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タムリエルに戻ってきた私はセラーナと共にドーンガード砦に戻った。
さっそくデキソンの元に向かうと、彼は布を目隠しのように巻いていた。エルダースクロールを読んだ代償として失明したのだと言う。しかるべき手順を踏まなかったミスで自業自得だと納得している。
しかし我々にも責任はある。何とか視力を回復する方法はないのかと聞いたが、資格のないものがエルダースクロールを読んだ代償としては軽いものだとデキソンは受け入れていた。
それよりも……とデキソンはこれからの事に話題を変えた。
彼はエルダースクロールを読めなくなってしまったので、別の誰かが読まなければならない。聖蚕の僧侶が書を読む時に必要とされる儀式なら教えられるというので、ならば私が読むと告げた。
デキソンは「本当にいいのか?」と私の覚悟を問うてきた。正直に言えば恐れはある。だが、デキソンにさせておいて自分は二の足を踏むというのは、私には許せなかった。
儀式は"先人の湿地"と呼ばれる場所にいる聖蚕を集めるというものだ。エルダースクロールによるダメージを聖蚕が肩代わりしてくれるので、なるべくたくさんの聖蚕を集める必要がある。
その方法についても"カンティクルの木"の樹皮を利用するのだと教えてもらう。
先人の湿地の場所についてはデキソンがある程度知っていたので、あとは現地で捜索する事にした。
ファルクリースの東の山中を捜し歩き、私たちは"先人の湿地"を発見した。狭い岩の隙間を抜けて入り込んだ先にある隠れ谷のような場所で、その美しさにセラーナは感嘆の声を上げた。
そういえば、吸血鬼などのアンデットは生あるものを憎むと聞いていたが、セラーナやヴァレリカのような純血の吸血鬼は違うのだろうか。彼女らは植物の命や美しさを愛しているようだ。
さっそくデキソンに教えられたとおりに儀式を進め、そして十分に聖蚕が集まったところで意を決してエルダースクロールを開いた。
目の前が光に包まれる。その光の中に、ひときわ眩しい輝きがあった。それは亀裂のように見えたが、よく見れば道のようにも見える……やがてそれが地図だと分かった。
ダークフォール洞窟の場所、そしてそこにアーリエルの弓がある。と、なぜか理解できた。
目も眩む光が薄れて、視力が戻ってきた。
セラーナが心配そうに見ている。「死んでしまったかと思いましたわ。やはりこの馬鹿げた書には関わるべきではありませんわね」と言いながら手を差し伸べてくれた。
その手を取って立ち上がると、エルダースクロールから読み取ったものを彼女に告げた。
「父よりも先に弓を手に入れなければ」という彼女の言葉に、私は頷いた。
私たちはダークフォール洞窟に直行した。
洞窟の中では脆くなっていた橋が壊れて落ちたり、川に流されて滝から落ちたりと散々な冒険になってしまったが、それでも奥へと進んでいった。
途中で冒険者の野営地があり、彼はトロールに殺されたことが状況から推測できた。
こんなところまで冒険に来るものがいるのかと驚いたが、ならばこうした冒険者の生き残りからハルコンが情報を得ることもあるということだ。
さらに奥に進むと、暗闇の中に太陽を模した祭壇があり、その前に青白いエルフが立っていた。
彼は自らをスノウエルフだと言い、アーリエルの騎士司祭ギレボルと名乗った。
「スノウエルフはファルメルになってしまったと聞いているが」と私が言うと、ギレボルは「君達のいうファルメルの事を私たちは"裏切られし者"と呼んでいる。君たちにもそうして欲しい」と言った。
私がアーリエルの弓について尋ねると、彼はアーリエルの弓を持って行っても構わないが一つ仕事をして欲しいと交換条件を出してきた。
内容は「最高司祭ヴィルスールを殺すこと」だ。彼らアーニエルの信徒たちの礼拝堂は"裏切られしもの"(ファルメル)に襲われてしまった。しかし最高司祭はまだ最奥聖域にいて、かつての彼とはまったく違う者になってしまったのだという。
おそらく"裏切られしもの"に何かされたのだろうとギレボルは言った。
最奥聖域に行くには、アーリエルの入信者の道を辿らなければならないとギレボルは説明した。
五つの祠を巡って水盤から水を汲み、最後に最奥聖域の水瓶にその水を注ぐのだ。そうすれば最奥聖域の中に入り、最高司祭のいる場所までいける。
セラーナは面倒な手順を踏むことが気に入らない様子だ。ハルコンより先に手に入れなければならないという状況に焦っているのだろう。
たとえ馬鹿げたことに思えても他に方法はないとギレボルは言った。
郷に入っては郷に従え、と言う。私はギレボルから入信者の水差しを受け取り、祠の水盤から水をすくった。
すると祠の一面が転移門となり、次の祠への道まで転移できるようになった。
セラーナもスノウエルフの魔法には驚いたようだ。
私たちは転移門を抜けた。
次の洞窟はさらに深い場所のように感じた。
道中にはファルメルや、やつらのペットであるシャウラスがいた。
暗闇の中の戦闘は私には不利になったが、セラーナには問題ないようだ。いつの間にか背後に忍び寄っていたファルメルをセラーナが倒してくれた時は、彼女が吸血鬼であることに感謝したほどだ。
到着した"光の祠"で同じように水を汲むと、次の場所への転移門を潜った。
転移先で"光の祠"という名前の意味を実感した。
転移した場所は外だったのだ。人の立ち入らない山中に刻まれた深い峡谷の底だ。そこは植物が生い茂り、一つの世界を形成している。
日光が直接差し込む時間は短いだろうが、それでも地下に慣れた目には刺激が強すぎる。
ただでさえ光の苦手なセラーナはフードを目深に被った。今度は私がフォローしなければ。
三つめ、四つめと順調に祠を巡る。
道中にはファルメルのほかにもトロールやサーベルキャットなどもいたが、最も危険だったのは高台にある凍った湖で遭遇したドラゴンだった。
二匹のドラゴンは水中にいたようで、氷結した湖面を突き破って現れた。
彼らと話が出来るとしても、すでに戦闘態勢に入ったドラゴンには全力で向き合わなければならない。
ドラゴンと戦いなれている私でも二対一という場面は今までなかった。ここで私は"ダーネヴィール"をシャウトした。
ソウル・ケルンから私のスゥームに応えてダーネヴィールが現れた。
『なるほど……この小僧どもに我らの力を見せてやろうぞ!』ダーネヴィールは吼えた。
私は一体をダーネヴィールに任せて、もう一体をドラゴンレンドで捕えるとセラーナと共に倒した。
戦いが終わると、ダーネヴィールは私の元にやってきて力の言葉を教えてくれた。
それから思う存分、この"忘れられた谷"の空を舞ってからソウル・ケルンに戻っていった。
ここには力の言葉が刻まれた石碑があった。彼らはこれを守っていたのだろうか。
全ての祠を回り終えて、私たちは最奥聖域を目指した。
荘厳な橋が、同じく荘厳な神殿へと伸びている。スノウエルフたちの技術の高さを示す建造物だ。
神殿の入り口にはアーリエルの像が立っていた。セラーナによると、かなり古いシンボルが使われているらしい。
入り口の水差しに水を注ぐと、最奥聖域への入り口が開いた。
最奥聖域の中は異様な状況になっていた。
ファルメルたちは、一瞬で氷結したように立ったまま凍りついている。
不気味な氷の彫像の間を抜けて、アーリエルの礼拝所に向かう。
アーリエルの礼拝堂もまた、氷に包まれていた。氷付けのファルメルたちの視線の先には玉座があり、そこにヴィルスールが座っている。
「これはこれは……良いものを持ってきてくれたな」ヴィルスールはセラーナを見て言った。
「目的はわたくしですの? なぜ……」セラーナの問いにヴィルスールは答えず、私に向かって戦いの開始を宣言した。
「つまり、お前はもう用済みなのだ!」
ヴィルスールは自身で戦うのではなく、ファルメルたちの氷結を解除して私たちに襲い掛からせた。
次から次へと現れるファルメルの大群を前に、私は"勇気の呼び声"をシャウトした。ドラゴンを呼ぶにはこの場所は狭すぎる。
現れた英霊フェルディル、セラーナ、それに私の三人で戦う。
私は力が回復次第、"時間減速"のシャウトを用いた。減速した時間の中で、二匹のファルメルを仕留める。
「おのれ!」
私たちを倒せないと思ったのか、ヴィルスールは力を爆発的に解放した。
その結果礼拝堂を覆っていた氷のドームが吹き飛び、私も破片と一緒に吹き飛ばされて床に転がった。
その隙にヴィルスールはテラスへ逃げる。
「大丈夫、わたくしたち、やり遂げられますわ」
セラーナは私に手を差し伸べた。その手は私に勇気を与えてくれる。私は彼女の手を掴んで立ち上がった。
テラスにはヴィルスール一人だった。
セラーナは、どうして自分の事を知っているのかと問い詰める。間近で彼を見て、セラーナは「まさか……あなた吸血鬼?」と驚いた。
ヴィルスールは、下級の信徒によって吸血鬼に感染させられてしまったのだと話した。
その時、アーリエルは自分を守るどころか見捨てたのだと、ヴィルスールは考えた。
そしてアーリエルに復讐するための方法を探した。
アーリエルの弓を、コールドハーバーの娘の血に浸すことで、アーリエルの加護すなわち太陽の力を穢してやるという方法を見つけた。
つまりこれがハルコンのやろうとしている事であり、ハルコンにこれを教えたのもヴィルスールだった。
セラーナの家族が引き裂かれるきっかけは、こいつだという事になる。
セラーナは怒りのままにヴィルスールの首を掴むと、空中に持ち上げ、テラスから投げ落とそうとした。
「まて、そいつが吸血鬼なら死なないかもしれない。私がやろう」
私はドーンブレイカーを抜いた。
そしてじたばたと足掻いているヴィルスールを真っ二つに切り裂いた。その死体は地面に落ちる前に灰となって霧散した。(※1)
ヴィルスールが滅したことで、彼に封印されていた祠が解放された。
その中にはアーリエルの弓が保管されている。
私はそれを手に取った。
そこへ、祠の転移門を使ってギレボルが現れた。私は彼に事の顛末を話して聞かせる。
彼は元凶がファルメルでないと知って少し安堵したようだった。"裏切られしもの"にもまだ望みがあるのかもしれないと言う。
その気持ちは、私には理解できないものだった。
ギレボルは礼を言い、そしてアーリエルの弓で必要になるであろう"太陽神の矢"をくれた。
私とセラーナはドーンガード砦に戻る道中、今後の事について話し合った。
やる事は決まっている。ハルコンを止める。それは殺す事になる可能性が高い。
本当に良いのか、とセラーナの気持ちを確かめた。
ヴォルキハル城を出た時から覚悟はできている、とセラーナは言った。
ドーンガード砦で待っていてもいい、というような事を言って私はセラーナを怒らせた。
そして何度目かの話し合いの結果、二人でやろう、という事になった。
ドーンガード砦に到着した私たちはまずイスランに会った。
アーリエルの弓を見せると、イスランは私たちがハルコンへの対抗手段を得たと考えたようだ。ドーンガードたちを呼び集め、そしてここにヴォルキハル城のヴァンパイアと対決することを宣言した。
ドーンガードたちが戦いの準備をしている間、イスランはセラーナが同族と、そして父親と戦えるのかと問うてきた。
それについては十分に話し合ったことだ、と私は返答した。
私はフロレンティウスから"ヴァンパイア・ベイン"などの呪文を学んだ。
この呪文はヴァンパイアにしか影響しないという。
すべての準備が整うと、ドーンガードたちは出撃した。私たちも同行する。
ヴォルキハル城の城門前は激戦となった。
ドーンガードたちと城の吸血鬼たちはすぐさま乱戦になってしまった。私は同士討ちを恐れて剣をしまうと、教えてもらったヴァンパイア・ベインの呪文を主力として魔法による援護に徹した。
乱戦状態に打ち込んでも、人間は傷つかないので便利だ。セラーナだけは巻き込まないように注意しなければならなかったが。
戦闘に勝利した私たちはそのまま城内に突入する。
「君たちはハルコンを探すのだ!」とイスランが私たちに向かって叫ぶ。城内に残るヴァンパイアたちとの戦いは彼らに任せて、私たちはハルコンを探して回った。
そしてヴォルキハル城大聖堂でハルコンを見つけた。
父と娘は最後の会話を交わす。
ハルコンはセラーナに、なぜ私のような存在に心を惑わされたのか、自分を裏切ったのは母親に影響されたからかと問う。
「この人を傷つけさせはしませんわ」とセラーナは怒りをあらわにし、そして家族を裏切ったのは父のほうであり、自分は母とは違う。逃げ隠れするのではなく戦うと答えた。
ハルコンは私のほうに向き直ると、最後の問いだと念を押した上で「アーリエルの弓を渡せ」と言った。
私は「無駄なことはよせ」と答えて剣を抜いた。
ここにきて私が弓を渡すことはあり得ないし、セラーナを裏切り者と断罪した時点で、彼女の安全のために戦う以外の選択肢を失っていた。
ハルコンは怒りに牙をむいて襲い掛かってきた。
その動きは素早く、"時間減速"のシャウトを用いて捕えるしかない。
得意の二刀流は止めて、ドーンブレイカーと"ヴァンパイア・ベイン"の呪文を駆使して戦った。
スケルトンやガーゴイルを召喚してきたので、私はセラーナにそいつらの対処を頼む。
父と娘が殺しあう、という状況は、この期に及んでも避けたかったのだと思う。
ハルコンは傷を負うと無数のこうもりに変身して逃げ、結界の中に実体化して傷を回復させるという戦法を取った。
結界には剣も魔法も、シャウトさえ通用せず打つ手がないかと思われた。
「アーリエルの弓を!」
大聖堂の入り口付近で戦うセラーナから助言が飛ぶ。
私はアーリエルの弓を取り出すと、矢を構えて放った。
結界に命中した瞬間、光が爆発し、そして結界は消え去っていた。
よろめくハルコンに私は猛然と斬りかかる。
激闘の末、ドーンブレイカーがハルコンの胸に深々と突き刺さった。太陽の力がその身を焼き尽くす。
最後にハルコンは何か言ったように思えたが、私には聞き取れなかった。
ドーンブレイカーの力が爆発し、大聖堂にいたスケルトンをも破壊する。
赤い灰と化したハルコンを前にしていると、イスランがやってきた。
彼らドーンガードの戦いも終わったようだ。
「私には……君には無理だと思っていた……」イスランがセラーナを気遣うように言った。
セラーナは首を振り「たぶん……本当の父はずっと以前に死んでいたのですわ。いま失われたのは……何か別のものだと……」と赤い灰を見つめたまま言う。
イスランはセラーナの肩に手を置いた。ヴァンパイアを憎む彼が、彼女に触れるのはこれが初めてだったと思う。
「君は君が思っている以上の事を我々にしてくれた。本当にありがとう」
ドーンガード砦に戻った私たちは、まずアーリエルの弓をイスランに託した。
ヴォルキハル城のヴァンパイアが滅んだと言っても、全てのヴァンパイアが滅んだわけではない。彼らの戦いはこれからも続くのだ。
協力してもらえると光栄なのだが、とイスランは言った。私はドーンガードの一員になる事は出来ないが、いつでも駆けつけると答えた。
イスランと、そしてドーンガードの面々との友情は今も続いているが一つだけ秘密にしていることがある。
それはヴァレリカがソウル・ケルンから帰還してヴォルキハル城に隠れ住んでいることだ。
セラーナは、人間に戻る方法を探して旅に出た。
過去を過去とし、彼女自身の新たな人生を歩むために。