低用量の農芸化学品及び芝生用殺虫剤が
ハツカネズミの着床前の胚に発達毒性として作用 (米環境NGO (CHE) による解説) 情報源:Low-Dose Agrochemicals and Lawn-Care Pesticides Induce Developmental Toxicity in Murine Preimplantation Embryos Greenlee , AR , TM Ellis, RL Berg. 2004 Environmental Health Perspectives, Volume 112, Number 6 May 2004 Briefing by Collaborative on Health and the Environment (CHE) 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) 掲載日:2004年9月14日 この概要書は『米・環境健康展望 Volume 112, Number 6 May 2004に掲載されたレポートをアメリカの環境NGOである Collaborative on Health and the Environment (CHE)が解説したものです。 概要 現在、よく使用されている殺虫剤に関し、安全であると仮定されており、人々の体内から検出される範囲内にある非常に低用量での曝露が、試験管でテストされた非常に早い時期の発達段階にあるマウスの胚に明らかな損傷を与えた。テストされた13種類の農薬のうち12種類が発達障害を引き起こし、現実の環境中に存在す6種類の混合物のうち6種類が損傷を与えた。 なぜこの研究が行われたのか? 化学物質による発達及び生殖への影響に対する現在のテスト方法にはいくつかの欠陥がある。主な懸念のひとつはそれらの方法では、現実の世界での化学物質への曝露の影響のいくつかを見つけることができないかもしれないということである。例えば、テストは1回に1種類の化学物資について行われ、高用量で行われ、胚が子宮に着床する以前の発達段階の非常に早い時期の曝露によって引き起こされるリスクを評価しない。もうひとつの欠陥は研究を実施するための費用と時間の問題である。最近の研究では、曝露のタイミング、低用量での曝露、そして化学物質の混合物への曝露が重要であることを示している。 この研究は、着床前のマウスの胚の、現実世界での曝露を模擬して選ばれた単独及び混合物の化学物質への曝露に着目した。この研究の目標は、この手法が妊娠が認められる以前の低用量の曝露の影響を評価する上で、信頼性があり、速く、かつコスト効果があるかどうかを決定することである。 何をしたのか? 研究者チームは卵子を確実に受胎させるためにメスのマウスにホルモン注射をした。その後、交尾能力を実証するためにメスのマウスをオスのマウスと一緒にした。受胎後、単細胞接合体がメスのマウスの子宮内面に着床する前に採取された。 これらの単細胞胚を試験管中で4日間培養し、その間低用量の農芸化学品と芝生用殺虫剤の双方、及びひとつの陽性コントロール(注1)または二つの陰性コントロール(注2)のうちのひとつに曝露させた。 (注1)陽性コントロール: 影響のわかっている物質、この場合にはDDTを用いて行うテスト。実験手法が有効であることを立証するために行う。 (注2)陰性コントロール: 動物が受ける曝露を比較するテスト方法。ふたつのタイプがあり、ひとつは曝露させない方法。もうひとつは、テストする物質以外の物質を溶剤中に入れて動物に曝露させる。 6種類の除草剤、3種類の殺虫剤、2種類の殺菌剤、1種類の肥料、1種類の乾燥剤、6種類の混合物がテストされた。
溶液中の化学物質濃度は米環境保護局(EPA)が設定した”安全”レベル(”参照用量”)に調整された。陰性コントロールは溶液中の農薬以外の他の物質が胚の発達に及ぼすかもしれない影響を確定するために用いられた。 培養後、科学者たちは胚が正常に発達したかどうかを検証した。彼らは3つのことを測定した。すなわち、細胞アポトーシス(細胞死)、接合体の段階から胚盤胞に発達した胚の割合(%)、及び胚を構成する細胞の平均数である。これらの測定のそれぞれは、胚が完全に発達する可能性を減少する影響を反映している。 ![]() 今までの研究から予測されたとおり、陽性コントロールグループ−DDTに曝露−の胚は、アポトーシス(細胞死)を示し、胚盤胞段階への発達が減少した。 個別にテストされた13種類の化学物質のうち11種はアポトーシス(細胞死)が明らかに増加した。 アポトーシス(細胞死)の最大増加率は陽性コントロー(DDT)またはジクワット(diquat)、マンコゼブ(mancozeb)、アトラジン(atrazine)または2,4-D に見られた。 ***: p<0.0005 **: p<0.005 *: p<0.05 3つの化学物質、アトラジン(atrazine)、クロルピリホス(chlorpyrifos)、テルブホス(terbufos)は胚盤胞段階へ発達する胚の数が減少した(全て p < 0.05)。 硝酸アンモニウム(ammonium nitrate)は胚あたりの平均細胞数を減少した(p < 0.0005)。 メコプロップは胚細胞数を減少した(p < 0.05)。 ![]() 他のものは胚の発達を減少させるか、各胚内の平均細胞数を減少させた。ある混合物は、個別にテストされた農薬と同様の損傷パタンを示したが、他の混合物は異なるパターンを示した(化合物の成分については上記テーブルを参照)。
グリーンリーらは、米EPAが妊娠中の女性の体内の農薬を測定した研究に基づき、現在の人間が曝露しているレベルあるいはそれに近いレベルとして安全であるとみなしている用量の農薬曝露によって胚損傷が引き起こされるということを示している。彼らの研究はまた、損傷が胚のごく初期の発達の期間、胚が子宮内壁に着床するより以前に起こりうることを示している。もし同じことが人間に起こるとすれば、それは女性が妊娠を知る以前に起こるということである。 これらの実験は隔離されたマウスの胚を試験管の中で実施したものであるが、結果は発達中のマウスに対する農芸化学品の影響に関するいくつかの研究の結果と一致する。例えば、キャビエールス(Cavieres)らは、よく使われる芝生用除草剤混合物(2,4-D、MCPP及びジカンンバ(dicamba))がたとえ低用量であっても着床場所をせばめ生児出産を減少させると報告している。 これらの結果は人間の健康、特に生殖の健康に関係があるか?
これらの実験で対象とした化合物はいたる所で使用されているということ、そしてそれらは水道水の中ですらしばしば見出されるという事実、これらのことは、個別の活動も役には立つが、それだけでは関連する曝露をなくすために十分ではない。したがって、使用を減らすことを動機付けるもっと積極的な施策がとられなくてはならない。 |