Nanowerk 2010年8月18日
銀ナノ粒子の毒性は保管中に増大する
マイケル・バーガー

情報源:Nanowerk News, August 18, 2009
Toxicity of silver nanoparticles increases during storage
Michael Berger
http://www.nanowerk.com/spotlight/spotid=17687.php

紹介:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2010年8月21日


【Nanowerk Spotlight】銀は、古代ギリシャやローマ時代から感染を防ぐ特性が知られていたが、現代になって、医薬品会社はもっとお金の儲かる抗菌剤を開発した。しかし、ナノテクノロジーの出現のおかげで、銀は、繊維製品、外科器具、実験室機器、床や壁用塗料などのための抗菌ナノ粒子コーティングの形で復帰した。("Antibacterial nanotechnology multi-action materials that work day and night")

 銀の微生物に対する望ましい特性の反対側に、人に対する有毒影響の可能性があり(As nanotechnology goes mainstream, 'toxic socks' raise concerns)、これがナノ銀製品の安全性についての議論を引き起こした。科学者らは製品中の抗菌ナノ銀の毒性を減らすよう努力したが、懸念はそのままである。

 これらの懸念の解決には役立たないのであるが、ドイツの研究者のグループの新たな報告が、銀ナノ粒子は溶解速度が遅く銀イオンを放出するので、銀ナノ粒子毒性は保管中に増大することを示している。(訳注1:溶解 (dissolution))

 ドゥイスブルク・エッセン大学無機化学教授マシアス・エップルに率いられた同グループは、異なる表面機能を持った銀ナノ粒子を調合して特性化し、異なる3つの温度条件で超純水でその溶解性を調べた。

 エップルによれば、溶解銀イオンは特に微生物に対して著しい生物学的作用をもたらすという一般的な合意がある。銀ナノ粒子のヒト間葉系幹細胞に対する致死量(濃度)は、(任意の溶液中の銀の絶対濃度に関して)銀イオンよりも約3倍高い。

 研究者らは、銀ナノ粒子の溶解速度については非常にわずかしか分かっていないということに留意している。”この溶解速度はナノ粒子周辺の銀イオンの濃度を直接的に決定するので、銀ナノ粒子のどのような抗菌剤応用にとっても、またヒト体内での銀ナノ粒子の毒性評価にとっても、非常に重要である”と彼は述べている。”さらに、環境中に放出される銀ナノ粒子の最終的運命(例えば、銀を含む衣料から排水プラントへ)もこれらのデータに依存する”。

 溶解速度は、化学種(すなわちナノ粒子形状の金属銀)に依存するだけでなく、粒子サイズ、表面機能化、及び粒子の結晶性にも依存するようである。さらに、温度と液浸媒体の特性(例えば、塩又は生体分子)が主要な要素である。

 エップルのチームは、水中の銀ナノ粒子の溶解とその程度は、その表面機能化、濃度、及び温度に依存することを発見した。

 ”任意の条件の任意のシステムで、数時間後に定常状態に達した。すなわち、ナノ粒子は完全には溶解しなかった。これは動的な環境、例えば分散実験で変わる”。

 動的光散乱、電子顕微鏡、又は超遠心分離等を用いた古典的な分析手法は、放出されたイオンに対して感度が鈍く、粒子径はわずかしか変化しないので、ナノ粒子分散のそのような変化は実験者の注意をそらすかもしれないということを研究者らは指摘している。

 ”時間の経った粒子の動的光散乱実験は、粒子が保管期間中に変化しなかったことの品質管理として一般的に認められるが、しかし、この実験はそのような溶解現象を明らかにすることはない”と彼らは書いている。

 体内と環境中のナノ粒子の毒性に関しては、新たに調合されたナノ粒子と時間の経ったナノ粒子の生物学的作用は、放出されるイオンの量が異なるので、著しく異なる。残念ながら、生物学的媒体中の溶解は、媒体中に様々な成分が存在するので、測定し記述するには複雑すぎ、放出された銀イオンの運命もまた明らかではない。かくして同チームの実験として、純水中での溶解が生物学的環境中で液体に浸された銀ナノ粒子の運命について初めて示した。

 ”それでも、ナノ粒子は、生物学的作用がテストされる前に、一般的には生物学的媒体中ではなく水中で保管され、したがって報告された結果は、ナノ粒子毒性研究の典型的な実験室調査を表している”とエッペルは書いている。”報告された毒性学的レベルにおける公表されているいくつかの矛盾はこの事実によって説明されるかもしれない。もちろん、もしナノ粒子が乾燥状態で保管されれば、それらは溶解しないが、再分散の問題のために表面機能化、分散可能ナノ粒子にとって典型的ではない。基盤中に埋め込まれるドライ銀ナノ粒子でも、それらが例えば洗濯水や屋外で雨水と接触すれば溶解し、銀イオンを放出する。


訳注1:溶解


化学物質問題市民研究会
トップページに戻る