EHN 2007年11月26日論文解説
バイオモニタリングを用いた
アトラジンとその代謝物への暴露評価

エド・オルランド博士とウェンディ・ヘスラーによる概説

情報源:Environmental Health News, November 26, 2007
Assessing exposure to atrazine and its metabolites using biomonitoring
Synopsis by Dr. Ed Orlando and Wendy Hessler
http://www.environmentalhealthnews.org/newscience/2007/2007-1126barretal.html

Original: Barr, D, B Panuwet, P Nguyen, JV Udunka, S and LL Needham. 2007.
Assessing Exposure to Atrazine and Its Metabolites Using Biomonitoring
Environmental Health Perspectives 115:1474?1478

" TARGET="_blank">http://www.ehponline.org/docs/2007/10605/abstract.html

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会
掲載日:2007年12月9日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_071126_atrazine.html


アトラジン情報
 アトラジンはアメリカでは二番目によく使用される除草剤である。アメリカの中西部で穀物畑、特にトウモロコシやその他のモロコシ類の畑で雑草管理のために散布されている。また、ゴルフコースや芝栽培農園の雑草管理にも用いられている。

 欧州委員会はアトラジンを腫瘍や内分泌かく乱を含む健康上の懸念から2003年に禁止した(Sass and Colangelo 2006)。アトラジンへの暴露は性腺の発達を変更しオスのカエルの生殖腺中に卵巣組織の形成をもたらす(Hayes et al. 2006)。In vitro の研究は、アトラジンがアロマターゼ遺伝子発現及びアロマターゼ酵素の活性化を引き起こすことを示している(Sanderson et al. 2000)。その他の研究はアトラジンが腫瘍形成に関連していることを示し、アトラジンは脳と脳下垂体の性腺調節を変更することによりステロイド・ホルモン合成の調節を変更するということを示唆している(Cooper et al. 2007)。

 米環境保護局によれば、アトラジンへのヒトの暴露は3ppb(最大汚染レベル)より高いレベルでは有害であると考えられている。もっと高い暴露は、心臓血管系障害、副腎ダメージ、筋肉けいれん、網膜ダメージ、及びがんと関連している。人々は飲料水を通じてこの除草剤に暴露しているケースが最も多い。

 研究により、アトラジン分解物質として生成される少なくとも12の異なる代謝物質が特定されているが、ヒトの暴露の程度を推定しているCDCの研究は、アトラジンの代謝物質であるアトラジン mercapturate (AM)を測定しているだけである。AMは、限定暴露を示しつつ、全国健康栄養試験調査(NHANES)によるサンプルの5%以下にしか検出されていない。このアトラジンの広範な使用と飲料水中で検出される頻度に照らし見ると、この観察は困惑をもたらすものである。
 米疾病管理センター(CDC)の科学者らによる新たな研究は、アトラジンとアトラジン関連分解物質へのヒトの暴露の推定にCDCが使用している分析手法は暴露を非常に過少に見積っていることを示した。CDCはひとつだけのアトラジン代謝物質、アトラジンmercapturateを測定することに依存している。他の代謝物を探すことにより、CDCの科学者らは古い手法がほとんどの暴露を見逃していることを発見した。

何をしたか?

 バールらは、高性能液体クロマトグラフとタンデム質量分析装置(HPLC-MSMS)を用いて24人の尿サンプル中の9種の異なるアトラジン代謝物を測定した。サンプル採取を行った人々はアトラジンへの暴露状況に関して異なっていた。すなわち、高暴露(芝生への農薬散布者)、低暴露(事前の調査でアトラジン mercapturateが検出された非職業的暴露者)、及び環境暴露(アトラジンに暴露した覚えのない人)という分類である。

何が分ったか?

 尿中の代謝濃度はアトラジン暴露分類の中で、及び、ひとつの分類中でも個人の間で、非常に大きく異なった。 Diaminochlorotriazine (DACT)は最も共通に検出された代謝物であり、芝生農薬散布者のアトラジン関連物質の中で51%を占め、低暴露グループで28%、環境:暴露グループで77%を占めていた(下記グラフ)。対照的にアトラジン mercapturate (AM)はそれらのグループの中でそれぞれ12%、6%、2%を占めるだけであった。

 全アトラジン関連負荷に対する各代謝物の割合に関して暴露カテゴリーは大きく異なっている。

 左側の数値は、全アトラジン関連負荷に対する最も共通な代謝物の占める割合の平均%を示している。 (訳注:数値は示されていない?)

 最も共通な代謝物:
  • DACT:Diaminochlorotriazine
  • DEA: Desethylatrazine
  • DIA: Desisopropyl atrazine
  • AM: Atrazine mercapturate
  • DEA-OH: Hydroxydesethylatrazine
 全アトラジン関連負荷に対する各代謝物の割合の変動幅は一貫して大きいが、このことはひとつの代謝物だけをヒトのアトラジン暴露決定のために用いることはできないはずであるということを示唆している。


 上記のグラフは8人の芝生農薬散布者について、アトラジン mercapturate(AM) だけを用いたアトラジン関連暴露の推定(左)と、AMを含んで7種の代謝物質を用いた推定とを比較している。#8の散布者はAMを用いての推定によれば最も高いアトラジン暴露をしているように見えるが、7種の代謝物の測定によれば#2の人が最も高いアトラジン暴露をしていることになる。

何を意味するか?

 これらのデータは、CDCはアメリカ人のアトラジン及びその代謝物への暴露を体系的にそして非常に過少に見積っていることを示している。アトラジン mercapturate(AM)に依存する以前の研究は、アトラジン及びその代謝物への暴露の見積りを低くし、間違った判断を与えるものである。AMを測定するCDCの以前の調査によれば、いかにそれが一般的に使用され、いかにしばしば飲料水中で検出されようと、アトラジンの測定可能な痕跡を持っているのはわずかに5%以下の人々しかいなかった。アトラジン暴露の最も正確な実態を把握するためには、たとえ全てではなくても、もっと多くのアトラジン代謝物を測定する必要があることは明白である。

 アトラジン自身又は代謝物アトラジン mercapturateを尿中で検出することは、アトラジンへの直接的暴露の決定的な証拠である。しかし、他の代謝物らもまた環境中の分解を通じて生成され、水中で検出されており、植物の組織中で結合することすらできる。したがってそれらが尿中に存在することはアトラジン関連代謝物に間接的に暴露していることを示しているかも知れない。このことは、AMが他の暴露グループに比べて芝生農薬散布者により一般的であるかの理由であるように見える。

 この研究の結果は重要であるが、小さなサンプルに基づいている。アトラジン暴露の更なる精細な評価に対し、この研究で測定されなかった他のアトラジン代謝物を検証することが重要になるであろう。

情報源


訳注:アトラジン関連記事


化学物質問題市民研究会
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