米化学会 ES&T サイエンス・ニュース 2008年5月28日
広く使用されている除草剤アトラジンが ヒトのホルモン作用をかく乱する アトラジンは米飲料水基準よりも低レベルで ゼブラフィッシュの内分泌系をかく乱し、 組織培養中でヒトの細胞に影響を与える 情報源 ES&T Science News - May 28, 2008 Common herbicide disrupts human hormone activity Atrazine affects the endocrine systems of zebrafish at levels lower than U.S. drinking-water standards - and impacts human cells in tissue cultures.. http://pubs.acs.org/subscribe/journals/esthag-w/2008/may/science/nl_atrazine.html 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) 掲載日:2008年6月1日
同研究チームは細胞と生きたゼブラフィッシュを環境中と同等な濃度のアトラジンに暴露させた。暴露させた魚の集団は暴露させなかった魚の集団に比べてメスのオスに対する比がわずかに高く、この除草剤アトラジンによって誘引されたメス化現象を示した。 しかし、もっと明白なことはエストロゲンの生成に関連するアロマテーセに信号を伝達するひとつの遺伝子の活性を高めるということであった。ゼブラフィッシュは二つのアロマテーセ遺伝子を持っている。一つはエストロゲンによって調節されており、もうひとつはエストロゲン及び NR5A と呼ばれる受容体の両方によって調節される。研究者らは環境中と同等な濃度のアトラジンが NR5A 受容体を活性化することによってアロマテーセ発現を増大させることを見つけた。この実験は2ppbの濃度で明確な影響を示したが、米EPAは飲料水中のヒトへのアトラジン制限値を3ppbと設定している。この農薬は現在、見直し中である。研究者らはまた、アトラジンがヒトの細胞株(訳注1)中で、ステロイド合成と展開に重要な他の遺伝子に影響を与えつつ、 NR5A 受容体を活性化することを見つけた。 ”ゼブラフィッシュのモデルは潜在的なメカニズムを引き出すことを容易にする”と米海洋大気圏局(NOAA)北西漁業科学センターのジョーン・インカルドーナは述べている。”正確なメカニズムはまだ得られていないが、その結果は、アトラジンがこれらの内分泌作用を生成するメカニズムを特定するための大きな前進である”。 ”ゼブラフィッシュのような淡水魚は環境中のこの除草剤に非常に敏感である”とこの研究の共著者であるホリー・イングラハムは述べている。アトラジンの環境的影響についての議論はアフリカツメガエル(Xenopus frogs)に向けられていたが、この実験動物は、野生のカエル生息数の理解のために最良の遺伝子モデル生物ではなかったかも知れず、この化学物質を異なって代謝するかもしれない。 ”ヒトに関するこのデータはアトラジンを見るための新たな枠組みを提供する”とイングラハム述べている。他の遺伝子はアトラジンにもっと敏感かもしれず、また生殖や副腎機能のような他の重要なシステムに関連しているかもしれないので、将来の研究はそれらの遺伝子を検証しなくてはならないと彼女は述べている。 ナオミ・ルービック(NAOMI LUBICK) 訳注1 細胞株 (cell lines) 国立医薬品食品衛生研究所/JCRB細胞バンクの解説 http://cellbank.nibio.go.jp/visitercenter/index.html 不死化して無限に増殖することが出来るようになった培養細胞のこと。但し細胞の性質等がきちんと研究されていないものは細胞株とは呼ばない。癌細胞は体の中で既に不死化しているので、容易に細胞株となる。一方、正常なヒト細胞は極めて不死化しにくく、そのままでは細胞株にはならないのが普通(プライマリ細胞)。従って、ヒトの細胞がどのようにして不死化するのかを解明することが癌研究としての大きなテーマであった。現在、ヒトの細胞を人工的に不死化させるにはある種のウイルスやウイルスに由来する特定の遺伝子を人工的に導入する方法が取られる。 訳注2 アトラジン関連記事
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