現場日記9 【蟷螂(カマキリ)】
草刈りをしていると色々な虫が飛び出してくる。ねぐらを蹂躙して悪いなと思いながらも、手は休めない。夏のあいだ茫々に伸びた草も、秋の斜めの日差しの中で、静かに成長を止め朽ちようとしている。チップソーでヒマラヤスギの根元を傷つけないよう注意深く刈る。木は表皮のすぐ下で生命維持をしているので、皮を一周めくってしまえばそれで枯れる。大木をクレーンで吊り上げている時など、よく養生してから吊らないと、木肌をめくってしまう。そうなればもう駄目なのだ。
ヒマラヤスギの幹にカマキリがいた。逆さまに張り付いて踏ん張りながら、その鋭い両手の鎌で何かを掴んでいる。よく見るとキリギリスで、もう下腹部だけになっている。カマキリの口の端からはキリギリスの細い足が出ていて、舐(ねぶ)るごとにくるくると回る。くるくる回しながら大きな目でこちらを見ている。キリギリスの腹はまだ動いている。虫の心臓は腹にあるのか。腹の断面。虫は赤い血を流さない。無言で食べられ無言で食べている。無言の野。おれを威嚇し。