現場日記17【春一番】
今日は近くの中学校の剪定。十時頃まで冷たい雨が降る中、ツゲの玉仕立ての刈込みをする。長年上っ面の刈込みだけで済ませているから、綾枝がからんでどうしようもない。濡れた玉のなかに手を入れて、ひとつひとつ絡み枝を抜く。ざざと抜くたびに密度がひらかれ光が入る。次はサザンカ。教頭が素人手入れをして痛々しい。できるだけ花蕾を残して透かし、柔らかく放ってやる。「わが生は 下手な植木師らに あまりにはやく手を入れられた悲しさよ!」中也の詩がうかんだ。
午後から晴れると同時に突風がふく。春一番だという。三階の校舎の屋上より高く伸びたクスノキの強剪定。校舎に影になるのでさっぱり枝下ろししてくれと。雨で濡れた大楠の幹肌にかじりつき、少しのこぶをたよりに登る。窓内では管弦楽部の女の子たちがバイオリンやフルートの練習に余念がない。突風。組織の淡いクスの枝葉が大騒ぎする。樹冠近くの木の股の、鳥の古巣を払い、足股を差し入れて木と一体化しながら一緒に揺れ、収まるのを見計らって腕を伸ばして枝を抜いてゆく。太枝を抜くたびに風が弱まるような気がする。けれど油断した体にまた突風が来る。必死で木にかじりついているオヤジとは無関係に楽譜を追っている少女らが窓際に並んでいる。こちらも懸命だ。産毛の残るうなじ。オヤジはもう足が震えている。
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