The Conversation 2018年3月20日
衣類中の銀ナノ粒子は洗い流され
人の健康と環境を脅かすかもしれない

スカルヤン・セングプタ&タビシュ・ナバツ

情報源:The Conversation, March 20, 2018
Silver nanoparticles in clothing wash out and
may threaten human health and the environment
By Sukalyan Sengupta and Tabish Nawaz
https://theconversation.com/silver-nanoparticles-in-clothing-wash-out
-and-may-threaten-human-health-and-the-environment-90309


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2018年7月31日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/news/180320_
Conversation_Silver_nanoparticles_in_clothing_wash_out.html


 人間は、古代から銀が多くの微生物類を殺す又はその成長を止めることを知っていた。医学の父、ヒポクラテスは潰瘍の治療と傷の手当に銀の調合薬を使用していたと言われている。1940年代に抗生物質が導入されるまで、コロイド状銀 (微小粒子が液体中に浮遊している状態の銀) は、火傷、感染した傷及び潰瘍の治療の主流であった。銀は今でも、包帯、クリーム及び医療機器の表面処理に使用されている。

 1990年代以来、製造者らは、抗菌及び防臭の特性を強化するために、数多くの消費者製品に銀ナノ粒子を加えている。例えば、衣類、タオル、肌着、ソックス、歯磨き、ぬいぐるみ等がある。ナノ粒子はその径が 1 〜 100 ナノメートルの範囲の超微小な粒子であり、顕微鏡で見るにも小さすぎる。広く引用されているデータベースによれば、現在米国市場にあるナノ物質ベースの消費者製品の約 4分の 1はナノ銀を含んでいる。

 布製品を洗濯するとナノ銀は布地から流れ出すことを多数の研究が報告している。研究もまた、ナノ銀は人間及び水生/海洋生物に有害かもしれないことを明らかにしている。ナノ銀は広範に使用されているにもかかわらず、環境中におけるその運命又は長期的な有害影響についてはほとんど理解されていない。

 我々は、この潜在的な生態学的危機を純粋の銀ナノ粒子を回収することにより、ひとつの機会に替える方法を開発中である。最近発表した研究の中で、我々は銀回収のためのテクニックについて述べ、主要な技術的課題を検討した。我々のアプローチはこの問題をその発生源で対処すること−この場合は個々の洗濯機−である。我々はこの戦略が排水からの新たに特定された汚染物質に対応するための大きな希望である信じている。

布地の銀鉱脈

 消費者製品中でのナノ銀の使用は過去数十年間に一貫して上昇している。銀ベースの布地の市場占有率は2004年の9%から2011年の25%に上昇している。

 いくつかの調査布地中の銀含有量を測定しており、布地 1キログラム当たり銀 0.009〜21,600 ミリグラムの範囲の値であることを発見した。研究は水溶液中に漏れ出す銀の量は、洗剤と他の化学物質間の相互作用及び銀の布地への添加方法を含んで、多くの要素に依存することを示している。

 人間の銀への暴露は、肝臓細胞、皮膚及び肺へを害をもたらすことができる。長期にわたる暴露又は大用量の暴露は銀皮症(argyria)と呼ばれる症状を引き起こし、患者の皮膚は恒久的に青みがかった灰色になる。

 銀は、ゼブラフィッシュニジマス動物プランクトンを含んで、多くの微生物や水生生物にとって有害である。

 銀が下水管を通じて排水処理施設に行きつくと、それは潜在的に処理施設の微生物処理プロセスを損ない、それらの効率を下げ、処理施設を汚す。排水中に放出された銀ナノ粒子の 90%以上が、下水処理施設の後工程の栄養分に富んだ下水汚泥中に残され、それらはしばしば、農業用肥料として畑で利用される。

 このことは多くのリスクをもたらす。もし植物が土壌から銀を摂取すれば、植物は銀を濃縮し、銀は食物連鎖に入り込む。それはまた、地下水に漏れ出し、又は大雨や浸食により河川に流れ込む。

発生源で洗濯水を処理する

 我々の研究は、排水系から銀を除去する最も効率的な方法は、それを洗濯機の中で処理することであることを示している。ここでは銀濃度は比較的高く、銀は最初は処理された布から回収可能な化学的形態で放出される。

 洗濯排水が排水処理施設に送られ、下水や他の発生源からの水と混合されると、銀濃度は著しく低下し、異なる化学的形態に変化することがあり得る

 ここでは化学が少しばかり役に立つ。我々の回収方法は、イオン交換と呼ばれている広く使用されている化学プロセスを採用する。イオン交換では固体と液体はともにイオンをお互いに交換する。

 例えば、家庭用せっけんは、マグネシウムやカルシムのようなイオンを高いレベル含む ”硬水”中ではよく泡立たない。多くの家庭用の水フィルターは、水を”軟水”にするためにイオン交換を使用している。

 このプロセスが機能するために、交換するイオンはプラス又はマイナスのどちらかでなければならない。ナノ銀は最初は布地から銀イオンとして放出されるが、それはカチオン、すなわちプラス電荷をもつイオン(Ag+)である。

 発生源であっても排水から銀を除去することは難しい。洗剤液中での銀濃度は、除去プロセス妨げるカルシウムなどの他のカチオンに比べて比較的低い。ある洗剤の組成は潜在的に銀と相互作用することがあり得るので、洗剤の化学的特性が状況をさらに複雑にする。

 他の化学物質は拾わずに銀だけを回収するために、回収プロセスは銀と化学的親和性のある化学物質を使用しなくてはならない。以前の研究で、我々は潜在的な解決策を述べた。すなわち、銀と優先的に結合する硫黄ベースの化学物質に埋め込まれているイオン交換物質を使用することである。

 我々の新たな研究で、我々は洗濯水をイオン交換樹脂カラムに通し、それぞれの主要な洗剤成分がどのように水の中で銀と相互作用し、水から銀を除去する樹脂の能力にどのように影響を及ぼしたかを分析した。pH、温度及び非銀カチオン濃度のようなプロセス条件を操作することにより、我々は銀回収を最大化する最適条件を特定することができた。

 我々は、 pH とカルシウムイオン(Ca2+)が重要因子であることを見つけた。高いレベルの水素又はカルシウムイオンが洗剤成分に結合し、それらが銀イオンと相互作用することを阻み、したがってイオン交換樹脂は銀を溶液から除去することができる。我々はまた、ある洗剤の成分、特に漂白剤と軟水化剤はイオン交換樹脂の機能効率を低くすることを発見した。条件に依存して、我々は洗濯水中の銀の 20%から 99%を除去した。

 我々の発見は、銀回収を改善する代替洗剤の研究に拍車をかけることができる。それらはまた、イオン交換樹脂技術は高レベルの洗剤を含む洗濯水から微量の銀を回収することができることを示している。

排水処理の将来

 今日、排水は家庭や事業所のような多様な発生源から集まっており、集中化排水処理施設までの長距離を排水管で送られている。しかし、これらの施設は多くの異なる排水系に対して一般的なひとつの処理施設を使用しているので、新たに特定された汚染物質が環境に入らないようにするためには不十分であることを示す証拠が増大している。

 将来は、排水に含まれる物質のために特別に設計された特定の技術を用いて異なる種類の排水を処理することができる分散化排水処理システムになると信じている。もし、コインランドリーからの廃水がレストランからの排水とは異なる汚染物質を含んでいるなら、どうして同じやり方で処理するのか?

 我々のアプローチは、新たな環境問題に対応するために、あなたの洗濯機に特別の水処理カートリッジを取り付けるような単純なステップによる、効率的で効果的な方法である。


訳注:当研究会紹介したがナノ銀に関する情報



化学物質問題市民研究会
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