地球の友 オーストラリア及びアメリカ 2009年6月 報告書
ナノ銀と殺生物銀:極めて強い殺菌剤 公衆の健康への脅威が高まる エグゼクティブ・サマリー ライ・センジェン博士(地球の友オーストラリア) イアン・イルミナト(地球の友アメリカ) 情報源:Friends of the Earth Australia & United States, June 2009 Nano and biocidal silver: extreme germ killers present a growing threat to public health By Dr Rye Senjen, Friends of the Earth Australia & Ian Illuminato, Friends of the Earth United States. Nano & Biocidal Silver: extreme germ killer presents a growing threat to public health(Text version) Nano & Biocidal Silver: extreme germ killer presents a growing threat to public health(Full version) 掲載日:2009年6月27日(エグゼクティブサマリー) 更新日:2009年7月 8日(3章 追加) このページへのリンク: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/FoE_au/FoE_au_nano_silver_report.html 内容
エグゼクティブ・サマリー 1. 銀殺生物剤使用の高まり 2. ナノ銀製品概要 3. 元素、イオン、コロイド又はナノ状の銀 4. 銀ナノ粒子は様々な微生物に有毒かもしれない 5. 銀とナノ銀の環境に対する影響 6. 規制の問題 7. 銀殺生物剤の使用の高まり:文化的及び経済的反応? 8. 何をする必要があるか、何をすることができるか 9. 食品の安全を確保するためにナノに特化した法規が求められる 10. ナノ食品はいらないと言う権利 11. 持続可能な食品と農業 エグゼクティブ・サマリー 銀は強力な抗菌剤であり、菌類や藻類に毒性があることは昔から知られていたが、近年、溶液、浮遊、及び/又はナノ粒子の状態で殺生物剤としての銀の使用が劇的に復活している。銀殺生物剤の使用は、繊維、洗濯機、染料/塗料/ワニス、ポリマー、医療用途、流しや衛生セラミックス、及び消毒剤、化粧品、洗浄剤、哺乳瓶など様々な”消費者”用途を含む、かつてないほど広い範囲の製品に使用されている。 広く入手可能なナノ銀を含む消費者製品には、カップ、ボール、まな板など食品接触材、化粧品及び身体手入れ用品、子どものおもちゃと乳幼児製品、および”健康”補助食品などがある。 銀と、特にナノ銀は水生生物と陸生生物に対して有毒であることを示す明確な証拠、試験管内(in vitro)での様々な哺乳類細胞があり、ヒト健康に有害かもしれない。銀とナノ銀は医学の分野で疑いなく有用であるが(たとえば、医療器具の表面処理、または重度火傷患者の傷の手当)、それらの使用は厳格に管理され、ノーデータ・ノーマーケットの格言は常にフォローされなくてはならない。 抗生物質のバクテリア耐性はかつてないほど世界的に広がっている問題であるが、銀のバクテリア耐性についても懸念があり、殺生物銀の膨大な消費者製品中での見境のない使用は不必要であるだけでなく、更なるバクテリア耐性を危険なレベルまで増大させるかもしれない。 ナノ粒子形状では銀イオンの毒性が増大する、またはナノ粒子が自身の毒性を発揮する可能性を示す予備的な研究がある(訳注0-1)。殺生物剤生物の廃水中への処理は、下水汚泥は農業用土壌として使用されるかもしれず、固体廃棄物として埋め立てられるかもしれず、焼却されるかもしれないので、多くの懸念がある。殺生物銀はまた、重要な土壌微生物の生態系機能をかく乱するかもしれない。 危機意識を持つナノ毒性学者により実施された2009年の国際的な研究(EMERGNANO)(訳注0-2)はナノ粒子の毒性に関する現在の世界の研究によって生成された証拠をレビューして、”銀ナノ粒子が環境に有害かもしれないことを示唆する十分な証拠があり、従ってこの場合における予防原則の適用が考慮されるべきである”という結論を得た(Aitken et al. 2009)。 地球の友は、公衆、労働者、環境をリスクから守るためにナノテクノロジーに特化した規制が導入されるまで、ナノ銀を含む全ての製品がそのことを表示されるまで、そして公衆が意思決定に関与できるようになるまで、工業的ナノ銀を含む製品を市場に出すことを直ちに中止すること(immediate moratorium)を要求する。 我々の要求は、英国王立協会/王立工学アカデミーのナノテクノロジーに関する2004年報告の勧告と一致するものである。その勧告はナノ物質の環境中への意図的な放出は、安全であることが証明されるまで禁止されるべきであると述べている(訳注0-3)。 ナノ銀テクノロジーに対する予防的アプローチが重要である。 訳注0-1
3. 元素、イオン、コロイド又はナノ状の銀 非科学的な文献や様々な銀製品の製造者の中に、銀のタイプ、それらの定義と特性(特に人と環境への毒性、環境中の運命など)について多くの混乱がある。産業側の銀成分の状態についての広告表示のあいまいさが消費者を混乱又は誤解さているのか、あるいは産業側の理解不足ということが事実なのか−よく分からない。クリノウスキー(2008)は、異なる銀のタイプとそれらの特性についてよくできたレビューを行っている(表1参照)。 銀殺生物製品は、銀をイオン、コロイド、又はナノ粒子の状態で含んでいるかもしれず、さらに複雑なことは、これらが自由又は結合のどちらかの状態にあるかもしれないということである。使用される銀の状態に関わりなく、銀のバクテリア効果に影響する主要な特性は放出される銀イオンの濃度である。そのような点から、ナノ銀は継続的な銀イオン放出のための貯蔵器であるということができる。またナノ銀はイオン化銀の毒性影響を増大し、さらにはそれ自身が毒性を持つかもしれない。これについてのいくつかのメカニズムが提案されており、それらにはナノ銀がトロイの木馬のように細胞の中に入り込み、そこで銀イオンを放出して細胞内容物を破壊する、又はナノ銀粒子が細胞の外表面に凝集して細胞の活動をかく乱すること−などが含まれる(Lubick 2008, Navarro et al.2008)。 イオン化した銀は微生物(bacteria)に有毒であり、そして菌類(fungi)やウィルス(viruses)(訳注3-1)にもある程度有毒である。このことが非常に効果的な殺生物剤である理由である。ある製造者らが主張するように、イオン化した銀はこの目的のために数千年の間、安全に利用されており、近年の消費者製品中での使用の増大も環境に有害影響をもたらさないというのは正しくない。銀の使用の規模及び廃棄銀の環境中への放出は劇的に増大している。おそらく数百万の人々によって使用される前例のない膨大な数のナノ銀消費者製品から銀が環境中に漏れ出し、土壌中の生物とともに水路、魚、その他の水生生物を損なう可能性がある。銀イオンは”良い”微生物と”悪い”微生物を区別することはできず、銀の過剰な使用は環境、動物、及び人に害を及ぼすであろう。もし十分な量の銀が環境中に存在するなら、最終的に、食物連鎖中に蓄積するであろう。 コロイド状銀 コロイド状銀は特別のケースである。コロイド状銀の特性に関して、オオカミ人間から守る、呼吸器系病気から守る、皮膚がんを含む多くの病気の治療に用いることができるなど、多くの突飛で根拠のない疑わしい主張がなされている。いくつかの規制機関(例えば米FDA、豪TGA)は、、製造者がコロイド状銀製品の医療効果を主張することを禁じてきた。しかしコロイド状銀はまだ販売されており、世界中で無数の製造者が医療効果を主張し続けている。規制当局は、人の皮膚や深部組織の恒久的なblue-grey discolorationを引き起こす可能性だけでなく、肉乳製品加工での使用はミルクや肉に銀の残留をもたらすと警告している(FDA 1997)。従ってこれらの製品の消費は人の健康に有害かもしれない。2008年12月、欧州食品安全委員会(EFSA)は、補助食品中で使用されているナノ銀ハイドロゾル(水溶液)の安全性を決定するためには証拠が不十分であると決定した。EFSA は、補助食品中における栄養目的の銀のソースとしての銀ハイドロゾル(水溶液)の安全性とこのソースからの銀の生物能を評価をすることはできないと宣言した(EFSA 2008)。 全ての一般医薬品(処方箋なしに薬局で買える/over-the-counter)であるコロイド銀製品は直ちに市場から撤去され、その販売は、(適切な規制当局により医薬品として承認されないなら)禁止されるべきである。
溶解状態
訳注3-1:微生物、細菌、ウィルス 微生物は原核生物、細菌は真核生物であり、細胞構造が全く異なる生物群である。 ウイルスは細胞を構成単位としないが、遺伝子をもち他の生物の細胞を利用して増殖できる。
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