ゴルディオンクラッシャー

 正式名称はグラヴィティショックウェーブジェネレイティングディビジョンツール。新型ディビンジョンフリートタケハヤツクヨミヒルメの三艦が変形合体して完成する全長およそ1kmの超巨大金槌型ツールである。その機能は超拡大されたグラヴィティショックウェーブジェネレイティングツールと端的にいえるが、展開される重力衝撃波フィールドは全長20kmにも達する究極の広域破壊ツールなのだ。その意図するところは、Zマスター級の超大型敵性体に対する決戦兵器であるとされている。
 起動に際しては国連事務総長の承認と、GGG長官によるフォーメーションGの発令が必須である。これに長官とメインオーダールーム常駐オペレーターの一人、この場合GGG研究開発部オペレーターチーフであるスワン・ホワイトに分割委託された発動キィである「勝利の鍵」を音声コード入力と共に専用セーフティーデバイス端末に差込み、回転させ、更に基部となるタケハヤに搭載された超AIが起動して、多次元コンピュータに記録された現状を超高速解析し、使用にあたる状況かどうかの判定もなされる。それらを経て初めて起動が開始されるのである。こうした厳重なセキュリティが施されているのは、ひとえに、このツールの破壊力が極めて強力で広域的なものであるからに他ならない。Zマスター級の超巨大敵性体とは、すなわち惑星級のサイズを想定しており、この殲滅に使用しうるということは地球すら破壊可能な危険性を秘めているのだ。
 起動すると基部、およびスーパーメカノイド接続部となるタケハヤ、ヘッド下部となるツクヨミ、そしてヘッド上部および重力衝撃波フィールド展開ベースに分離するヒルメの三艦が展開を開始、ドッキングする。三艦の乗員は総員がタケハヤに移乗、装備された先行偵察艇兼脱出艇であるクシナダで機能影響圏外へ脱出する。続いて基部底面からコネクト部が展開される。この部分には最も物理的負荷がかかるため、ゴルディーマーグの頑強な機体構造を参考に設計がなされており、またツール制御用の超AIもここにコネクトされる予定であった。しかし、GGGの三重連太陽系遠征に前後してツール制御用の超AI、すなわちゴルディーマーグが大破する事態が起き、急遽AIブロックを直接組み込むことでツール制御を行う仕様となっている。ここにスーパーメカノイドがコネクトする事によってゴルディオンクラッシャーは最終起動を果たし、ツールのヘッド上部が八基の重力衝撃波フィールド展開ベースに分離、全長20km、全高、全幅10kmの直方体型重力衝撃波フィールドを展開する。これをゴルディオンハンマー同様に目標に叩きつけることで、対象に超極小時間のうちに、無限に近い加速度を与えて光子レベルの崩壊を誘発させるのである。ゴルディオンハンマーと同様に、理論上これに耐えうる物質は存在しない。更に出力レベルだけを見ても、三基のディビジョンフリートのGSライドと直結されたレプトントラベラー全出力という莫大なエネルギィを得ており、これにより発生する重力衝撃波フィールドの光子変換効率はゴルディオンハンマーを遥かに上回っている。これに加えて、全長1kmという超巨大な本体の質量そのものが武器となり、このツールに対する防御を更に困難なものにしているのである。しかし、フィールド内に圧縮されているとはいえ、発生する重力衝撃波の影響は、かつてのそれとは比較にならないほど広域化しており、ゴルディオンハンマーの際にはメカノイドサイズであった緩衝ユニットも、ゴルディオンクラッシャーにおいては全長およそ1kmのツールそれ自体が緩衝ユニットを兼ね、主に後方に対する重力衝撃波の影響を防いでいる。
 これだけ巨大な破壊力を行使する必要性は、地球圏における治安維持活動ではまず起こりえなかったため、その起動キィ自体が日本の宇宙開発公団アメリカGGGに分割保管されている状態にあった。これだけの規模のものを試験運用できるはずもなく、造りはしたものの果たして実用することがあり、更には実用に耐えうるのかという疑問が、存在しなかったわけではない。またセキュリティが完備されているとはいえ、全人類を脅かしかねない強大な破壊力を、国連下部のものとはいえ、一組織に与えてよいものだろうか。GGGのクーデターに対する国連最高評議会の反応は決して過敏に過ぎるものではなく、ゴルディオンクラッシャーの存在が念頭にあればこそのものであったのだろう。
 ゴルディオンクラッシャー建造の底辺にあったのはZマスター級の脅威に対する恐怖と機界文明を完全に廃滅せしめたことへの傲慢であったのだろうか。核反応兵器がいかに強力なものとはいえ、それは地球の表面を焼くにすぎないものであったのが、人類はそれを更に超克して地球そのものを消し去ることさえ可能な兵器を生み出してしまった。より強い脅威に対してはより強い力を。それは、かつての軍拡競争を星間レベルで再現しているにすぎないのかもしれない。