MISTRAL
Shooting Star
夜空に輝く美しい星。
星空を横切る儚い流れ星。
偶然流れるのを散在流星。決まった時期に決まった方角から流れるのを流星群という…。
「ねーねー、ロザリア。口紅って、どうやって選んでる?」
土の曜日のティータイム。お忍びで街にショッピングに来ていた現女王ロザリアとその補佐官アンジェリークはメイン通りから少し外れた所にあるカフェでお茶を楽しんでいた。
「?何よ、急に…」
突然のアンジェリークの問いに、ロザリアは戸惑う。いつもアンジェリークの質問は唐突だ。
「だって、ロザリアって大人っぽいでしょ?それに…女王様になってから、前より綺麗になったし…。私もせめてメイクくらい大人っぽくしたいなって思うんだけど…」
アンジェリークはカフェオーレのカップに口を付ける。
彼女は彼女なりに悩んでいるようだ。
「…そりゃ、あなたに比べたらこの私の方がスタイルも顔も勝ってるけど。大人っぽく見られたいってこととは違うんじゃなくて?みんないつか大人になるんだし。無理に彼に合わせる必要はないと思うわ」
ロザリアがさりげなく言葉にした『彼』という言葉に反応して、アンジェリークは頬を染めた。
「え?何でロザリア…」
「あなたの考えることなんてお見通しよ。ほんと単純なんだから」
「そっか…」
シュンと肩を落とす親友に、ロザリアは優しい笑顔を向けた。
「あなたも…綺麗になったと思うわ。お世辞じゃなくてね。やっぱり、愛されてるって自覚があると綺麗になるものよね」
アンジェリークは、なんて答えていいのか分からずに耳まで赤くなる。
クラヴィスにキスされた瞬間のことを思い出しているのかもしれない。
「ちょっと、なんでそんなに赤くなるのよ?こっちが恥ずかしくなるじゃない」
ロザリアも慌ててミルクティーのカップに手を伸ばした。
「有り難う、ロザリア。やっぱり好きな人には綺麗な自分を見せたいもの。実は、今度オリヴィエ様御用達のエステサロンに行こうかと思ってるんだけど、一緒に行かない?」
「そうね。まだ十代の私達が、ストレスでお肌ボロボロになんかなったらショックで立ち直れないわ」
「…確かに。今度予約しておくね。それより、口紅の話。明日デートなの。いつもと色変えたら、気付いて貰えるかしら?」
「うーん」
ロザリアはちょっと考えるように視線を泳がせた。
「気付くんじゃないかしら。顔、間近で見る訳だしね?」
アンジェリークに顔を近付けて、人差し指を彼女の鼻の頭に乗せた。
「ロザリア!」
慌てるアンジェリークを見て、ひとしきり笑ってからロザリアは口を開いた。
「…ほんと、あなた見てると飽きないわ。口紅だったわね。そうね、私はカップに付かないように気をつけてるけど余りすぐに落ちない方がいいと思うわ。色は…まあ、服によるけど」
「…そーね。落ちない口紅か…」
…確かにキスした後に彼に付いた口紅というのは余り好ましくない。ただ、男らしい顔立ちの彼なら似合わないがアンジェリークの彼の場合は逆で…。
「…キスして付いた口紅っていうのも、艶っぽいかもね。クラヴィスの場合」
ドキン。
思ってたことを先に言われてしまい、思わずロザリアから視線を外してしまう。
「…ロザリアの意地悪」
「綺麗な彼を持つからよ。ま、ウチの守護聖は顔で選んだのかと思う程イイ男ばかりだけどね」
ウィンクして見せるロザリアは何だか楽しそうだ。
「うん」
「それはそうと、買いに行くんでしょ?口紅。付き合ってあげるわ」
「ありがとー」
デート当日の朝。アンジェリークは鏡の前で悩んでいた。
「…結局、二本も買っちゃった」
ローズピンクとローズレッドの二本を並べて溜め息を付く。一晩考えたが、結局どちらにするか決まらなかったのだ。
「今日はどこに行こう。大観覧車、映画館、レストラン…」
アウトドア派でない彼を連れ出す場所はかなり限られてくる。
部屋で話をするのも楽しいが、一応補佐官になった時点で公認されたのだ。人前で腕を組むのまでは、主座の守護聖ジュリアスも承認済みだ。
「なんて、考えてる場合じゃなかった。着替えなくちゃ」
アンジェリークは、白いファーのケープに合うワンピースを探し始めた。
「やっぱり、赤のワンピかなー。でも、裾にふわふわ付いててドレスっぽいかも。普通のデートにこれ着るの恥ずかしいし、こっちの明るい紫のワンピはほとんどイブニングドレスだし…」
補佐官の立場上、公式の場に出ることが多くなったアンジェリークは今まであまり着たことの無かったドレスが増えていた。
ピンポーン。
その時、突然チャイムが鳴った。
「?まさか、クラヴィス様…じゃないわよね。待ち合わせまで一時間以上あるし」
いつも待ち合わせ前に迎えに来て貰う為、今日こそは早く出ようと準備中なのだ。
「…私だ」
ドキッ!
艶のある低い声が扉の向こうから聞こえる。
「え?クラヴィス様?待ち合わせまでまだ一時間以上あるんですけど…」
アンジェリークは、遠慮がちに扉から顔を出した。
「今日の行き先を伝えていなかったのでな。お前が家を出る前にと思って寄ったのだ」
そう言って優美に微笑むクラヴィスは、黒いタキシード姿で立っていた。
「今日の行き先?もしかして、舞踏会とか?」
アンジェリークは、クラヴィスの服を見て思わずそう訊いた。
「いや…演奏会だそうだ」
クラヴィスは、リュミエールに貰ったという演奏会の招待状をテーブルの上に置いた。
「わあ、リュミエール様も演奏なさるの?」
「…そのようだ。公式の場では無いが、略式の礼装の方が良いかと思ってな」
「それじゃ、ドレス着て行ってもいいですか?」
アンジェリークはパタパタと寝室に戻って、先程の2着を持ってきた。
赤いベルベット地のベアトップワンピース。裾に白いファー付きで、肘まである手袋とセットになっている。
もう一つは、明るい紫色のシルク地にオーガンジーを重ねた二重のノースリーブワンピース。裾の前側が短く後ろ側が長くなっているタイプで、銀糸の刺繍が胸元を飾っている。
「ね、クラヴィス様。どっちがいいと思います?」
ハンガーに掛かったままの2着を胸に当ててターンをして見せる。
「薄着をすると風邪を引くぞ」
クラヴィスは思わず口許を綻ばせた。
「じゃ、こっちの赤い方かな。手袋付いてるし。すぐ着替えてきますね」
「ああ」
寝室に向かったアンジェリークは五分程で戻ってきた。
チェリーレッドのベアトップワンピース。ウエストには革紐の先に白いファーで出来たポンポンが付いている。長い手袋で肘まで隠れてはいるが、露出している肩と首が服の色と対照的に白い。
メイクはまだだがローズレッドの口紅だけ付けている。
「…どうですか?似合います?」
クラヴィスの視線が上から下へ移動するのに気付き、アンジェリークは僅かに首を傾げた。
「…美しいな」
クラヴィスは眼を細めてアンジェリークを見つめた。
「あ、有り難うございます」
アンジェリークはクラヴィスに見つめられ、頬を染めて俯いた。
”思ってもいない事を言う程器用じゃない”というクラヴィスが言ったという事は、本心からそう思っているのだろう。
「あの、ちょっとメイクしてきますから、あと十分だけ待って…」
そう言って見上げたアンジェリークは、突然クラヴィスの腕の中に包まれた。
「??」
一瞬何が起こったのか分からなくて、戸惑うアンジェリークの耳許にクラヴィスはそっと唇を寄せた。
「…初めて見る色だ。…出来れば私以外の者に見せたくないな」
ドキン…。
吐息混じりの囁きに、アンジェリークの心臓が大きく脈打った。
相手にも伝わりそうな程の鼓動…。
“初めて見る色”というのが、口紅のことかドレスのことなのか…。
クラヴィスは抱き締める手を緩めてアンジェリークを見つめた。
長い指先をそっと愛しい少女の頬に添え、僅かに上向かせる。目を閉じた少女の唇に口付けて左手で腰を引き寄せた。
珍しく感情的な態度に驚きながら、アンジェリークはクラヴィスの背中に腕を回した。
クラヴィスの右手が頬から後頭部に周り、金の髪に埋もれる。
クラヴィスは触れるだけのキスから深い口付けへと誘った…。
「…朝から大人のキスはハード過ぎません?」
アンジェリークは”大人のキス”に応えた照れ隠しに拗ねて見せた。
「では、昼なら良かったのか?」
クラヴィスは微笑して、アンジェリークの顔を覗き込む。
正午まであと数分…。
「…もう知りません!」
背中を向けたアンジェリークをクラヴィスは後ろから抱き締めた。
「…今夜、私の邸に招待したい。明け方に美しい流星群が見られるそうだ」
甘く響く低音の声…。
黙っている少女の耳許に、更に声のトーンを落として囁いた。
「…お前と二人で見たい」
アンジェリークは、自分を抱き締めているクラヴィスの腕に両手
を添えた。
「…そんな声で囁かれたら…ダメって言えないじゃないですか…」
アンジェリークの体温が一気に上昇し、胸元までほんのり色付いた。
「よく来て下さいました!」
水の守護聖リュミエールは、その髪の色に近いベビーブルーの衣装に身を包んでいた。薄い布を何枚も重ねた衣装で足元まで隠れている。ベールを付けてブーケを持たせたら花嫁と言えるような清楚な服だ。
「こんにちわ。リュミエール様。素敵な衣装ですね。良くお似合いです」
アンジェリークは笑顔で花束を差し出した。
「有り難うございます。アンジェリーク。貴女も良くお似合いですよ。クラヴィス様もさぞ御心配でしょうね?」
リュミエールは花束を受け取りながら、ちらりとクラヴィスを見た。
「?」
アンジェリークはきょとんとしている。
「…そうだな」
リュミエールの言ってる意味がクラヴィスには理解出来たらしい。
「あらー、いらっしゃいお二人さん。リュミちゃんの衣装どう?この私が特別に作ったのよ」
「オリヴィエ様!」
オリヴィエも略式礼装として…ドレスを着ていた。
「素敵です。花嫁衣装みたいで。オリヴィエ様のドレスも御自分でデザインされたんですか?」
「もちろん!タキシードもいいけどさ、どうせならより美しく見せたいじゃない?」
オリヴィエはメッシュ入りの金髪をアップにして銀細工のかんざしを差し、和服用の絹織物を使って作ったドレスを着ていた。片側にだけ入ったスリットが、太股の辺りまである。
「その生地取り寄せられたんですか?豪華な生地ですね。鮮やかな色の揚羽蝶柄がとても良くお似合いです。私も今度綺麗な生地見付けてドレス作って頂こうかしら」
「オッケー。任しといて。とびっきり美しいウェディングドレス作って上げるから」
「ウェディング…」
アンジェリークは思わず隣りのクラヴィス見上げて照れ笑いした。
「…そのうちな」
答えたのがクラヴィスだったのが意外だったらしく、リュミエールとオリヴィエは顔を見合わせた。
「はいはい、お二人さんは席に着いて。リュミちゃんはステージの準備!」
いち早く現実に戻ったのはオリヴィエ。手を軽くパンと叩いて指示を出す。
「今日はプライベートでしょ?一応VIP席だと思うけど、見付からないようにね。あんた達のファン。結構いるんだから」
ただでさえ目立つ長身にその美貌。以前は”近寄り難い美しさ”だったのが、アンジェリークといる時の表情は”是非近くで見たい美しさ”に変わってる事を当の本人は知らない。
「?おかしなことを言う…」
当の本人クラヴィスは訝しげにオリヴィエを見ると、アンジェリークの背中に手を回して客席の方へ向かった。
「ほんと自分の美しさに関心ないんだから。アンジェリークにウェディングドレス着せる日、クラヴィスもとびっきり飾ってあげようかしら」
オリヴィエは先の楽しみを見付けて楽しそうに微笑した。
流麗な音楽、優しい音色…。
ヒーリングミュージックを主にしたクラシック。目を閉じていると、柔らかな風や暖かい大地を感じる。心を優しい気持ちで一杯にして帰る事が出来る素晴らしい演奏会だった。
「…素敵な演奏会でしたね。主催者はリュミエール様でしょうか?」
「そうだな。異国の愛の歌がいくつかあった。リュミエールの選曲だろう」
愛の歌…。
アンジェリークは、横に立つクラヴィスをじっと見上げた。
『私もずっと彼に愛を伝え続けたい…』
思っても恥ずかしくて口には出来ない。
「どうした?」
優しく問われて慌てて俯く。
「何でもないです…ッ、クシュン」
ラブシーンの途中でのくしゃみは、かなり気まずい。
「薄着をするからだ」
ワンピースにファーのケープだけしか着てないアンジェリークは少し肌寒さを感じたようだ。
「出掛ける時は暑かったから…」
アンジェリークはそれ以上は言えなかった。
まさかキスされて熱くなったとは…。
ファサッ…
クラヴィスは自分が着ていた黒いコートをアンジェリークにかけた。長身のクラヴィスが着て膝位まである丈だ。アンジェリークが着ると足首まで隠れる。
「…どうやら私のせいのようだ。馬車まで我慢出来るか?」
クラヴィスは優しく肩を抱き寄せた。
少女はクラヴィスの温もりに包まれて、静かに頷いた。
クラヴィスの私邸に着く頃、辺りには街灯が灯り始めていた。
「いつの間にか暗くなっちゃいましたね」
アンジェリークは金の髪を揺らして空を見上げる。まだ暗くなりきらない空には、星が一つ二つしか出ていない。
「…今日はゆっくりしていくといい」
「はい。有り難うございます。でも…」
「?」
「明日は執務があるので早めに送って下さいね」
急に現実を思い出させる少女にクラヴィスは苦笑した。
女は現実に立ち戻るのが早い…。
「…分かった」
フランス料理のフルコースの後、アンジェリークに合わせて紅茶が運ばれてきた。
大きなテーブルの短辺に向かい合わせの食事は”食べた気がしないから”とアンジェリークの提案で、長方形のテーブルの短辺にクラヴィス。その短辺に最も近い右側の長辺にアンジェリークが座っていた。
「クラヴィス様も紅茶飲まれるんですね」
アンジェリークはミルクティーにして貰った紅茶を嬉しそうに口に運んだ。
「私はストレートだがな。何も入れなければ普通の茶と変わらぬ」
「そうですね。普通のお茶でもミルク入れるとミルクティーになるし…」
何気なく言った台詞にクラヴィスは微笑する。
「まるで…経験があるようだな」
「……分かります?」
カップを持ったまま首を傾げるアンジェリークに、クラヴィスは押し殺した声で笑った。
「…クック。お前らしいな」
「だって、紅茶の缶にジャスミンティー入れてたんですよー。ミルク入れて、飲んでみて初めて気付いても仕方ないと思いません?」
「葉の形が違うとは思わなかったのか?」
「そりゃ、変わった葉っぱだなーとは思いましたけど、色々種類があると思ったんですー」
漫才のような会話に二人で顔を見合わせて笑い出した。
「…飽きないな。お前といると」
「もうっ、そんなに変ですか?」
アンジェリークがカップを皿に戻すのと、クラヴィスが右手でアンジェリークの髪を梳くのとがほとんど同時だった。
「いや、私はお前といると楽しいのだ。お前はそうではないのか?」
何気ない台詞なのに、口説き文句に聞こえるのは何故だろう…。
アンジェリークは、じっとクラヴィスを見つめてゆっくり目を閉じた。
触れるだけのフレンチ・キス。
それだけでもお互いの気持ちが伝わってくる。
「…部屋へ行こう。見せたいものがある」
アンジェリークが通されたのは、家具らしい家具の無い広い部屋だった。部屋の中央に大きなベッドがあり、その近くにソファとテーブル。部屋の端の方に酒のボトルとグラスが入った食器棚がある。
機能的…とはとても言えないような家具配置にアンジェリークは首を傾げる。
「…ここは瞑想する為に作った部屋だ。家具はほとんど置いてない」
部屋の明かりは点いてはいるが照明の意味を成していない。瞑想の邪魔になる為か、照度を落としてあるようだ。
部屋の家具も壁もほとんど黒で統一されている。
明るい場所から入った瞬間、宇宙空間にでも立っているような錯覚を起こす。
「…ソファに掛けて、目を閉じて…」
「?はい」
クラヴィスの言葉に従い、アンジェリークはソファまで歩いて腰を下ろした。
ウィーン…
機械のモーター音が聞こえてくるのが気になって仕方ない。一体何を見せてくれるのだろう…。
ウィーン……。
機械音がピタリと止まり、彼の気配をすぐ近くで感じた。
「もう良い。天井を見て欲しい」
「天井?」
アンジェリークは言われた通りに天井を見上げた。
「う…わぁ…凄い星…」
部屋の天井が全てガラス張りに変わり、満天の星空が姿を表していた。
「この天井は二重構造になっている。ガラス張りにするのは夜だけだ」
クラヴィスはアンジェリークの隣りに腰を下ろして、肩に手を回した。
「ロマンチックですね。本物の星空がお部屋の中から見れるなんて…」
アンジェリークは目を輝かせながら、星空に見とれている。
「アンジェリーク…」
呼ばれて、クラヴィスに向き直った。美しい微笑みを見せ、左手でそっと頬を包み込む。顔を軽く傾けながら近付く様が流れるように自然で、アンジェリークは誘われるまま目を閉じた。
フレンチ・キスが二回。三回目のフレンチ・キスがディープ・キスに変わるのにさほど時間は掛からなかった。
いつのまにか背中に回されたクラヴィスの両手がワンピースのホックを外す。
「…ダメ…シャワー…浴びてから…」
アンジェリークは乱れた呼吸を整え、意識を無理やり現実に引き戻した。クラヴィスの唇が首筋を滑っていく。
「…私は…このままでも構わぬ」
背中のファスナーが腰の辺りまで下ろされ、しなやかな指先が直接肌に触れる。
ビクッ。
一瞬、指先の冷たさに反応するが、優しく撫でるうちに身体の力を抜いていくのが分かった。
「…クラヴィス様…ここじゃ…いや。せめてベッドで…」
『して』とは口に出来なかった。理性がその言葉を押し止める。
「…分かった」
アンジェリークは下着を外して横になり、毛布にくるまった。クラヴィスも素肌にナイトガウンだけを身に付けて、ベッドの端に腰掛けた。毛布の中から真っ赤な顔をして自分を見つめる少女の頭
に軽く手を乗せる。
「…すまなかった。今まで独占したいと思うものは何もなかったのだが…お前だけは独占したいと思ったのだ。自制が利かなかったようだ…」
切なそうに自分を見るクラヴィスは、星明かりの中でも美しい。
「…来て。クラヴィス様」
アンジェリークは毛布の中から細く白い腕を伸ばした。クラヴィスはアンジェリークの手にそっと手を重ねる。
「また…キスから始めましょ」
天使の笑顔に、クラヴィスは微笑を返してそっと口付けた。
午前三時頃。
アンジェリークはクラヴィスの腕の中で目が覚めた。少し前に起きたらしいクラヴィスが、少女を揺り起こしたのだ。
「…そろそろ流れる頃だ」
クラヴィスは天井を仰ぎ見る。流星群の日でなくとも流れ星が見えそうな満天の星。
「お願い事しなくちゃ…」
アンジェリークはいつ流れ星を見ても願い事が出来るように両手を組み合わせる。
「どんな願い事をするのだ?」
「ダーメ。教えたら叶わないって言うでしょ?だから例えクラヴィス様でも教えないの」
アンジェリークは悪戯っぽく笑って、天井を見上げる。
サァーッ。
とびきり大きな流れ星…。
アンジェリークはすかさず願い事を心の中で唱えた。
『みんなが大好きな人の笑顔をずっと見ていられますように…』
FIN
(2002.1.1) HP用にUP
コメント
HP用の書き下ろし。”シューティングスター”はいかがでしたか?
なんか綾瀬は急いでたらしくてタイトルのスペルが一文字抜けてました(T_T)今日まで気付かない私ってかなり大ボケですー。
大ボケといえば、シューティングスターのアンジェも大ボケなんですがあれは私のせいです。…というのも、彼女がジャスミンティーにミルクを入れたっていうところ。すべて実話です。私がやってしまったことなんですねー。妹にも友人にも笑われましたよ、ホント。理由はアンジェが言ってる通りです。おまけに私は、気付いた後もやったんですから救いようが無いかも。お茶が出過ぎてて苦かったからミルク入れてもらいました(^^ゞ
今回のお話は既刊本の続きのような形になってます。具体的には”アザーブルー”の後。まあ短編としても読めると思いますけど。大人な二人の夜を書いたのはこれでもまだ2度目です。なんかイチャイチャさせてる方が楽しくて。
シューティングスターのタイトルですが。そのまんま流れ星です。
実は綾瀬は昨年のしし座流星群が見れなくて…。次の日仕事じゃなかったら見れたけどさすがにねー。
でも流星群って毎年決まった時期に見れるそうですよ。しかもしし座だけじゃなくて”ふたご座流星群””ペルセウス座流星群”など何らかの流星群が見れるの。ただそれがたくさん見える年ってのがあるみたいですけどね。なんとなく秋から冬だと空気が澄んでて綺麗に見える気がして好きです。