EHN 2009年4月23日
ラットは低レベルのアトラジンに長期間暴露すると太る
解説:ヒーサー・ハムリン

情報源:Environmental Health News, April 23, 2009
Rats are fat after long-term exposure to lower levels of atrazine
Synopsis by Heather Hamlin
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/newscience/
long-term-atrazine-exposure-may-lead-to-fat-rats/


オリジナル:Lim S., SY Ahn, IC Song, MH Chung, HC Jang, KS Park, KU Lee, Y Pak and HK Lee. 2009. Chronic exposure to the herbicide, atrazine, causes mitochondrial dysfunction and insulin resistance.
Public Library of Science, one doi:10.1371/journal.pone.0005186.

訳:安間 武(>化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2009年4月24日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_090423_atrazine.html


 ラットを使用した新たな研究が、よく使用される農業用農薬アトラジンへの長期暴露により、通常の餌を与えられたラットは体重が増加し、高脂肪の餌を与えられたラットは肥満になることを示している。これらの健康状態は糖尿病をもたらし、エネルギーを作り出す細胞の重要な構造に損傷を与えるかもしれない。この新たな結果は、アメリカのアトラジン高使用地域と肥満の多発との関係を見出した以前の研究を説明するひとつのメカニズムを示唆している。

何をしたか?

この研究は、アトラジンが肥満の発症に寄与することがあるかどうかを調べ、それに関わるメカニズムを調べるために実施された。

 研究者らはラットのひとつのグループを飲料水中の農薬アトラジンに暴露させた。ラットは二種類の濃度のアトラジン(30 μg/kg と 300 μg/kg)のうちのひとつに5ヶ月間暴露させられた。これらの濃度は、アメリカの飲料水基準より高いが、アトラジン高使用地域の地表水や地下水で測定されたものの範囲に十分入っていた(Hayes et al. 2002)。

 他のグループのラット(コントロール)はアトラジンを含まない飲料水中を与えられた。

 投与グループとコントロール・グループ両方のラットの一部は通常の餌を5ヶ月間与えられた。他のラットは最初の3ヶ月は通常の餌を与えられ、その後、残りの2ヶ月間は高脂肪の餌を与えられた。

 研究者らは、定期的にラットの運動パターンを監視する機械を使用して研究期間を通じてラットの活動レベルを測定した。

 研究の終わりに、ラットは体重を測定され、体脂肪パーセントが算出された。ラットの血液中のグルコース(ブドウ糖)とインスリンが測定された。すい臓の機能とインスリン抵抗性(訳注1)のテストも実施された。

 ラットの肝臓と筋肉細胞中のミトコンドリア(訳注2)の構造は後期の顕微鏡で観察された。ミトコンドリアの活動のテストもまた、実施された。

何がわかったか?

 最初の数ヶ月間、通常の餌を与えられたアトラジン暴露ラットとコントロール・ラットは、同時に体重を計測された。しかし、研究の終わりまでに、通常の餌を与えられアトラジン暴露ラットは約5%、暴露しないラットより重かった。高脂肪の餌を与えられた暴露ラットは約10%、通常の餌を与えられた非暴露ラットより重かった。

 両グループのラットの間に食物摂取又は活動に差異はなかた。

 内臓脂肪、すなわち体の器官を囲む脂肪は、器官内の脂肪とともに体重増加の理由である。

 アトラジンに暴露したラットはインスリン抵抗性が大きく、グルコースとインスリンの両方のレベルが非暴露ラットに比べて有意に高かった。

 アトラジン暴露ラットのミトコンドリアは増大しそれらのあるものは部分的に破壊されていた。

 ミトコンドリアの活動テストはアトラジンがミトコンドリアの機能を直接的に損傷したことを示した。

何を意味するか?

 この研究は、アトラジンへの低用量暴露がラットの有意な体重増加とインスリン抵抗性増加を示した。両方の状態は、アメリカで主要な健康問題である糖尿病をもたらす。

 この研究は、農薬のような環境汚染物質が人の病気と機能障害に及ぼすかもしれない影響を理解することの重要性に光を当てている。

 さらに、これは、研究者がどのように環境汚染物質、このケースではアトラジンがミトコンドリア機能をかく乱し、インスリン抵抗の増大をもたらすことができるかを示した最初のものである。以前の研究は、人における不適当なミトコンドリアの機能と糖尿病の予兆であるインスリン抵抗との間に密接な関係があることを示していた。

 ミトコンドリア機能と糖尿病はラットと人で類似しているので、この研究の結果は人にも同様に適用されうる。

 過去の研究は、アトラジンの10〜100倍高い濃度に暴露したラットは体重が減少したことを示した。この研究では、ラットは長期間にわたり低レベルのアトラジンにに暴露させた結果、体重が増加した。通常の餌を与えられた暴露ラットは、非暴露ラットに比べて5%、体重が増加した。高脂肪の餌を与えられたラットは非暴露ラットに比べてほぼ10%、体重が増加した。高用量では体重が減少し、低用量では体重が増加するというパターンは、非単調用量−反応曲線の例であり、そこでは高用量での経験からは低用量での結果を予測することができない。このような発見は、暴露安全基準を設定するための現状の手法を正当化するために用いられている”用量が毒性”という仮定は有効ではないことを示している。

 著者らは、この差異は、”高濃度アトラジンへの急性暴露は有毒であり、したがって体重増加を妨げ、体重減少をもたらす”ことを意味すると解釈している。”対照的に、慢性低用量アトラジン暴露は、インスリン抵抗性の特性を擬態しする穏やかなミトコンドリア損傷をもたらし、したがって体重増加をもたらすのかもしれない”。

 もしこれが人に対しても真実なら、150ポンド(約68kg)の人がアトラジンの低用量に暴露して高脂肪食を摂れば、アトラジンに暴露せずに全く同じ食物を摂る人に比べて15ポンド(約6.8kg)近く体重が増加することになる。

 この体重の増加は脂肪の増加であり、筋肉重量の増加のような有益な増加ではない。この余分な脂肪は器官周辺及び器官そのものにある。アトラジン暴露は摂食や運動には変化を与えずに、体重の増加をもたらすので、研究者らは農薬はマウスの代謝機能を低下させると推測している。

 人の超過脂肪は現在アメリカに広がっている問題であり、心臓血管系疾病、糖尿病、及びその他の障害に関連している。

 この研究で使用されたアトラジンの濃度は飲料水中の3μg/リットルという基準値より低いが、この研究の低用量濃度は他のラット研究で引き起こした生殖影響に必要な用量より10,000倍以上低い値であり、ヒト細胞にがんを促進するために必要な用量範囲内である(Wetzel et al. 1994; Sanderson et al., 2000)。

 アトラジンに暴露したラットは非暴露ラットよりインスリン抵抗性が高く、血液中のグルコースとインスリンは有意に高かった。インスリン抵抗性は糖尿病の主要な予兆である。

 糖尿病と肥満はアメリカや他の先進国では相当な増加傾向にある。この急速な増加は遺伝子だけでは説明できず、環境的要因がこの増加に寄与していると考えられる。


訳注1
インスリン抵抗性:出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

訳注2
ミトコンドリア:出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』



化学物質問題市民研究会
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