基本行列 : トピック一覧

【定義】

 ・基本行列[type1/2/3] 

【性質】

 ・基本行列と基本変形の対応
 ・基本行列の正則性と逆行列
 ・基本行列の積の正則性と逆行列 

【関連ページ】

 ・行列の基本変形/掃き出す/階数 



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定義:基本行列 elementary matrix  

  [永田『理系のための線形代数の基礎』1.7(p.39);藤原『線形代数』2-3(pp.37-46);
  斎藤『線形代数入門』2章§4(pp.46-47);ホフマン・クンツェ『線形代数学I』1.3(pp.6-7)。
  志賀『線形代数30講』11講(pp.71-74);19講(pp.121-125);20講(p.129)]

(舞台設定)  
K:(例:有理数をすべてあつめた集合Q、実数をすべて集めた集合R、複素数をすべてあつめた集合C) 
A:K上の(m,n)型行列 
(本題)
K上のn次基本行列とは、次の3つのtypeの「K上のn次正方行列」のこと。 

・基本行列type 1:Pn ( i, j, ci,j  ) 

  [永田『理系のための線形代数の基礎』1.7(p.39);藤原『線形代数』2-3(pp.37-46); 斎藤『線形代数入門』2章§4(pp.46-47);ホフマン・クンツェ『線形代数学I』1.3(pp.6-7)。]

 ・「K上のn次単位行列」の非対角成分の一つを、ci,jKで上書きしてつくった「K上のn次正方行列」。
 ・詳しく言えば、基本行列 Pn ( i, j, ci,j  ) とは、以下の3条件をすべて満たす「K上のn次正方行列」。  
   条件1:すべての対角成分が「Kにおける乗法の単位元『1』」であり、
   条件2:ある一つの( i, j )成分[ただしi≠j ]がci,jK、   
   条件3:上記の( i, j )成分を除く非対角成分がすべて「Kにおける加法の単位元『0』」 

  ・j<i である場合の基本行列 Pn ( i, j, ci,j  ) の例

          
  ・i<j である場合の基本行列Pn ( i, j, ci,j  ) の例
          

 ・K上の(m,n)型行列Aに、右からn次基本行列type 1 Pn ( i, j, ci,j  ) をかけると、(m,n)型行列A列基本変形type1を施したことになる。 
  ※本当?→証明  
 ・K上の(m,n)型行列Aに、左からm次基本行列type 1: Pm ( i, j, ci,j  ) をかけると、(m,n)型行列A行基本変形type1を施したことになる。
  ※本当?→証明  
 ・n次基本行列type 1: Pn ( i, j, ci,j  ) は正則行列。その逆行列は、n次基本行列type 1: Pn ( i, j, ci,j  ) 。 
  ※本当?→証明  



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・基本行列type 2:Qn ( i, j ) 

  [永田『理系のための線形代数の基礎』1.7(p.39);藤原『線形代数』2-3(pp.37-46);
  斎藤『線形代数入門』2章§4(pp.46-47);ホフマン・クンツェ『線形代数学I』1.3(pp.6-7)。]
 ・「K上のn次単位行列」の二つのを入れ替えてつくった「K上のn次正方行列」。
 ・詳しく言えば、以下の4条件をすべて満たす「K上のn次正方行列」。  
  条件1:対角成分のうち、( i, i )成分( j, j )成分[ただしi≠j ]の二つが「Kにおける加法の単位元『0』」。 
  条件2:上記の( i, i )成分( j, j )成分の二つを除くすべての対角成分が、  
       「Kにおける乗法の単位元『1』」。  
  条件3:非対角成分のうち、上記のi , j に応じてきまる( i, j )成分( j, i )成分の二つが、  
       「Kにおける乗法の単位元『1』」。   
  条件4:上記の( i, j )成分( j, i )成分を除く非対角成分がすべて「Kにおける加法の単位元『0』」。   
 ・i<j である場合の基本行列 Pn ( i, j, ci,j  ) の例
          
 ・K上の(m,n)型行列Aに、右からn次基本行列type 2: Qn ( i, j ) をかけると、
  (m,n)型行列Aに列基本変形type2を施したことになる。 
  ※本当?→証明 
 ・K上の(m,n)型行列Aに、左からm次基本行列type 2: Qn ( i, j ) をかけると、
  (m,n)型行列Aに行基本変形type2を施したことになる。 
  ※本当?→証明 
 ・n次基本行列type 2:Qn ( i, j ) は正則行列で、その逆行列も、n次基本行列type 2:Qn ( i, j )。 
  ※本当?→証明 



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・基本行列type 3:Rn ( i, c ) 


 ・「K上のn次単位行列」の対角成分の一つを、cKで上書きしてつくった「K上のn次正方行列」。

 ・詳しく言えば、以下の3条件をすべて満たす「K上のn次正方行列」。  
  条件1:ある一つの対角成分( i, i )成分cK。 
  条件2:上記の( i, i )成分を除くすべての対角成分が、「Kにおける乗法の単位元『1』」。  
  条件3:非対角成分がすべて「Kにおける加法の単位元『0』」。   
           
 ・K上の(m,n)型行列Aに、右からn次基本行列type 3: Rn ( i, c ) をかけると、
  (m,n)型行列Aに列基本変形type3を施したことになる。 
  ※本当?→証明    
 ・K上の(m,n)型行列Aに、左からm次基本行列type 3: Rn ( i, c ) をかけると、
  (m,n)型行列Aに行基本変形type3を施したことになる。 
  ※本当?→証明    
 ・n次基本行列type 3: Rn ( i, c ) は正則行列で、その逆行列は、n次基本行列type 3: Rn ( i, c−1 ) 。 
  ※本当?→証明 

【文献】
 ・永田『理系のための線形代数の基礎』1.7(p.39)
 ・藤原『線形代数』2-3(pp.37-46)
 ・斎藤『線形代数入門』2章§4(pp.46-47)
 ・ホフマン・クンツェ『線形代数学I』1.3(pp.6-7)。
 


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定理:基本行列と基本変形の対応関係    

  [永田『理系のための線形代数の基礎』1.7(p.39);藤原『線形代数』2-3(pp.37-39);斎藤『線形代数入門』2章§4(pp.46-47);]

(舞台設定)

K:(例:有理数をすべてあつめた集合Q、実数をすべて集めた集合R、複素数をすべてあつめた集合C) 
A:K上の(m,n)型行列 
 
(本題) 

K上の(m,n)型行列Aに、右からn次基本行列type 1Pn ( i, j, ci,j  ) をかけると、
 (m,n)型行列Aに列基本変形type1を施したことになる。 
  ※本当?→証明  
K上の(m,n)型行列Aに、左からm次基本行列type 1Pm ( i, j, ci,j  )をかけると、
 (m,n)型行列Aに行基本変形type1を施したことになる。
  ※本当?→証明  
K上の(m,n)型行列Aに、右からn次基本行列type 2Qn ( i, j )をかけると、
 (m,n)型行列Aに列基本変形type2を施したことになる。 
  ※本当?→証明 
K上の(m,n)型行列Aに、左からm次基本行列type 2Qn ( i, j )をかけると、
 (m,n)型行列Aに行基本変形type2を施したことになる。 
  ※本当?→証明 
K上の(m,n)型行列Aに、右からn次基本行列type 3Rn ( i, c ) をかけると、
 (m,n)型行列Aに列基本変形type3を施したことになる。 
  ※本当?→証明    
K上の(m,n)型行列Aに、左からm次基本行列type 3Rn ( i, c )をかけると、
 (m,n)型行列Aに行基本変形type3を施したことになる。 
  ※本当?→証明   
 

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定理:基本行列の正則性と逆行列   

   [永田『理系のための線形代数の基礎』1.7(p.40);斎藤『線形代数入門』2章§4(pp.46-47);] 
n次基本行列type 1Pn ( i, j, ci,j  ) は正則行列。その逆行列は、n次基本行列type 1Pn ( i, j, ci,j  )。 
  ※本当?→証明 
n次基本行列type 2Qn ( i, j )は正則行列で、その逆行列も、n次基本行列type 2Qn ( i, j )。 
  ※本当?→証明     
n次基本行列type 3Rn ( i, c )は正則行列で、その逆行列は、n次基本行列type 3Rn ( i, c−1 ) 。  
  ※本当?→証明  
 

定理:基本行列の積の正則性と逆行列   

 n次基本行列A,Bの行列積ABは正則行列であって、(AB)-1=B-1A-1 。 
(証明)  
 ・n次基本行列A,Bは、その定義により、n次正方行列である。…(1) 
 ・n次基本行列A,Bは、正則行列である。() …(2)    
 ・定理n次正方行列A,Bが正則行列ならば行列積ABも正則行列であって、(AB)-1=B-1A-1 」…(3)  
 ・(1)(2)より、n次基本行列A,Bは、(3)の条件を満たす。
  ゆえに、n次基本行列A,Bの行列積ABは正則行列であって、(AB)-1=B-1A-1  



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(reference)

日本数学会編集『岩波数学辞典(第三版)』 岩波書店、1985年、項目83行列D行列の階数(p.220)
線形代数のテキスト
志賀浩二『数学30講シリーズ:線形代数30講』朝倉書店、1988年、11講消去法と基本変形(pp.71-74);19講正則行列と基本行列(pp.121-125);第20講基本変形(p.129)。
ホフマン・クンツェ『線形代数学I』培風館、1976年、2.3基底と次元(pp.41-50)。
永田雅宜『理系のための線形代数の基礎』紀伊国屋書店、1986年、1.3ベクトル空間(pp.14-6)。
佐武一郎『線形代数学(第44版)』裳華房、1987年、Vベクトル空間§6ベクトル空間の公理化(p.115)。線形従属・独立については、数ベクトルに限定?
藤原毅夫『理工系の基礎数学2:線形代数』岩波書店、1996年、4.1線形空間と写像(p.91)。 線形従属・独立については、数ベクトルに限定?
斎藤正彦『線形代数入門』東京大学出版会、1966年、第4章§2線形空間(p.96):実線形空間・複素線形空間のみ;附録V§2体(p.249)。