技能士試験
労働省かどこかの国家資格で技能検定試験というのがあり、左官、鉄工、建築大工、鳶、などと並んで造園技能士試験が毎年一度夏に実施されている。3級から1級まであり、合格すればそれぞれの技能士の称号をもらえる。いわば職人の検定試験だ。
造園は真夏の暑い盛りに実技作業を行うのでどんなタフな奴でもバテる。救急車で運ばれたものもいて、数年前から途中10分間の休憩を入れるようになった。(この休憩は実施都道府県によってないところもある)
内容はこんな感じだ。(1級の場合)
縦2m、横3mの水糸で仕切られた地面に、高さ1m、幅1.5m三段の建仁寺垣を作り、その手前に蹲踞(つくばい)、筧(かけひ)、飛び石、延段(のべだん)を設置する。延段横の空いた空間に大中小の景石を据え、1.8mのツバキ1本、30cmのサツキ3株、その他ヤブラン、タマリュウ等の下草を植栽する。竹垣から延段までは施工図通りの寸法で仕上げ、延段横の石組と植栽は自由配置とする。自由配置はデザインセンスを問うてもいる。
これらの作業は3時間以内で行う。30分までの延長は認められるが、延長に応じて大幅に減点される。おおよそ1時間半後の休憩まで竹垣を仕上げて、蹲踞の役石(前石、湯桶石、手燭石)の設置に掛かっていなければ時間内には終わらない。竹垣設置60分、蹲踞設置30分、飛び石・延段設置50分、景石・植栽30分、仕上げ・清掃10分。この時間配分を目安に、ひと月前から毎日仕事終わりに会社の材料置場で練習した。夕暮れる頃には藪蚊の大群が襲うので、あちこちに蚊取り線香を立てる。夏は大体7時頃に日が落ちるが、7時半くらいまでねばる。練習を開始できるのが6時くらいだから、丁度、試験時間の半分、1時間半の練習が出来る。初めは竹垣を仕上げるのがやっとで、延段作りも同じくらいの時間がかかった。延段は目地が常にズレこむように石を組み合わせなければならない。いわゆる芋目地、八巻きにならないようにする。夕暮れに、五郎太石を並べて地面を突き、土埃にまみれて目を上げるともう真っ暗で月が出ている。
本試験は県の技術専門学校で行う。午前の部と午後の部があり、午後組になると午前組の試験の模様を見学できる。早めに行って、この様子をよくチェックしておくことが大事だ。県によって仕様書の解釈がまちまちで、仕様書通りに仕上げても、その県の判定基準と合わない場合がある。それだけ仕様書の記述が曖昧だということでもある。事前の講習会に出席していればある程度の情報が手に入るが、仕事の都合等でそれが叶わぬ場合は、かなりの不利になる。その県の造園組合に入っていないと合格は難しいという所もあるらしい。国家試験であるにも関わらず不透明な部分だ。
ところで技能士試験はこの実技作業だけで終わりではない。要素試験と言って、造園の場合、竹筒に入れられた20種類の枝葉の名を当てる試験が別の日にある。この枝葉は、特徴のある花や実がすべてもぎ取られており、試験日が真夏ということもあってか殆ど萎びている。手を触れても匂いをかいでもいけない。1樹種につき30秒の判定時間しか与えられない。よほど慣れた樹でないと見分けがつかない。それから四択と○×式の学科試験がある。これは過去問を一通りやれば間違いなく合格点は取れる。出題パターンが4パターンくらいしかなく、そのパターンを組み合わせた問題が出る。少しもひねっていない。毎年まったく同じ問題である。
以上の3種類の検定試験が日時を替えて行われる。
去年は学科のみで実技と要素は落ちた。
くやしくて唸った。
今年は去年の倍練習した。
そんなこんなでなんとか1級造園技能士となったのである。うれしくて早速独立用の名刺を作り、肩書きにそれを加えて悦にいっている。
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