このコラムは、川崎哲氏(ピースボート地球大学)によるもので、
「被団協」新聞に2004年6月から掲載されています☆☆
3月、「核兵器のない世界」に向けた国際賢人会議の最終会合が開かれ、提言が発表された。2022年に当時の岸田首相が立ち上げた専門家会議である。
提言が掲げた「中核的な原則」には、国際法の遵守といった基本原則と並んで「全ての国は、核兵器への依存から脱却するために努力し続けなければならない」と明記された。「核抑止が安全保障の最終的な形態であるとこれまで示されたことはなく、またこれからもそうあってはならない」とも述べている。政府主催の会議が核抑止からの脱却を明確に掲げたことは重要だ。
ただし具体的な提言は、核兵器を使わせない、あるいは増やさないといった事項に偏っており、軍縮への切り込みは甘い。
外務省は、核抑止からの脱却はあくまで「最終形態」だと説明している。今からどんな行動を起こせるか、国会において真摯に議論すべきだ。
核兵器禁止条約第3回締約国会議では「核抑止」を厳しく批判する宣言が採択された。宣言は「核抑止とは核リスクを前提としたものであり、すべての者の生存を脅かしている」と指摘し、「核兵器を持っているかどうか、核抑止政策に与しているか反対しているかにかかわらず、すべての国の安全を脅かしている」と強調している。
日本を含め、この条約に不参加の国々は核抑止が安全保障に不可欠だという。欧州では、米新政権が信用できないから代わりに仏英が「拡大核抑止」を提供するという議論まで出ている。核抑止の評価をめぐる対立点が鮮明になってきた。
オーストリアは核兵器がもたらす「安全保障上の懸念」に関する数十頁の報告書を出して、核抑止のリスクを丁寧に論じた。これをもって核に依存する国々とも議論をしていきたいとしている。日本でも正面から核抑止を議論すべき時だ。
核兵器禁止条約第3回締約国会議について首相が「不参加の意向」と最初に報じたのは1月25日の読売で、その夜NHKが「代わりに与党議員を派遣する方向」と報じた。この時点で自民党内では議員を派遣する案が実際に検討されていた。
2月4日の会見で自民党の森山幹事長は党の議員を派遣しないと明言した。この背景について共同通信や中国新聞は、首相からの検討指示を受け森山幹事長が岸田前首相と麻生元首相に意向を確認したところ、両氏とも反対だったので派遣しないとの結論に至ったという。核軍縮がライフワークと言っていた岸田前首相が党議員の派遣にも反対したとすれば重大な問題であって、本来メディアは岸田氏に公開取材を申し込むべきところだ。現首相が一歩踏み出すのを前首相が止めたという構図も醜悪であり、自民党による政策決定のあり方そのものを問わねばならない。
日本被団協へのノーベル平和賞授賞式があった12月10日、カナダ議会では一本の動議が全会一致で可決された。被団協の平和賞受賞を祝福しカナダ政府に核兵器禁止条約への「関与」を求めるものだ。
その内容は@日本被団協がノーベル平和賞を受賞したことを評価する A被爆者が長年たゆまず、核兵器使用がもたらす壊滅的な人道上の結果についての世論喚起をしてきたことに感謝する B彼らのメッセージは、核の脅威が差し迫った今日において重要な意味をもつ C核軍縮は世界の平和と安全に向けて重要な措置であることを確認する D政府に対し、核兵器禁止条約へのさらなる関与を含む具体的な措置をとることを奨励する。
核兵器禁止条約への「関与」とは、オブザーバー参加を求める趣旨と解することができる。日本の国会においても、同様の国会決議を与野党で上げるべきではないか。