Particle and Fibre Toxicology (pft) 2014年2月17日
銀ナノ粒子のヒト肺細胞でのサイズ依存細胞毒性:
細胞摂取、凝集体、及び銀放出の役割

アブストラクト

情報源:Particle and Fibre Toxicology, 17 February 2014
Size-dependent cytotoxicity of silver nanoparticles in human lung cells: the role of cellular uptake, agglomeration and Ag release
Anda R Gliga, Sara Skoglund, Inger Odnevall Wallinder, Bengt Fadeel and Hanna L Karlsson
http://www.particleandfibretoxicology.com/content/11/1/11

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2014年2月21日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/pft/140217_AgNPs_size-dependent_cytotoxicity_in_human_lung_cells.html

アブストラクト

背景
 銀ナノ粒子((AgNPs)は現在、最も製造されているナノ物質のひとつである。広範な毒性研究が様々な銀ナノ粒子に対して実施されているが、これらの研究は毒性について大きな変動と、しばしば適切な粒子特性の欠如を報告している。この研究の目的は、毒性のメカニズムを探究するためにヒト肺細胞へ暴露させた後に徹底的に特性化した銀ナノ粒子のサイズ及びコーティング依存の毒性を調査することであった。

手法
 BEAS-2B 細胞(訳注:ヒト気道上皮由来)を、異なる粒子サイズ(10、40 及び 75 nm)のクエン酸塩コートの銀ナノ粒子、10 nm サイズのポリビニルピロリドン(PVP)コート銀ナノ粒子、及び 50 nm サイズのコートなし銀ナノ粒子に暴露させた。動的光散乱ナノ粒子粒度分布測定装置(PCCS)による細胞培地(cell medium)(訳注1)中の粒子凝集体(訳注2);LDH and Alamar Blue assay による細胞生存能力;DCFH-DA assay による活性酸素種(Reactive Oxygen Species; ROS)(訳注3)誘発;アルカリ性コメットアッセイ及び gammaH2AX foci formation による遺伝毒性;透過型電子顕微鏡(TEM)による摂取と細胞内局在;及び原子吸光分析法(AAS)による細胞線量と銀放出、が調査された。

結果
 その結果、表面コーティングに関係なく、10 nm の銀ナノ粒子だけが細胞毒性を示した。対照的に、テストされた全ての銀ナノ粒子は、24時間後にコメットアッセイによる評価で全体的な DNA 損傷の増加を示したが、このことは細胞毒性と DNA 損傷のメカニズムは異なることを示唆している。しかし、gammaH2AX フォーカス形成はなく、細胞内活性酸素種(ROS)生成の増大はなかった。10 nm 粒子の毒性が高まる理由は、細胞培地内の粒子凝集体、細胞摂取、細胞内局在、及び銀放出を調べることにより探究された。凝集体パターンが異なるにもかかわらず、クエン酸塩コート及びポリビニルピロリドン(PVP)コートの銀ナノ粒子の細胞摂取又は細胞内局在に明白な差異は存在しなかった。しかし、10 nm 粒子は他の銀ナノ粒子に比べて、24 時間後に細胞培地中に著しく多量の銀を放出した(約24 wt% 対4-7 wt%)。細胞培地中に放出された銀粒子はどの様な細胞毒性をも引き起こさず、毒性は細胞内銀放出により引き起こされることを示唆していた。

結論
 この研究は、小さい銀ナノ粒子(10 nm)は、ヒト肺細胞に細胞毒性を有し、観察された毒性は細胞内銀放出と関連している、すなわち、粒子形状が摂取を促進し、それにより金属の細胞における生物学的利用能を高める”トロイの木馬効果”を示した。


訳注1
ウイキペディア:培地
 培地(ばいち、medium)とは、微生物や生物組織の培養において、培養対象に生育環境を提供するものである。炭素源やビタミン、無機塩類など栄養素の供給源となる他、細胞の増殖に必要な足場や液相を与える物理的な要素もある。

訳注2
  • アグリゲート(aggregate):一次粒子が強い力で結合した凝集塊
  • アグロメレート(agglomerate):アグリゲートが集まった凝集体

    訳注3
    ウイキペディア:活性酸素
    活性酸素(かっせいさんそ、英: reactive oxygen species)は、大気中に含まれる酸素分子がより反応性の高い化合物に変化したものの総称である。一般的にスーパーオキシドアニオンラジカル(通称スーパーオキシド)、ヒドロキシルラジカル、過酸化水素、一重項酸素の4種類とされる。

    訳注:関連情報
    当研究会ナノテク研究プロジェクト ナノ銀:殺菌・抗菌剤



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