Our Stolen Future (OSF)2006年1月26日 による解説
農薬混合、内分泌かく乱作用、そして両生類の減少
我々はその影響を過少評価していないか?


Environmental Health Perspectives, in press. Online 24 January 2006 掲載論文を
Our Stolen Future (OSF) が解説したものです

情報源:Our Stolen Future New Science, January 2006
Pesticide mixtures, endocrine disruption, and amphibian declines: Are we underestimating the impact?
オリジナル論文:Environmental Health Perspectives, in press. Online 24 January 2006
Pesticide mixtures, Endocrine disruption, and amphibian declines: Are we underestimating the impact?
Tyrone B. Hayes, Paola Case, Sarah Chui, Duc Chung, Cathryn Haefele, Kelly Haston, Melissa Lee, Vien Pheng Mai, Youssra Marjuoa, John Parker, and Mable Tsui


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2006年1月25日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/osf/06_01_osf_mixtures_pesticides.html


 同時に一種類の化学物質を用いた実験で健康基準を設定するEPAとFDAの評価手法に対し、ヘイズらはこの研究報告書で、そのようなアプローチは化学物質曝露のリスクを非常に過小評価する結果になることを示した。

 ヘイズらは、オタマジャクシが農薬のどれでも1種類だけに曝露した場合は死亡率が低いが、9種類の農薬の混合に曝露すると死亡率が高くなることを報告している。彼らは、この実験で農薬混合に曝露したオタマジャクシのほとんどは、他のグループでは観察されなかった細菌性疾病に罹ったことを発見した。

 この実験は、研究の実際及び現実世界との関連性に寄与するものとして、下記二つの理由で非常に独創的である。

  • 第一に、この実験で使用された農薬の大部分は、今までに、今回の実験で使用されたレベルより10,000倍以上高いレベルで実験が行われていただけである。
  • 第二に、同時に数種類以上の混合で行われたオタマジャクシへの農薬影響に関する報告は今までに発表されたことがない。
 これらの結果は、菌類感染の結果と考えられている、広い範囲でのカエルの絶滅を説明するのに有効かもしれない。彼らはまた、同時に一つの化学物質だけを用いる実験を通じて確立されている現在の健康基準について深い疑問を提起している。

■何をしたか?

 ヘイズらは、ネブラフスカ州の土地で使用されている農薬情報を用いて、近隣に住むカエルが曝露するであろう農薬混合物の実験室でのシミュレーションモデルを作成した。彼らは最初に同時に1種類の農薬の影響を調べ、次に、実際のカエルが曝露しているであろう同じ農薬の混合を適用すると何が起きるかを調べた。実験室で使用された農薬は製造者又は同等のソースから入手し、実験計画に従って混合された。

 最初の実験では、ヘイズらは各農薬を0.1ppb濃度で単独の影響をテストした。それから、農薬の混合物として、一つは各農薬0.1ppbの混合物、もう一つは各農薬10ppbの混合物を作った。

 実験で、オタマジャクシは孵化2日後から尻尾が完全になくなるまでの期間、曝露された。それぞれの処置は30匹のオタマジャクシに対し3回行われた。水槽は、処置の影響を測定する人々がオタマジャクシがどのような特定の処置を受けたのか知ることがないようにするためにカラーコードを施された。

使用された農薬
除草剤
アトラジン(atrazine)
メトラクロール(metolachlor)
アラクロール(alachlor)
ニコスルフロン(nicosulfuron

殺虫剤
シフルトリン.(cyfluthrin)
シハロトリン(cyhalothrin)
ホステバピリム(tebupirimphos)
殺菌剤
メタラキシル(metalaxyl)
プロピコナゾール(propiconazole )

 アトラジンを使用して二つの実験が別に行われた。
  • アトラジン+S-メトラクロールの混合、各農薬濃度は 0.1 又は 10 ppb のいずれか。
  • ビセップUマグナム(アトラジン33%及びS-メトラクローなどの成分を含む市販調剤)。この調剤は、アトラジンが0.1ppb 及び 10ppb となるよう計算されて希釈された。
ヘイズらは、曝露影響を特定するために処置後、オタマジャクシについていくつかの評価項目を測定した。
  • オタマジャクシの死亡率
  • 各個体の変態時の重量とサイズ
  • 変態のタイミングと期間
  • 性腺(精巣又は卵巣)と胸腺(免疫系に重要)の組織学的検証
    処置を施された多くの個体が感染症で死ぬことが明確になったので、胸腺の検証が加えられた。
 感染症で死亡することを観察した後、ヘイズらは、大人のオスのアフリカ・ツメ・カエルに、9種類の農薬混合物(各農薬濃度0.1ppm)を処置し、プラズマ・コルチコステロン (訳注:副腎皮質ホルモン)レベルの影響をテストする追加実験を行った。彼らはこの実験で異なる生物種を使用したが、それはヒョウガエル(訳注:体が明るい緑色で背に白縁の黒斑がある北米産のアカガエル属のカエル)は変態時に繰り返し血液サンプルを採取するには小さすぎることと、アフリカ・ツメ・カエルは実験の期間中いつでも手に入れることができたからである。これらの大人のオスは農薬混合液に27日間曝露され、その後に血中のコルチコステロンレベルが測定された。

■何が分かったか?

農薬曝露の死亡率への影響
  • 個別農薬(0.1ppb)に曝露したオタマジャクシの平均死亡率は4%であり、その範囲は異なる農薬に対し0〜7.8%であった。
  • 二つのアトラジン混合に曝露したオタマジャクシの死亡率は10%以下であった。
  • 9種類の農薬混合(各0.1ppb)に曝露したオタマジャクシの35%が死亡した。
  • 9種類の農薬混合(各10ppb)に曝露したオタマジャクシの100%が死亡した。
変態のタイミングへの影響

 プロピコナゾルのみがオタマジャクシの変態のタイミングに影響を与えた。プロピコナゾルに曝露した個体はコントロール群の個体に比べて変態の開始と完了が遅かった。下記グラフは異なる処置が施されたグループの固体の孵化から変態完了までの日数を示す。

 アトラジン混合(アトラジン+S-メトラクロール又は、市販調剤ビセップ)は、どちらもオタマジャクシの変態タイミングに影響を与えなかったが、9種農薬混合は変態の開始と完了を遅らせた。

変態時におけるサイズへの影響

 アトラジン、シフルスリン、及びホステバピリムは変態時にカエルの口−肛門距離を減少させた。アトラジンとホステバピリムは体重も減少させた。

 混合では、アトラジン+S-メトラクロール及び9種混合が口−肛門距離を減少させたが、体重を減少させたのはアトラジン+S-メトラクロールだけであった。

変態タイミングとサイズの相互作用への影響

 通常、オタマジャクシが変態の完了までの期間が長いほど、変態完了後のサイズは大きい。このことは完了までの時間と完了時のサイズのポジティブな相関関係を反映している。オタマジャクシが単一の農薬に曝露した場合には、ほとんどの場合、この関係は維持された。しかし、オタマジャクシが9種農薬混合に曝露した場合には、変態完了までの時間が長かった個体は、完了時の体重が少なかった。

変態したばかりのカエル
(コントロールグループ)
変態したばかりのカエル
(9種農薬混合に曝露)
処置を受けたグループの典型的な症状
生殖腺の発達

 他の母集団からのヒョウガエルを用いた以前の研究で、ヘイズらは低レベルのアトラジンがオスに雌雄同体を引き起こすことがあることを示した。今回の実験では使用されたカエルは、実験の終わりまでに性的成熟が完了しなかった。したがって生殖腺の分化の影響は確認することができなかった。ヘイズらはこれは母集団の相違に起因するとしている。

病気になったカエル

 9種農薬混合に曝露した固体で変態時まで生き延びたもののうち、70%が、水生バクテリアのために、正しく座れない、髄膜炎、内耳炎、敗血症などを含む症状を示した。

 コントロール・グループの個体、単一農薬へ曝露した個体、アトラジン混合に曝露した個体のいずれにも、この様な症状は現れなかった。

 しかし、ヘイズらは、コントロール・グループを含む全ての処置グループはバクテリア評価がポジティブであることを見出した。したがって、バクテリアはあらゆる場所に存在するが、9種農薬混合に曝露した個体だけに病気を引き起こした。

 9種農薬混合に曝露した個体の健康への著しい影響のために、ヘイズらは異なる処置グループからの個体の胸腺を切開し、胸腺プラーク(thymic plaques)の数を計算した。コントロール・グループの個体にはなかった。最も高い割合は9種農薬混合で処理された個体であった。この相違は統計的に十分に有意であった(p<0.001)。

コルチコステロン・レベルへの影響

 9種農薬混合(各農薬0.1ppb)に曝露したアフリカ・ツメ・カエルのコルチコステロン (訳注:副腎皮質ホルモン)レベルはコントロール・グループのアフリカ・ツメ・カエルよりほとんど4倍近く高かった(p < 0.05)。コルチコステロンの増加は両生類に様々な影響を与えることが知られているが、それらには、脳の遅れ、発達の遅れ、免疫系の障害があり、それらはこれらの農薬混合の実験で見られた反応である。

■何を意味するか?

 この研究はユニークである。環境中に存在する濃度の農薬の混合物へのオタマジャクシの曝露影響をテストした実験はかつて発表されたことがない。実際、この実験で使用された農薬のいくつかは、ひとつの例外を除いて今までに両生類でテストされたことがなかった。その例外は今回の実験で使用された濃度より10,000倍高いレベルでの急性曝露影響のための曝露テストであった。この例外テストはアトラジンによるもので、ヘイズの先の研究で低用量での影響に関心が寄せられていた。両生類への混合曝露影響の研究で発表されたはもの僅かしかないが、それらはもっと高い濃度の農薬曝露であった(参照:ヘイズらのリスト)。

 これらの結果は低濃度の混合農薬への広範な曝露は、オタマジャクシの免疫系機能を損ない水生バクテリアによる感染症に罹りやすくするということを示している。彼らはまた、従来の農薬評価のアプローチ−同時にひとつの化学物質−は、完全に危害の主要な発生源を見誤らせるということを示している。

 ヘイズらによって発表されたこれらの驚くべき結果は、一連の疑問を提起するものである。第一にカエルについて、次に健康基準が確立される手法である。

■カエルについて

 カエルやその他の両生類は世界中で広く絶滅しているということはよく知られていることである。気候変動、菌類感染症、生息地喪失、紫外線曝露、そして化学物質が可能性ある原因として考えられている。例えば、最近の中央アメリカのカエルに関する研究は、ひとつの要因として気候変動を挙げているが、それは温暖化がカエルを殺す菌類の繁殖に好都合であるからである。

 この論文は、農薬の混合に対する環境関連曝露は発達中のヒョウガエルの免疫系を損ない、本来なら耐性があるバクテリア感染症に罹りやすくなるということを示した。特に、この実験の全ての処置グループはバクテリアに対し陽性反応があったが、農薬混合に曝露したものだけに症状が出た。

 そのような効果は、上述したカエルの気候−菌類の相互関連に対する脆弱性を複合化し、カエルを菌類の影響に対しより脆弱にする結果となる。菌類感染症の研究の中で、これは新しい菌類か、あるいはその範囲が新たに広がっているということが示唆されていた。ヘイズらは、異なる解釈を提起している。広がっているのは、既に存在している感染要因と戦う能力がなくなったカエルの方である。

 以前の研究は、免疫系機能へ与える農薬の影響はカエルの奇形に対する脆弱性が増大することを示していた。

■なぜ変態のタイミングが変わることが重要なのか?

 変態の完了までの平均時間は、0.1ppb農薬混合に曝露し生き延びた個体で2週間以上増加した。このことはカエルにとって生死に関わることである。それはカエルの繁殖地は春から夏に季節が変わると乾燥してしまうからである。変態が長引くと捕食者に対する脆弱な期間が長くなる。大人のカエルは跳ぶことができ、尻尾がまだ完全に消えていない固体に比べて強い。

 研究チームはまた、成熟が遅れる個体は成熟が早い個体に比べて小さく、通常のパターン(成熟までの期間が長ければ長いほど、個体のサイズは大きくなる)とは逆である。このことはもうひとつのリスクを加える。小さな個体は大きな食物を摂取できないので採食に制限が加わる。

 従って、混合の影響は、菌類感染症による死だけでなく、生息地の喪失(池の乾燥)、捕食、及び食物不足に対する脆弱性を高める。

 ヘイズによれば(個人的な連絡)、10ppbの農薬からなる混合に曝露した個体の急速な死はバクテリア感染症によるものではない。それ以外の、まだよくわからない何かがその汚染レベルで起きている。

■健康基準の設定

 同時にひとつの農薬だけに曝露したオタマジャクシでバクテリア感染症になったものはない。農薬安全の規制テストで、このような影響がでる方法で実施されたものはかつてない。

 現実の世界ではカエルも人々も数百の化学物質に同時に曝露しているのに、規制テストは同時にひとつの化学物質だけで行われる。

 現実の環境と実験室の人為的テスト条件の間のこのギャップは化学物質曝露のリスクについて著しい過小評価をもたらしているように見える。

[混合についての詳細...]


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