SCENIHR 2014年6月10-11日
新規の及び新たに特定された健康リスクに関する科学委員会
ナノ銀に関する意見
安全、健康、環境への影響及び殺菌耐性

エグゼクティブサマリー

情報源:SCENIHR 10-11 June 2014
Opinion on Nanosilver: safety, health and environmental effects and role
in antimicrobial resistance
http://ec.europa.eu/health/scientific_committees/emerging/docs/scenihr_o_039.pdf

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2014年6月26日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/eu/SCENIHR_140610-11_Nanosilver.html

エグゼクティブサマリー
 銀塩、酸化銀、並びに銀線、銀ナノ粒子(Ag-NP)及びその他の銀材料などの銀の異なる形状の特性及び使用が、潜在的な人及び環境の暴露並びに健康影響という観点から検討された。さらに、細菌の感受性と耐性に関する現在の知識を考慮しつつ、消費者製品及び医療品中で殺生物剤としてのナノ銀の使用が、レビューされた。

ライフサイクル

 銀は、消費者製品及び自然環境中で、異なる化学的酸化状態(金属銀 [Ag0] 又はカチオン [最も一般的な Ag+])で存在する。消費者製品中では、銀化合物は、塩(化学)、ナノサイズ( 1-100 nm)及び大きな粒子として現れる。これらの様々な銀化合物は、その運命と生物活性に影響を与えるかもしれない溶解性、表面電荷のような異なる物理化学的特性を持つ。

 ナノ銀の製造及び応用のための様々な手法はますます増大している。製造プロセスの多様性もまた、製品中で使用される銀形状の成分と質の変化をもたらすかもしれない。

 ナノ銀を含む消費者製品の例には、食品容器包装材料、サプリメント(現時点ではEUにおいて、特に認可されなければ許可されない)、衣料品、電子機器、家庭用品、化粧品、医療器具、水殺菌、及び室内スプレー等がある。現状では、ナノ銀を含む製品は、膨大な数の商品名で市場に出ており、またいくつかの例外はあるが、現状のラベル表示規則は成分としてのナノ物質を表示することを求めていないので、追跡することは困難である。

 衣料品中での殺菌剤としての様々な銀化合物(ナノ及び非ナノ銀化合物)の使用を検討して、世界の殺生物用途での銀の総使用量は、世界の銀の総使用量、年間150,000トン以上の0.5%であると見積もられ、一方、衣料品での銀使用は、世界の銀の総使用量の0.1%であると見積もられる。衣料品中で使用される使用量の中で銀ナノ粒子(Ag-NP)は、約10%を占めるかもしれない。

 ヘルスケア分野では、銀化合物は、主に傷の感染及び再感染のリスクを削減するために、抗菌包帯中で使用される。銀はまた、殺菌作用を持ち、虫歯を減らすと考えられて、歯の修復における歯科材料(アマルガム、セメント)としても用いられる。

 ナノ物質を含む製品のライフサイクルに関する定量的データは極めて少なく、現在はほとんどバルク製品との比較に基づいている。銀ナノ粒子(Ag-NP)を含む製品の廃棄段階を評価する時に、従来の製品に対するのと類似の方法で、既存の廃棄物管理オプション(リサイクル、廃水処理、埋立、焼却)がナノ物質製品にも利用されるであろう。リサイクルされない廃棄物中にある全ての銀内容物は最終的には、埋立における固体廃棄物;廃水処理設備からの放出(流出水又は汚泥);又は焼却プラントからの残渣(例えば、飛散灰、鉱滓、ボトムアッシュ)などとして環境中に出る。ナノ銀を含む製品の焼却の実際の測定は行われていないが、ナノ物質のサイズに依存して、あるモデルはフィルターに効果的に捕捉され空気中に浮遊するナノ粒子(NPs)の25〜100%の排出を予測する。

 ヨーロッパでは、衣料品と化粧品中の銀化合物の主要な環境暴露経路は、廃水処理設備を通じてのものであろう。廃水処理設備から地下水及び表面水への銀放出は低いと予想されるが、ある生物種に有毒な濃度での放出はあり得る。

消費者および職業暴露

 消費者暴露は、ナノ銀物質を含む消費者/医療製品の配合組成、用途、及び廃棄に依存する。銀ナノ粒子(Ag-NP)を含む製品(例えば、液体やスプレー)に使用者が直接接触するような場合には曝露は直ちに生じるが、他の用途は製品のすりきれ・摩耗時にのみ、ナノ粒子を放出するかもしれない。暴露のレベルを決定するために、製品中の銀ナノ粒子の濃度、サイズ、及び形状(凝集塊(aggregate)、凝集体(agglomerate)、コーティング)、並びに製品からの銀ナノ粒子又は銀イオンの放出に関して、もっと多くの情報が必要である。人と環境の銀への暴露の一部は、銀ナノ粒子から放出される銀イオンによるということに留意すべきである。従って、消費者製品中のナノ物質及びそれらの環境への放出の測定は緊急に必要である。銀ナノ粒子及び銀への職業暴露は詳細には研究されていない。限られた利用可能なデータは、ナノ銀を製造する産業に雇用されている作業者の全身銀暴露は、他の銀形状への暴露が生じる職場に比べべて高くはないことを示唆している。しかし、更なる詳細な職業暴露の評価が職業リスク評価を実施するために必要である。

毒物動態学

 銀ナノ粒子の経口投与後の生物利用能は、ひとつのラット研究で示され、銀の経口投与量の 1〜4%が全身に取り込まれることが示唆された。さらに、吸入曝露の後、銀の取り込みは曝露後の様々な組織中における銀の存在により示された。しかしこれは、銀が肺から出た後、消化管を通じて取り込まれたという可能性を排するものではない。

 全身アベイラビリティ後、銀ナノ粒子の主な標的臓器は、脾臓、肝臓、腎臓であり、他の臓器への分布は少ない。また時には精巣中に高いレベルの銀が認めれれる。それにもかかわらず、低レベルの暴露でも銀分布がほとんどの主要な臓器で観察される。最近のデータは、銀のある残留が脳及び精巣中に生じることを示している。銀の脳への分布については、銀が脳組織中に存在するのか、又は脳の内覆組織に限定されるのか明確ではない。

 イオン化銀は、生体内(in vivo)においてナノスケールで銀構造を形成するかもしれないといういくつかの証拠がある。静脈注射及び皮下注射による投与後、排泄物中の水銀の存在が、銀の胆汁中排泄は投与された銀ナノ粒子に由来することを示している。  ナノ銀に関する毒物動態学的研究の限界は、それらの大部分は銀の検出のために誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)又は原子吸光分析計(AAS)を使用しており、分析システムを通すために全てのナノ粒子は完全に溶解される必要があるので、銀ナノ粒子がその臓器に分配されていると決定的に結論付けることができないということである。それにもかかわらず、もっと詳細な研究は、イオン輸送及び粒子の細胞内取込み作用のように細胞取り込み経路の組み合わせを通じて、細胞/臓器に取り込まれることを示唆している。このことは、溶解する銀の種について知られていることとは異なる銀ナノ粒子の輸送経路を引き起こすもととなり、したがって”ナノ特有の”暴露を構成するようになる。

毒性

 銀への慢性曝露で最もよく記述されている人への有害影響は、永久的な皮膚や目の青みががかった灰色変色(銀皮症/argyria or argyrosis)である。臨床化学でのいくつかの動物毒性研究で、銀ナノ粒子の投与の後、肝臓毒性を示しつつ、様々な肝臓酵素の増加が観察された。しかし、肝臓毒性は、組織病理学により観察することはできなかった。

 生体外(in vitro)研究は、マクロファージでのサイトカイン生成は、他の多くのナノ粒子との同様にナノ銀によっても引き起こされることがある。生体内(in vivo)研究は、銀ナノ粒子への経口暴露が、非特異的免疫反応(訳注:自然免疫)の変更を一貫してもたらすかどうかを明白に示すことができなかった。しかし、静脈内注射暴露 については、免疫系は銀ナノ粒子毒性にとって最も感受性の高い標的であることが示された。銀含有の歯牙修復材(非ナノ銀材も含む)は、少数の人々に接触アレルギー反応(パッチテストで示される)を示すことが示された。

 生体外(In vitro)では、いくつかの研究が、ナノ銀の遺伝毒性影響を報告した。銀ナノ粒子のコーティング、使用された細胞のタイプ、細胞の取り込み、細胞内溶解、遺伝毒性評価項目、細胞暴露の方法などの相違により、議論ある結果が説明されるかもしれない。例えば、細胞暴露の前の媒体中での事前分散は銀ナノ粒子の初期溶解をもたらすかもしれず、したがって銀イオン(Ag+)は初めから存在し、特に短期暴露評価(例えば2時間)で遺伝毒性に寄与しているかもしれない。

 銀ナノ粒子の生体内(in vivo)遺伝毒性に関する利用可能な研究はほとんどなく、銀ナノ粒子の変動する特性が関わるので、銀ナノ粒子が生体内(in vivo)で遺伝毒性を持つかどうかを結論付けるためには更なる研究が求められる。銀ナノ粒子により引き起こされる炎症と酸化ストレスに関連する二次的遺伝毒性影響の可能性は研究されていない。そのような研究は、マウスとラットの吸入と腹腔内注射を通じてのいくつかの異なるサイズと用量の銀ナノ粒子への短期的暴露が酸化ストレスと炎症を引き起こすことが報告されているので、正当化されるであろう。

 多くの研究で、溶解した銀は、人、環境及び衛生用途に毒性を引き起こす主要な原因であることが示唆されているが、この観察にもかかわらず、それだけが観察される毒性影響の原因ではありえないことを示す研究が増えていることに留意すべきである。

 現在のリスク評価は主に銀沈着症の発症に基づいている。作業者についての金属銀の制限閾値は 0.1 mg/m3 であり、銀塩は 0.01 mg/m3 である。一般集団については、世界保健機関(WHO)は、全ての暴露経路の合計に関連する無毒性量(NOAEL)を 5 μg/kg体重/d と設定した。最近、銀ナノ粒子についてラットの無毒性量(NOAEL)は 90 日経口暴露に基づき、30 mg/kg bw/d として観察された。この評価は肝臓毒性の所見に基づいた。

環境毒性

 ナノ銀は環境中に放出されるといくつかの変換が行われる。凝集塊(aggregate)及び凝集体(agglomerate) への変換後、重要なのは溶解とそれに続く塩化銀や硫化銀の形成のような種分化である。硫化銀は、非常に安定しており、硫化物は廃水処理設備でも多くの淡水中でも利用可能なので、特に重要である。存在する化学的種は、環境中の銀の生物利用能及び毒性を決定する。淡水系に放出される銀の大部分は、浮遊する粒子に吸着して沈殿物に運ばれ、物理学的、化学的、生物学的条件に依存して、変換、堆積又再懸濁しつつ、そこで蓄えられるかもしれない。

 土壌の状態は複雑で変動しやすいので、銀の環境的運命に関する一般的な予測をすることは、極めて困難である。土壌中の銀ナノ粒子の生物利用能は粒子と土壌の特性の両方に依存する。一般的に、銀の化学種分化は土壌中でイオン化銀の移動性を非常に限定するが、ナノ粒子は異なる挙動をするかもしれない。下水汚泥中にたまる銀ナノ粒子の実験は、非常に少量の銀(粒子及び/又はイオン)の水中への浸出しか示さなかった。

 銀ナノ粒子により引き起こされる環境中の生物種への有害影響に関する文献には多くの議論がある。銀ナノ粒子の溶解が少なくとも銀ナノ粒子暴露の下に観察される毒性にある程度関与するということは一般的に受け入れられていることであるが、影響は測定された溶解銀の一部に常に完全に帰することができるというわけではない。ある銀ナノ粒子はある媒体中と条件で低い溶解性を示すにもかかわらず、イオンの放出があり、その結果、生物学的受容体と接触し、長期にわたり持続するするかもしれない。二つの重要な点が考慮される必要がある。第一は、銀ナノ粒子溶解を評価するために用いられる従来の全ての手法が銀イオン(Ag+)の利用可能性を反映することができるとは限らないということであり、第二は、持続した銀イオン(Ag+)の放出を含んで、銀ナノ粒子と生物受容体との間の動的相互作用を評価することは恐らく複雑であり、まだ研究は実施されていないということである。

細菌耐性

 細菌そう(叢)成分及びある条件及び使用に関連する細菌の適応への銀ナノ粒子の影響の証拠がある。イオン化銀と同様に、細菌耐性は銀ナノ粒子にも実証されている。しかし、証拠はしばしば、断片的であり、少数の特定のケースにしか焦点を当てていない。銀ナノ粒子への耐性メカニズムに関する情報は少ない。イオン化銀への遺伝ベースの細菌耐性のあるものは、特によく特性化された排出系の発現はよく報告されている。最近のトランスクリプトミクス(訳注:遺伝子発現の全体像を見ようとする研究)とプロテオミクス(訳注:特に構造と機能を対象としたタンパク質の大規模な研究)のデータは、嫌気性呼吸の調整による酸化ダメージの減少は重要であることを示唆している。イオン化銀と銀ナノ粒子への暴露がストレス反応を生成し、遺伝子発現に影響を与える。

 イオン化銀と銀ナノ粒子暴露への細菌反応をもっとよく理解するためには、さらなるデータが必要である。銀ナノ粒子の使用による耐性メカニズムの拡散に関連する害(ハザード)に関しては、現時点では利用可能な文書はなく、このことは実際、深刻な知識のギャップである。



化学物質問題市民研究会
トップページに戻る