米化学会ES&T 2008年10月1日
ナノ銀の毒性:イオンか、ナノ粒子か、両方か?
研究者らは、ナノ銀の毒性はサイズに由来するのか、
銀イオンを放出する能力に由来するのか、問い続けている。
新たな研究が、ナノ粒子は銀イオンの毒性を強化することを示して、
その両方であることを指摘している。

情報源:ES&T Science News, October 1, 2008
Nanosilver toxicity: ions, nanoparticles - or both?
http://pubs.acs.org/cgi-bin/sample.cgi/esthag/asap/html/es8026314.html
Researchers continue to question whether nanosilver's toxicity arises from its size or
its ability to release silver ions.
New research points to both, with indications that nanoparticles enhance silver ions’ toxicity.
Naomi Lubick

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2008年10月2日


 ナノサイズの銀は不可解な特性を示す。銀ナノ粒子自身がそのサイズと形状のために毒性をもたらすのか?、あるいは、銀ナノ粒子が、殺菌性またはその他の有害な特性が知られている銀イオンを放出するために毒性をもたらすのか? ES&T (DOI 10.1021/es801785m) に発表された新たな研究が、ナノ粒子がイオン影響を促進することを示してイオンとナノ粒子の両方がナノ銀の毒性源であることを示す証拠を発表した。

 科学者らは、銀やその他のナノ物質が環境問題の話題として登場して以来、過去数年間にわたってイオン−ナノ粒子の問題について取り組んできた。作用の仮説的メカニズムは、細胞の表面に付着し接触するだけで細胞の作用をかく乱するナノ銀の塊または粒子の直接的干渉を含む。または、銀粒子はまたトロイの木馬のように作用し、通常サイズの銀に対する障壁をかいくぐって細胞内に入り込み、細胞組織に損傷を与える銀イオンを放出するかも知れない。

 しかし、ナノ銀が生体組織内でどのように作用するのかを正確に示すことは難しかった。新たなこの研究で、スイス連邦水科学技術研究所(Eawag)の科学者らは、多くの植物の代表となりえる生きた藻類の中にナノ銀のメカニズムを見る方法を発見したようである。

 慎重な実験計画に基づき彼らは、ナノ銀への暴露または自由イオンへの暴露を分離するためのツールとして自由銀を結合させるシステイン・リガンド(cysteine ligands)を使用した。研究者らは硝酸銀を使用して発生させた銀イオン、粒子径が10〜200nmのものでほとんどが25nmに特性化されたナノ粒子、またはシステイン存在下の両方の銀に藻類であるコナミドリムシ(C. reinhardtii)を暴露させた。

 最初の1時間くらいで、硝酸銀からの銀イオン単独はナノ銀よりも約18倍、藻の光合成を抑制した。しかし2時間後にはナノ粒子はイオン単独よりも強い毒性を示したと同研究チームは報告した。システインを藻の溶液に加えることにより当初の銀イオンの多くは除去されたが、ナノ銀の毒性を完全に中和するのに100nMを超えるのシステインを必要とした。システイン濃度が10〜100nMにおいてナノ銀は光合成を約60%抑制し続けたが、硝酸銀からのイオン化銀よりもっと低い環境中の濃度においてもナノ銀は同じ抑制比率を維持することができた。

 この論理問題(logic-problem)アプローチにより、研究チームはナノ銀は毒性の間接源であることを決定することができた。それは実験ナノ粒子懸濁液中で測定された銀イオンはその毒性を説明するのに十分な濃度ではなっかったからである。その代わり、銀ナノ粒子は藻と相互作用するときにイオンの発生源となっていることをデータは示していると研究の共著者であるレナタ・バーラは述べた。”これらのナノ粒子がなければ、それほどに大きなダメージは与えなかったであろう”とバーラは述べている。まさしくナノ銀がイオンを放出する場合には、そのようなことが起きるが、それは藻との未知の生物学的相互作用次第であると同研究チームは結論付けた。

 ”時間を通じてナノ粒子反応を分けるためにシステインを使用したという事実は本当に新しいことである”とパデュー大学のロン・ツルコはコメントした。そのキレート化ツールにより研究者らは、可能性あるメカニズムを銀イオンの即座の又は後での接触から分離することができたと彼は述べている。”彼らが示していることは、それが両方とも少し作用しているということである。ナノ銀はイオンと一緒になるなると、その後で、遅い反応かもしれないが銀イオンを放出する”と彼は説明する。ツルコはこの実験は”よくできた”と付け加えた。

 元米地質調査所(USGS:U.S. Geological Survey)の地球科学者であり、最近カリフォルニア大学デービス校ジョン・ミュアー環境研究所に加わったサム・ルオマは、この結果をナノ銀は、”細胞膜にイオンをもっと効率的に伝達する”ということを示していると解釈すると述べているが、著者らはこの点いついては慎重である。ルオマは、現在研究チームが実施している何か−藻の内部のナノ粒子の証拠を見たいであろうとバーラは述べている。

 しかし、ナノ銀を理解するようになってきたが、”我々はまだ始めたばかりである”とルオマは強調する。彼は最近ウッドロー・ウィルソン国際学術センター/新興ナノテクノロジーの報告書『銀ナノテクノロジーと環境:古い問題か、新しい課題か?(Silver Nanotechnologies and the Environment: Old Problems or New Challenges?)』を著した。彼は、基本的なリスクは環境中に存在する銀の量−銀イオンの量に基づくと述べている。ナノ粒子はそれからイオンの作用を促進することによって、又は自身が細胞の活性をかく乱するすることによって、リスクを加えることができる。


訳注:関連情報




化学物質問題市民研究会
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