国際技術評価センター 2008年5月1日
ナノ銀による環境と健康への脅威を
EPAが規制しないことに対する請願
エグゼクティブ・サマリー


情報源:International Center for Technology Assessment (CTA), May 1, 2008
Legal Petition Challenges EPA's Failure to Regulate
Environmental and Health Threats from Nano-Silver
http://www.icta.org/files/2011/12/CTA_nano-silver_executive_summary_5_1_08.pdf

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2008年5月3日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/CTA/CTA_080501_Nano_Silver.html


 2008年5月1日, 国際技術評価センター (CAT)と消費者、健康、及び環境団体の連合は、米環境保護庁(EPA)が有する農薬規制権限をナノサイズの銀を用いた多くの消費者製品の規制に使用するよう要求して、同庁に請願した。この請願はEPAがナノ物質を規制しないことに対する初めての請願である。ナノ銀は最も広く商業的に使用されているナノ物質である。

ナノ技術とナノ銀の現状

 ナノ技術は原子及び分子レベルでその本質を分解し再構築する。ナノ技術及び人工のナノ物質を含む製品は多くの産業へますます広がりを見せている。人工のナノ物質からなる数百の消費者製品が現在広く入手可能である。現在知られている商業的ナノ物質製品で最大の割合を占めるのは、微生物やバクテリアを殺す能力のためにナノ粒子銀(”ナノ銀”)を取り込んだ製品である。

製品

 訴訟人は、アメリカで販売されておりナノ製品であると製造者が自己申告している(self-identified)ナノ銀消費者製品は260種を下らないことがわかった。それらの製品はこの訴訟文書に付属として添付されているが、それらはには次のようなものが含まれる:
空気及び水の洗浄器及びフィルター;浴室、台所及び多目的クリーニング・スプレー及びワイパー;子どものおもちゃ;赤ちゃん用ボトル及び幼児用製品;洗濯用洗剤及び繊維軟化剤;食品保存容器;食卓用刃物類とまな板;下着、ソックスシャツ、上着、手袋、帽子等多くの繊維製品;様々な織物と繊維;石けん、身体及び髪手入れ用品;ペット用アクセサリー;冷蔵庫及び洗濯機;コンピュータ・ハードウェア;健康飲料補助食品;自動車用品;粉体又は液体のナノ銀。製品はアメリカ、イギリス、カナダ、韓国、日本、台湾、中国、ニュージランド、及びドイツ製である。

 ナノ銀製品は、ナノ銀の成分の効力について広い範囲の主張をしている。例えば99%のバクテリアを除去;素材の永久的殺菌効果を与える;有害な細菌やウィルス約650種を殺す;30分でバクテリアを殺す;他の形状の銀に比べて2〜5倍速いなどである。

ナノ銀の環境と人の健康へ及ぼすリスク

 これらのナノ物質が製造者を魅了する高い抗菌効果というその同じ特性が、環境に非常に有害で人の健康に深刻な懸念を及ぼすことがありえる。通常のサイズであっても銀は魚、水生生物及び微生物に有毒であるが、2005年のある研究はナノ銀が通常の銀より約45倍有害であることを見出した。さらに、ナノ銀のようなナノ物質は通常とは異なる物理的、化学的、生物学的特性を顕著に示し新たな有害性を示す。その影響は使用から廃棄に到るまで及ぶ。2008年のある研究は、ナノ銀のソックスを洗濯すると大量のナノ銀が洗濯排水中に出て、それは最終的には自然の水系及び生態系にまで到達し、魚類やその他の水生生物に毒性をもたらす可能性がある(訳注1)。他の2008年の研究はナノ銀の排出は排水処理施設で使用される良性のバクテリアを殺すことを発見した。

 製品に使用されているナノ銀の多くは、子ども用(哺乳瓶、おもちゃ、ぬいぐるみの動物、衣料)または、人への高い暴露をもたらすもの(食卓用刃物、食品容器、塗料、ベッドシーツ、身体手入れ用品)等であるが、ナノ銀の潜在的な人への健康影響に関する研究はほとんど行われていない。研究は、銀の安全性に関する従来の前提がナノスケールの物質になった時に示す特異な特性に照らして十分であるかどうかという疑問を提起している。使用範囲が広いナノ銀の潜在的な健康リスクはまた、バクテリアの抗生物質耐性が増大すること及びナノ物質の人体内での前例のない移動によってもたらされるリスクである。

EPAの不履行

 ナノ銀に関する最初の懸念は2006年の初めに全国の排水処理施設によって提起された。彼らの懸念は当時のナノ銀新製品、サムソン製のシルバーケアー洗濯機によってもたらされたが、それは洗濯をするたびに銀イオンを排水中に出すという理由であった。これに対してメディアは2006年11月にEPAがナノ銀を農薬として規制するであろうと報じた(訳注2)。1年後にEPAはサムソンの洗濯機だけを対象とする指針を発表し、それが市場に残ることを許した。EPAはこの指針が”ナノ技術を規制するための措置”であることを否定した。

請願

 ナノ銀製品の爆発的増加とそれに関連する環境及び健康リスクにもかかわらず、EPAはなんら意味のある規制措置を取っていない。この請願は、必要とされる監視措置を取るために法的な青写真と促進を提示するものである。

 第一に、この請願は、EPAがその規制を修正するか、あるいはナノ銀が農薬でありそれを導入している製品は登録されEPAによって承認を受けなくてはならない農薬製品であり、市場に出る前にラベル表示されなくてはならないということを明確にすることをEPAに求めている。ナノ銀は、高い抗細菌剤又は抗菌剤効果を持ち、その目的で使用することが意図されているので、農薬法(FIFRA)の農薬の定義に合致する。EPAは、農薬としての意図及び公衆の健康の権利が暗黙的及び明示的であること、及び製造者は、いくつかの製造者が既に巧みに利用している潜在的な法の抜け穴である製品表示を外すことによって単純に農薬分類を回避することはできないと言うことを明らかにすべきである。

 第二に、この請願は、EPAがナノ銀製品のようなナノ農薬は、ナノ特有の毒性データ要求、テスト、及びリスク評価をもって新たな農薬登録が求められる新たな農薬物質であるということを明確にすることをEPAに求めている。ナノ銀は、基本的に特異で異なる特性を持つというナノ物質の性質に基づき、そしてナノ銀の多くの新たな抗菌剤としての用途はこれまでに銀の用途として登録されたことはなかったので、サイズの大きな銀(マクロ銀)とは異なる物質として分類されなくてはならない。

 第三に、EPAはナノ銀の潜在的な人の健康と環境へのリスクを評価しなくてはならない。これらの評価は、食品品質保護法(FQPA)、絶滅危機種法(ESA)、国家環境政策法(NEPA)と共に、農薬法(FIFRA)によっても求められ、それに従わなくてはならない。この評価の一部として、EPAは、製造者に全てのナノ銀に関する必要データの提出を求めると共に、全ての既存の科学的研究を分析すべきである。食品品質保護法(FQPA)に従い、EPAはナノ銀の子どもと幼児への潜在的な影響を評価し、集合的暴露からいかなる危害も生じないことを確実にしなくてはならない。さらに、EPAはナノ銀に関する措置が絶滅危機種法(ESA)を遵守し絶滅危機種を保護することを確実にしなくてはならない。最後にEPAはナノ銀農薬製品に関する環境的影響を評価することを確実にすることにより、国家環境政策法(NEPA)を遵守しなくてはならない。

 第四に、EPAは、承認されていない健康への利益を主張する不法な農薬製品としてナノ銀製品の販売を禁止する措置を直ちに取るべきである。現在市場にあるナノ銀消費者製品は、明らかに農薬法(FIFRA)の命令に違反している。これを止めさせるために、EPAは、未登録のナノ銀農薬製品を現在販売している製造者又は流通業者に対し、販売・使用の停止又は撤去命令、又はその他の法的強制力のある罰則又は措置をとるべきである。
 第五に、EPAが厳格な評価の後にナノ銀製品を農薬として承認するなら、EPAは登録された全てのナノ銀農薬に農薬規制を完全に適用すべきである。農薬法(FIFRA)の農薬登録要求は、ナノ農薬中のナノ物質の製造と使用の禁止、制限、又は許可する義務をEPAに課している。これらには、ナノ特有の成分の要求とラベル表示警告;条件付登録の適用;登録後の有害影響の届出要求;登録後のテストと新たなデータ開発;企業機密を含む環境及び健康影響に関する全ての情報の開示等が含まれる。

 最後に、EPAは、ナノ銀農薬の分類の見直し又は特別な見直しを約束すること;ナノ物質及び/又はナノ銀特有のデータの提出を求めるために農薬法(FIFRA)規制を修正すること;既存の銀農薬の登録見直しを完成させること;そしてナノ銀に対する連邦食品医薬品化粧品法の許容(Tolerance)を設定することなどを含んで、ナノ銀の潜在的影響ををさらに検証するために、農薬法(FIFRA)の権限を使用すべきである。

 請願の全文は www.icta.organd www.nanoaction.org、及び www.nanoaction.org から入手可能である。

請願の骨子

 EPAが請願を認めるるなら、その結果はナノ銀は新規物質として分類され、ナノ銀製品は新たな農薬として規制される。このことは、現状及び将来のナノ銀製品はEPAの上市前承認を受ける必要がある。現在の製品はEPAの承認を受けるまであるいは承認を受けなければ市場から撤去されなくてはならない。承認は、EPAがその製品が不合理なリスクを環境に及ぼさないということを確認すれば、与えられるであろう。EPAはまた、ナノ銀が人の健康、特に子どもと幼児に及ぼさないこと、及び環境、特に絶滅危機種及びその生息領域に影響を及ぼさないことを評価しなくてはならない。EPAは製造者にEPAが評価を実施するために当該ナノ物質及び現状の環境・健康・安全(EHS)の不明なことについて必要なデータを提出することを求めるであろう。もし、ナノ銀製品のどれかが承認されて農薬として登録されれば、その使用は警告ラベルの表示を含んで、環境と人の健康を守るために必要な条件が付けられるであろう。EPAはまた、ナノ物質農薬製品のためのナノ特定データ、テスト及びリスク評価を求めるためにその規制を改訂するであろう。

請願者

CTAの請願への参加者:
the Center for Food Safety, Beyond Pesticides, Friends of the Earth, Greenpeace, ETC Group, Center for Environmental Health, Silicon Valley Toxics Coalition, Institute for Agriculture and Trade Policy, Clean ProductionAction, Food and Water Watch, the Loka Institute, the Center for Study of Responsive Law, and Consumers Union.

CTAについて

 CTAは、社会に関する技術的影響の十分な評価と分析を公衆に提供する非営利、無党派組織である。CTAは、そのナノ技術プロジェクト www.nanoaction.org を通じてナノ技術の適切な監視に向けて取り組んでいる。

 CTAは、その使命を達成するために、行政請願を含む様々な法的及び政策的ツールを用いる。これはCTAがナノ技術の健康と環境リスクに関して起こした二番目の請願である。2006年5月にCTAは食品医薬品局(FDA)に消費者製品、特にナノ化粧品とナノ日焼け止めに関する請願を起こした。


訳注1:
訳注2:ナノ銀関連情報


化学物質問題市民研究会
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