現場日記15【植栽屋】
簡易便所の水が凍ってペダルを踏めない。日陰の地面の霜柱がいつまでも溶けずにサクサク音を立てる。厚手の靴下を二枚重ねにしても寒さは芯をとおる。ヤッケのフードを立て、その上からヘルメットを被る。これで耳から首すじの寒さは守られる。ニッカボッカのポケットをまさぐり、携帯の液晶で時刻を確認する。まだ昼には早い。軍手の甲で鼻をすすり、スコップを握りなおす。ほとんど粘土の地面はスコップを一刺しするごとに「ばふ」という音を立て懸命に空気を取り込もうとする。へばりついて離れない「糞」を近くに置いたガラに叩いて落とし、腰を入れ、また突き刺す。隣でブロック屋が目地直しをしている。毛糸の帽子の上にヘルメットをかぶるからコーンヘッドのように頭が高い。セメント粉にまみれた安全靴をにじらせながら下の段の目地をやる。サッシ戸の中から掃除屋がブロアでほこりをふきだして辺りを白くする。自分の髪も眉も真っ白だ。時おり報知器の作動確認音がなり、上のほうの階から内装屋のかけるラジオの音がする。産廃屋のトラックが来てガードマンが誘導している。コンテナごと入れ替えてまたどこかへ去ってゆく。ペンキ屋が立体駐車場のペンキの補修をしている。タイル屋が監督に外壁のタイルのゆがみを指摘され苦い顔をしている。配管屋は散水栓のバルブの開け閉め。電気屋は配電盤のチェック。マンション工事。おれは植栽屋。昼までに植え穴を掘り終え、鳥居を打ち込んだら、クスから立ててこよう。
2001/01/16
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