EHN 2011年11月28日
水中のアトラジン
女性の生理不順と
低エストロゲン(女性ホルモン)に関連

リンゼイ・コンケル (EHN スタッフライター)

情報源:Environmental Health News, November 28, 2011
Atrazine in water tied to menstrual irregularities, low hormones
By Lindsey Konkel Environmental Health News
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/news/2011/
2011-1123atrazine-tied-to-menstrual-irregularities


訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2011年12月4日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_111128_Atrazine.html


 低レベルの除草剤アトラジンにより汚染された水を飲む女性は、生理不順になりやすくまたエストロゲン(女性ホルモンの一種)も少ないと新たな研究で科学者らは結論付けた。

 アメリカで最も広く使用されている除草剤アトラジンは、特に中西部の農業地帯の地表水及び地下水で頻繁に検出されている。アメリカのトウモロコシ畑の約75%が毎年、除草のためにアトラジンを使用している。

 イリノイ州の女性とバーモント州の女性を比較した最新の研究は、アトラジンとホルモンの変調との関係を示す科学的な証拠として新たに加わった。

 イリノイ州の農業地帯の女性は、バーモント州の女性より生理不順の報告が5倍近く多く、生理周期が6週間以上となるとの報告は6倍以上であった。さらに、イリノイの女性は生理周期中の重要な一部であるエストロゲンのレベルが著しく低かった。

 イリノイ州の地域社会の水道水はバーモントの水道水に比べてアトラジンの濃度が2倍であった。それにもかかわらず、両州の水は、現在米環境保護庁によって施行されている連邦政府飲料水基準よりはるかに低い汚染であった。

 アメリカのトウモロコシ畑の約75%は、毎年アトラジンで処理されている。アトラジンはまた、雑草を枯らすために、時には芝生やゴルフ場で使用されている。イリノイ州の水道水を毎日、コップ2杯以上飲むと言う女性は、もっとひどい生理周期の不順を報告した。

 近年、実験動物でのいくつかのテストが、除草剤と、ホルモンの変調、成熟の遅れ、妊娠損失(流産、死産、子宮外妊娠、奇胎妊娠など)を含む不妊の問題とを関係付けている。

 研究当時、コロラド州立大学の疫学者である共著者ロリ・クラギンは、新たな発見は、ヒトへの影響を報告する限界付き研究はもちろん、動物実験による研究結果とよく一致すると述べた。

 2009年、ある研究が飲料水中のアトラジンをインディアナ州の新生児の低出生体重と関連付けた。そして、3,000人以上の女性が参加した農業健康調査(Agricultural Health Study)で、アトラジンとその他の農薬農薬を使用していると述べた女性たちは、生理がないあるいは不正出血のリスクが高まっていた。農業健康調査は国立健康研究所が主催する国家プロジェクトである。

 アトラジンの製造者は、アトラジンではない何か未知の要素が生理不順を引き起こしているかもしれないと述べている。

 ”多くの要因が女性の生理周期を変化させる。ストレス、運動、食事。”と、アトラジンを製造しているスイスを拠点とする会社シンジェンタの主席科学者ティム・パスツールは述べた。

 パスツールは、同社のマウスの研究では、今回の新たな研究で飲料水中で検出されたものよりはるかに高いアトラジン濃度でさえ、生殖系の障害は見つからなかったと述べた。

 研究者等は他の汚染物質について水をテストしなかった。

 ”我々が見つけた相違は、一般的又はその他の農薬曝露、水道水中では測定されなかった化学物質のためである可能性はある”と、現在はバーモント州公衆衛生局の疫学者であるクラギンは述べた。

 クラギンと、コロラド州立大学、エモリー大学、及び疾病管理予防センターの研究者らを含む彼女のチームは、イリノイ州の農場の町であるマウント・オリーブとギレスピー、及びアトラジンは使用されていないバーモント州の町ウォーターベリーとフェアヘブンの102名の閉経前の女性たちから質問票を収集した。著者等は、身体的な活動、体重と食物のような生活様式の要素を検討した結果、二つのグループの間に顕著な相違は見られなかったと述べた。

 今月の初旬に、ジャーナル『Environmental Research』に掲載された研究結果は、2005年7月から9月の間にテストされた自治体の水道水に基づいていた。

 クラギンは、EPAの3ppbという基準よりもはるかに低い濃度のアトラジンを含む水を飲む女性たちに顕著な影響を見て驚かされた。

 イリノイ州の水のアトラジンの平均濃度は0.7ppb であるが、以前及び次の夏に平均濃度より数倍低いの濃度が報告された。クラギンは、2005根の干ばつの状況が農場の畑からの排水を遅らせたと述べた。

 研究者らは、生理及びホルモンの変調が女性の妊娠能力を低下させたかどうかの検証はしなかった。しかし、エストロゲンのレベルと生理周期の特性は生殖に影響を及ぼすことが知られている。

 "ホルモン濃度と卵巣機能のこれらの変調は、潜在的に生殖に問題をもたらす”とニューヨークのロチェスター大学の生殖健康科学者エミリー・バーレットは述べた。

 ホルモン変調はまた、骨粗鬆(そしよう)症、糖尿病、心臓疾患、いくつかのがんのようなある種の病気のリスクを高めることに影響している。

 科学者らはアトラジンがホルモンのレベルをどのようにかく乱するのか確信はないが、いくつかの研究は、その化学物質(アトラジン)が体内のエストロゲンの生成を阻害するかもしれないということを示唆している。

 この研究に関与したこれら少数の女性たちは、二つのコミュニティの間の相違は偶然であるという可能性を高めることができたかもしれない。しかし、”そのような少人数のグループにおける生殖的不規則が極めて高い発生率を示すということは、ここで何かが間違いなく起きているということを示唆している”とタフツ大学の生殖科学者であるローラ・バンデンベルグは述べた。

 1958年に除草剤として初めて登録されたアトラジンは、トウモロコシやソアガム(モロコシ属の一種)を含む作物を栽培する土地の雑草を取り除くために主に使用されているが、ときには芝生やゴルフ場でも使用されている。

 2003年に、EPAはアトラジンの安全性を再評価し、現在の安全基準である3ppbはアトラジンのホルモン影響から守るために十分であると決定した。

 当時、EPAはシンジェンタに対して、飲料水中のアトラジンの濃度を調べるために全国の約100の地域共同体の水系の監視を始めることを義務付けた。環境団体は、これは化学会社が自分自身を監督することを許すものであるとして、この決定を批判した。

 2003年以来、150以上の新たな研究が発表され、アトラジンの潜在的な健康影響についての懸念を提起した。欧州連合ではそれ以来、安全性の懸念からアトラジンを禁止した。

 カエルでの研究は、アトラジンはたとえ低レベルであってもオスの生殖系の発達、繁殖力の低下、そしてある場合は雌雄同性体のカエルの出現にまで影響を及ぼすかもしれないことを示唆している。

 ”カエルでは、アトラジンは、オス又はメスとしての発達と機能を司るバランスをかく乱する”と、カエルにおける農薬の生殖系への影響を研究しているカリフォルニア大学バークレー校の科学者タイロン・ヘイズは述べた。

 2009年、EPAは、新たな研究を考慮して、もうひとつのレビューを命じた。EPAは現在、科学学諮問委員会による評価の結果を待っている。

 一方、除草剤の使用は上昇し続けている。2011年の前半だけでも、シンジェンタは、アトラジンが立役者として販売高を倍増させていると報告した。

 環境団体や科学者の一部は、化学物質の評価ということになると、その規制速度が遅いので、いらだっている。

 ”我々は、動物と人への有害影響を見ているのだから、この化学物質の使用を許し続けることはできない”とバンデンベルグは述べた。


訳注:アトラジンは日本では登録農薬である
訳注:シンジェンタと雇われコンサルタント会社がアトラジンンで科学を歪曲
訳注:アトラジン関連記事


化学物質問題市民研究会
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