Beyond Pesticides 2006年7月25日
農村地帯の住宅内ダストには農業用農薬が含まれている
新たな研究論文が報告

情報源:Beyond Pesticides Daily News, July 25, 2006
Study Finds Agricultural Pesticides Common In Rural House Dust
http://www.beyondpesticides.org/news/daily.htm

Original Paper
Environmental Health Perspectives Volume 114, Number 6, June 2006
Proximity to Crops and Residential Exposure to Agricultural Herbicides in Iowa
http://www.ehponline.org/docs/2006/8770/abstract.html
訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/index.html
掲載日:2006年7月30日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_06/06_07/060725_bp_rural_house_dust.html



 新たな研究の調査結果によれば、微量な農業用化学物質が農村地帯の家の中に入り込んでいることが分った。農薬暴露は消費者が購入する果物や野菜経由だけでなく、家の中に入り込んでくる農薬によっても起こる。この研究 、”アイオワ州の農場近くの住宅での農業用除草剤への暴露” は、 『Environmental Health Perspectives』2006年7月号に掲載されたものであり、近隣の作物農場が増大するにつれて家の中での農業用除草剤への暴露が増大することを示している。

 この調査結果は、非ホジキンリンパ腫を含むすでに報告されている農薬と健康影響との関連の検討に波紋を投げかけるものである。この研究調査は、国立がん研究所から資金援助を得た大規模な非ホジキンリンパ腫研究から派生的に生じた結果であると Science News Online の記事は伝えている。

 この新たな研究で、国立がん研究所のメアリー H. ワード博士と彼女の仲間らは、アイオワ州の112人のリンパ腫患者と無作為に抽出した同年代の健常者ボランディアの家からダストを採取した。人工衛星が作成した同州の農業用地の地図を用いて、同チームは各参加者の家の近くの作物畑の面積を計算した。この研究には農家と町の中にある家の両方が含まれている。アイオワ州の作物畑の大部分は歴史的にトウモロコシと大豆が栽培されているので、ワード博士の研究チームはその地域の畑で使用される特定の農薬について家の中のダストを詳細に調べた。

 分析によれば、少なくとも6つの主要な農業用除草剤のうちのひとつが調査対象の28%の家のダスト中に存在していた。これらの化学物質には、アセトクロール、アラクロール、アトラジン、ベンタゾン、フルアジホップ-p-ブチ、及びメトラクロールが含まれる。アトラジンとメトラクロールはトウモロコシ及び大豆に最もよく使用される除草剤である。これらの穀物に次によく使われる除草剤はトリフルラリンとジカンバである。少なくともこれら4つの除草剤は43%の家から検出された。

 アトラジンはトウモロコシ畑の70%近くに散布されているが、それらはわずか8%の家のダストから検出されただけであった。しかし、検出されたところではダスト中の濃度は60〜4,700ppbであった。メトラクロールは約20%の家から検出された。その濃度は27〜3,200ppbであった。

 最もショッキングであったことは、 95%の家から検出された2,4-D を含むダストの濃度であり、一般的にはその濃度は1,000 ppbを越えていた。ある家では、2,4-D の値はなんと 125,000 ppb に達した。作物に、道路沿いに、森林に、そして芝生にと、2,4-D はアメリカとカナダで三番目に広く使用されている除草剤である。イリノイ州 EPA によれば、2,4-D はまず確実に内分泌かく乱作用をもち、また、2,4-D が非ホジキンリンパ腫と関連することを示す多くの研究がある。(訳注1

 またこの調査は農場作業者の家は一般的に除草剤で最も汚染されていることを示した。彼らの住居の除草剤汚染は農業に従事したことがない人の家の汚染に比べて3倍以上であることもあった。

 調査に参加した人々の60%近くが畑から550ヤード(約500メートル)以内に住んでいる。家のダスト中に農業用除草剤を検出するチャンスは、畑面積が10エーカー(約40,000m2)増えるごとに大づかみに家屋周囲800ヤード(約720メートル)の範囲内で6%増大する。

 結果として、除草剤を含んだダストは、家屋の周囲800ヤード(約720メートル)の範囲で少なくとも作物畑300エーカー(1,200,000m2)がある家の4分の3で見いだされる。

 米リンパ腫基金によれば、農薬との接触に関連する非ホジキン腫のリスクを調査したほぼ120の研究のほとんどは、特に除草剤の場合にこの疾病のリスクの増加を示している。同基金の印刷物資料は、リンパ腫の発症率又は死亡率の増加とより大きく関連している農薬は、除草剤 2,4-D 及びトリアジンであり、それはアトラジンを含む。

 しかし、農業用農薬に関連する健康又は環境リスクはがんだけではない。例えば、トウモロコシに使用されるある除草剤は、カエルの正常な生殖発達を妨げることが研究で示されている(Daily News 参照)。ある生物学者らはそのような変化は両生類の減少を説明するのではないかと考えている。

 農業用農薬はまた、ヒトの生殖に影響を与えるかもしれない。4年前に、ミズーリ大学の疫学者シャンナ H. スワン博士と同僚らは大都市と小都市の男性の精子について研究した。この研究で準−田園のミズーリ地域の男性の精子の濃度と質は、ロサンゼルス市やニューヨーク市のような大都市の男性に比べて低かった(Daily News 参照)。このことは、スワン博士が Science News Online に語ったように”現在使用されている農薬への環境暴露が精子の質低下に関連している”ことを示唆している。

 その研究の拡張で、アトランタの疾病管理予防センターは当初の研究調査に参加した男性の尿中の農業用農薬を間もなく測定するであろう。スワン博士は現在はロチスター大学である。


訳注1(参考資料)
2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)に関する毒性情報(東京都立衛生研究所毒性部病理研究科)



化学物質問題市民研究会
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