米内務省 米地質学調査 2006年3月3日プレスリリース
アメリカの川及び地下水中の農薬

情報源:U.S. Geological Survey, Press Release, March 3, 2006
The Quality of Our Nation’s Waters
Pesticides in the Nation’s Streams and Ground Water
http://www.usgs.gov/newsroom/article.asp?ID=1450

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年3月5日


 本日2006年3月3日、米地質学調査(USGS)は、1992年〜2001年までの川及び地下水中の農薬に関する調査報告書を発表した。報告書は、農薬は一般的にアメリカの都市部及び農業地域のほとんどの川で年間を通じて存在しているが、地下水ではそれほど一般的ではないと結論付けている。報告書はまた、人に影響を与えるらしいほどの濃度であることはまれであると結論付けている。しかし、多くの川では、特に都市部や農業地域から排水される川では、農薬が水生生物、又は魚を餌とする野生生物に影響を与えるかもしれない濃度で検出された。

 水部門の副部長ロバート・ハーシュ博士は、”農薬の使用は、雑草、害虫、その他の有害生物を管理し、食糧生産の増大や害虫を媒体とする病気の削減など広範な便益をもたらす一方で、その使用はまた、水質を含む環境へ与える影響の可能性についての疑問を提起する”−と述べた。ハーシュはまた、”米地質学調査の評価は、川及び地下水中に存在する現在の農薬について最も包括的な全国規模の分析を供給するものである。その調査結果は、どこで、いつ、そして、なぜ、農薬が存在するのかを示し、我々の水資源中の農薬を評価し管理するために科学ベースの関連を明らかにする”−とコメントした。

 米地質学調査(USGS)の結果は農薬の存在とその使用との強い関連性を示しており、殺虫剤ダイアジノン及び除草剤アラクロールやシアナジンを含む、よく検出される農薬のあるものは減少していることを示した。

 米地質学調査(USGS)は米環境保護庁(EPA)と密接に協力して10年間、調査を行った。EPAは農薬使用を規制するために曝露とリスク評価のために広範にそのデータを用いている。例えば、EPA は USGS データをダイアジノン、クロロピリホス、シアナジンン、及びアラクロールを再評価するために使用した。これらの農薬のうちの3つ(ダイアジノン、クロロピリホス、シアナジンン)の使用は EPA により著しく制限され、アラクロールの使用は自主的に削減され、登録された代替農薬によって大幅に代替が行われた。

 USGS 報告書は、フロリダから北西太平洋、及びハワイ、アラスカを含む全国で、主要な51河川の流域と水系から採取されたデータの分析、及び、高原水系(High Plains)における一つの地域調査に基づいている。USGS の河川サンプルには飲料水採取場所はないが、農薬濃度と人の健康との関連性に関する初期の展望を与えるために USGS によってスクリーニング・レベルの評価が実施された。USGS の測定値は EPA の飲料水基準及び指針と比較された。サンプル河川現場の10%以下と家庭及び公共の井戸の約1%を代表する個々の農薬の濃度は、ほとんど常に基準及び指針より低かった。

 しかし、USGS 測定値のスクリーニング・レベルを水生生物と魚を餌とする野生生物のための水質ベンチマークに照らし合わせると、農薬は人に対するよりも水生生態系に非常に大きな影響を与えているかもしれないことが分かった。都市部の川の80%以上と農業地域の川の50%以上から少なくとも1つの農薬が検出されており、ほとんどそれらは調査期間中に使用されたもので、水生生物のための水質基準を超えていた。水質ベンチマークは、それ以上の濃度ではヒトの健康、水生生物、又は魚を餌とする野生生物に有害な影響を及ぼすかもしれない濃度である。

 殺虫剤、特にダイアジノン、クロリピリホス、及びマラチオンはしばしば、都市部の川で水質ベンチマークを超えていた。都市部の芝生や庭などでのダイアジノンやクロリピリホスの使用は、EPAによる使用制限のために2001年以来中止されている。USGS データは、これらの農薬の濃度は、いくつかの都市部の川では2001年以前に減少していたかもしれないことを示している。これらの都市部の川がベンチマークを超えることはこの調査の後半ではほとんどなかった。ダイアノジンのひとつの事例研究が1998年から2004年の間に北東部の都市部の川で濃度が減少していることを示している。

 農村地帯の川では、クロリピリホス、アジンホスメチル、p,p'-DDE、及びアラクロールは水生生物に影響を与えるかもしれない濃度で最もしばしば検出された農薬であるが、それらは作物への使用が最も多いあるいは多かった地域で最も重要な農薬である。しかしこの報告書の上級著者ロバート・ギリオンによれば、”農薬の使用は規制や市場の動向に対応して常に変動し、この10年間調査の結果はこの調査中及び調査後の変化に関連して検証される必要がある。例えば、除草剤アラクロールのトウモロコシ及び大豆での使用はこの調査期間を通じて減少したので、それらの農薬のレベルは、イリノイ、インディアナ、アイオワ、ネブラスカ、及びオハイオの各州、さらには近接州の一部、いわゆるトウモロコシ地帯(コーンベルト)の川で減少した。”それとは対照的に、コーン・ベルトで最も多く使用されている除草剤アトラジンのレベルは調査期間通じて相対的に高いままであった。

 さらに、この調査が開始された時にはすでに使用されていなかった有機塩素系農薬 DDT、ディルドリン、及びクロルデンは都市部及び農業地域で川の沈殿物や魚からしばしば検出された。これらの化合物が1960年代に使用が減少し、1970年代と1980年代に全ての使用が廃絶されたことに対応して魚から検出される濃度が減少し、現在もゆっくりと減少し続けている。しかし、これらの残留性有機塩素系農薬がいまだに全国の多くの都市部及び農業地域の川で水生生物と魚餌とする野生生物のためのベンチマークを超えるレベルで存在しているという結果は注目に値する。

 この USGS 調査はまた、農薬は単独で存在することはほとんどなく、常に複雑な混合物として存在することを報告している。ほとんどの川のサンプル及び約半分の井戸のサンプルは2又はそれ以上の農薬を含んでおり、しばしばそれ以上であった。

 ギリオンは、”人間、水生生物、及び魚を餌とする野生生物に対する複合汚染の潜在的な影響はまだほとんど理解されておらず、ほとんどの毒性情報は、この調査で使用された水質ベンチマークもそうであるが、単一の化学物質として開発されている。特に川で農薬が混合された状態で一般的に存在するということは、水中、堆積物、及び魚での農薬の複合毒性の合計は、そこに存在する農薬成分の単一の毒性の合計より大きいかもしれないということを意味する。混合物の影響調査はまだ初期の段階であり、研究者が実際の潜在的な影響を理解するためにはまだ数年かかるかもしれない。我々の調査結果は、混合物の影響調査は優先度の高い重要項目であることを示している”−と述べた。

 この報告書、『アメリカの川及び地下水中の農薬 "Pesticides in the Nation’s Streams and Ground Water, 1992-2001," Circular 1291』は http://pubs.usgs.gov/circ/2005/1291/ 又は、電話1-888-ASK-USGS 又は、fax 303-202-4693 で入手可能である。
 農薬の評価についての詳細な情報は http://water.usgs.gov/nawqa/ の What’s New で見つけることができる。



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