Nanowerk 2009年2月19日
食品保存材料中で使用されるナノ銀は
DNA転写を阻害する

マイケル・バーガー

情報源:Nanowerk News, February 19, 2009
Nanosilver used in food storage materials found to interfere with DNA replication
Michael Berger
http://www.nanowerk.com/spotlight/spotid=9340.php

紹介:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2009年7月7日


【Nanowerk Spotlight】銀は抗菌特性を持つことが古くから知られ、人の健康保持のための抗菌剤として長い興味深い歴史を持っている。古代ギリシャやローマでは、銀は感染を防ぎ腐敗を抑制するために用いられた。19世紀の後半、植物学者ネイゲリは銀のわずかな濃度が抗菌特性を持つことを発見した。しかし、この最初の抗菌剤が発見されてから、古い家庭療法はすっかり忘れさられてしまった。

 現代的な形態として銀ナノ粒子は、細胞に栄養を運ぶ酵素を破壊し細胞膜又は細胞壁及び細胞質を弱めることによりバクテリアの細胞を損傷することができるので、様々な分野で有望な抗菌物質になっている。例えば、普及が拡大している応用分野は、プラスチック袋、容器、フィルム、またはパレットのような食品容器包装での純銀、又は銀コーティングをしたナノ粒子の使用である。

 新たな研究が、銀粒子は二本鎖のDNAを結合し、おそらくそのために、試験管内(in vitro)及び生体内(in vivo)の両方でDNA転写の忠実性を損なう結果となる。しかしこの研究は、銀ナノ粒子が直接DNAポリメラーゼ(訳注1)の作用を阻害するかどうかについて決定的な結論は下していない。

 ナノ銀は米食品医薬品局のような機関によって規制されるべきかどうかに関して熱い議論があり、一方、活動家グループは厳格な制限を求めているが(Groups file legal action for EPA to stop sale of 200+ nanosilver products )(訳注2)、銀ナノ粒子のリスクの科学的な描画は明確ではない(例えば、Nanotechnology risks: the unclear fate of nanosilver)。

 ”ナノ銀の広い範囲での応用とバクテリアへの細胞毒性に関する多くの研究があるにもかかわらず、ヒト健康と環境に対する長期影響に関わる情報については深刻なギャップがある”とジズホウ・ザーンはNanowerkに述べた。”DNAは、一度銀イオンで処理されると転写能力を喪失することが示唆されてきているが、我々の最近の研究で、ナノ銀粒子がポリメラーゼ連鎖反応(PCRs)又は細胞培養中に存在すると大腸菌(E. coli)中の変異原性モニター遺伝子 rpsL の転写忠実性を定量化した。

 Nanotechnologyオンライン版2009年2月2日号(Food storage material silver nanoparticles interfere with DNA replication fidelity and bind with DNA)で、天津科学技術大学システム・バイオテクノロジーTeda Bio-X Centerの教授ザーンは銀ナノ物質が直接ゲノムを阻害することを発見した。

 ザーンは、そのような阻害の長期的な影響はわからないので、科学者らはこの種の阻害を早急に詳細に精査し、異なるナノ粒子の相対的な安全性を体系的に評価する必要があると述べている。

 新しいアプローチを用いて、中国チームは銀ナノ粒子はDNA転写の忠実性の損傷を誘因することを示す銀−ゲノム相互作用に関する新たなデータを示した。

 彼等は、ナノ銀懸濁水を用いポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を通じてDNA増幅/転写の忠実性を検証した。

 ”ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は非常に有用なツールであることが証明されており、試験管内テスト(in vitro)におけるDNA転写のための基本的な手順である”とザーンは述べている。”ポリメラーゼ連鎖反応物内のはヌクレオチドの結合エラーは変異原性アッセイによって決定することができる。我々は、変異原性モニター遺伝子 rpsLを変異原性アッセイで使用したが、それはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の忠実性の直接的な時間分解測定である。そのうえ野生型rpsL遺伝子で変換されるバクテリア系は、そのバクテリア系が直接ナノ物質とともに培養されているなら、生体内(in vivo)における変異原性モニター遺伝子 rpsL転写忠実性に関するナノ物質の効果を検出するためのモデルとして機能する ”。

 彼等の研究において、銀ナノ粒子の効果が試験管内(in vitro)及び生体内(in vivo)でDNA転写忠実性に関し初めて精査され、原子間力顕微鏡法(AFM)を用いてナノ銀とDNAの直接的相互作用が観察された。

 この報告書中で重要な課題のひとつはナノ粒子の毒性評価手法である。ナノ粒子の毒性評価のためのアプローチは一般的な化学物質に用いられるものと必ずしも異なる必要はないがナノテクノロジーに関する新たに起きている分野に導く、ナノ粒子のための特定のアプローチが開発されることが期待される (Toxicology - from coal mines to nanotechnology)。

 ”いくつかの調査がナノ物質の安全パラメーターを測定するために報告されており、それらの研究で使用されたアプローチは全て一般の化学物質に対しても適切であった”とザーンは述べている。 ”我々の調査では、ナノ物質によりかく乱されたDNA転写忠実性が、潜在的な長期毒性評価のために採用された。これは、試験管内(in vitro)及び生体内(in vivo)の両方でrpsL 遺伝子ベースのアッセイにおけるDNA転写エラーをもたらす異なるナノ粒子の相対的な能力を計算するために便利な方法である”。

 この報告書におけるもう一つの重要な課題は、抗菌作用とDNA転写忠実性を損ねることに関連して、銀ナノ粒子と銀イオンの間の機能的相違である。多くの研究報告が既にこの課題に目を向けている。この新たな論文は、銀ナノ粒子と銀イオンが異なるメカニズムの下にバクテリアの成長とその他の細胞活動をを抑制するという証拠を提供する増大する研究に加わるものである。

 ザーンの研究に用いられたrpsLに基づくアッセイは化学物質の遺伝毒性の評価においてまだ報告されていないが、多くのナノ物質の長期的毒性評価に有用な役割を果たすことが期待される。将来のナノエクンロジー研究のための特別な課題は、ナノ物質が遺伝子に影響を与えることができるかどうか決定するための十分な品質のデータを生成することであり、そのことは、細胞中の分子ネットワーク・パターンを劇的に再構築する結果となり得るであろう。一方、もし、特定のナノ粒子が特定の遺伝子への類似性を示すことが発見されれば、そのことはゲノムDNAを故意に変更するためのバイオナノテクノロジーで使用することができるであろう。

マイケル・バーガー(Michael Berger)


訳注1 DNAポリメラーゼ 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

訳注2 訳注3:ナノ銀関連情報


化学物質問題市民研究会
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