WWICS/PEN 2008年9月9日
ナノスケール銀
希望の光はないのか?

既存の知識は評価の出発点 研究の必要性に光を当てる

情報源:Woodrow Wilson International Center for Scholars (WWICS)
Project on Emerging Nanotechnologies (PEN)
September 9, 2008
Nanoscale Silver: No Silver Lining?
Existing knowledge gives start for assessment, highlights research needs
http://www.nanotechproject.org/news/archive/silver/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2008年10月9日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/PEN/080909_Nanosilver.html


 【ワシントンDC】 本日、当プロジェクト(国際学術センター/新興ナノテクノロジー・プロジェクト(PEN))によって発表された新たな研究によれば、広く使用されているナノスケール銀は、この新たに出現する技術に関して研究の優先度を特定する必要性に光を当てつつ、その重要な潜在的便益と著しい環境リスクの可能性とを比較して考慮するよう規制当局に課題を投げかけている。

 しかし、銀の環境への影響についての既存の情報は、ナノ銀のある評価のための出発点を提供するものであるとこの報告書は主張している。

 ナノスケール銀によって及ぼされるリスクを評価することの問題は、環境保護庁(EPA)サンフランシスコ事務所が今年の初めにナノ銀でコーティングしたコンピュータ・キーボードやマウスを販売しているカリフォルニアの会社に20万ドル(約2,000万円)以上の画期的な罰金を科してから脚光をびるようになった(訳注1)。EPAの立場は、同社は殺菌効果を主張しているのだから同製品は連邦政府の農薬法の下に登録されるべきであったということである。


ナノ銀歯磨き
Image:PEN
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 それ以来、他に同様な罰金が科せられたケースはないが、その措置はナノスケール銀によって及ぼされる潜在的なリスクと、全体としてのナノテクノロジーの監視に関する注目を喚起した。現在、200社以上が自社製品はナノ銀製品であるとして市場に出しており、PENにより維持されているオンラインのナノテクノロジー消費者製品目録に記載されているが、それらにはベビーカーから空気洗浄器、運動用ソックス、コイン・ランドリー・マシンにいたるまで何でもある。

 銀そのものは、水銀を除いて他のどのような金属よりも水生の植物と動物に有毒なので、EPAによって環境ハザードとして分類されている。たとえ、ナノ粒子そのものが本質的に有毒でなくても、銀ナノ粒子は、それらが毒性を引き起こすことができる場所へ有毒な銀イオンを運ぶ効力を増大させる。

 ”我々は、ナノが新しいからといってそのリスクを管理する科学的なベースがないと仮定する必要はない”と、PENが最近出版した報告書 『銀ナノテクノロジーと環境:古い問題か、新しい課題か?(Silver Nanotechnologies and the Environment: Old Problems or New Challenges?)』 の著者サムエル N. ルオマ博士は述べた。同報告書はナノ銀によって及ぼされる潜在的な環境リスクの管理のために参考となる一般的な銀に関する12の経験を提示している。”我々の環境中の銀に関する既存の知識は、ある評価のための出発点と、新たな研究を通じて目を向けられる必要のあるナノ粒子の独特なな特性によって提起される新たな疑問のいくつかに向けた論点を提供する”。

 ひとつの製品、又はそのような製品の組み合わせが広く普及すれば、新たな製品から環境に撒き散らされる銀の量は相当な量になると思われる。

 ”数百万人の人々が写真を現像をした時に環境中に排出された銀は、環境への銀のわずかな追加が大きな影響を招くことを我々に教えた”と、元米地質調査所(USGS:U.S. Geological Survey)の地球科学者であり、現在はカリフォルニア大学デービス校ジョン・ミュアー環境研究所の科学政策コーディネーションを行っているルオマ博士は述べている。”おそらくもっとはっきりしていることは、いったんナノ銀が環境中に放出されると、たとえ水生生態系に有毒であるレベルまでその濃度が上がっても、我々はにそれを検出する方法がないということである。”

 今年のはじめにPENによって実施された分析によれば、アメリカ連邦政府は、ナノテクノロジー研究全体への資金のわずかな一部しかナノ物質によって及ぼされるリスクを理解するために必要な研究に投資しておらず、さらにナノ物質によって及ぼされる潜在的なリスクに関し、もっと研究が必要であると強調している。さらに、20世紀中頃に形成された法律と制度は21世紀の問題にうまく対応できていないとしている。

 ”銀は古くからの問題であり、ナノ銀は新たな課題である。新たな課題の範囲はまだ明確ではないが、それは現在、どのくらいのナノ銀が抗菌剤として商業用及び消費者用製品中で使用されているのか不確かであり、また将来、新たな用途が開発される可能性があるからである”と、PENの上席顧問であり、元EPA政策担当の J. クラレンス・デービスは述べている。”この報告書は、ナノ銀問題の範囲にかかわらず、新たな世紀の新たな技術と問題を扱うためのもっと多くのリスク研究と監視に対する新たなアプローチが必要であることを強調している”。


訳注2:ナノ銀関連情報


化学物質問題市民研究会
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