さて、3月のフィルモア・イーストから今度は舞台をフィルモア・ウエストに移し、ここから連続4日間の録音が残されている(オフィシャル盤は1枚だけ)。サックスがショーターからスティーヴ・グロスマンに変わったところが最大の変更点。グロスマンの音数の多いソプラノが新しい雰囲気を持ち込んでおり、まだロスト・クインテットの影が少しだけ見えていた1ヶ月前の演奏から更なる進化を感じる。この日の演奏は3月のフィルモア・イーストよりはやや落ち着いた感じで、評価が分かれるかもしれない。(2006年5月28日)
”Complete "More Black Beauty"のバージョンアップ版。オフィシャルレベルには至らないものの音質が向上してより演奏の実態を捉えられるようになった。こうして改めて聴いてみるとやはりチックの暴れっぷりが気持ちいい。(2023年8月19日


Black Beauty

曲:★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★
マイルス入門度:★
評価:★★★★
[Recording Date]
1970/4/10

Disc 1
[1] Directions
[2] Miles Runs The Voodoo Down
[3] Willie Nelson
[4] I Fall In Love Too Easily
[5] Sanctuary
[6] It's About That Time

Disc 2
[7] Bitches Brew
[8] Masqualero
[9] Spanish Key 〜 The Theme
Miles Davis (tp)
Steve Grossman (ss)
Chick Corea (elp)
Dave Holland (elb)
Jack DeJohnette (ds)
Airto Moreira (per)
70年4月9日からのフィルモア・ウェスト公演で唯一のオフィシャル盤。この時期のマイルスを聴きたくて最初に手を出すのなら、高価で手軽には買えないブートレグよりもまずはこのオフィシャル盤を当然お勧める。内容について評判が悪く書かれることが多いけれど決してそんなことはない。確かに、「Foorprints Live at Fillmore West」に比べると、やや落ち着いた演奏ではある。それでも他の3日との比較ではそれほど遜色ない。途中で、トランペットの音が右に左に移動して煩わしかったり、楽器の音量バランスが変わったり(前半はベースの音量がかなり低い)、ヒスノイズが目立ったりとオフィシャル盤としては随分クセのある音質とはいえ、当然のことながらこのフィルモア・ウェスト4日間の中では一番クリア。特にチックのエレピはかなり前面に出ていて [9] でその暴れっぷりを堪能できる。(2006年6月3日)


My Favorite Things Live At Fillmore West (Bootleg)
11th Apr At Fillmore West (Bootleg)

曲:★★★★
演奏:★★★★☆
音質:★★★
評価:★★★☆

曲:★★★★
演奏:★★★★☆
音質:★★★★
評価:★★★★
[Recording Date]
1970/4/11

[1] Directions
[2] Miles Runs The Voodoo Down
[3] Paraphernalia
[4] Footprints
[5] I Fall In Love Too Easily
[6] Sanctuary
[7] It's About That Time
[8] Willie Nelson 〜 The Theme
Miles Davis (tp)
Steve Grossman (ts, ss)
Chick Corea (elp)
Dave Holland (elb)
Jack DeJohnette (ds)
Airto Moreira (per)
音質や音の感触は「Complete "More Black Beauty"」と比べてほんのわずかに劣る印象。でもほぼ似たようなもので、一応こちらもステレオ録音。演奏内容も似た傾向ながら、[3] [4] が収録されていて演奏も良いことから、内容的にはこちらを上と僕は見ている。この CD のタイトルは [4] の2分38秒くらいのところで、一瞬それらしいメロディが出てくることに由来しているけれど、果たして意識的なものだったのか偶然似たようなメロディが出てきたからなのかはなんとも微妙なところ。少なくともこのタイトルを目的に買うほどのものではない。それにしてもここでもチックは素晴らしい。(2006年5月28日)
下はバージョンアップ版で音質が向上し楽器のバランスも良くなっている。しかし上の旧バージョンよりピッチがだいぶ速い。旧バージョンが正しいピッチと思われるが新バージョンを聴いてしまうとダルい印象になり、速くてもハイテンションに聴こえる新版の方がいいかなと思ってしまう。(2023年8月19日)


Foorprints Live At Fillmore West (Bootleg)
12th April At Fillmore West (Bootleg)



曲:★★★★★
演奏:★★★★★
音質:★★★☆
評価:★★★★★
[Recording Date]
1970/4/12

[1] It's About That Time
[2] Directions
[3] I Fall In Love Too Easily
[4] Sanctuary
[5] Footprints
       /Agitation
       /No Blues
[6] Bitches Brew
[7] Spanish Key 〜 The Theme
Miles Davis (tp)
Steve Grossman (ts, ss)
Chick Corea (elp)
Dave Holland (elb)
Jack DeJohnette (ds)
Airto Moreira (per)
一連のフィルモア・ウェストのブートレグの中では一番まともな音質。しかし、大きく異なるのは音のバランスで、チックのエレピとホランドのベースが前面に出ているというか、必要以上に大きめのバランスで収録されているのが特徴。この時期のチックのワイルドさと、ホランドのウネリに魅力を感じる僕には少々コモリ気味の音質であっても魅力的。こちらもステレオ録音。まず、"It's About That Time"から始まるのが珍しい。ところがこれがかなりいい。チックのエレピも、もちろんマイルスの切れ込みも鋭く、グロスマンのソプラノもテンションを落とさずに引き継ぐ。徐々に盛り上がっていくところが他のライヴでは味わえないオープニングのムード。ここまでホランドのベースのウネりを堪能できる"It's About That Time" はない。そのままスムーズに [2] へ移行。既にウォーム・アップは完了済みのため、はじめから全開のノリ。ここに来てグロスマンのテナーが登場。ソプラノ同様、音数で押して終盤はチックとホランドのデュオによるバトルにアイアートが絡む。[5] もベースの音がクッキリしているおかげで益々クールに聴こえてくる。中盤は得意のフリー・ジャズ的アブストラクトな展開へ。"Agitation"というタイトルが書いてあるけれどちょっとテーマをマイルスが吹く程度でフリーな演奏が続き、いつの間にかフォー・ビートになって"No Blues"、しかしデジョネットの手数はそれほど減らずにまたまたフリーの世界へと最後までテンションが落ちないのがこの日のスゴイところ。[7] ではノッシノッシとゆったり歩くようなノリに絶好調のマイルスが伸び伸びとプレイ、バッキングではチックが絶え間なく鋭いフレーズを連発。グロスマンは中庸でも、チックのソロが補って余りある。この時期の演奏が好きな人なら必聴。とにかく素晴らしい。(2006年5月28日)
別ソースとされているLEGENDARYレーベル盤は、コモリ加減こそあまり改善されていたものの、ベースの過剰な音量バランスが改善されて聴きやすくなった。チックのエレピは引き続き前面に出ていて、この日の超ハイテンションな演奏をますます楽しめるようになっている。音質がオフィシャルレベルでないことなどどうでも良くなる名盤。(2022年5月5日)


Miles Davis At Fillmore

曲:★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★
マイルス入門度:★★★
評価:★★
[Recording Date]
1970/6/17
1970/6/18
1970/6/19
1970/6/20

Wednesday Miles
[1] Directions
[2] Bitches Brew
[3] The Mask
[4] It's About That Time
[5] Bitches Brew/The Theme

Thursday Miles
[1] Directions
[2] The Mask
[3] It's About That Time

Friday Miles
[1] It's About That Time
[2] I Fall In Love Too Easily
[3] Sanctuary
[4] Bitches Brew/The Theme

Saturday Miles
[1] It's About That Time
[2] I Fall In Love Too Easily
[3] Sanctuary
[4] Bitches Brew
[5] Willie Nelson/The Theme
Miles Davis (tp)
Steve Grossman (ss)
Chick Corea (elp)
Kieth Jarrett (org)
Dave Holland (elb)
Jack DeJohnette (ds)
Airto Moreira (per)
新たにキース・ジャレットを加えて、再度フィルモア・イーストに4日間出演したときのライヴ。キースの加入による影響なのか、ファンク傾向が出てきたのがサウンド上の特徴。とにかく、この時期の演奏は非の打ち所がないほどアグレッシヴで素晴らしい。でも個人的には、本作についてあまり高く評価できない。
「In A Silent Way」以降、スタジオ録音のアルバムはスタジオのセッションをテオ・マセロがテープを編集して作品として仕上げてきた。そして、ここに来てついにライヴにまでその手が伸びる。水曜日から土曜日、それぞれの日のライヴを実際の約半分の時間に編集したものがこのアルバムの実態。内容は素晴らしいし、編集も巧みであるため不自然なところも少ないけれど、ライヴは編集なしで聴きたいというのが僕の考え。確かに1回のステージには間延びする部分というのが必ず出てくる。だからといって良い部分だけ切り取って繋ぎ合わせるというのは、スポーツに例えると仕切りのない相撲、ゴールシーンだけを集めたサッカー、野球の好プレー集のようなものだと思えて仕方がない。ライヴを味わうということは間延びした部分も含めて全体を楽しむことだと思う。一方で、そういったことを逆手にとって、完全版と聴き比べ、テオ・マセロの編集テクニックを堪能するのもマニアックな楽しみ方かもしれない。(2006年5月28日)


High Energy (Bootleg)

曲:★★★★
演奏:★★★★★
音質:★★★★★
評価:★★★★★
[Recording Date]
1970/6/17

[1] Directions
[2] The Mask
[3] It's About That Time
[4] Bitches Brew
[5] The Theme
Miles Davis (tp)
Steve Grossman (ts, ss)
Chick Corea (elp)
Kieth Jarrett (org)
Dave Holland (elb)
Jack DeJohnette (ds)
Airto Moreira (per)
そしてこれは、水曜日のフィルモアを余すところなく完全収録したブートレグ。So What レーベルからは同じ音源が「Complete Wednesday Miles」として出ている。音質はパーフェクト。キースとチックの絡みも、ホランドの躍動感溢れるベースも、手数が多くて重量感溢れるデジョネットも、グロスマンのテナー・サックス(正規盤ではソプラノしか聴けない)も、漏れなく満喫できる。また、ここでのマイルスのトランペットは会場の自然なエコーがかかっていて、かなりカッコイイ。勢いだけでなく、演奏の濃密さの面でもこのライヴに足りないもの一切なく、カットできるような無駄な部分もどこにもない。僕のような編集否定派の人にとってはこれぞ真のライヴ・アット・フィルモア。とにかく素晴らしい。(2006年5月28日)


Complete Friday Miles (Bootleg)

曲:★★★★
演奏:★★★★★
音質:★★★★★
評価:★★★★★
[Recording Date]
1970/6/19

[1] Directions
[2] The Mask
[3] It's About That Time
[3] I Fall In Love Too Easily
[4] Sanctuary
[5] Bitches Brew/The Theme
Miles Davis (tp)
Steve Grossman (ts, ss)
Chick Corea (elp)
Kieth Jarrett (org)
Dave Holland (elb)
Jack DeJohnette (ds)
Airto Moreira (per)
そしてこちらはフィルモア金曜日の完全版。音質はやはりパーフェクト。内容は水曜日と同様のハイテンションで各メンバーのインタープレイを浴びるほど楽しめる。とにかく水曜日と金曜日は、言うことなしのハイレベル/ハイテンションな演奏が凝縮されていてマニアは当然必聴。躍動するリズムと2人のキーボード奏者による混沌が絶妙なマッチングを見せると同時に、キース加入前のフリー・ジャズっぽい部分が抑えられて、まとまりがあることが特徴。エレクトリック・マイルスの初心者はここから行ってもらいたいくらいお勧め。こういうものこそオフィシャルで発売するべき。(2006年5月28日)


Precious (Bootleg)

曲:★★★★
演奏:★★★★★
音質:★★★★☆
評価:★★★
[Recording Date]
1970/6/20

[1] Directions
[2] The Mask
[3] It's About That Time
[3] I Fall In Love Too Easily
[4] Sanctuary
[5] Bitches Brew/The Theme
Miles Davis (tp)
Steve Grossman (ts, ss)
Chick Corea (elp)
Kieth Jarrett (org)
Dave Holland (elb)
Jack DeJohnette (ds)
Airto Moreira (per)
締めはフィルモア土曜日の完全版。音質もいい。ところが楽器のバランス、音像がまるで違うので要注意。まず、マイルスのトランペットにエコーがかかっていない。キーボードの音量が抑えられているためにチックとキースの絡みが聴き取りづらく、マイルスのトランペットとアイアートのパーカッションが前面に、そしてかなりクリアに聴こえるというクセのあるもの。結果としてまるで受ける印象が異なっている。恐らく水曜日/金曜日の音のバランスを支持する人が圧倒的に多いと思われるけれど、音楽の印象というものは音質だけでなく、楽器の音量バランスがいかに聴き手に与える印象を変えてしまうかがよくわかるサンプルかもしれない。アイアートの仕事を理解する(メンバーを鼓舞する掛け声も漏れなく収録)のにも最適なブートレグ。(2006年5月28日)


Miles At The Fillmore

曲:★★★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★
マイルス入門度:★★
評価:★★★★★
[Recording Date]
1970/6/17
1970/6/18
1970/6/19
1970/6/20
1970/4/11 (Bonus Track)

Disc 1
[1] Introduction
[2] Directions
[3] The Mask
[4] It's About That Time
[5] Bitches Brew
[6] The Theme
Bonus Tracks
[7] Paraphernalia
[8] Footprints

Disc 2
[1] Directions
[2] The Mask
[3] It's About That Time
[4] Bitches Brew
[5] The Theme
(Encore)
[6] Spanish Key
[7] The Theme

Disc 3
[1] Directions
[2] The Mask
[3] It's About That Time
[4] I Fall In Love Too Easily
[5] Sanctuary
[6] Bitches Brew
[7] The Theme
Bonus Track
[8] Miles Runs The Voodoo Down

Disc 4
[1] Directions
[2] The Mask
[3] It's About That Time
[4] I Fall In Love Too Easily
[5] Sanctuary
[6] Bitches Brew
[7] Willie Nelson
[8] The Theme
Miles Davis (tp)
Steve Grossman (ts, ss)
Chick Corea (elp)
Kieth Jarrett (org)
Dave Holland (elb)
Jack DeJohnette (ds)
Airto Moreira (per)
テオ・マセロの大胆かつ巧妙な編集で知られている「Miles Davis At The Fillmore」の元音源はブートレグとして陽の目をみていたものが、木曜日(アンコールまで含む)も加わって4日間の完全版としてついにオフィシャル・リリースされた。音質は望み得る最上のもの。トランペットとパーカッションが前面に出てキーボードが奥まった妙なバランスだった土曜日も他の日と同じようなバランスとなり、各楽器が満遍なく聴き取れるようになったのも朗報。ただし、「Miles Davis At The Fillmore」や従来のブートレグの会場全体にエコーがかかっていたような音ではなくオンマイクな録音状態になっていて、あの独特の雰囲気はなくなった。とはいえ、それ故に各人の演奏を緻密に聴き取ることができるようになったのも事実。パフォーマンスの凄まじさは改めて言うまでもない。マイルスの全キャリアの中でもこれだけ充実したライヴはないと言ってもいいと思う。ロックだ、ジャズだ、ファンクだなんてジャンル分けに何の意味があるんだという音楽としての絶対的な説得力。もはやこの音源はある種の奇跡と評しても過言ではなく、これを聴かずしてマイルスは語れない。前2作のオフィシャル・ブートレグ・シリーズは中途半端なものが多かったけれど、この4枚組は手放しで絶賛したい。強いて不満を言うなら、ボーナス・トラックとして余白に配された4月11日の音源3曲は要らないということくらいだけれど、ハードディスクでライブラリ管理をすれば何の問題もない。(2014年4月3日)


Tanglewood Storm (Bootleg)

曲:★★★★
演奏:★★★★★
音質:★★★★★
評価:★★★★★
[Recording Date]
1970/8/18

[1] Directions
[2] Bitches Brew
[3] The Mask
[4] It's About That Time
[5] Sanctuary
[6] Spanish Key  〜The Theme
[5] Miles Runs The Voodoo Down
                        〜 The Theme
Miles Davis (tp)
Gary Bartz (as, ss)
Chick Corea (elp)
Kieth Jarrett (org)
Dave Holland (elb)
Jack DeJohnette (ds)
Airto Moreira (per)
ジャケット違いの同じタイトルで以前からあったブートレグ。これまでもブートとしては音質の良い部類だったとけれど、このニュー・バージョンによって完全にオフィシャル・レベルまで向上、音の乱れもなくなり「At Fillmore」にも似た録音状態でこれ以上は望めないほどの臨場感になった。また、冒頭少しだけ欠けていた [1] も完全に収録していてバージョンアップ盤として抜かりない。オフィシャル盤だけを追っていると「At Fillmore」から「Live Evil」へと飛ぶわけなんだけれど、その間にサウンドのイメージが変わっている要因はチックの脱退とベースの交代にあったことがこのブートを聴くとよくわかる。つまり、ここでのサウンドは完全に「At Fillmore」と同じで、スティーヴ・グロスマンがゲイリー・バーツに代わっていることが全体のサウンドにはまったく影響してない。では(特にバーツに良い印象を持っていない人にとって)このブートは価値がないかというとまったくそんなことはない。とにかくマイルスのテンションの高さと言ったら凄まじく、こんなにハイ・ノートをヒットさせているのも珍しいのではないだろうか。また、音の良さゆえにチックとキースの、フィルモアよりもアグレッシヴな絡みもタップリ堪能できるし、アイアートのパーカッションもクッキリ。チック&キース双頭キーボード・マイルス・グループの最高の瞬間を捉えた名作。(2007年12月1日)
追伸:2010年11月にリリースされた「Bitches Brew」 Legacy Edition にもこの音源が収録された。このブートと内容的に差異はなく音質も同じ程度。(2010年11月29日)


Bitches Brew Live

曲:★★★★
演奏:★★★★★
マイルス入門度:★★
評価:★★★☆
[Recording Date]
1969/7/5 [1]-[3]
1970/8/29 [4]-[9]

[1] Miles Runs The Voodoo Down
[2] Sanctuary
[3] It's About That Time
                          /The Theme
[4] Directions
[5] Bitches Brew
[6] It's Aboout That Time
[7] Sanctuary
[8] Spanish Key
[9] The Theme
[1]-[3]
Miles Davis (tp)
Chick Corea(elp)
Dave Holland (b)
Jack DeJohnette (ds)

[4]-[9]
Miles Davis (tp)
Gary Bartz (as, ss)
Chick Corea(elp)
Kieth Jarrett (org)
Dave Holland (elb)
Jack DeJohnette (ds)
Airto Moreira (per)
ジャズのCDをAmazonで検索していると、正規盤とは思えないものを見かけることがある。特にマイルスとコルトレーンにそれが多い。所属しているレーベルからのリリースではない、これらのCDはセミ・オフィシャルと言えば聞こえが良いものの、実質はブートレグに近く、音質も内容もさまざま。そこでこのCD。冴えないジャケット、安易なタイトルを見た瞬間に、そのセミ・オフィシャルものかと思ったらSony Regacyからのリリース、つまりは正規盤。[1]-[3] は69年ニューポート・ジャズ・フェスティバルの音源で、ウェイン・ショーターが遅刻したことにより、ロスト・カルテットとなった貴重な演奏。[1] は途中からフェードインで始まり、合計で25分というボリュームも物足りないけれど、音質はオフィシャル・レベルだし、パフォーマンスもいい。ショーターがいなくても物足りなさを感じなのは、ショーター好きな僕には意外だった(3曲だけだからか?)。[4] 以降は、70年、ワイト島フェスティバルでのパフォーマンスで、「Miles  Electric: A Different Kind of Blue」という、これまた酷いタイトルのDVDで発売されているものの音源化。録音バランス、音質、パフォーマンスのいずれもハイレベルだけれど、珍しいものではなく、蔵出しという観点からはこちらはオマケみたいなもの。「Message To Love」というワイト島フェスのコンピレーション・アルバム(現在、廃盤)で、テオ・マセロが編集した短縮バージョンが正規音源としてリリースされていたので、ワイト島フェスティバルを主題にパッケージするのなら、その音源と合わせて「Complete Isle Of Weight」のように出す方がスッキリするんじゃないだろうか。そして [1]-[3] こそ「Bitches Brew」のLegacy Editionに収録するべき音源だったと思う。収録されている音源、音楽については申し分ないものの、CDというパッケージ製品としての作り、正規レコード会社の仕事ぶりがちょっと残念。(2011年2月26日)


Fillmore West 15 Oct 1970 (Bootleg)

曲:★★★
演奏:★★★★
音質:★★★★
評価:★★★☆
[Recording Date]
1970/10/15

[1] Honky Tonk
[2] What I Say
[3] Sanctuary
[4] Yesternow
[5] Bitches Brew
[6] Funky Tonk / The Theme
Miles Davis (tp)
Gary Bartz (as, ss)
Kieth Jarrett (elp, org)
Michael Henderson (b)
Jack DeJohnette (ds)
Airto Moreira (per)
Jim Riley (per)
音質はオフィシャル・レベルとまではいかないものの十分鑑賞に堪えるレベル。[2] の中間で女性の妙な歌とアナウンスが入ることでも有名な音源。これを笑って済ませられない人にはその部分は気になるかも。肝心の演奏はこの時期の水準をしっかりクリア。キーボードの音をよく捉えているからキースの仕事ぶりもよくわかる。ただし、1曲目の "Directions" が欠けている上に全体にゆったりめの曲が多く、マイルスの弾け方はそれほどでもないように感じるし、バーツの持ちもあまり生きていないから結果的にはなんだか地味な音源集になっていまっている。このメンツの音源となると「Live Evil」あるいは「The Cellar Door Sessions 1970」があるわけで希少性の点でもあまりポイントは高くない。(2009年4月25日)


Live Evil

曲:★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★
マイルス入門度:★★
評価:★★
[Recording Date]
1970/12/19
1970/2/6
1970/6/3
1970/6/4

Disc 1
[1] Sivad
[2] Little Church
[3] Medley: Gemini/Double Image
[4] What I Say
[5] Nem Um Talvez

Disc 2
[6] Selim
[7] Funky Tonk
[8] Inamorata And Narration
Miles Davis (tp)
Gary Bartz (as, ss)
Kieth Jarrett (org)
John McLaughlin (g)
Michael Henderson (b)
Jack DeJohnette (ds)
Airto Moreira (per)

(Stadio Session)
Miles Davis (tp)
Steve Grossman (ss)
Wayne Shorter (ss)
Chick Corea (key)
Herbie Hancock (key)
Joe Zawinul (key)
Hermeto Pascoal
 (ds, whistling, co, elp)
John McLaughlin (g)
Dave Holland (b)
Ron Carter (b)
Jack DeJohnette (ds)
Billy Cobham (ds)
Airto Moreira (per)
Khalil Balakrishna
(electric sitar)
スタジオ録音4曲 [2] [3] [5] [6] はいずれもインタールード的に短く、豪華なメンバーの割には、誰がどこで演奏しているのかわからないようなもの。[3] ではマクラフリンの太く歪んだギターの音がなかなかカッコイイという聴きどころもあるにはあるけれど、ただの実験音楽の域を出ていないので正直言ってつまらない。。残りの4曲はライヴは、12月19日、ワシントンにあるセラー・ドアという狭いクラブで収録したライヴをまたしてもテオ・マセロが切った貼ったしたもの。ライヴ演奏を大胆に編集することに対する僕の考え「Miles Davis At Fillmore」に書いてあるので、そちらをご参考に。(2006年5月28日)


The Cellar Door Sessions 1970

曲:★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★
マイルス入門度:★
評価:★★★★☆
[Recording Date]
1970/12/16
1970/12/17
1970/12/18
1970/12/19

Disc 1 (12/16 1st set)
[1] Directions
[2] Yesternow
[3] What I Say
[4] Improvisation #1
[5] Inamorata

Disc 2 (12/17 2nd set)
[1] What I Say
[2] Honky Tonk
[3] It's About That Time
[4] Improvisation #2
[5] Inamorata
[6] Sanctuary

Disc 3 (12/18 2nd set)
[1] Directions
[2] Honky Tonk
[3] What I Say

Disc 4 (12/18 3rd set)
[1] Directions
[2] Honky Tonk
[3] What I Say
[4] Sanctuary
[5] Improvisation #3
[6] Inamorata

Disc 5 (12/19 2nd set)
[1] Directions
[2] Honky Tonk
[3] What I Say

Disc 6 (12/19 3rd set)
[1] Directions
[2] Improvisation #4
[3] Inamorata
[4] Sanctuary
[5] It's About That Time
Miles Davis (tp)
Gary Bartz (as, ss)
Kieth Jarrett (org)
John McLaughlin
             (g - disc 5 & 6)
Michael Henderson (b)
Jack DeJohnette (ds)
Airto Moreira (per)
12月16〜19日にかけて、マイルス・グループはワシントンにあるセラー・ドアという狭いクラブで毎日3セットずつ、合計12セットのライヴを行った。そのとき録音されたもののうち6セッション分を集約したのがこのボックス。最終日のみマクラフリンが参加。これが「Live-Evil」のライヴ音源の元ネタとなる。
「Miles Davis At Fillmore」のエコーのかかった雰囲気も良かったけれど、狭いクラブで反響音の少ないこちらも捨てがたいものがある。チックが脱退し、ベースがマイケル・ヘンダーソンに変わり、バーツも持ち味を発揮していて、デジョネットのドラムは更に重量感たっぷりに捉えられている。ロスト・クインテット時代からミュートをほとんど使わなくなった(バックがウルサイから使えなかった?)マイルスは、ワー・ワー・トランペットという新しいエフェクターを導入。そんなさまざまな変化の結果「Miles Davis At Fillmore」から半年しか経っていないにもかかわらず、雰囲気がかなり違ってきている。ヘンダーソンのベースはジャズというよりはファンク・スタイルなので変化には乏しく単調、しかし、これこそがこれまでとの最大の違いであり、マイルスが求めていたもの。あと特筆すべきは、「Live-Evil」では大幅にカットされていたキースのソロが大きくフィーチャーされていること。19日以外は、ギターも入っていないので、当然キースの出番が多い。しかし、実はこのときのキースに、マイルスはまだ満足していなかったのではないだろうか。何かが足りない。そこでマクラフリンを最終日に呼んだのではないかというのが僕の推測。キースだけでイケると思うようになったのは、もうしばらく後だったのでは。(2006年5月28日)


Fillmore West 1971 (Download)

曲:★★★
演奏:★★★★★
音質:★★★★
評価:★★★★
[Recording Date]
1971/5/7

[1] Honky Tonk
[2] Drum Solo
[3] Sanctuary
[4] It's About That Time
[5] Funky Tonk
[6] Sanctuary
[7] Outro
Miles Davis (tp)
Gary Bartz (as, ss)
Kieth Jarrett (elp, org)
Michael Henderson (b)
Jack DeJohnette (ds)
Airto Moreira (per)
ちょっと珍しい音源が聴きたい、というロックファンの間で有名なのが http://www.wolfgangsvault.com/ というサイト。故ビル・グラハムの音源コレクションが公開されているというここには、フィルモアでのライヴを中心にさまざまな非オフィシャル音源と映像が公開されていて、面白そうだな、と思えるものを観ていると時間がいくらあっても足りないほどのライブラリを抱えている。ちなみに、iPhone のアプリでも聴くことができることもあって、いろんな意味でアクセス性は良好。そしてここにマイルスの音源もいくつか眠っており、ブートレグでも有名なこの71年5月7日の音源も$10未満で購入できる。音質はまずまずクリア、マイルスのトランペットは時に遠くなったりするなどのバランスの悪さがあるものの許容範囲。キースのオルガンとヘンダーソンのベースがやたらとマイクの近くで拾っているかのような距離感で、オフィシャルとして録音されたものでは味わえない独特の音質になっている。その音のバランス故に、キースとヘンダーソン、そしてアイアートのやっていることが手に取るようにわかるところがこの音源のウリと言ってもいい。同じメンバーながら、セラードアのときよりも演奏は自由度を増し、粘っこくワイルドに展開されていて聴き応えがある。この時期のマイルス・グループにとって半年という期間は変化/進化するには十分すぎる時間だったということを再認識できる。これでいつも通り "Directions" から入っていてくれれば言うことがないんだけど、そこまでの贅沢は言うまい。(2011年7月25日)


Funk On Night And Day 1971 (Bootleg)

曲:★★★★
演奏:★★★★
音質:★★★★☆
評価:★★★★
[Recording Date]
1971/10/22

Disc 1
[1] Directions
[2] What ISay
[3] Sanctuary
[4] It's About That Time

Disc 2
[5] Bitches Brew
[6] Funky Tonk
[7] Sanctuary

Disc 3
[1] Directions
[2] Honky Tonk
[3]What I Say
[4] Sanctuary
[5] It's About That Time

Disc 4
[6] Yesternow
[7] Funky Tonk
[8] Sanctuary
Miles Davis (tp)
Gary Bartz (as, ss)
Kieth Jarrett(elp, org)
Michael Henderson (b)
Ndugu Leon Chancler(ds)
Don Alias (per)
Mtume (per)
71年秋のヨーロッパ・ツアーの音源で、打楽器系メンバーが変わっていること、ドラマーが重量級のデジョネットから軽快で走り気味系のンドゥグ・レオン・チャンスラーに変わったことでサウンドの感触も大きく変化。71年秋以降のマイルス・グループは新しい領域に、簡単に言えばスペシャル・ファンク・グループへと進化を遂げたと言える。アップ・テンポの曲では忙しい印象で地に足が着いた感じがしないけれど、それこそがこの時期の特徴。この軽さにまたバーツのサックスが良く合う。この日は昼の部と夜の部のステージがあり、Disc 1 & 2 が昼の部、3 & 4 が夜の部という構成。昼の [4] は本当に "It's About That Time" なのか?と思わせる全然違う印象の曲。また、この時期に [5] は珍しい。Disc 3以降の夜の部はさすがに大きくは変わるというわけではないけれど、予想通りセカンド・セットの方が演奏が熱い。特にマイルスとバーツがバンド全体を鼓舞。バンドというのは、数時間の差でこれだけ変わってしまうということがわかって面白い。整然とした昼の部を取るか、熱い夜の部を取るか、好みが別れるところ。尚、この2日間は71年グループの中でも良質音源として知られており、何度かバージョンアップ版が出ている。このブートレグは衛星ラジオで再放送されたものとのことで音質が非常に良く、オフィシャル化しても文句が出ないレベル。ドラムが片側(昼の部は右、夜の部は左)に寄せられているという特殊性なところを除けば言うことなし。特に夜の部は、昔の音源では [5] [6] で音質劣化があったところが痛かったけれど、当然そんな問題も解消されている。演奏、音質ともに71年バンドの決定版音源。(2012年2月5日)


Complete Paris×2 1971 (Bootleg)

曲:★★★
演奏:★★★★☆
音質:★☆
評価:★★
[Recording Date]
1971/10/27

Disc 1 (1st set)
[1] Directions
[2] Honky Tonk
[3] What I Say
[4] Sanctuary

Disc 2 (1st set)
[5] It's About That Time
[6] Yesternow
[7] Funky Tonk
[8] Sanctuary

Disc 3 (2nd set)
[1] Directions
[2] Honky Tonk
[3] What I Say
[4] Sanctuary
[5] It's About That Time

Disc 4 (2nd set)
[6] Yesternow
[7] Funky Tonk
[8] Sanctuary
Miles Davis (tp)
Gary Bartz (as, ss)
Kieth Jarrett(elp, org)
Michael Henderson (b)
Ndugu Leon Chancler(ds)
Don Alias (per)
Mtume (per)
音質はちょっと辛い。4枚通して聴くのは忍耐を要求される。特にキースの音が聴きづらいのとドラムの音が貧弱なところが厳しい。ただし、演奏内容は結構良さそうでマイルスもバーツも好調。(2006年5月30
日)


In Rotterdam 1971 (Bootleg)

曲:★★★
演奏:★★★
音質:★★★★☆
評価:★★★
[Recording Date]
1971/10/29

Disc 1
[1] Directions
[2] Honky Tonk
[3] What I Say
[4] Sanctuary
[5] It's About That Time
[6] Yesternow
[7] Funky Tonk 〜 Sanctuary
Miles Davis (tp)
Gary Bartz (as, ss)
Kieth Jarrett(elp, org)
Michael Henderson (b)
Ndugu Leon Chancler(ds)
Don Alias (per)
Mtume (per)
音質良好、クリアで好バランス、しかも安定している。特にコンガの音やドラムの響き、金物系のパーカッション、キースの細かい音までバッチリ捉えられていて恐らく71年バンドの中では最高の部類。[1] はキースがオルガンで暴れていて実にカッコイイ。ところが、その後の演奏のテンションがやや低いのがちょっと残念。勢いづける役割を担う [1] は途中からフェード・イン、そしてアップテンポの [3] はわずか1分半でフェード・アウトしてアナウンスが被ることから余計にその印象が強くなる。以降も、ミドル・テンポの曲が続き、結果的にもうひとつリズム隊の勢いがないように聴こえしてしまう。音が良いだけに、そしてマイルスの調子が悪くないだけに残念。僕はこの時期の良さは軽薄(決して悪い意味ではない)で勢いのあるノリだと思っていて、逆に言えばミドル〜スロー・テンポにおける実力はイマイチ、そんなグループの欠点がまともに見えてしまっていると言える。(2006年5月30日)


Another Bitches Brew (Bootleg)

曲:★★★
演奏:★★★★
音質:★★★★
評価:★★★★
[Recording Date]
1971/11/3 (Disc 1)
1973/11/7 (Disc 2)

Disc 1
[1] Directions
[2] Honky Tonk
[3] What I Say
[4] Sanctuary
[5] It's About That Time
[6] Yesternow

Disc 2
[1] Turnaboundphrase
[2] Tune In 5
[3] Turnaroundphrase
[4] Calypso Frelimo
[5] Tune In 5
<Disc 1>
Miles Davis (tp)
Gary Bartz (as, ss)
Kieth Jarrett (elp, org)
Michael Henderson (b)
Ndugu Leon Chancler (ds)
Don Alias (per)
Mtume (per)

<Disc 2>
Miles Davis (tp, org)
Dave Liebman (ss, ts, fl)
Pete Cosey (g)
Reggie Lucas (g)
Michael Henderson (b)
Al Foster (ds)
Mtume (per)
ベオグラードでの71年ものと73年もののライヴをカップリングしたブートレグ。とはいってもこの CD、2006年当時は大手チェーン店やネットショップでも買えるという入手しやすさと、お値段も通常(?)のブートレグより安いこともあって、「ブートレグまではどうも・・・」という人にもとっつきやすく、しかも内容もかなり良いので、この時期のマイルスを聴いてみたいという人にはお勧めできるものだった。
Disc 1。71年マイルス・グループのブートレグはそれこそ掃いて捨てるほど出ているけれど、その中でも音質は最上級でほとんどオフィシャル・レベル。パーカッションの音が目立っているものの、各楽器のバランスも良好で非常に聴きやすいバランス。演奏内容は同時期ブートレグと同レベルで全体的にテンションも高く十分楽しめる。
Disc 2。こちらも音質良好で安定している。ベースの音はややぼやけ気味ながら音量的には十分、レジー・ルーカスの音がかなり鮮明に聴こえるバランスなのでリズム・ギターを堪能するにもってこい。もちろんマイルスもバッチリ前面に出ていてワー・ワー・トランペットの鋭い切れ込みを楽しめる。あまり聴き慣れない調子のドラムで始まり、一体何の曲かと思えばいつもの [1] で、テンポがゆっくりめなのでかなり雰囲気が違う。実はこの日は全体がそういう感じで、しかしテンションが低いわけではなく、ゆったりとしたファンク・グルーヴがなんともエグくて気持ちいい。強いて言えばリーブマンの存在感がやや薄いのが残念かな、とも思えるけれど、名作ブート「Unreachable Station」よりもコクがある演奏は個人的にはかなりのお気に入り。73年ものの中でも最上位に入れてもいいデキ。おまけとして [4] では「期待されているはずの単調ファンクベース」を逸脱してマイケル・ヘンダーソンがフォービートを刻みだすという珍事も聴ける。曲名は一応書いてはみたものの [2] 以降はどこが切れ目だかわからないし、いろんなところで別の曲のフレーズが入っていることもあって、どこからどこまでが何の曲かという形態はもはやどうでもいい状態になっている。(2017年12月7日)


Belgrade 1971 (Bootleg)

曲:★★★
演奏:★★★★☆
音質:★★★★☆
評価:★★★★☆
[Recording Date]
1971/11/3

[1] Directions
[2] Honky Tonk
[3] What I Say
[4] Sanctuary
[5] It's About That Time
[6] Yesternow
[7] Funcky Talk
[8] Sanctuary
Miles Davis (tp)
Gary Bartz (as, ss)
Kieth Jarrett (elp, org)
Michael Henderson (b)
Ndugu Leon Chancler (ds)
Don Alias (per)
Mtume (per)
「Another Bitches Brew」 Disk 1ベオグラードの日に[7][8]のが追加された完全版。音質も向上。71年ものの中では上位の音源。(2023年8月9日)


The Lost Septet

曲:★★★
演奏:★★★★★
音質:★★★★
評価:★★★★★
[Recording Date]
1971/11/5

Disc 1
[1] Directions
[2] Honky Tonk
[3] What I Say
[4] Sanctuary

Disc 2
[5] It's About That Time
[6] Yesternow
[7] Funky Tonk
[8] Sanctuary
Miles Davis (tp)
Gary Bartz (as, ss)
Kieth Jarrett (elp, org)
Michael Henderson (b)
Ndugu Leon Chancler (ds)
Don Alias (per)
Mtume (per)
ウィーン・コンツェルトハウス(ウィーン交響楽団の本拠地)でのライヴ。思い起こせば2005年ころは、マイルスのブートレグ収集に明け暮れていた。力が入りやすいのは、公式版では出ていないラインナップでのライヴ。つまり69年のロスト・クインテットと、キース・ジャレットをフィーチャーした71年のセプテットはあれもこれもと収集していた。71年バンドは、欧州ツアーの音源がほぼ毎ステージ揃っていているとはいえ、バンドの実力的にはやや弱いのと、演奏のデキの差はあれど、どれもこれも似なような演奏で流石に途中で飽きてしまったところで収集は終了。以降、良好音質のもののみたまにく聴く程度だった。ある日、ふとAmazonを見ているとこのCDを発見、以前からブートレグにある音源ながら持っていない日のものであることから久々に新音源として入手して聴いてみると、これが驚きの内容。71年バンドは軽いドラムサウンドと疾走感と僕の頭の中では決まっていた。確かにドラムが軽いところは同じだけれど、この日は全体的にゆったり目のテンポで録音状態のせいかドラムサウンドに一定の重みがある。加えてこれも録音状態のせいかベースの音がややディストーションがかった(大げさにに言うとキング・クリムゾンのジョン・ウェットンのような)サウンドで捉えられている。これによって腰の座ったバンドサウンドになり、ともすれば軽薄に聴こえていた71年バンドの違う面に触れることになり認識を改めることになった。音質はやや抜けが悪いものの、各楽器の音を反響音のないオンマイクで押し出し感強く捉えているため、バンドの全体が力感に溢れ、これまで71年バンドに感じたことがなかったエグ味まで発散させている。ブートレグ収集は人に進められる趣味ではないけれど、やはりいろいろ数多く聴くことで発見があるというもので71年バンドを完全に見直してしまった。1時間40分。充実の完全収録。(2023年10月11日)


Complete Miles In Sweden 1971 (Bootleg)

曲:★★★
演奏:★★★★
音質:★★★
評価:★★★
[Recording Date]
1971/11/7

Disc 1
[1] Directions
[2] Honky Tonk
[3] What I Say
[4] Sanctuary

Disc 2
[5] It's About That Time
[6] Yesternow
[7] Funky Tonk
[8] Sanctuary
Miles Davis (tp)
Gary Bartz (as, ss)
Kieth Jarrett (elp, org)
Michael Henderson (b)
Ndugu Leon Chancler (ds)
Don Alias (per)
Mtume (per)
音質はコモリ気味で広がり間に乏しいけれどベースの音が良く出ていてキースのキーボードはよく聴こえる。パーカッションの音が大きいバランスのせいでまるでツイン・ドラム編成なのかと思ってしまう。もちろんマイルスのワー・ワー・トランペットも鋭く収録。[1] で快調に飛ばし途中からミドル・テンポになりバーツが薄味のソロを取り、短いマイルスのソロを挟んで、キースのソロをたっぷりとフィーチャーというのは、よくあるパターン。さらにテンポを落として [2] に入る。10分過ぎくらいで [3] に行きそうになるがマイルスがソロで引っ張ってキースに渡したあと、今度こそ [3] へ。こういう単調なアップ・テンポの曲にはバーツのソロが良く合う。[4] でワー・ワーによるバラードを聴かせると、[5] へ入るがこのあたりから音のコモリ具合がひどくなり、演奏が遠く感じるようになってくるのが残念。全体として、71年バンドとしては良い意味でいつもの演奏レベル。71年ものは他に音質が良いものがあるので、あえてこれを最初に入手することはないでしょう。このCD、トラックが区切れていないのも難点。(2006年5月30日)


Complete Funky Tonk Funk On Your Face (Bootleg)

曲:★★★
演奏:★★★★☆
音質:★★★
評価:★★★☆
[Recording Date]
1971/11/9

Disc 1
[1] Directions
[2] Honky Tonk
[3] What I Say
[4] Sanctuary

Disc 2
[5] It's About That Time
[6] Yesternow
[7] Funky Tonk
[8] Sanctuary
Miles Davis (tp)
Gary Bartz (as, ss)
Kieth Jarrett (elp, org)
Michael Henderson (b)
Ndugu Leon Chancler (ds)
Don Alias (per)
Mtume (per)
音質は「Complete Miles In Sweden 1971」とほぼ同じながら、こちらは安定している分落ち着いて聴ける。楽器のバランスも音のコモリ具合も似ているし、見れば演奏曲目も同じ。オープニングがエムトゥーメのポコポコというパーカッションからというのが違うとはいえ、以降は 2日前と同じ展開。ところがこの時は、ンドゥグがノっていたのか、いつもはスローで単調なリズムが続く [2] の4分過ぎくらいから途中で1人だけシャッフルで叩きはじめ、マイルスもそれに合わせるかのようにリズミカルに演奏しはじめる。こんな [2] はちょっと珍しいかも。そして2日前同様、行きそうで行かない展開から続く [3] も、より早いテンポで演奏される。[4] の後半は実は [5] に入っているんだけれど、途中で切れて Disc 2 へ。全体的に2日前のスウェーデンと似た雰囲気、ただしこちらの方が勢いに勝る。(2006年8月16日)


Cologne 1971 (Bootleg)

曲:★★☆
演奏:★★★★
音質:★★★★
評価:★★★☆
[Recording Date]
1971/11/12

[1] Directions
[2] Honky Tonk
[3] What I Say
[4] It's About That Time
[5] Yesternow
[6] Funky Tonk
[7] Sanctuary
Miles Davis (tp)
Gary Bartz (as, ss)
Kieth Jarrett (elp, org)
Michael Henderson (b)
Ndugu Leon Chancler (ds)
Don Alias (per)
Mtume (per)
「Miles & Keith In Europe」のタイトルで知られていた音源のアップデート版。音質向上はなかなかのもので71年モノの中ではセカンドレベルくらいまで向上している。一方で内容はこれまで通り。冒頭から、パーカッションが暴れて前ノメリ気味なハイテンションの演奏が始まり、これぞ71年バンドの真骨頂という疾走感。これがなぜかこのやや悪い音質と妙にマッチしていてビジーな雰囲気に拍車をかける。スローの [2] でもテンションがそれほど落ちないのがこの日のマイルス・グループ。マイルスのテンションも最高潮。[3] [4] は本当に"What I Say"と"It's About That Time"なのかわからない曲。ここでアナウンスが入って水を差されるところは従来バージョンから改善されていなくて残念。アナウンスの背後でマイルスがリリカルなワー・ワー・トランペットを、キースが絶妙のバッキングをやっていてこれが聴き逃せない。後半はやや冗長な展開が続き、71年バンドの弱みが出てしまっている。(2012年3月9日)  


Miles With Keith In Venice 1971 (Bootleg)

曲:★★★★
演奏:★★★★★
音質:★★★
評価:★★★★
[Recording Date]
1971/11/14

[1] Directions
[2] What I Say
[3] Sanctuary
[4] It's About That Time
[5] Honky Tonk
[6] Funky Tonk
[7] Sanctuary
Miles Davis (tp)
Gary Bartz (as, ss)
Kieth Jarrett (elp, org)
Michael Henderson (b)
Ndugu Leon Chancler (ds)
Don Alias (per)
Mtume (per)
音質は「Miles & Keith In Europe 1971」(上掲の旧版)よりもややコモリ気味で各楽器の鮮明度は劣る。その翌日ということもあって、演奏の傾向は同じ。今夜の [2] は前半のテンポが遅くて「あれ?」と思っていると途中から疾走が始まり、このテンポにオリエンタルなバーツのサックスがとてもフィット。前日が凄すぎるためにこの日の演奏が霞むけれど、それでもハイ・テンションには違いない。(2006年5月30日)


On The Corner

曲:★★
演奏:★★★☆
ジャズ入門度:★
マイルス入門度:★
評価:★★★☆
[Recording Date]
1972/6/1 [1]-[4]
1972/6/6 [6]-[8]
1972/7/7 [5]

[1] On The Corner
[2] New York Girl
[3] Thinkin' One Thing And
                       Doin' Another
[4] Vote For Miles
[5] Black Satin
[6] One And One
[7] Helen Butte
[8] Mr. Freedon X
Miles Davis (tp)
Dave Liebman (ss [1])
Carlos Garnett (ss, ts [2] [4])
Bennie Maupin (bcl [2])
Cedric Lawson (syn)
Lonnie Liston Smith (org)
Chick Corea (elp)
Herbie Hancock (elp, syn)
Harold Williams (org, syn)
Reggie Lucas (g)
John McLaughlin (g [1])
David Creamer (g [2]-[4])
Paul Backmaster (el-chello)
Michael Henderson (b)
Al Foster (ds)
Jack DeJohnette (ds)
Billy Hart (ds)
Mtume (per)
Don Alias (per)
Colin Walcott
           (el-sitar except [2])
Kahlil Balakrishna
           (sitar, el-sitar [2])
Badal Roy (tabla)
活動期間が長く、刻々と音楽性が変化するマイルスなだけに、ファンと言えども合わない作品というものがある。僕の場合はコレ。初めて聴いたときから、「???」という世界。そういう意味では「In A Silent Way」と似たような第一印象。ここで繰り広げられる音楽をひと言で言えばマイルス流ファンク。71年以降、ファンクの要素抜きには語れないマイルスではあるけれど、それは自分流に昇華させたファンクであり、一般的にイメージされるファンクに近いものを押し出したアルバムは他にはないと思う。それでマイルスがやるからにはありきたりなものにはならず、大人数で、打楽器奏者も揃え、インド系楽器までを取り入れてのごった煮的に料理される。マイルスの出番は少なく、トランペットやジャズを期待する向きには即買取屋行きが約束されたも同然。基本リズムは極めて単調で、同じパターンをこれでもかと繰り返す。[1] から [4] までは、あえて曲を分けてある理由がわからないくらい同じ調子でシームレスに流れ、[6] から [8] までも然り。つまり基本リズムパターンは3つ、実質3曲だけ。ちょっとモタリ気味でキレ味とは無縁の野暮ったいドラムと、賑やかなパーカッション、単調なベースが織り成す濃厚なグルーヴに、マイルスのワー・ワー・トランペット、オルガン、ファンクなギターが混沌さを増長する音空間は、聴き慣れてくると妙な快感を覚えるというのも事実。72年という時代にこんなファンクをやっていた人が他にいたかとを考えると恐らくいなかったはずで、良く聴けば今聴いても古さを感じないこともわかってきて、結局は音楽家マイルス・デイヴィスは凄いという結論に至る。それにしても、オン・タイムの公式盤としては「Live Evil」の次がこれでは、当時のファンはついていくのが大変だったことでしょう。(2006年5月31日)


Complete Ann Arbor 1972 (Bootleg)

曲:★★★
演奏:★★★☆
音質:★★☆
評価:★★
[Recording Date]
1972/9/10

[1] Introduction
[2] Rated X
[3] Honky Tonk
[4] Black Satin
[5] Right Off
Miles Davis (tp)
Carlos Garnett (ss)
Reggie Lucas(g)
Kahlil Balakrishna (e-sitar)
Cedric Lawson (org)
Michael Henderson (b)
Al Foster (ds)
Mtume(per)
Badal Roy (tabla)
ブートらしい、抜けが悪くて低音が薄い音質。「On The Corner」時期のブートは、正直なところあまり良い音質のものがなく、この音源もその例に漏れない。ベースの音なんてほとんどカットされているのかと思えるバランスは個人的には最も嫌うタイプの音質。しかし、[2] が始まって、単調なリズムにグジャグジャな音の洪水が始まると、これが実に心地良く、ベースが効いていないぶん、余計に安っぽさが増長されて独特の音世界に聞こえてくるから不思議。[3] は以前のラインナップから引き継いできた曲のせいかもうひとつ、このラインナップは「On The Corner」の世界しかうまくできないといのではないかという思いが頭をよぎり、このメンバーの曲である [4] でそれを確信する。[3] は途中で切れて [4] へ、[4] も途中で切れて [5] へ、そしてその [5] は一気に音質低下という、音源上の品質に問題はあるところが痛い。熱狂的な「On The Corner」マニア以外には勧められない。(2012年6月30日)


Complete Live At Paul's Mall 1972 (Bootleg)

曲:★★
演奏:★★★★
音質:★★★☆
評価:★★★
[Recording Date]
1972/9/14

[1] Black Satin
[2] Rated X
[3] Honky Tonk
[4] Right Off
Miles Davis (tp)
Carlos Garnett (ss)
Reggie Lucas (g)
Kahlil Balakrishna (sitar)
Cedric Lawson (org)
Michael Henderson (b)
Al Foster (ds)
Mtume (per)
Badal Roy (tabla)
「On The Corner」時代のライヴ。オフィシャル盤には「In Concert」があり、音質的には勝負にならないものの、あちらがやや大人しめの演奏に対し、こちらは熱気に溢れている。音はそれほど良くないのに、この妙に勢いのある演奏にマッチしてしまっているのがなんとも面白い。レジー・ルーカスのリズム・ギターと、地に足が着いていないカルロス・ガーネットのソプラノ・サックス、そして「On The Corner」には参加していないのに一番目立っているセドリック・ローソンのギュイーン、ウワーンというオルガンが渾然一体となってワイルドなファンキー・ミュージックを展開。もちろんマイルスもライヴではワー・ワーで切れ込み、なかなか楽しめる。これ以降、セドリック・ローソンのようなオルガンをマイルス自身が弾くようになるのは「これならオレでもできる」と思ったたからだろうか。ここにはチックやキースのような優れたインプロヴァイザーは不在ながら勢い的には71年バンドと遜色ない。「On The Corner」はマイルスの音楽史の中で孤高のポジションにあるように見え、73年以降の音楽と結びつかない気がするものの、これを聴くとつながりが薄っすらと見えてくる。(2006年5月31日)


In Concert

曲:★★★
演奏:★★★
ジャズ入門度:★
マイルス入門度:★
評価:★★☆
[Recording Date]
1972/9/29

Disc 1
[1] Rated X
[2] Honky Tonk
[3] Theme From Jacj Johnson
[4] Black Satin/The Theme

Disc 2
[1] Ife
[2] Right Off/The Theme
Miles Davis (tp)
Carlos Garnett (ss)
Reggie Lucas (g)
Kahlil Balakrishna (e-sitar)
Cedric Lawson (org)
Michael Henderson (b)
Al Foster (ds)
Mtume(per)
Badal Roy (tabla)
一般的に「On The Corner」のオフィシャルライヴ盤と認知されているこのアルバム、しかし、高い評価を受けているという印象がない。そもそも、このメンバーにマイルスが何を求めていたのがなんだったのかはからないけれど、ざっくり言うとファンクにインドを持ち込んで混沌を狙ったように思える。マイルス自身も結果がどうなるのか予想できていなかったんじゃないだろうか。僕はスタジオ盤「On The Corner」の良き理解者ではないけれど、ある意味マイルスの最高傑作として扱われている理由はわかる。何が起こるかわからないメンバーに好き勝手やらせて、そのエッセンスを抽出、美味しいところを組み直した(編集した)末のあの混沌とした雰囲気は、マイルス自身を含めても、他では聴くことができない「どファンク」としてワン・アンド・オンリーと言える。しかし、これが一発勝負のライヴとなるとそうはいかない。当然グループとしての実力がそのまま出てしまう。そして結論から言うと、個人技はあまり大したことがなく、バンドとしては柔軟性に欠けるという不器用さが目立つことになってしまっている。独自の輝きを放っていた「On The Corner」なのに、やたらと人員を投入するわけにもいかないライヴとなると71年以前と73年以降の中間的な、言い換えると中途半端なレベルに留まってしまっている。グループとして長続きしなかったのは、マイルスが飽きっぽかっただけでなくそのあたりも理由でしょう。あと、音質はオフィシャル・レベルで文句はないんだけれど、本当はこのムードをつくる主要楽器であるはずのギター、シタールやオルガン系の音があまり主張しない音のバランスのせいか地味で生々しさに欠ける印象。実はブートレグはそのあたりの音が目立つバランスなので混沌感が横溢していて音が悪くても魅力的に映るという一面がある。あと、演奏が一本調子なのもこのバンドの特徴で、トータル84分を通して聴くと中だるみする。この音源こそ、オリジナル・セッションのプロデューサーとしてクレジットされているテオ・マセロが切り貼りするべきだった。いろいろと問題があるライヴ盤ではあるけれど、それでも、このラインナップ唯一のまともに聴ける音質のオフィシャル盤として価値はあると思う。(2011年4月25日)


Get Up With It

曲:★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★
マイルス入門度:★
評価:★★★★★
[Recording Date]
1970/5/19 [3]
1972/3/9 [6]
1972/9/6 [4]
1972/12/8 [8]
1973/9/17 [5]
1974/7/19 [1]
1974/10/7 [2][7]

Disc 1
[1] He Loved Him Madly
[2] Maiysha
[3] Honky Tonk
[4] Rated X

Disc 2
[5] Calypso Frelimo
[6] Red China Blues
[7] Mtume
[8] Billy Preston
[1]
Miles Davis (tp, org)
Dave Liebman (alto flute)
Pete Cosey (g)
Reggie Lucas (g)
Dominique Gaumont (g)
Michael Henderson (elb)
Al Foster (ds)
Mtume (per)

[2][7]
Miles Davis (tp, org)
Sonny Fortune (fl)
Pete Cosey (g)
Reggie Lucas (g)
Dominique Gaumont (g)
Michael Henderson (elb)
Al Foster (ds)
Mtume (per)

[3]
Miles Davis (tp)
Steve Grossman (ss)
John McLaughlin (g)
Keith Jarrett (elp)
Herbie Hancock (clavinet)
Michael Henderson (elb)\
Billy Cobham (ds)
Airto Moreira (per)

[4]
Miles Davis (org)
Cedric Lawson (elp)
Reggie Lucas (g)
Khalil Balakrishna (g)
Michael Henderson (elb)
Al Foster (ds)
Mtume (per)
Badal Roy (tabla)

[5]
Miles Davis (tp, org)
Dave Liebman (fl)
John Stubblefield (ss)
Pete Cosey (g)
Reggie Lucas (g)
Dominique Gaumont (g)
Michael Henderson (elb)
Al Foster (ds)
Mtume (per)

[6]
Miles Davis (tp)
Lester Chambers (harmonica)
Cornell Dupree (g)
Michael Henderson (elb)
Al Foster (ds)
Bernard Purdie (ds)
Mtume (per)

[8]
Miles Davis (tp)
Carlos Garnett (ss)
Cedric Lawson (elp)
Reggie Lucas (g)
Khalil Balakrishna (el-sitar)
Michael Henderson (elb)
Al Foster (ds)
Mtume (per)
Badal Roy (tabla)
主に72年から74年のセッションからの寄せ集め集。よってまとまりはなく、曲も演奏もバラバラ。ただし、「On The Corner」に近い時期である72年の音源が多く収録されていて、この路線のマイルスが好きな人なら聴き逃せない、Led Zeppelinの「Physical Graffitti」的なものになっている。32分におよぶ[1]は、デューク・エリントンに捧げた曲。しかし、どこをどう捧げたのかわからないくらいエリントンの音楽との関連性はない。静かに静かに、そして怪しい音の響きが浮遊する時間が最後まで続く。テオ・マセロによる編集で成り立っているこの長大な曲は、プログレッシヴ・ロックのような起伏はなく、フルートやオルガンの曖昧な音で空間を埋める全く掴みどころがないムード。それでも後半にマイルスのワーワー・トランペットが、やはり曖昧な音を響かせ始めると何とも言えない緊張感がにじみ出てきて、気がつけば32分が過ぎてしまっているという魔力がある。[2]は73年以降の重要なステージ・レパートリーになる曲。ただし、まだ熟れた演奏になっておらず、いかにもスタジオ・セッションな雰囲気で後の演奏とはかなり違うっているところが聴きどころ。[3]も71年のツアーでは定番曲として演奏されていたものの、こちらもまったく違う仕上がりになっている。71年ツアーの音源を聴くと、ちっともホンキートンクな雰囲気を感じさせないんだけれど、このスタジオ・セッションを聴くと納得できるようになる。[4]は「On The Corner」時期のサウンドで、不気味なオルガンとギターに、パーカッションのポコポコ音による混沌を伴ってアグレッシヴに進む気持ち悪さがカッコいい。ここまで1枚めのディスクだけでも聴きどころたっぷりで満腹になれるけれど、[5]に進むとレガート・シンバルとポコポコしたパーカッションに乗って、マイルスのワーワー・トランペットと飄々としたオルガンのリフ、ギターのコードカッティングが入り混じった得も言われる不思議なグルーヴが続く快感が更に待ち受けている。中間部のゆったりしたベースのリフのパートを経て最初の展開に戻り、気がつくと32分が過ぎてしまっている。実は最初に聴いたときに一番驚くのが恐らく[6]で、ブルースハープにR&B的なブラスセクションまで入った俗っぽいコテコテなブルースにマイルスがワーワー・トランペットで切り込んでいくという、マイルスの音楽史上随一のミスマッチ感にある意味心が和む。[7]も[6]と同様にダラダラしたグルーヴ感に身を委ねる曲で、聴く音楽というよりは感じる音楽、頭よりも肉体で受け止める野性味が魅力。[8]は、ファンキーなギターのカッティングとオルガン、バシャバシャとしたシンバルとウネるベースが渾然一体となったグルーヴ感が気持ち良く、マイルスの(ワーワーではない通常の)トランペットがそこに見事にハマる。このアルバムは、一般的に名盤紹介などでピックアップされることはないものの、72年から74年までのマイルス流ファンクのエッセンスがぎっしり詰まった名作として個人的には推したい。(2020年4月1日)  


Unreachable Station (Bootleg)

曲:★★☆
演奏:★★★★
音質:★★★★☆
評価:★★★☆
[Recording Date]
1973/1/19

Disc 1
[1] Turnaroundphrase
[2] Tune In 5
[3] Right Off
[4] Funk (Prelude, part 1)
[5] Tune In 5

Disc 2
[1] Ife
[2] Untitled Original B
           (Prelude, part 2)
[3] Zimbabwe (Incomplete)
Miles Davis (tp, org)
Dave Liebman (ss, ts, fl)
Pete Cosey (g)
Reggie Lucas (g)
Michael Henderson (b)
Al Foster (ds)
Mtume (per)
73年から75年にかけて、中身が進化していくとはいえ、マイルス・グループが目指していた方向性は基本的に同じだと思う。演奏曲目は基本的にそれほど違いがなく、演奏の中身の変遷を楽しむ時期と言えるでしょう。サウンドの特徴は2人(もしくは3人)のギターを入れてグルーヴをクリエイトしていることにある。その新バンドによる第一弾がコレ。東京公演を収めたブートレグで、まずはその音の良さに驚かされる。マイルスの音が引っ込み気味のところがあったり、終盤で少しコモるところがあるもののオフィシャル盤で発売されてもまったく問題ないクオリティ。バンドとしてのまとまりは今一つで、まだギターサウンドも生かしきれていない感じがあり全体に淡白に聴こえるけれど、その分、リーブマンのキレの良いソプラノとテナーが補っている。後のソニー・フォーチューンよりもサックス奏者としての技量は、(某大物評論家が機を見てはこきおろしていた)リーブマンの方が断然上。音質の良さと、演奏も決して悪くない故に73年バンドではこれを一番に推奨。とはいえ、このグループが本領を発揮するのはもう少し後のこと。(2006年6月3日)


Live At Rainbow 1973 (Bootleg)



曲:★★☆
演奏:★★★★
音質:★★★☆
評価:★★★☆
[Recording Date]
1973/7/10

Vol.1
[1] Turnaroundphrase
[2] Tune In 5
[3] Unknown Tune

Vol.2
[1] Right Off
[2] Ife
[3] Calypso Frelimo
Miles Davis (tp, org)
Dave Liebman (ss, ts, fl)
Pete Cosey (g)
Reggie Lucas (g)
Michael Henderson (b)
Al Foster (ds)
Mtume (per)
バンド録音だそうで、音はクリアな部類。マイクのセッティングのせいか、普段目立たないバス・ドラムの音が大きめに入っていて、ギターが控えめなバランスであることから、「Unreachable Station 」とは音の感触がだいぶ異なる。バス・ドラムの音がよく聞こえるおかげでアル・フォスターのキックがたいしたことが却って見えてしまうという点はあるにしても、アルは基本的にはテクニックの正確さで聴かせるタイプではないから大きな問題ではない。ヒス・ノイズがやや多かったり、途中でノイズが入ったりがあるとはいえ充分楽しめる音質。演奏はこの時期の手法に則ったいつも通りのものでマイルスのテンションは高く、内容面でも充分楽しめる。(2006年6月3日)


Berlin 1973 (Bootleg)

曲:★★☆
演奏:★★★★★
音質:★★★★
評価:★★★★★
[Recording Date]
1973/11/1

[1] Turnaroundphrase
[2] Tune In 5
[3] Ife
[4] Unknown Title 730620
[5] Tune In 5
Miles Davis (tp, org)
Dave Liebman (ss, ts, fl)
Pete Cosey (g)
Reggie Lucas (g)
Michael Henderson (b)
Al Foster (ds)
Mtume (per)
「Complete Berlin 1973」というタイトルで出ていた音源が、大幅な音質向上、ステレオ化されてリイシューされた。とはいえ、それでもまだオフィシャル・レベルには一歩及んでいない。だが、そんなことはどうでもいい。73年モノの中では最上級の、いや75年までを含めても、ここまでハイテンションでエグい演奏はないとさえ思っていた最高のパフォーマンスが、この音質で聴けるようになったのだから。努めて冷静に分析すると、このラインナップになって半年と少しでここまでバンドが成長するものか、と驚く。マイルスとリーブマンの激しいブローはもちろん、ルーカスのリズムギターは凶暴化、コージーのギターもより粘着質かつワイルドに、パーカッションとドラムのリズム隊が勢いを加速するという大人数バンドならではの旨みが溢れ出ているではないか。73年以降のマイルス・グループ、時にスローな曲で退屈になりがちだけれど、この日はそのスローな曲さえもネチッこく粘り腰でスリルがある。48分という収録時間も聴きやすく、オフィシャル盤を含めてもここまで上質な CD はそうお目にかかれない。ブートは嫌だと言っている人でも、これだけは聴いておいた方がいいと断言する。(2010年11月13日)


Shaboo Inn (Bootleg)

曲:★★☆
演奏:★★★★★
音質:★★★★
評価:★★★★★
[Recording Date]
1974/1/26

Disc 1
[1] For Dave
[2] Turnaroundphrase
[3] Tune In 5
[4] Prelude

Disc 2
[1] Ife
[2] Turnaroundphrase
[3] For Dave
[4] Clypso Frelimo
Miles Davis (tp, org)
Dave Liebman (ss, ts, fl)
Pete Cosey (g)
Reggie Lucas (g)
Michael Henderson (b)
Al Foster (ds)
Mtume (per)
個人的にはこの日の演奏、数あるマイルス・ブートレグの中で5本の指に入るほどのお気に入り。ワイルドさ、アクの強さ、粘り、テンションの高さ、バンドとしての一体感、すべてがうまく噛み合った奇跡の瞬間ではないかとすら思う。マイルスとリーブマンのブロウはもちろん、ギュワンギュワン言わせるピート・コージーの怪しいギターがエグい。74年物マイルス・グループはオフィシャル盤「Dark Magus」で充分といえば充分、しかしながらこのブートレグはクラブでの演奏ということもあり、録音も演奏の質も実にクラブらしいムードになっているところが魅力。この日の音源は、音質に少々難があっても聴きたくなるブートとして以前より、So Whatレーベルから「Live At Shabo Inn」として出ていたけれど、Mega Disc の Legendary Collection Series でバージョンアップされて登場。1ランク以上の音質向上を果たし、十分に聴ける音になった。なんという喜び!こんなに嬉しいバージョンアップは「Berlin 1973」以来だ。収録時間を比べると、Disc 1 が So What盤よりも10分くらい短い。確かに [1] は始まり方からして違う。よく調べてみると、So What盤の [1] は冒頭8分40秒くらい長く収録されている。そして、これが実は Disc 2 の [4] の最後の8分40秒がそのまま付け足されていただけということに気付いた。つまり、短くなっているバージョンアップ盤の方が正しい姿ということらしい。絶賛した音質はオフィシャル・レベル半歩手前という素晴らしさながら、Disc 1 [2] の6分30秒あたりで音が悪くなり(また、その繋ぎ目部分の約1分半くらいが抜けている)、更に半歩後退するのが少々残念とはいえ、それでもSo What盤よりは確実に1ランクは上。従来盤から買い替える価値は十分、そしてまだ聴いていない人はとにかく聴くべき逸品。(2011年2月26日)


Dark Magus

曲:★★☆
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★
マイルス入門度:★
評価:★★★★★
[Recording Date]
1974/3/30

Disc 1
[1] Moja, Pt.1
    (Turnaroundphrase)
[2] Moja, Pt.2
    (Tune In 5)
[3] Wili, Pt.1
    (Ife)
[4] Wili, Pt.2
    (Funk, For Dave)

Disc 2
[5] Tatu, Pt.1
    (Funk)
[6] Tatu
    ("Calypso Frelimo"), Pt.2
[7] Nne
    ("Ife"), Pt.1
[8] Nne, Pt.2
    (Turnaroundphrase, Tune In 5)
Miles Davis (tp, org)
Dave Liebman (ss, ts, fl)
Azar Lawrence (ts [2])
Pete Cosey (g)
Reggie Lucas (g)
Dominique Gaumont (g)
Michael Henderson (b)
Al Foster (ds)
Mtume (per)
ニューヨークのカーネギー・ホールでのライヴ。オフィシャル盤なので当然音質は言うことなし。ただし、ホール特有の、バンドから離れた場所で録音しているかのような感じでエコーがかかった独特のムードは好みの分かれるところ。73年から始まったこの編成のグループは、約1年と少々を経てグループのサウンドを完成させつつあるところまで来ているように思う。とにかく全編に溢れるファンク・グルーヴがなんともエグい。「Agharta」「Pangaea」でサウンドの完成を見る73年以降のマイルス・グループは、安定感を見せるこれら2作に対して、ここでは過渡期にありがちなカオス状態真っ只中。特にリズム全体に重みと粘りが出てきている(単調な [7] でさえその粘着度がスゴイ)のが特徴で、ここにマイルスのオルガンとコージーのギターが絡むことで、比喩的に言えばドラッグ臭が漂い、エネルギーに当時のロックと同質のものを感じる。マイルスをしゃぶり尽くしたいという人はともかく、この時期の音源として74年バンドのブートの音源を聴く必要はなく、このオフィシャル・アルバムを聴いておけばまずは十分。個人的には「Agharta」 「Pangaea」よちもこちらの方が上。聴く音楽というよりは体で受け止める音楽。スピーカーで大音量で聴くべし。
マイルスはその長いキャリアにおいて、自身のグループに迎え入れたミュージシャンが、その時点では決してエクセレントな人ばかりだったわけではない。メンバーを選ぶときには自分が描く音楽に合っていて若く潜在能力があることを重視していたように思う。もちろん、時にはそんなマイルスの期待に応えられなかった人もいて、「元マイルス・デイヴィス・グループ」という肩書きが必ずしも才能を保証するわけではないという現実を作り上げてしまっているけれど、反対に、コルトレーンやショーター、ハンコック、チック・コリアのように才能を伸ばした人も数多くいる。73年からのグループのメンバーは、個々のレベルはそれほどでもなかったものの、伸びしろが大きく成長度合いが最も高かったように思える。バンドの成長に2年もかけたのは、68年以降これが初めてのことで、マイルスが成し遂げたかった音楽がグループとともに成長していた貴重な時期だったように思う。(2006年6月3日)


In Sao Paulo 1974 (Bootleg)

曲:★★
演奏:★★★★
音質:★★☆
評価:★★★
[Recording Date]
1974/5/28

[1] Prelude
[2] Ife
[3] Turnaroundphrase
[4] Tune In 5
Miles Davis (tp, org)
Dave Liebman (ss, ts, fl)
Pete Cosey (g)
Reggie Lucas (g)
Dominique Gaumont (g)
Michael Henderson (b)
Al Foster (ds)
Mtume (per)
音質はブートレグ特有のコモリ系。ベースの音が良く聞こえるのは良いとしてドラムの音がちょっと遠い。シンバルの響きを楽しむのはあきらめましょう。[1] は「Agharta」で聴けるあの曲とはまったく雰囲気が異なって、重くうねるようなリズム感でテンポを落として演奏されている。これがなんともエグイ。粘着的なギターがまたそれを後押し。そのままの雰囲気をひきずって[2] へ。[3] は冒頭からマイルスが飛ばす。後半でようやくリーブマンが妖艶なプレイを聴かせる。というように演奏は良いんだけれど、いかんせん音が悪いのが残念。(2006年6月3日)


Another Unity (Bootleg)

曲:★★☆
演奏:★★★★☆
音質:★★★★★
評価:★★★★☆
[Recording Date]
1975/1/22

Disc 1
[1] Band Warming Up
[2] Prelude
[3] Maiysha

Disc 2
[4] Ife
[5] Mtume
[6] Turnaroundphrase
[7] Tune In 5
[8] Untitled Tune
Miles Davis (tp, org)
Sonny Fortune (ss, ts, fl)
Pete Cosey (g)
Reggie Lucas (g)
Michael Henderson (b)
Al Foster (ds)
Mtume (per)
75年日本ツアーの東京公演を収録したもので、前半にごくごく一部音が乱れることがあることを除いて、音質は完全にオフィシャル・レベル。特にルーカスのリズム・ギターとパーカッションの鮮明さ、ヘンダーソンの太いベース音をしっかり捉えているところが素晴らしい。そして演奏も「Agharta」「Pangaea」とまったく遜色なし。その両者を持っている人は必要ないとも言えるけれど、好きな人にとっては必聴、必携のハイ・クオリティ・ブートレグ。冒頭、ウォーミング・アップから入るところがたまらないカッコよさ。(2006年6月3日)


Agharta

曲:★★☆
演奏:★★★★☆
音質:★★★★★
評価:★★★★☆
[Recording Date]
1975/2/1

Disc 1
[1] Prelude
[2] Maiysha

Disc 2
[3] Interrude
  / Theme From Jack Johnson
 (Theme From Jack Johnson
   Ife, For Dave)
Miles Davis (tp, org)
Sonny Fortune (ss, ts, fl)
Pete Cosey (g)
Reggie Lucas (g)
Michael Henderson (b)
Al Foster (ds)
Mtume (per)
大阪フェスティバル・ホール、昼の部のライヴ。73年から続けてきたギター入りファンク・グループはついにここまで辿り着いた。「Dark Magus」よりさらに完成度を上げて、バンドとしての充実度は最高潮に。楽器の音を生々しく捉えている録音状態も良く、特にマイケル・ヘンダーソンのベースがブンブンと唸り、リズムに重量感が増していて興奮する。スローな曲での粘り感が「Dark Magus」と異なるのは、明快だけれどアクが不足しているソニー・フォーチューンに負うところが大きく、それをピート・コージーはじめとする他のメンバーが補う。アップ・テンポの曲におけるアガパン・バンドの魅力は解かりやすいけれど、問題はスローで静かなパート。例えば [2] の後半などに魅力を感じることができるかでこのグループへの評価が決まるのではないだろうか。マイルスが時にワー・ワー・トランペットでクールに吹くところなどは個人的には最高の瞬間のひとつ。決して大音量だけが魅力のグループではない。ところでこのアルバム、日本盤に付属の解説にはマイルスのインタビューも載っていてなかなか興味深い。リズムの要はヘンダーソンなのでは?というインタビューアに対してハッキリと「いや、レジー・ルーカスだ」と答えている。(2006年6月3日)


Pangaea

曲:★★☆
演奏:★★★★☆
ジャズ入門度:★
マイルス入門度:★
評価:★★★★☆
[Recording Date]
1975/2/1

Disc 1
[1] Zimbabwe
    (Turnaroundphrase,
     Willie Nelson,
     Tune In 5,
     Untitled Tune)

Disc 2
[2] Gondawana
    (Ife, For Dave)
Miles Davis (tp, org)
Sonny Fortune (ss, ts, fl)
Pete Cosey (g)
Reggie Lucas (g)
Michael Henderson (b)
Al Foster (ds)
Mtume (per)
大阪フェスティバル・ホール、こちらは夜の部のライヴ。"Turnaroundphrase" から始まる定番パターンで昼の部よりも勢いあるオープニング。全体の内容としては「Agharta」とまったく遜色ないハイレベルなパフォーマンスが繰り広げられている。相変わらず、静かなパートにおけるマイルスのワー・ワー・トランペットの表現の素晴らしいこと。ソニー・フォーチュンがリーブマンには劣るのはこの静かなパートでの表現力で、この点が唯一このグループの弱み。60年代黄金のクインテットがアコースティック・ジャズの究極の姿のひとつだとすると、アガ・パンは70年代エレキ・ギター・マイルスの究極の姿と言えるのではないだろうか。行き着くところまで行ったマイルスはこの後80年まで休養に入ってしまう。(2006年6月3日)


Columbia Sessions 1978 (Bootleg)

曲:★★
演奏:★★★
音質:★★★☆
評価:★★
[Recording Date]
1978/3/2

[1] Miles Last Summer Part 1
[2] Miles Last Summer Part 2
[3] Miles Last Summer Part 3
[4] Miles Last Summer Part 4
[5] Miles Last Summer Part 5
[6] Miles Last Summer Part 6
[7] Miles Last Summer Part 7
[8] Miles Last Summer Part 8
Miles Davis (org)
Larry Coryell (g)
Masabumi Kikuchi (key)
George Pavlis (key)
T.M. Stevens (b)
Al Foster (ds)
マイルスが音楽活動を停止していたと言われる76年〜80年に残していたセッションなだけに、おお、どんなものなんだろうかと期待したくなる。が、ダラダラとしたセッションで、単調なリズムに乗せてちょっと試してみました的な音に終始している。正直なところ、完成度云々を言うレベルではなく、繰り返して聴こうとは思えない。しかも、マイルスはトランペットを吹いておらず、どこで何をしているのかもよくわからない有様。もちろん、こういうことも演っていたんだという記録としては貴重ではあるけれど、コレクターズ・アイテムの域は出ない。(2017年4月6日)