SAFENANO News 2017年5月31日
ナノ銀と小麦の根の複雑な相互作用

情報源:SAFENANO News, 31 May 2017
The complex interplay of nanosilver and wheat roots
http://www.safenano.org/news/news-articles/
the-complex-interplay-of-nanosilver-and-wheat-roots/


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2017年6月12日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/safenano/
170531_The_complex_interplay_of_nanosilver_and_wheat_roots.html


 科学者らは、銀ナノ粒子(Ag-NPs)は、細胞中に入り込み、”トロイの木馬”の様に振る舞って(訳注1)、銀陽イオン(Ag+)を時間経過とともに放出して毒性を引き起こすかもしれないという仮説を立てていた。このことは、硫化銀(Ag2S)ナノ粒子が、小麦とササゲに対して毒性を持ち得るメカニズムとして最近、提案された。

 フランスの科学者らのチームによる新たな研究が、ひとつの複雑な体系−そのトロイの木馬シナリオは非常に起こりそうであるが−を証明した。最初に用いられた銀の形状の関数として様々な植物の反応が測定された。この研究からのデータは、最初(開始時)のナノ粒子に依存して、植物の劇的に異なる反応を示した。

 銀種の分布(distribution of silver species)は恐らく時間とともに徐々に展開して、植物に対して複雑なパターンをもたらし、また硫化銀(Ag2S)ナノ粒子の場合には、硫化水素イオン(HS-)への暴露をもたらす。

 著者らは、銀ナノ粒子の毒性に関する文献中で通常見られる矛盾した結果は一般的に、暴露条件、ナノ粒子の構造的特性、及び植物種の相違によるものであることを示唆している。この銀の種分化の展開は、変動性及び矛盾する結果の追加的な原因であるかもしれない。

 この研究のデータは、最初のナノ粒子に依存して劇的に異なる植物の反応を示し、変換されるナノ粒子を生態毒性研究に含めることの重要さを明らかにした。

 銀の摂取と転移は、銀ナノ粒子暴露に比べて硫化銀ナノ粒子の方が低いにもかかわらず、植物毒性の症状が観察された。

 研究チームによれば、これらの結果は、銀ナノ粒子の硫化は毒性に対する完全な対策ではなく(訳注2)、硫化銀ナノ粒子は植物の根に暴露した時に予測されたほどに安定的ではないことを示している。  農耕土壌では、植物の根圏(訳注3)活動は硫化銀を部分的に分解し、作物の質と生産高に、もっと一般的には生態系サービスに何らかの影響を及ぼすかもしれない。

 研究の結果は Environmental Science & Technology に発表されている。
 出典: American Chemical Society via Nanowerk


訳注1:ナノ粒子のトロイの木馬メカニズム
訳注2
ES&T 2008年4月9日 銀ナノ処理のソックスは問題がありそう
 ・・・硫化銀は銀単体よりは毒性は低いが、銀よリ残留性があり、生物学的に利用できるかもしれない。・・・

訳注3
根圏/ウィキペディア
 根圏(こんけん、rhizosphere)とは、植物の根の分泌物と土壌微生物とによって影響されている土壌空間である。



化学物質問題市民研究会
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