Rock Listner's Guide To Jazz Music


Miles Davis(62-69年)


Seven Steps To Heaven

曲:★★★★
演奏:★★★
ジャズ入門度:★★★
マイルス入門度:★★★
評価:★★★
[Recording Date]
1963/4/16,17 (Except [2][4][6])
1963/5/14 ([2][4][6])

[1] Basin Street Blues
[2] Seven Steps To Heaven
[3] I Fall In Love Too Easily
[4] So Near, So Far
[5] Baby Won't You
                 Please Come Home
[6] Joshua
[7] So Near, So Far
[8] Summer Night
[1][3][5][7][8]
Miles Davis (tp)
George Coleman (ts)
Victor Feldman (p)
Ron Carter (b)
Frank Butler (ds)

[2][4][6]
Miles Davis (tp)
George Coleman (ts)
Herbie Hancock (p)
Ron Carter (b)
Tony Williams (ds)
「Kind Of Blue」で50年代のジャズを総括したマイルスは、次の世代のジャズを模索するべくメンバーチェンジを敢行。最終的には黄金のクインテットに行き着く60年代のマイルス・グループ、はじめの一歩となるのがこのアルバムの音源。[1][3][5](とボーナストラックの[7][8]) はロサンゼルスでのセッション、[2][4][6]はニューヨークでのセッション。ピアノとドラムが異なるメンバー構成で力量的には後者の方が当然上、とはいえ、ボーナストラックの[7]を覗いてLAセッションの曲はバラード系のまったり(そしてマイルスはミュート)の曲のため、格落ち感はなく通して聴いて違和感はない。それでもやはり、NYセッションの演奏は、新しい時代を告げる新しいフィーリングと技術を備えていることがわかる。ただし、全体に可もなく不可もなくという演奏で、質が低いということはもちろんなく、そうかと言って思わず唸るような演奏でもない。数々の名盤、そして圧倒的な演奏があるマイルスのアルバムにあって、どうしても聴くべきというほどではない、なんとも存在感のないアルバム。(2019年7月28日)

In Europe

曲:★★★★
演奏:★★★★☆
ジャズ入門度:★★★
マイルス入門度:★★★
評価:★★★★
[Recording Date]
1963/7/27

[1] Introduction By Andre Francis
[2] Autumun Leaves
[3] Milestones
[4] I Thought About You
[5] Joshua
[6] All Of You
[7] Walkin'
Miles Davis (tp)
George Coleman (ts)
Herbie Hancock (p)
Ron Carter (b)
Tony Williams (ds)
僕は「My Funny Valentine」と「Four And More」の質の高さを認めつつ、あまり聴こうという気にはなれない。前者は静かな曲が多く、シリアス・ムードが強すぎて聴き手に緊張を要求するし、後者は激しさが過剰で別の意味で聴き手に緊張を強いるから。このアルバムはその半年前の録音で、このラインナップになってまだ日が浅い時期のもの。マイルスの正規アルバムの中でも地味なポジションにあり、聴くのを後回しにしていたものだけれど、これが予想外にイイ。まず、ジョージ・コールマンの切れ味、勢いが耳を惹く。マイルス・グループ在籍中ではベスト(他で聴いたことないけど)。マイルスのテンションがまたスゴく、この2人の力漲るパフォーマンスを聴くだけでも価値がある。リズム・セクションは後のことを考えればまだ大人しいとはいえ、もちろんハイレベルで、やはりトニーのキレは素晴らしい。そんなハイテンションな演奏でありながら、普通のジャズとして聴けるおおらかなムードもまだ残っているところが、後の演奏との大きな違い。尚、この CD はオリジナルのLPに [4] を加えて(恐らく) [2] [5] [6] の編集を長尺版にしたもので、1枚モノでありながらトータル約80分というCD限界収録。モノラル録音で音に広がり感がなくオフィシャル盤としては音質がやや悪いところが強いてい言えば弱点か。(2007年11月2日)

Live At The 1963 Monterey Jazz

曲:★★★☆
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★★
マイルス入門度:★★★
評価:★★★★
[Recording Date]
1963/9/20

[1] Waiting For Miles
[2] Autumun Leaves
[3] So What
[4] Stella By Starlight
[5] Walkin'
[6] The Theme
Miles Davis (tp)
George Coleman (ts)
Herbie Hancock (p)
Ron Carter (b)
Tony Williams (ds)
まずはブートレグでリリースされた音源で、ほどなくして音質が向上したオフィシャル盤がリリースされたもの。ブートに熱心すぎるとときどきこういう痛い目に遭います。それはともかく、動と静のバランスが取れた選曲とパフォーマンス。珍しくロン・カーターのアルコ・ソロが聴ける [1] は、元のメロディを残しつつもなかなかいい崩れ加減だし、[2][4] の疾走感も素晴らしい。お得意のレパートリー [3] も好演。マイルスはもちろん、ジョージ・コールマンが予想外にいいし、リズム・セクションの凄さは今さら言うまでもない超絶レベルとあって演奏面でケチを付けるところはない。コールマン在籍時のマイルス・クインテットが好きなら買って損なし。(2007年7月14日)

My Funny Valentine

曲:★★★☆
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★
マイルス入門度:★★
評価:★★★
[Recording Date]
1964/2/12

[1] My Funny Valentine
[2] All Of You
[3] Stella By Starlight
[4] All Blues
[5] I Thought About You
Miles Davis (tp)
George Coleman (ts)
Herbie Hancock (p)
Ron Carter (b)
Tony Williams (ds)
ジャズを聴き始めのころ、手元に父のCDがあったのでよく聴いたアルバム。でも、今ではあまり手が伸びない。静かな曲が多いわりにはリラックスしたムードがないから。そういった特性をどう感じるかで評価が違ってくるでしょう。そう真剣に耳を傾けず、深夜にしんみりBGMとして聴くというのもアリかもしれない。そういうわけでこのアルバムではトニーの凄さはあまりわからない。ちなみに、初心者の頃によく聴いていた理由は、コルトレーンよりもジョージ・コールマンのテナーの方が聴きやすくて好きだったからで、それがこのアルバムでも強みと弱みになっている。マイルスの作品中では地味な存在ながら、マイルス自身の演奏は良いし、ハンコックのリリカルなピアノが堪能できるのは美点。激しさをお求めの方は同日録音の「Four And  More」をどうぞ。(2006年5月27日)

'Four' And More

曲:★★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★★
マイルス入門度:★★★
評価:★★★★
[Recording Date]
1964/2/12

[1] So What
[2] Walkin'
[3] Joshua/Go-Go
[4] Four
[5] Seven Steps To Heaven
[6] There Is No Greater Love
                                /Go-Go
Miles Davis (tp)
George Coleman (ts)
Herbie Hancock (p)
Ron Carter (b)
Tony Williams (ds)
冒頭2曲から、全力疾走のハイ・テンション。マイルスもコールマンも激しくブロー、トニーのドラムが暴れまくる。そういう演奏が好きな人には最高のアルバム。同日録音の「My Funny Valentine」でトニーを初めて聴いたので「言われているほどスゴイか?」と思ったんだけれど、このアルバムで打ちのめされた。近しい人が「ドラムっていうのは生き物なんだ。流れってもんだあるんだよ」と言っていた覚えがあるのだけれど、まるで精密機械のようにビシっとリズムチェンジを決める [5] などは、そういう常識的なレベルを、そして練習で身に付くレベルを超越したトニーの凄さを感じさせる。個人的には、ジョージ・コールマンはあまりにも普通すぎて面白みを感じないんだけれど、ショーターが苦手という人で60年代クインテットの凄さを堪能したい人には最適なアルバム。(2006年5月27日)

The Unissued Japanese Concerts

曲:★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★
マイルス入門度:★
評価:★★
[Recording Date]
1964/7/12 (Disc 1)
1964/7/15 (Disc 2)

Disc 1
[1] Autumn Leaves
[2] So What
[3] Stella By Starlight
[4] Walkin' 〜 The Theme

Disc 2
[1] If I Were A Bell
[2] Oleo
[3] Stella By Starlight
[4] Walkin'
[5] All Of You
[6] Seven Steps For Heaven
Miles Davis (tp)
Sam Rivers (ts)
Herbie Hancock (p)
Ron Carter (b)
Tony Williams (ds)
サム・リヴァース在籍時の初来日ツアーの中で、すでにブートレグでは有名な音源。Disc 1 は日比谷野外音楽堂の音源で、これ以前に所有していた「First Night In Tokyo」とあまり変わらない音質。Disc 2 は京都円山公園野外音楽堂の音源で、こちらは初めて聴いたのでこれまでのブートとの違いはわからない。
Disc 1は管楽器とピアノの音はブートレグとしてはまずまずクリア。しかしシンバル系の音はいかにもブートだし、とにかくベースの音がかなり引っ込んでいてクルマや電車内といったノイジーな環境で聴いくとほとんど聴き取れない。低音域不足で音の広がり感がないせいで、まるで小型ラジオでAM放送を聴いているかのようなこじんまりとした音質。演奏の内容は結構良さそうなんだけれども、この音質のせいで熱気が伝わってこない。Disc 2も音はブートレグ・レベルながらベースの音はDisc 1よりは聞き取りやすい。こちらはマイルスがやたらとハイテンションであることろが聴きどころで、ノリが良いと言えば聞こえがいいものの、羽目を外しすぎな感じもする。どちらのディスクも通常のCDとして聴くと音質は酷い部類に入るので品質的にはお勧めできないけれど、セミ・オフィシャル盤でお手頃価格で入手できるのなら記録として持っていても良いかも。余談ながら、アナログ・レコードを模したジャケットとディスク・レーベルにブックレットまでついたパッケージの凝り方は半分ブートであることを考えるとなかなか立派。(2011年3月19日)

Miles In Tokyo

曲:★★★★
演奏:★★★★☆
ジャズ入門度:★★☆
マイルス入門度:★★☆
評価:★★★★
[Recording Date]
1964/7/14

[1] Introduction By Teruo Isono
[2] If I Were A Bell
[3] My Funny Valentine
[4] So What
[5] Walkin'
[6] All Of You
[7] Go-Go
    (Theme And Accouncement)
Miles Davis (tp)
Sam Rivers (ts)
Herbie Hancock (p)
Ron Carter (b)
Tony Williams (ds)
この時期はライヴ一辺倒のマイルス・グループ。素晴らしいメンバーなのは誰もが認めるところでありながら、スタジオで斬新な音楽が作れそうとマイルスに思わせるには何かが足りなかったのだろうか。そして、そんな時期に一時的にサム・リヴァースが在籍していたときのライヴがコレ。グループ全体としての緊張感も十分で、このメンツとなれば演奏の質は保証済み。やる気がなかったと言われることが多いこの日のマイルスのプレイもぜんぜん悪くない。演奏のレベルは、「Four And More」と比べてもそれほど遜色はないと思う。ただアチラがアップ・テンポの曲を集めてハイ・テンションなイメージを作り上げているのに対し、こちらは硬軟とりまぜてということもあってどうしても低く見られてしまいがちなところはあるかもしれない。また、中山康樹氏の「トーキョーはダメ」を刷り込まれている人が多いことも影響しているような気がする。さて注目のサム・リヴァース。独特の太い音色と、フリーキーなトーンを駆使し、ジョージ・コールマンよりも遥かに先進的なそのフレーズは他のメンバーとの音楽性に合っている。リヴァースのフリーキーなソロでのハンコックのバッキング、ソロなどは、明らかにインスパイアされたと思えるイマジネイティヴなものだし、心なしか弟子のトニーのプレイも生き生きしているように聴こえる。ちなみに、この音源はベースをしっかりと太く捉えている録音も優秀で「Miles In Belrin」よりも生々しい音がする。ショーターがオファーを受けるまでの場つなぎとして、あっさりお払い箱になってしまったせいで、リヴァースの評価がずいぶん低いものになっているのがちょっと残念。マイルス・グループ在籍時だけでリヴァースを判断してはいけない。彼は自身のリーダー・アルバムや、トニー・ウィリアムス、ラリー・ヤングのアルバムの方が本領を発揮しているのでそちらを勧めたいところ。(2006年6月11日)

Miles In Belrin

曲:★★★☆
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★★
マイルス入門度:★★★
評価:★★★☆
[Recording Date]
1964/9/25

[1] Milestones
[2] Autumn Leaves
[3] So What
[4] Walkin'
[5] The Theme
Miles Davis (tp)
Wayne Shorter (ts)
Herbie Hancock (p)
Ron Carter (b)
Tony Williams (ds)
ここから60年代黄金のクインテットの輝かしい歴史が始まる。マイルスを含めて演奏はなかなか良く、このグループのポテンシャルを十分に感じることができる。この後に、より曲が解体された演奏を聴かせる「The Complete Live At The Plugged Nickel 1965」やスタジオ盤四部作が出てくるんだけれども、ここではレパートリーもグループ全体の演奏の質もコールマン時代の延長と言える内容。ということもあって、結果的にテナー奏者としてのコールマン、リヴァースとの純粋な聴き比べにちょうど良いかもしれない。もちろん彼らとショーターとはスタイルはかなり違うし、作曲面も含めて後のマイルス・グループにもたらしたものは圧倒的にショーターが上なことに異論を挟むつもりは毛頭ないけれど、テナー奏者としてだけ見ればここでのショーターがリヴァースより勝っているとは感じない。さて、このアルバム、全体的に「Four And More」ほど熱くないものの、マイルスはテンションが高いし、ハンコックの演奏もだいぶフリーな感じに変化してきているし、内容は決して悪くない。名作ぞろいのこの時期にあって地味な扱いを受けているとはいえ演奏は十分ハイレベル。(2006年5月27日)

Live In Copenhagen 1964

曲:★★★☆
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★
マイルス入門度:★
評価:★★★
[Recording Date]
1964/10/4

[1] Autumn Leaves
[2] So What
[3] Stella By Starlight
[4] Walkin'
[5] All Of You
[6] Joshua / The Theme
Miles Davis (tp)
Wayne Shorter (ts)
Herbie Hancock (p)
Ron Carter (b)
Tony Williams (ds)
ブートレグ音源としては古くから知られていた、ショーター加入間もないころのライヴ音源が、DOMINO RECORDSという怪しいレーベルから登場。過去のブートレグを持っていないのでそれとの比較はできないけれど、お安く買うことができるのなら、とりあえずこの音質でも文句はない。その音質は、しかしオフィシャルレベルというわけにはいかず、音が薄くて割れ気味(特にピアノ)、それでもベースの音はまずまず拾えているという、まあブートレグと考えるなら納得できるというレベル。というわけで、このクインテット初期の演の記録としてはいいけれどマニア向けには違いない。演奏は「Miles In  Berlin」と遜色なくハイレベルだし、レパートリーもこの時期の主流路線。逆に言えば、この時期のライヴ音源として、この音源ならでは楽しみというのもそれほど見当たらないとも言える。ショーターがベルリンよりも自分らしさを出せているところ、ハンコックがそれに触発されてこのクインテットらしさがより出ているところが聴きどころか。(2015年5月12日)

Complete Sindelfingen 1964 (Bootleg)

曲:★★★★★
演奏:★★★★★
音質:★★★★
評価:★★★★
[Recording Date]
1964/10/8

Disc 1
[1] Autumn Leaves
[2] So What
[3] All Blues
[4] Oleo
[5] Stella By Starlight
[6] Walkin'
[7] The Theme

Disc 2
[8] Milestones
[9] No Blues
[10] All Of You
[11] Joshua
[12] The Theme
Miles Davis (tp)
Wayne Shorter (ts)
Herbie Hancock (p)
Ron Carter (b)
Tony Williams (ds)
「Miles In Belrin」から13日後の録音。1枚目がファースト・セット、2枚目がセカンド・セットとなっており、演奏曲目にもダブリがなく、幅広くレパートリーを楽しめるのは美点。演奏はタイトで、「The Complete  Live At The Plugged Nickel 1965」ほど曲が解体されていないとはいえ、既に「Miles In Belrin」よりは演奏の自由度が高まっている。音質は、シンバル系の音が遠く、トランペットの音がややオモチャっぽくなっているものの、ベースはある程度拾えているし、各楽器のバランスが良く、許容範囲。ところが、随所に「チッチッチッチ・・・」というノイズが入るのがなんとも煩わしく、演奏に集中できなくて少々イライラしてしまう。内容が良いだけに実に残念。マスター・テープの問題でなければ、是非、アップデート・バージョンを望みたいところ。(2008年3月7日)
という上記レビューは「1964 Germany Quintet」というブートのもので、後にアップデート版が登場、[5] が補足され完全版となった。トラ ンペットの音色には艶さえ感じ取れるところがあるくらいに音質も向上、しかも妙なノイズもなくなった。あくまでも個人的な好みという話にはなるけれど、全体としてタイトで手堅いまとまりがあり、しかも自由度の高さも類を見ないというバランス感覚が絶妙。67年あたりのライヴだと自由にやりすぎてしまっていて、それは確かに5人の才能だからこそできるものというのは理解できるんだけれど、個人的にはあまり面白くない。演奏にはある程度の制約があってこそ面白みが出てくると思っている僕にとって、このライヴは申し分ない。(2011年9月11日)

E.S.P.

曲:★★★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★☆
マイルス入門度:★★★★☆
評価:★★★★★
[Recording Date]
1965/1/20
1965/1/21
1965/1/22

[1] E.S.P.
[2] Eighty-One
[3] Little One
[4] R.J.
[5] Agitation
[6] Iris
[7] Mood
Miles Davis (tp)
Wayne Shorter (ts)
Herbie Hancock (p)
Ron Carter (b)
Tony Williams (ds)
60年代黄金のカルテット、スタジ四部作の第一弾。どのアルバムも評価は高いけれど、相対的に本アルバムの評価は一番低いように思う。バンドの完成度がまだまだなところがあるのは確かながら、その代わりにフレッシュな感覚に満ちているという魅力がある。ショーターはオリジナル曲 [1] [6] における独特のムードで早くも存在感を大きくアピール。マイルス、ハンコック、ロン・カーターのオリジナル曲も質が高い。もちろん演奏もこの5人でなければありえない水準。マイルスはトランペットのテクニックはどうも、という評価もあるけれど、63年頃からはもう当てはまらないし、この時期になるとどう聴いても一流のトランペッターとしか言えない域に達している。ショーターも1年前までジャズ・メッセンジャーズにいたとは思えないより新しい感覚のムーディで素晴らしいソロを展開。ハンコックのピアノは4部作の中で一番美しく、ロンは新世代プレイヤーならではの柔軟で新しい音の刻みを聴かせ、トニーは既に自信のようなものすら感じさせる。おまけに録音が良く、これら演奏のスゴさをより生々しく味わうことができる。いずれも名作のこの4部作、決してわかりやすくはなく、名盤だからと言ってジャズ初心者には向いているわけではない。メロディックでありながらも、気軽に口ずさめるような親しみやすいものではないところがその理由。僕も最初はあまり良さがわからなかったけれど我慢強く繰り返して聴き続け、今では最高にプログレッシヴで知的なジャズだと思っている。(2008年6月22日)

The Complete Live At The Plugged Nickel 1965

曲:★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★
マイルス入門度:★
評価:★★★☆
[Recording Date]
1965/12/22
1965/12/23

Disc 1
[1] If I Were A Bell
[2] Stella By Starlight
[3] Walkin'
[4] I Fall In Love Too Easily
[5] The Theme

Disc 2a
[1] My Funny Valentine
[2] Four
[3] When I Fall In Love

Disc 2b
[4] Agitation
[5] 'Round About Midnight
[6] Milestones
[7] The Theme

Disc 3
[1] All Of You
[2] Oleo
[3] I Fall In Love Too Easily
[4] No Blues
[5] I Thought About You
[6] The Theme

Disc 4
[1] If I Were a Bell
[2] Stella by Starlight
[3] Walkin'
[4] I Fall In Love Too Easily
[5] The Theme

Disc 5
[1] All Of You
[2] Agitation
[3] My Funny Valentine
[4] On Green Dolphin Street
[5] So What
[6] The Theme

Disc 6
[1] When I Fall In Love
[2] Milestones
[3] I Fall In Love Too Easily
[4] No Blues
[6] The Theme

Disc 7
[1] Stella By Starlight
[2] All Blues
[3] Yesterdays
[4] The Theme
Miles Davis (tp)
Wayne Shorter (ts)
Herbie Hancock (p)
Ron Carter (b)
Tony Williams (ds)
このボックスセット、世間の評判は「フリージャズに走ったマイルス・クインテット」「壮絶な演奏」ということになっていて、まるで伝説の記録かのように扱われている。またマイルス自身もこの演奏を気に入っていたらしいこともそんな評価を後押し。フリージャズの定義というのは明確ではないけれど、僕のイメージでは、定型リズムから開放されて解体された演奏や激しいブローを多用したもの。その解釈で行くと、ここで聴ける演奏はぜんぜんフリーではない。演奏曲目の多くはスタンダードで、ロンのフォー・ビートとトニーの正確なリズム・キープが基本にある。ときどき、トニーやハンコックが暴れるシーンはあるけれど、スローな曲を除くとロンの安定した定速ベースとトニーのレガート・シンバルが刻む鋭いリズムがどの曲でも一定なので、油断していると今なんの曲を演奏しているのかすらわからなくなってしまう。これは、悪い言い方をすれば演奏のタレ流しのようなもの。だから、購入当初は期待していた音とのギャップが大きくてガッカリした。しかし、よく聴いてみると、ロンとトニーは気ままにリズム・キープを止めたり、また再開したりと阿吽の呼吸で進めていることがわかるし、そのリズムに乗るマイルス、ショーター、ハンコックは「Miles In Belrin」とは異なり、曲の構成や形式に囚われず奔放に演奏していることがわかってきて、そういう意味でフリーと言われているのかな、と理解できるようになってきた。ただ、このクインテットの真価は、オリジナル曲とアレンジの完成度、自由度の高い演奏が、極限でバランスしているところにあると個人的には考えているので、自由すぎる演奏ばかりのこのボックス・セットはあまり高く評価していない。もちろん、ここで展開されている演奏はそういった完成度とは違うものを狙ったものであるところこそが魅力であり、その点で非常に高いレベルにあることは保証できる。そんなわけで聴き手を選ぶと思われるので、これから手を出そうかと考えている人には、まず抜粋盤の「Highlights from the Plugged Nickel」で試してからでもいいかもしれない。もし気に入ってコンプリート盤が欲しくなったらアメリカ盤を。日本盤は10曲に編集の手が加えられて、ディスクも1枚少ない。(2008年6月22日)

1966 Portland (Bootleg)



曲:★★★★★
演奏:★★★★☆
音質:★★★
評価:★★★☆
[Recording Date]
1966/5/21

Disc 1
[1] Introduction
[2] Autumn Leaves
[3] Agitation
[4] Stella By Starlight
[5] Gingerbread Boy
[6] No Blues

Disc 2
[7] All Blues
[8] Who Can I Turn To
[9] So What
[10] The Theme
[11] My Funny Valentine
Miles Davis (tp)
Wayne Shorter (ts)
Herbie Hancock (p)
Ron Carter (b)
Tony Williams (ds)
音質はブートレグ特有の幕がかかったかのようなコモリがあるとはいえ、なんとか聴けるレベル。ただし、ヒスノイズは大きめ。この音源の価値はなんと言ってもロン・カーターの代役としてリチャード・デイヴィスがベースを弾いていることにある。ロンのベースは軽めで時に一本調子になりそうなところがあるのに対し、リチャード・デイヴィスと言えば太い音でズンズン突き上げ、その音を聴いただけでこの人とわかる数少ない個性の持ち主とあって、その違いが注目される。ところが、聴き始めると想像していたほどの違いは感じない。ベースの音が小さい録音状態、そしてあくまでもロンの代役であるということがその理由なんだろうか。細かいことを言えば確かにいつものロン・カーターの音使いとは違うのだけれど、バンド全体のグルーヴ感に影響がほとんど出ていない。あえて一時的代役の影響と思われる点を探せば [5] のテンポを落として演奏しているのが珍しいくらいか。それはともかく、マイルス、ショーター、ハンコック(ただしピアノ音は小さめ)、そしてトニーの演奏は相変わらず凄い。普通に60年代マイルス・クインテットの演奏として十分楽しめる内容。そう思って聴き進めていったところ、Disc 2 に入り、ショーター加入後では珍しい [7] での、そのショーターとトニーの暴れっぷりに圧倒され、続く [8] も珍しい選曲だなと楽しんでいると、お馴染みの [9] が出てくる。この3曲、いつもと違うノリ。そう、後半に来てようやく、そしてついにリチャード・デイヴィスらしさが炸裂。ピンチヒッターでは最初から飛ばせなかっただけというのが真相か。この後半戦はいつもの黄金のクインテットとは明らかにノリが違っていて新鮮。この微妙な違和感が本音源の聴きどころ。[11] はこれまで出回っていた音源では3分程度でカットされていたトラックで、本ブートでは約12分の完全収録になっている。(2008年7月27日)

Miles Smiles

曲:★★★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★
マイルス入門度:★★★★★
評価:★★★★★
[Recording Date]
1966/10/24
1966/10/25

[1] Orbits
[2] Circle
[3] Footprints
[4] Dolores
[5] Freedom Jazz Dance
[6] Gingerbread Boy
Miles Davis (tp)
Wayne Shorter (ts)
Herbie Hancock (p)
Ron Carter (b)
Tony Williams (ds)
ダジャレのようなタイトルとは裏腹に、冒頭から異様なテンションの演奏が続く。とにかく5人とも甲乙つけがたいハイ・テンション、ハイ・レベルな演奏を展開しており、非の打ち所がない。マイルスは演奏者としてもピークに達している印象だし、もちろんショーターのブロウも素晴らしい。ハンコックはイマジネイティヴなバッキングとソロで応酬。[3] はロンのベースに導かれて、クールなテーマが始まり、変幻自在なリズム展開をトニーが作り上げる。まさに名曲、名演。この時期の音楽はロンの柔軟なベース・ワークとトニーの鋭くも変幻自在なドラムなしには成立しない。また、このアルバムからアップテンポの曲では、マイルスやショーターのソロ・パートでハンコックが手を休めるようになってきており、それがまたハードで硬質なムードを演出している。最初から最後まで、張り詰めた緊張感に支配された傑作。(2006年5月27日)

Sorcerer

曲:★★★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★
マイルス入門度:★★★☆
評価:★★★★☆
[Recording Date]
1967/5/9
1967/5/16
1967/5/17
1967/5/24
1962/8/21 [7]

[1] Prince Of Darkness
[2] Pee Wee
[3] Masqualero
[4] The Sorcerer
[5] Limbo
[6] Vonetta
[7] Nothing Like You
[8] Masqualero (alt take)
[9] Limbo (alt take)
[Recording Date]
1967/5/9
1967/5/16
1967/5/17
1967/5/24
1962/8/21 [7]

[1] Prince Of Darkness
[2] Pee Wee
[3] Masqualero
[4] The Sorcerer
[5] Limbo
[6] Vonetta
[7] Nothing Like You
[8] Masqualero (alt take)
[9] Limbo (alt take)

[1]-[6] [8]
Miles Davis (tp)
Wayne Shorter (ts)
Herbie Hancock (p)
Ron Carter (b except )
Tony Williams (ds)

[9]
Miles Davis (tp)
Wayne Shorter (ts)
Herbie Hancock (p)
Buster Williams (b)
Tony Williams (ds)

[7]
Bob Dorough (vo)
Miles Davis (tp)
Wayne Shorter (ts)
Frank Rehak (tb)
Paul Chambers (b)
Jimmy Cobb (ds)
Willie Bobo (bongos)
前作の一種異様なテンションから比較すると、やや落ち着いた印象を与える60年代黄金クインテット3作目。それはしかし緊張感の欠如というよりも一種の余裕から来るものであるように思える。既存のモダン・ジャズとは一線を画すフレキシブルな曲と演奏で、保守的なジャズ・ファンの中にはこの唯一無二の音楽をジャズと認めない人もいるに違いない。この時期は、「ショーターを中心とした優秀な作曲家陣に曲を書かせてマイルスはラッパを吹いていただけ」という意見もあるけれど、4部作におけるショーターの研ぎ澄まされたフィーリングは、ショーターが在籍した他のグループでは聴くことのできないもので、それを引き出すことができたのはマイルスだからでしょう。一方で、マイルスが抜けた [2] がトニーの作曲であったり、ハンコックも表題曲を作曲、それぞれ存在感をアピールしていてバランス良く仕上がっているのもマイルスの手腕。[5] におけるトニーはやりたい放題という感じで、「The Complete Live At The  Plugged Nickel 1965」よりもよほどフリーな演奏。これではハンコックも手を休めたくなるというもの。オリジナル・アルバムの最後にあたる何かと不評な [7] がどういう理由で収録されたのか不明で、確かに明らかに浮いている。なのに繰り返して聴いていると、この曲を聴かないと終わった気にならないという妙な感覚が身に付いてしまう。慣れというのは恐ろしい。(2006年5月27日)

Nefertiti

曲:★★★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★
マイルス入門度:★★★☆
評価:★★★★☆
[Recording Date]
1967/6/7
1967/6/22
1967/6/23
1967/7/19

[1] Nefertiti
[2] Fall
[3] Hand Jive
[4] Madness
[5] Riot
[6] Pinochio
[7] Hand Jive (1st alt take)
[8] Hand Jive (2nd alt take)
[9] Madness (alt take)
[10] Pinochio (alt take)
Miles Davis (tp)
Wayne Shorter (ts)
Herbie Hancock (p)
Ron Carter (b)
Tony Williams (ds)
アドリブ・パートがない曲として有名な [1] は、マイルスとショーターは同じテーマを繰り返すだけ。強弱を付け、そして意図的にずらしていくことで怪しくも独自の世界を創り上げる。一方でハンコック、ロン、トニーが徐々に暴れだして喧騒への道を歩みだすと、この難解な曲はスリリングな局面を迎え、どう収束させるかと思えば意外に拍子抜けな終わり方をするところがまたクール。ジャズやロックは基本的にライヴ演奏にその醍醐味があると信じているけれど、稀にスタジオで、そのときにしか生まれない名演というのがあって、マイルスで言えば"Autumn Leaves"" So What"あたりが該当し、ジェフ・ベックの"Led Boots"もそんな例のひ
とつに挙げられる。そしてここでの [1] も、まさにスタジオでしかできなかったであろう名演と言えるでしょう。というわけで他が霞んでしまいがちではあるものの、「Sorcerer」と2枚組と捉えても良いほど、曲も演奏もコンセプトも良い意味で継承。コンパクトな曲がら小気味良いトニーのシンバルワークが冴える [5] はなんともエキサイティング。別テイクは基本的にあまり重視しないけれど、[10] はオリジナル [6] よりも大幅にテンポを落としたまったく解釈の違う演奏で、いろいろ試していたんだなあということが分かる興味深いもの。
このクインテットが創造した4枚のスタジオ盤はアコースティック・ジャズの究極の姿のひとつであると断言できる。行き着くところまで行ってしまったと感じていたのは恐らく他ならぬマイルスで、このクインテットを解散し、いよいよ電化の道を進むことになる。(2006年5月26日)

Water Babies

曲:★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★
マイルス入門度:★★
評価:★★★☆
[Recording Date]
1967/6/7 [1]
1967/6/13 [2]
1967/6/23 [3]
1968/12/11 [4] [5]
1968/12/12 [6]

[1] Water Babies
[2] Capricorn
[3] Sweet Pea
[4] Two Faced
[5] Fual Mr. Anthony
         Tillton Williams Process
[6] Splash
[1]-[3]
Miles Davis (tp)
Wayne Shorter (ts)
Herbie Hancock (p)
Ron Carter (b)
Tony Williams (ds)

[4]-[6]
Miles Davis (tp)
Wayne Shorter (ts)
Chick Corea (elp)
Herbie Hancock (elp)
Dave Holland (b)
Tony Williams (ds)
所謂オクラ入りしていた音源でリリースは76年とのこと。[1] [3] は「Nefertiti」のセッションと同じ日、[2] もほぼ同じ時期のもの。従って、持ち合わせている空気は同質のもので、しかしどういうわけか後の「Filles De  Kilimanjaro」あたりのムードに近いものも感じてしまうのがとても不思議。演奏レベルはこのメンツ故にハイレベルでありつつ、リアル・タイムでリリースされた音源に比べると幾分肩の力が抜けている感じがする。3曲ともショーターの自作曲でミステリアスなムードがショーター・ファンには聴き逃せない。[4] 以降は「Filles De Kilimanjaro」より半年後の録音で、個人的にあまり好きでない時期のものであることからあまり期待しなかったけれどこれが意外といい。[4] こそ実験的な模索感のある内向的かつ冗長な演奏ながら、[5] [6] はリラックスした演奏になっていて、少々ラフではあるもののいい意味で楽しんで演奏している印象を受ける。言うなれば超ハイレベルなジャム・セッションでトニーが自由に叩きまくっているような感じもあって十分に聴き応えもある。マイルスにとっても(4曲提供の)ショーターにとっても重要度が高いとは言えないアルバムではあるけれど、質は決して低くないし個人的には過渡期エレクトリック・マイルスが気楽に演奏している [5] [6] に魅力を感じられたのが収穫。(2008年10月4日)

Antwerp Blues (Bootleg)

曲:★★★★
演奏:★★★★☆
音質:★☆
評価:★★☆
[Recording Date]
1967/10/28

[1] Agitation
[2] Footprints
[3] Round About Midnight
[4] No Blues
[5] Riot
[6] On Green Dophin Street
[7] Masqualero
[8] Ginger Bread Boy
[9] The Theme
Miles Davis (tp)
Wayne Shorter (ts)
Herbie Hancock (p)
Ron Carter (b)
Tony Williams (ds)
音質のクリア度はまずまずも、ブートレグにありがちなベースの音が弱さがネック。ブートの中では良い部類に入ることは分かっているけれど、僕はブートとオフィシャルと区別しないのでこのディスクを楽しむのはちょっと厳しい。演奏はスタジオ盤以上にハジけていてスゴイの一言。特にトニーのパフォーマンスは圧倒的。ほぼ全曲メドレーで、一気に最後まで駆け抜けるのはこの時期のライヴの特徴。(2006年5月27日)

Stockholm 1967 (Bootleg)

曲:★★★
演奏:★★★★☆
音質:★★★★
評価:★★★☆
[Recording Date]
1967/10/31

[1] Agitation
[2] Footprints
[3] Round About Midnight
[4] Ginger Bread Boy
[5] The Theme
Miles Davis (tp)
Wayne Shorter (ts)
Herbie Hancock (p)
Ron Carter (b)
Tony Williams (ds)
67年秋のヨーロッパ・ツアーは、さまざまな形で録音されているもののオフィシャル・アルバムは皆無、聴くならブートレグしかないという状況。しかしながらどの日も録音が残されていることから、どれを選べば良いのかおおいに迷うところ。決め手は、曲目、音質、パフォーマンス、価格ということになるんでしょうが、音質とパフォーマンスを優先するならこのブートはなかなかお勧めできる。ややヒスノイズが目立ち、シンバル系の高音部にコモリがあるとはいえ、演奏を楽しむのに支障はないレベル。その演奏の方も申し分なく、このクインテットならではの超絶パフォーマンスを堪能できる。難点は、曲数が少なく、合計33分強という収録時間で、さすがにちょっと物足りない。(2008年1月11日)

Riot (Bootleg)

曲:★★★★
演奏:★★★
音質:★★★★☆
評価:★★★
[Recording Date]
1967/11/6

[1] Round About Midnight
[2] No Blues
[3] Masqualero
[4] I Fall In Love Too Easily
[5] Riot
[6] Walkin'
[7] On Green Dophin Street
[8] The Theme
Miles Davis (tp)
Wayne Shorter (ts)
Herbie Hancock (p)
Ron Carter (b)
Tony Williams (ds)
この時期の音源の中では最上位の音質で有名な古典的ブートレグ。良いオーディオ環境での鑑賞にも耐えるオフィシャルレベルの録音状態で聴くことができる。ところが演奏のテンションは、少々落ち着いた印象。この時期のマイルス・クインテットに勢いを求めるか、落ち着きとまとまりを求めるかは好みがわかれるところ。恐らくコンサートの前半が欠けているというのが難点ではあるものの、この音質の前には些細な欠点にすぎず、このクインテットの凄さは十分に堪能できる。(2006年5月27日)

Tour Over Europe (Bootleg)

曲:★★★★
演奏:★★★★★
音質:★★
評価:★★★
[Recording Date]
1967/11/7

Disc 1
[1] Agitation
[2] Footprints
[3] Round About Midnight
[4] No Blues
[5] Masqualero
Miles Davis (tp)
Wayne Shorter (ts)
Herbie Hancock (p)
Ron Carter (b)
Tony Williams (ds)
音はコモリ気味でいかにもブートレグ品質ながら、ベースの音はある程度拾えているところはありがたい。ただし音が割れてしまってる箇所も結構あり、音質も安定しないのが難点。2枚組ということもあって1ステージ完全収録であること、演奏が良いことがこのブートのセールス・ポイント。もう少しトニーのドラムがクリアに聴こえていたら、もっと迫力ある演奏に聴こえただろうと思うとちょっと悔しい。この時期のライヴは、やはりライヴならではの荒っぽさが特徴。スタジオ盤の緻密さと張り詰めた緊張感を好むか、ライヴならではの奔放な演奏を好むかで評価が分かれると思う(僕はスタジオ盤支持派)。尚、「Last European Tour Vol.4」と音質はほとんど変わっていない。(2007年7月9日)

Live In Europe 1967/The Bootleg Series Vol.1

曲:★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★
マイルス入門度:★
評価:★★★★
[Recording Date]
1967/10/28 (Disc 1)
1967/11/2 (Disc 2)
1967/11/6 (Disc 2[6][7], Disc 3)
1967/10/31 (DVD [6]-[10])
1967/11/7 (DVD [1]-[5])

Disc 1
[1] Agitation
[2] Footprints
[3] Round AboutMidnight
[4] No Blues
[5] Riot
[6] OnGreen Dophin Street
[7] Masqualero
[8] Ginger BreadBoy
[9] The Theme

Disc 2
[1] Agitation
[2] Footprints
[3] Round AboutMidnight
[4] No Blues
[5] Masqualero
[6] Agitation
[7] Footprints

Disc 3
[1] Round About Midnight
[2] No Blues
[3]Masqualero
[4] I Fall In Love Too Easily
[5] Riot
[6] Walkin'
[7] On Green Dophin Street
[8]The Theme

DVD
[1] Agitation
[2] Footprints
[3] I Fall In Love Too Easily
[4] Gingerbread Boy
[5] The Theme
[6] Agitation
[7] Footprints
[8] Round AboutMidnight
[9] Ginger Bread Boy
[10] The Theme
Miles Davis (tp)
Wayne Shorter (ts)
Herbie Hancock (p)
Ron Carter (b)
Tony Williams (ds)
1967年秋のヨーロッパ・ツアーは数多くの良質ブートレグがある一方で、長らくオフィシャル音源は皆無という状況だった。60年代黄金のクインテットの有終を飾るこのツアーにおいて、グループは完成し、音楽的にも完結することになる。その完成形となったこのグループを楽しめるという点でこのツアーの音源は大いに価値がある。楽曲は基本的に自分たちのオリジナルが中心となり、演奏は固まっているので、演奏の質においてはどの日を聴いても驚くような大きな違いはない。ただ、一定の枠組みの中ではそれぞれが好きなようにやっていて、当たり前とはいえ、その日によってテンションの高さも違う。そして、これらの音源がついにオフィシャル盤としてリリースされた。
Disc 1 はブートレグ「Antwerp Blues」で有名なベルギーの音源。音質はワンランク上がっている。Disc 2 [1]〜[5] も「Last European Tour 1967 Vol.1」で知られているコペンハーゲンの音源。Disc 3 は古典的ブートレグ「Riot」の音源と同じパリのライヴ。このパリの音源、特筆すべきは冒頭欠けていた部分を Disc 2 [6] [7] に収録し、フル・コンサートとして楽しめるようになったこと。ところが「Riot」はステレオだったのに、この正規盤ではモノラルになってしまっていて、音の広がり感がなくなってしまっているのが実に残念。マスターが違うということなんだろうか。
DVDは前半がドイツ、後半がストックホルムでのもの。以前公開されたドイツの音源には"Walkin'"が収録されていたらしい。時代を考えれば画質、カメラワーク、音質、すべてが水準以上のクオリティ。ジャズものの映像にはあまり興味がない僕だけれど、トニーの激しいドラム・ワークの迫力には圧倒され、あの音がこういうオーラで出ていたんだと初めて実感できた。

「The Bootleg Series Vol.1」として、まるでキング・クリムゾンのコレクターズ・クラブのような形でオフィシャル化されたブートレグ音源、相変わらず正規レコード会社の詰めは甘いけれど、良質なものが妥当な価格でどんどん出てくるのなら歓迎したいところ。
(2012年3月24日)

Miles In The Sky

曲:★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★
マイルス入門度:★
評価:★★☆
[Recording Date]
1968/1/16
1968/5/15
1968/5/16
1968/5/17

[1] Stuff
[2] Paraphernalia
[3] Black Comedy
[4] Country Son
[5] Black Comedy (alt take)
[6] Country Son (alt take)
Miles Davis (tp)
Wayne Shorter (ts)
George Benson (g [2])
Herbie Hancock (p, elp [1])
Ron Carter (b, elb [1])
Tony Williams (ds)
60年代黄金のクインテットは「Nefertiti」とその後のツアーをもって完結。だから、メンツが同じだからといって、このアルバムを延長線上と思って聴くとかなり肩透かしを食う。特に [1] はピアノもベースもエレクトリックで曲の構造もこれまでと異なっていることから、だいぶイメージが違ってきている。[2] 以降はアコースティックに戻ってはいるものの、「Nefertiti」までとは明らかに異なる作風に異なる演奏。トランペットやサックスのフレーズもそれに合わせて違うムードが漂っているし、トニーのリズム・パターンも当然変貌。いよいよジャズから離れてきたという印象を受ける。マイルスは常に進化を止めなかったミュージシャンだけれど、時期によっては手探り感や迷いを感じるものもあって、「Bitches Brew」至るまでのこの期間はそれに相当すると思う。でも、別の観点から見ればその過渡期を楽しむべきアルバムとも言える。(2006年5月27日)

Filles De Kilimanjaro

曲:★★★☆
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★
マイルス入門度:★☆
評価:★★★
[Recording Date]
1968/6/19
1968/6/20
1968/6/21
1968/9/24

[1] Freron Brun
[2] Tout De Suite
[3] Petits Machins (Little Staff)
[4] Folles De Kilimanjaro
[5] Mademoiselle Mabry
                        (Miss Mabry)
[6] Tout De Suite (alt take)
[1] [5]
Miles Davis (tp)
Wayne Shorter (ts)
Chick Corea (elp)
Dave Holland (b)
Tony Williams (ds)

[2]-[4]
Miles Davis (tp)
Wayne Shorter (ts)
Herbie Hancock (elp)
Ron Carter (elb)
Tony Williams (ds)
前作で、大きな変貌を遂げたマイルス・グループ。なのにわずか1ヶ月後にスタジオに入り、更に一味違った [2] [4] を録音する。この頃のマイルスは、とにかく頭に浮かんだものを一刻も早く形にしたかったのでしょう。しかし、前作に続きまだ消化不良の感は否めない。個人の演奏はレベルが高いのに、あの黄金のクインテットのような緻密なまとまりがない。リズムをより自由にしたにもかかわらず、個人の演奏はジャズ範疇から脱皮しきれていないために締りがなくなったというのが僕の見解。頭は先を行っているのに体がついてこないという感じか。それを打破するために、3ヵ月後にスタジオに入ったときにはついにメンバーチェンジを敢行。それが [1] と[5]。この2曲を入れたことによって、前作よりも新しいフィーリングを出すことに成功している。それでも、まだ中途半端な感は拭いきれていないえない印象。この時期のマイルスについてあまり掘り下げた議論をする人がいないのは、今となっては過渡期の音楽で、中途半端だからだと思う。それにしてもトニーのドラミングはここでも相変わらずスゴイ。(2006年5月27日)

In A Silent Way

曲:★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★
マイルス入門度:★
評価:★★★★
[Recording Date]
1969/2/18

[1] Shhh / Peaceful
[2] In A Silent Way
     / It's About That Time
Miles Davis (tp)
Wayne Shorter (ss)
Joe Zawinul (elp, org)
Chick Corea (elp)
Herbie Hancock (elp)
John McLaughlin (g)
Dave Holland (b)
Tony Williams (ds)
このアルバムを手にしたとき、60年代以降のマイルスのアルバムは「My Funny Valentine」しか聴いておらず、「Four And More」はもちろんのこと、ショーター加入後の黄金のクインテットすらも未聴。もちろん、このアルバムがエレクトリック・マイルスと呼ばれるようになってからの作品であることは知っていたのでギャップを予想しつつ聴いてみたんだけれど、最初は「はあ?」という言葉を出すのが精一杯。ジャズ初心者の身でも知っている演奏者名がズラリと揃っていることもあって、さぞかし壮絶な演奏が繰り広げられているのだろうと楽しみにしていたら、凄腕と聞いていたトニー・ウィリアムスはハイハットやリム打ちで定速リズムをひたすら刻んでいるだけだし、曲もどこか牧歌的で激しさは皆無、耳に残るメロディもなく、抑揚もない。何が良いのかさっぱりわからず、とにかく連続感のない妙に人工的な音楽というのがその印象だった。
それはさておき、前作の録音からわずか5ヵ月後でまたしてもこの変貌。これまでの人生で既にさまざまな音楽を聴いて、どんな音楽を聴いても拒絶感を抱かない程度の免疫があるつもりだったにもかかわらず、この音楽には相当戸惑った。当時のリスナーはもっと困惑したんじゃないだろうか。相変わらず、実験段階の域を出ておらず過渡期の音楽であるという点では前2作と同様ながら音楽そのものは大幅に進化。3人のキーボード・プレイヤーがうごめく独特の音空間はここでしか聴けないもの。テオ・マセロがそういった実験段階の音源を巧妙に編集して音世界を構築したことも今では当然理解していて、人工的だと当初感じた僕の直感はそれほど的外れではなかった。改めて聴くと、マイルス自身の全キャリアの中でも独自のポジションにあるアルバムであるように思う。もし、このアルバムで初めてエレクトリック・マイルスに接してつまらないと思っても、この後の音楽が合わないとは限らないので、あきらめずに追求してみる価値はある。ちなみにショーターのソプラノ・サックスが聴けるのはこの作品から。(2006年5月27日)
追記:SACD の感想を。SACDの音質はCDとさほど変わらないというのが僕の意見。ただし 5.1ch収録されているものはそもそも音場が別物。サラウンドによる音のクリアさ、情報量の多さ、高い分解能は誰でもわかるほど違う。マイルスのアルバムでは「Kind Of Blue」と本作がSACD 5.1ch化されていて、このアルバムでもその音空間の表現力の違いを顕著に感じることができる。特に本作では複数のキーボードが織りなす複雑な振幅のグルーヴが重要なファクターで、その絡み具合を明瞭に聴き取ることができるのと同時にトランペットとソプラノ・サックスの生々しい響きに よってこれまでにない新たな感動に浸れる。マイルス(とテオ・マセロ)が表現していたのはコレだったんだ、とようやくわかった。再生環境がある方は是非トライを。(2008年4月13日)

1969 Miles

曲:★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★
マイルス入門度:★
評価:★★★☆
[Recording Date]
1969/7/25

[1] Directions
[2] Miles Runs The Voodoo Down
[3] Milestones
[4] Footprints
[5] Round About Midnight
[6] It's About That Time
[7] Sanctuary/The Theme
Miles Davis (tp)
Wayne Shorter (ts, ss)
Chick Corea (elp)
Dave Holland (b)
Jack DeJohnette (ds)
1969年当時、この5人で数多くのライヴをこなしてきたマイルス・グループ。マイルスの生前には一切正式音源が発表されていなかったことから、通称ロスト・クインテットと呼ばれている(海外でも)。サウンドを簡単に説明すると、ドッシャン、バッタンとデジョネットのドラムが暴れ、チックのエレピがうねり、ホランドのベースが絡みつき、マイルスとショーターが激しくブローするというのが基本。形式的にはジャズが残っているけれど、聴こえてくる音の感触はロックに近いものすらある。そのロスト・クインテット、唯一のオフィシャル盤がコレ。ドラムの音が軽すぎるのが好みでないけれど、流石に音質は問題なし(ただし、割れ気味のトランペットの音をがばんばって補正している雰囲気あり)。演奏も、このメンバーらしさが出ているのでロスト・クインテットをとりあえず聴いてみようという人にはこのアルバムはお勧めできる。ただし、ここでの演奏は、他の日と比べるとやや大人しいので、よりハードな演奏を求めるのであればブートレグの世界へ足を踏み入れなくてはならない。(2006年5月27日)

1969 Miles: Second Night (Bootleg)

曲:★★★★
演奏:★★★★★
音質:★★★★
評価:★★★★★
[Recording Date]
1969/7/25

[1] Directions
[2] Miles Runs The Voodoo Down
[3] Milestones
[4] Footprints
[5] Round About Midnight
[6] It's About That Time
[7] Sanctuary/The Theme
Miles Davis (tp)
Wayne Shorter (ts, ss)
Chick Corea (elp)
Dave Holland (b)
Jack DeJohnette (ds)
オフィシャル盤「1969 Miles」の翌日のライヴ。トランペットとサックスがまるで耳の近くで吹かれているかのような音量バランス、相対的にベースの音がやや小さく聴こえるのがちょっと気になるけれど音質じたいはクリアで良好。さて、1日違いなので前日と本質的な違いは出ていない。しかし、マニアがこちらを支持するのは、最初から最後までテンションが高く、過激さが上だから。それにしても5人揃って異様なテンションと迫力。マイルスもこの頃が一番トランペット奏者としてブローしていた時期。デジョネットはグループ加入前に、トニー・ウィリアムスの後任であることにかなりのプレッシャーを感じていたものの、同じスタイルを追求してもしょうがないと自分流を貫くことを決心したそうで、その結果このような迫力のあるドラム・スタイルになったとのこと。フリー・スタイルのハード・ジャズは聴き手を選ぶものの、唯一無二の個性が気に入るとハマってしまう中毒性がある。中でもこのブートは人気盤の傑作。(2008年6月22日)

Bitches Brew

曲:★★★★
演奏:★★★★☆
ジャズ入門度:★
マイルス入門度:★★★
評価:★★★★☆
[Recording Date]
1969/8/19
1969/8/20
1969/8/21
1970/1/28 [7]

Disc 1
[1] Pharaoh's Dance
[2] Bitches Brew

Disc 2
[3] Spanish Key
[4] John McLaughlin
[5] Miles Runs The Voodoo Down
[6] Sanctuary
[7] Feio
Miles Davis (tp)
Wayne Shorter (ss)
Bennie Maupin (bcl)
Joe Zawinul (elp-Left)
Chick Corea (elp-Right)
Larry Young
   (elp-Center [1] [3])
John McLaughlin (g)
Dave Holland (b)
Harvey Brooks (b except [7])
Lenny White
   (ds-Left except [5] [7])
Jack DeJohnette (ds-Right)
Don Alias
(ds-Left [5]/congas except [7])
Billy Cobham
   (ds-Left except [7])
Jim Riley
 (shaker-Left [5]
              /congas except [7])
Airto Moreira (cuica. perc [7])
「In A Silent Way」を理解できなかったにもかかわらず、懲りずに世紀の傑作とされる本作に挑戦。こちらは最初から失望感はなく、むしろただただ圧倒されてしまった。その違いはリズムにある。こちらも実験音楽を編集したものであることはわかっているものの、ちゃんとしたリズムのグルーヴがあって、緊張感があるというのも大きな違い。それにしても「In A Silent Way」の半年後がコレでは、リアルタイムのリスナーはついていくのが大変だったことでしょう。この時期、クインテットでライヴ活動を精力的にしていたにもかかわらず、スタジオ録音ではこの大編成。しかも豪華メンバー。良く聴くとロスト・クインテットの雰囲気(チックが暴れているところとか)を感じ取ることもできるものの、モウピンの低音域で浮遊するバスクラとマクラフリンのギター、そして練られたフレーズで輝かしくトランペットを響き渡わせるマイルス自身によって別種の音世界に昇華している。ジャズかロックかという議論が無意味な、誰も成しえなかった唯一無二の音楽を創ったことで、マイルスはジャンルを超越した音楽家になったと思う。ボーナス・トラックの [7] はただの実験的なもので本編の曲と比べると完成度の低さは歴然で正直なところなくても良い。尚、ブートレグではこのアルバムの編集前の音源が出ていて、それを聴くと元の音源は手探りの中で実験的に演奏されていたことがわかる。ただ、元音源は音楽として完成しているとは言えず、むしろテオ・マセロの編集が優れていることを思い知ることになる。(2006年5月27日)
2010年11月に Legacy Edition がリリースされた。[3] [4] の別テイク、[5] [6] のシングル・エディット(単にフェードアウトが早いだけに聴こえる)、「Big Fun」収録の"Great Expectation"のシングル・バージョン、「Complete Bitches Brew Sessions」に収録されていた"Little Blue Flog"シングル・バージョンの合計8曲が追加されている。これら追加曲の中で価値があるとすれば [3] [4] の別テイクくらいか。ところが、これらを Disc 2 に収録するためだけに Disc 1 に [3] [4] を押し出し、アルバムとしての流れが分断されたのはあまりにも酷い。この Legacy Edition で価値があるのは Disc 3、70年8月18日の Tanglewood Live(ただし、ブートレグで持っている人には今更感あり)と、Disc 4 69年11月4日、ロストクインテットのコペンハーゲンでのライヴ DVD(こちらもブートで有名、クオリティはさすがオフィシャル・レベル)の方で、しかし、「Bitches Brew」とは何の関係もないという構成になってしまっている。(2011年1月8日)

Village Gate 1969 (Bootleg)

曲:★★
演奏:★★★☆
音質:★★☆
評価:★★
[Recording Date]
1969/5/23 or 24?

[1] This
[2] Footprints
[3] Miles Runs The Voodoo Down
[4] Round About Midnight  
                        (Imcomplete)
Miles Davis (tp)
Wayne Shorter (ts, ss)
Chick Corea (elp)
Dave Holland (b)
Jack DeJohnette (ds)
今はもうない、ニューヨークのヴィレッジ・ゲイトという会場でのライヴ。音の感触からするとオーディエンス録音か。ちょっとベースの音が遠いのが低音フェチの僕には辛いけれど、69年のライヴ音源ということを考えると音はなかなかクリアでスネアの音などはキレイに聴こえる。あとテープの回転ムラによる音のフラつきがあるのがちょっと難点。内容はと言うと特筆するところはなく、いつものロスト・クインテット。アナウンスに続いて演奏されてる1曲めが"This"というのはちょっと変わっているかも。[4] は途中でプツン。曲数が少ないこともあって内容面ではそれほどお勧めできない。(2006年5月27日)

Double Image Updated Long Version (Bootleg)

曲:★★★★
演奏:★★★★★
音質:★★★★
評価:★★★★★
[Recording Date]
1969/10/27

Disc 1
[1] Directiions
[2] This
[3] Round About Midnight
[4] Masqualero

Disc 2
[5] Bitches Brew
[6] Miles Runs The Voodoo Down
[7] Agitation
[8] I Fall In Love Too Easily
[9] Sanctuary 〜 The Theme
Miles Davis (tp)
Wayne Shorter (ts, ss)
Chick Corea (elp)
Dave Holland (b)
Jack DeJohnette (ds)
ロスト・クインテットの古典的ブートレグだった「Double Image」はライヴの冒頭が欠けていたものの、音質と演奏の良さで以前より名盤とされていた。その欠落部分をプラスしてアップデート版として発売されたのがこのブート。聴いてみると、確かに"Directions"からしっかりと入っていて、ついにこのローマ公演が完全版で聴けるんだ、と喜んでいると6分半でフェード・アウト、従来通り"This" がフェード・インしてくる。なるほど、だからコンプリートではなくアップデート。改めて音質を評価すると、音像はかなりマイクに近めという感じで反響音がなくスピーカーで聴いたときの音の広がり感はイマイチ、それでも各楽器はしっかりと聴き取れるクリアさ。騒々しいパートでは管楽器の音が割れ気味になるところもあるけれど、ベースの録音状態が良く、なによりも各楽器の音のバランスも良いため聴きやすいのが美点。肝心の演奏内容も激しく暴れまくっていてスリルという言葉を越えた興奮を味わえる。とはいえ、その追加分の [1] が特別スゴイというところまでは行っていないので、従来の「Doubel Image」を持っていれば、買い直すほどの価値があるかどうかは微妙なところ。「1969 Miles: Second Night」と並んでこれもロスト・クインテットの傑作。
以下余談。フリー・ジャズ系のミュージシャンをゲストに迎え制作されていたキング・クリムゾンののアルバム「Lizard」が好きな僕は、ジャズを聴き始めたときからいつかはフリー・ジャズも聴くことになるだろうと思っていた。ところがオーネット・コールマンを聴いても自分がイメージするフリー・ジャズではないなあと感じていたところで [2] を聴いて 「あ、ここにあった」と想定外の出会い。ショーターのプレイもなかなかフリーキーで、まさかマイルスを探求しているときにこの種の音楽に出会うとは思ってもいなかった。あらゆる音楽を吸収し、発展し続けたマイルスというのは本当に凄いミュージシャンであると改めて認識した次第。(2006年5月27日)

Vienna 1969 (Bootleg)

曲:★★★
演奏:★★★★
音質:★★★☆
評価:★★★☆
[Recording Date]
1969/10/31

[1] Band Warming Up
         & Voiceover Introduction
[2] Bitches Brew
[3] Agitation
[4] Miles Runs The Voodoo Down
[5] I Fall In Love Too Easily
[6] Sanctuary
[7] The Theme
   (with applause, annoucement)
Miles Davis (tp)
Wayne Shorter (ts, ss)
Chick Corea (elp)
Dave Holland (b)
Jack DeJohnette (ds)
すでに "Bitches Brew" が燻り始めているところに、低い声でバンドを紹介するアナウンスが被さるところから察するに、ラジオ放送か何かの音源か?その割には音のクリアさはそれほどでもなく、バランスは良いものの、バスドラムとベースの音がボヨンボヨンと反響してちょっと聴きづらい。その [2] で、一部とはいえマイルスがミュートを使っているのはロスト・クインテットでは珍しい。[3] でショーターが炸裂しているところは「らしい」演奏で、このあたりを含めて随所で見られる勢いはなかなかのものだけれど、この日のテンションはあと一歩という感じ。もちろん悪くはない。ある意味、平均的でもこのくらいはできてしまうところが凄いとも言える。音源的な価値という意味では中庸な印象で優先順位は高くないのでマニア向けか。低音ボワつき気味の録音さえなんとかなればもっと楽しめそうなだけに、そこが惜しまれる。(2013年2月2日)

Ronnie Scott's Club 1969 (Bootleg)

曲:★★★
演奏:★★★★★
音質:★★★☆
評価:★★★★
[Recording Date]
1969/11/2

[1] Bitches Brew (Incomplete)
[2] It's About That Time
[3] No Blues
[4] This
[5] I Fall In Love Too Easily
[6] Sanctuary
[7] The Theme
Miles Davis (tp)
Wayne Shorter (ts, ss)
Chick Corea (elp)
Dave Holland (b)
Jack DeJohnette (ds)
音質はいかにもオーディエンス録音、でも、そこそこクリアで各楽器のバランスが良いのでまともに聴ける。頭欠けの [1] は、ほとんど最後の部分が入っているだけなので実質6曲構成。じゃあ [2] から入れとけばいいじゃないかと思うんだけれど、意外とそうなるとしっくりこない感じもする。その [2] はいきなりガツガツ行く感じの曲ではないにも拘わらず、最初から緊張のオーラを発散、この日の燃焼度を予感させる。マイルスが、ショーターがハイテンションのソロを繰り広げ、デジョネットが小刻みかつうるさく盛り立てる。そのまま [3] になだれ込むと地元を意識した(?)ホランドのアグレッシヴなベース・ソロにチックが絡みつく。これぞロスト・クインテット、と言える演奏。[4] も作者チックが張り切るフリーな展開。このまま永遠に続いて欲しいと願いたくなるものの [5] で落ち着かせてクロージングに向かう(ただし [6] へのつなぎで編集あり)のもまた一興。 惜しむらくは、全体で37分という短さ。行ったことがあるロニー・スコッツだけに、あそこで演っていたのかと想像することでライヴ感を補間できるのも個人的な楽しみ。他にも良いモノがある中で最初に手を出す音源ではないけれど、マニアならは聴いて損はない。(2010年11月27日)

Complete Paris 1969 (Bootleg)

曲:★★★☆
演奏:★★★★★
音質:★★★★★ (Disc 1)
音質:★★☆ (Disc 2)
評価:★★★☆
[Recording Date]
1969/11/3

Disc 1
[1] Directions
[2] Bitches Brew
[3] Paraphernalia
[4] Riot
[5] I Fall In Love Too Easily
[6] Sanctuary
[7] Miles Runs The Voodoo Down
[8] The Theme

Disc 2
[1] Introduction
[2] Bitches Brew
[3] Agitation
[4] I Fall In Love Too Easily
[5] Sanctuary
[6] Masqualero
[7] It's About That Time
Miles Davis (tp)
Wayne Shorter (ts, ss)
Chick Corea (elp)
Dave Holland (b)
Jack DeJohnette (ds)
69年11月3日のパリ公演、ファースト・セットとセカンド・セットをカップリングしたブートレグ。Disc 1 は「Paraphernalia」 としてロスト・クインテットの古典的ブートだったもので、そちらを聴いたことがないから音質の比較はできないけれど、少なくともこのブートではオフィシャル・レベルにあると言える。演奏はいつになく落ち着いた感じ。物足りないと嘆かず、頭を切り替えてその分怪しいムードを楽しむべし。 [3] の音源はやはり珍しいなあと思っているとこのあたりから演奏のテンションが上がってくる。デジョネットが小刻みなシンバル・ワークでテーマを加速させ、そこにマイルスが乗っかってくると、シンバルをドッシャン、バッシャンと叩き始め、チックのエレピが縦横無尽に駆け抜け、ショーターのソプラノがブローし始める。それでも突き抜けきらないのがこの日のムード。音のバランス的にベースが引っ込み気味なのが個人的には残念とはいえ、安心して聴けるという意味ではロスト・クインテットのブートの中で上位に来るのは間違いない。 Disc 2 は 「Lost Quintet In Paris 1969 (Bootleg)」 と同じ音源で音質は若干良くなったかな程度。[5] の途中でヒスノイズが巨大になる部分がある点を除けば安定しているし、音のバランスが良い点は引き継がれているのでアップデート盤としての価値はある。ラジオのオンエアが音源らしく冒頭にイントロダクションがあり、[2] がフェードインしてくるところは従来と大差なし。演奏はファーストセットと比較にならないほど熱い。(2008年12月5日)

Lost Quintet In Paris 1969 (Bootleg)

曲:★★★☆
演奏:★★★★★
音質:★☆
評価:★★
[Recording Date]
1969/11/3

[1] Bitches Brew
[2] Agitation
[3] I Fall In Love Too Easily
[4] Sanctuary
[5] Masqualero
[6] It's About That Time
Miles Davis (tp)
Wayne Shorter (ts, ss)
Chick Corea (elp)
Dave Holland (b)
Jack DeJohnette (ds)
フェードインしてきて、いきなり"Bitches Brew"からスタート、つまりはライヴの途中からと思しき雰囲気ながら、このクインテットらしい激しい演奏が展開されている。特にショーターとデジョネットが暴れまくりで、うるさいことこの上なし(褒めているつもり)。音はかなりコモリ気味。ベースの音はかなり聴き取りづらく、この時期のブートの平均的な音質。ところが [2] 以降、いきなり音が急に軽くなってかなり辛いレベルに低下。[5] でようやく回復。演奏がかなり弾けていて物凄いことになっているだけに音質が悪いのが残念。上掲のアップデート盤がおすすめ。(2006年5月27日)

The Copenhagen Live 1969 (Bootleg)

曲:★★★★
演奏:★★★★★
音質:★★★☆
評価:★★★★
[Recording Date]
1969/11/4

[1] Directions
[2] Miles Runs The Voodoo Down
[3] Bitches Brew
[4] Agitation
[5] I Fall In Love Too Easily
[6] Sanctuary
[7] It's About That Time
                   〜 The Theme
Miles Davis (tp)
Wayne Shorter (ts, ss)
Chick Corea (elp)
Dave Holland (b)
Jack DeJohnette (ds)
コモリ気味のブートレグらしい音質ながらでもベースの音はそこそこ拾えていて、なんとか聴くに耐えるレベル。この日は、それはもう喧しいことこの上ないワイルドな演奏が実に素晴らしい。[6] でいつも通り終わるかと思えば [7] へ続き、濃い演奏がさらに展開される。このフリー・ジャズ化した [7] がこの日のハイライト。1枚モノで1ステージ完全収録であること、演奏内容が素晴らしいことから、音質さえ許容できればかなりお勧めできる。(2006年5月27日)
「Bitches Brew Legacy Edition」でDVDがオフィシャル・リリースされたので、オフィシャル・レベル(の割にはそれほど素晴らしくもないけど)で聴きたければ当然そちらを。映像を見ると、意外とみんな淡々とした表情でやっていて、パフォーマンスの熱さとのギャップが面白い。(2011年1月8日)

Swedish Devil (Bootleg)

曲:★★★★★
演奏:★★★☆
音質:★★★★
評価:★★★
[Recording Date]
1969/11/5

Disc 1 (1st set)
[1] Bitches Brew
[2] Paraphernalia
[3] Nefertiti
[4] Masqualero

Disc 2 (2nd set)
[1] Directions
[2] Bitches Brew
[3] This
[4] It's About That Time
[5] No Blues
[6] The Theme
Miles Davis (tp)
Wayne Shorter (ts, ss)
Chick Corea (elp)
Dave Holland (b)
Jack DeJohnette (ds)
最初にロスト・クインテットを聴いたのがこのブートレグだった。高音質で人気のブートとあって音はクリア。ただ、バランス的にベースとエレピの音が小さいのが僕の好みに合わない。あと、このブートの人気が高い理由はファースト・セットでチックがアコースティック・ピアノを弾いている、つまり全員アコースティック楽器を演奏している点にある。ピアノではバッキングでいつものようなウネりは作れないけれど、ソロを聴いているとまるでチックのリーダー・アルバム「The Song Of Singing」のような雰囲気になっていて、それはそれで面白い。尚、[3] に期待する人もいるでしょうが、スタジオ盤のあのムードには到底及ばないので別モノになっている。セカンド・セットは、曲目からしていつも通りの流れ。さて、世間ではロスト・クインテットの決定盤のように言われているこのブートレグではあるんだけれど、このクインテットにしては少々抑え気味なように感じることや、前述の音のバランスのせいで僕はあまり好きじゃない。(2006年5月27日)

Berlin 1969 (Bootleg)

曲:★★★★
演奏:★★★★★
音質:★★★★★
評価:★★★★★
[Recording Date]
1969/11/7

[1] Introduction
[2] Directions
[3] Bitches Brew
[4] It's About That Time
[5] I Fall In Love Too Easily
[6] Sanctuary
[7] The Theme
Miles Davis (tp)
Wayne Shorter (ts, ss)
Chick Corea (elp)
Dave Holland (b)
Jack DeJohnette (ds)
言うまでもなくブートレグの音質にはヒドイものが数限りなくある。ロスト・クインテットの音源はほとんどがブートレグで、残念ながら音質が良いものは非常に少なかった。そしてどういうわけか音が多少悪いときの演奏の方がテンションが高く聴こえるものが多いように感じてしまう。これをもって「実は音が少し悪い方が混沌さが醸し出されて演奏のテンションが高く感じるのではないか」という仮設が浮上。この仮設、かなり高い確率で当たっていると思っているんだけれどそんな疑問を払拭してしまうのがこのブート。音質は完全にオフィシャル級で、チックのエレピもベースの音もクリアに収録されているなどバランスが良く、ホールの空気感まで伝わってくるほどクリア。演奏のテンション、緊張感も申し分ない。約46分という収録時間が短いところが何とも惜しまれるけれど、その分気軽に手を伸ばせることもあって個人的にはロスト・クインテット音源の中での愛聴度は最上位に来る。とにかく安心して大音量で浸れる。これ以上何を望むことはない。感じ。「1969 Miles: Second Night (Bootleg)」「Double Image Updated Long Version (Bootleg)」を超えた!(2009年3月6日)

Rotterdam De Dolen (Bootleg)

曲:★★★
演奏:★★★☆
音質:★★★★★
評価:★★★
[Recording Date]
1969/11/9

[1] Introduction
[2] Directions
[3] Bitches Brew
[4] I Fall In Love Too Easily
[5] Sanctuary
[6] It's About That Time
[7] Masqualero
Miles Davis (tp)
Wayne Shorter (ts, ss)
Chick Corea (elp)
Dave Holland (b)
Jack DeJohnette (ds)
異様にテンションの低い司会に導かれて始まる [1] から、この音質はスゴイ。シンバル系の響きを表現する解像感、ドラムの皮をスティックで叩いている感触までもが伝わってくる、間違いなくロスト・クインテット史上最高音質のブートレグ。演奏曲目にも文句はなく、ロスト・クインテット最終公演を満喫できる・・・・と期待が膨らんで聴いていくんだけれど、どうにも盛り上がらない。司会者のムードに合わせてしまったのか演奏のテンションがこのクインテットにしてはイマイチ。更に個人的な好みの問題とはいえ、ベースの音が小さく、エレピの音も控えめなバランスであることが物足りなさに拍車をかける。しかし、[7] の演奏はスゴイ。これぞロスト・クインテット。だから余計に他の曲に不満が出てしまう。この落ち着いた演奏を好む人もいるかもしれないけれど、僕にとって、ロスト・クインテットは喧しいことこそが魅力のグループなので、この落ち着き加減はちょっと不満。(2006年8月18日)