現場日記13【蝦蟇】
庭の掃除は這いつくばってやる。剪定した枝葉のつっかかりをよく落とし、クマデや竹箒で大ゴミを出した後、木の下や灯篭の下、竹垣の後ろなどに入り込んだゴミやホコリを手製のホウキで掃き出す。手製のホウキとは、古くなった竹箒をばらし、細い穂先だけを針金で束ねたもの(コボーキと呼んでいる)や、庭箒の柄をノコギリで切って首だけの状態にしたもの(クサボーキと呼んでいる)で、これがないと本当の掃除はできない。庭の掃除は這いつくばってやる。植木鉢や重ねてある瓦、石などは転がしてその裏まで掃除する。剪(はさ)むより掃除の方が手間がかかると言ってもよい。植木屋になって数年はみっちりこの掃除を仕込まれる。葉っぱ一枚落ちていてはいけない。足跡を残してもいけない。だからいつも後ずさりしながらやる。庭の掃除は這いつくばってやる。何年も通っているお庭だと、四つん這いになりながら後ずさり、この辺になんの枝があり、この幹の脇にはこのくらいの石があり、窪みがあるということを身体が覚えている。クマデや竹箒やブロアー(送風機)で済ませた掃除は、剪定がいくら綺麗に仕上がっても、庭全体の空気が違う。香らないのだ。
つくばいなどの水周りを掃除していると、手のひらもある蝦蟇がのそりと這い出してきてぎょっとさせられる。古い庭には必ずと言ってよいほどいる。軍手でそっと抱えて邪魔にならないところに移動願う。タケさんは猪の首でいつも右肩をひくひくさせている50歳後半の気のいい独身男で見事な掃除をする職人だけれど、蝦蟇だけはどうにも駄目で、うっ、と絶句したまま動かなくなる。虫や蛇は平気なのに蝦蟇は駄目だ。
植木屋になりたてのころ、庭の池に蝦蟇の屍骸が浮いていた。オタマジャクシがたくさん泳いでいて、母親の身体をついばんでいた。こんなことどもが少しずつ自分に元気をくれたのだ。
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