実行列の定義

・定義:実行列[成分記号]/同じ型の行列・行列の型の一致/等号
・定義:正方行列/矩形行列/零行列/行列単位/転置行列/対称行列/交代行列 

実行列関連ページ:正方行列に関する様々な定義/行列の和・スカラー倍の定義/行列の積の定義/行列の積の性質/逆行列・正則行列・特異行列の定義/転置行列の性質/行列の代数系
          実行列の標準形と階数/行列式/実行列の固有値 
上位概念:体上の行列 
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定義:実行列

設定


実行列は、以下の舞台設定上で、定義される。
R実数をすべて集めた集合実数体) 
aij実数  (実数体)  


[文献]
・藤原『線形代数』2.1行列の定義と演算(p.28);
・斎藤『線形代数入門』2章§1-1(p.31);
・佐武『線形代数学』I-§2行列の演算(pp.4-7);
・砂田『行列と行列式』§2.2a(pp.54-56);
・グリーン『計量経済分析』2.2行列の用語(p.10);
・高橋『経済学とファイナンスのための数学』(p.14);

・松坂『解析入門4』15.1-A (pp.1-2);
・戸田山田『計量経済学の基礎統計的手法の理論とプログラミング』2.1.1(p.48)

定義

実行列とは、として実数体Rを指定した「体上の行列」のことをいう。
・具体的にいうと、実行列とは、実数aij を、
 次のように縦・横に並べて、長方形に配列したもの。
     

rowとは、行列の横の並びを指す。
    
 行列の各行は、n次元横ベクトルと見なすことができるので、
   行列Aの第1行を「行列Aの第1行ベクトル
   行列Aの第2行を「行列Aの第2行ベクトル
        :         : 
   行列Aの第m行を「行列Aの第m行ベクトル
 と呼ぶこともある。[斎藤『線形代数入門』2章§1-4(pp.35-36)]

※実行列は実ベクトル空間から実ベクトル空間への線形写像を表す(→定理/定理)。
 だから、実行列の分類・操作などが論じられる際には、
     それに対応する線形写像の分類・操作に思いをめぐらせるのが、肝要。

columnとは、行列の縦の並びを指す。
 行列 
 
 においては、
 第1列とは、
     
 第2列とは、
     
 第n列とは、
     
 のこと。 
 行列の各列は、n次元縦ベクトルと見なすことができるので、
   行列Aの第1列を「行列Aの第1列ベクトル
   行列Aの第2列を「行列Aの第2列ベクトル
        :         : 
   行列Aの第n列を「行列Aのn列ベクトル
 と呼ぶこともある。[斎藤『線形代数入門』2章§1-4(pp.35-36)]



実行列(i,j)成分element,entry,componentとは、
 実行列の第ijにおかれた実数aij のことを指す。
実行列 
 
 においては、
   (1,1)成分とは、行列の第1行第1列におかれた実数a11 のこと、   
   (1,2)成分とは、行列の第1行第2列におかれた実数a12 のこと、
    : 
   (m,n)成分とは、行列の第m行第n列におかれた実数amn のこと、
  となる。  


m×n行列m×n matrixmn列行列(m,n)行列(m,n)型行列matrix of (m,n)-typeとは、
 mn個の実数を、mnに並べた行列のことをいう。  




 たとえば、
   
 は、2×2行列ないし(2,2)型行列、
     
 は、3×2行列ないし(3,2)型行列。
 また、
 n次元横ベクトルは、1×n行列ないし(1,n)型行列。
 n次元縦ベクトルは、n×1行列ないし(n,1)型行列。

記号

行列を書くたびに、成分をすべて書き出すのは、余りにわずらわしいので、
  はじめに、 
   
  などと定義したうえで、あとは、この英大文字で表すのが普通。


 (例)
 ・単位行列I=(δi j)  
 ・ m×n行列A=(aij), B=(bij)にたいして、AB=(aijbij) 
 ・kR, A=(aij)にたいして、kA=(kaij)   


実行列Aの(i,j)成分を、Aijと表す。  
実行列Aの(i,j)成分aijと一般的に表せることを、A=(aij)と略記する。



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定義:同じ型の行列、行列の型の一致

定義

行列Aの型と行列Bの型が一致する」
行列A行列Bは同じ型の行列である」とは、
 行列A行列Bも、両方とも、(m,n)型行列であること、
 すなわち、 
  行列A行数と、行列B行数とが、一致し、
  なおかつ、
  行列A列数と、行列B列数とが、一致すること
 をいう。
[文献]
・『岩波数学辞典』83行列(p.220);
・『高等学校代数幾何』(p.77)




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定義:行列のあいだの等号

定義

行列A行列Bについて、
  「ABが等しい」「A=B」とは、
  AとBの型が一致しかつA成分B成分がすべて一致することをいう。 
・つまり、A=Bとは、
 A行数B行数もともにmA列数B列数もともにnで一致して、
     
     
 と、表せて、
 なおかつ  
   i=1,2,…,m、 j=1,2,…,nに対して、aij=bij 
 であることを指す。



[文献]
・『岩波数学辞典』83行列(pp.219-220);
・斎藤『線形代数入門』2章§1(p.31);
・藤原『線形代数』2.1(p.22);
・グリーン『計量経済分析』2.3.1(p.12)





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定義: n次正方行列square matrix

設定

n
次正方行列square matrixは、以下の舞台設定上で定義される。
R実数をすべて集めた集合実数体) 
aij実数  (実数体) 

[文献]
・『岩波数学辞典』83行列(p.220);
・永 田『理系のための線形代数の基礎』1.4(p.23);
・グ リーン『計量経済分析』2.2(p.11) ;
・戸田山田『計量経済学の基礎統計的手法の理論とプログラミング』2.1.1(p.49)
・斎藤『線形代数入門』2章§2(p.40);
・藤 原『線形代数』2.1(p.21);
・砂 田『行列と行列式』§2.2a(pp.54-56);
・高橋『経済学とファイナンスのための 数学』(p.14);
・松坂『解析 入門4』15.1-A (p. 3);


定義

(簡潔な定義)
  n次正方行列square matrixとは、(n,n)型行列のこと。  
(具体的な定義)
  実数体R上のn次正方行列とは、
  n2個の実数aij を、次のように、nnに並べた実行列のことをいう。
    
 たとえば、
   
 は、2次正方行列である。


正方行列についての諸概念: 対角成分対角和・トレース行列式固有値・固有ベクトル対角化可能    
様々な正方行列:対角行列対称行列スカラー行列単位行列
活用: Rn上 の一次変換は、 n次正方行列を用いて表現される。 [→ 標準基底に関する一次変換の表現行列 ]

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定義:矩形行列rectangular matrix

定義

正方行列 にたいして、正方行列 でない行列を、
  矩形行列rectangular matrixと呼ぶこともある。

[文献]
・『岩波数学辞典』83行列(p.220);




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定義:零行列 zero matrix
定義
実数体R上の 零行列 とは、 実数 「0」 をのみを並べた 行列 のことをいう。 
実数体R上の (m,n) 型零行列とは、 実数「0」 をmn に並べた行列のことをいう。
・(m,n)型零行列を、 Om,nあるいは単にOなどと表す。
[文献]
・『岩波数学辞典』83行列(p.220);
・永田『理系のための線形代数の基礎』1.4(p.24);
・松坂『解析入門4』15.1-B (p. 3) ;
・戸田山田『計量経済学の基礎統計的手法の理論とプログラミング』2.1.1(p.49)
・斎藤『線形代数入門』2章§1(p.32);
・藤原『線形代数』2.1(p.23);
・グリーン『計量経済分析』2.3.3(p.13)
零行列との和の演算則零行列との積の演算則 

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定義:行列単位
定義
行列単位Eijとは、
   ( i, j )成分実数1 、  
   ( i, j )成分以外の成分は、 すべて「実数0」
 となる 行列のことをいう。
[文献]
・永田『理系のための線形代数 の基礎』1.4(p.24);




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定義:転置行列transposed matrix

定義

(定義)
(m,n)型行列A転置行列transposed matrixとは、
 Aのとし、 Aとした (n,m)型行列。 
 Aの(i,j)成分(j,i)成分と してもつ (n,m)型行列 と言ってもよい。
(記号)    
Aの転置行列を、tAA'などと表す。 
(具体的には)
   
ならば、 
   

[文献]
・『岩波数学辞典』83行列B(p.220);
・永 田『理系のための線形代数の基礎』1.8(p.42);
・斎藤『線形代数入門』2章§1(p.37);
・藤 原『線形代数』2.1(p.28);
・グ リーン『計量経済分析』2.3.2(p.12) ;
・戸田山田『計量経済学の基礎統計的手法の理論とプログラミング』2.1.1(p.49)
・高橋『経済学とファイナンスのための 数学』(p.14);
転置行列の性質

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定義:実対称行列symmetric matrix


設定


実対称行列は、以下の舞台設定上で、定義される。
R実数をすべて集めた集合実数体) 
aij実数  (実数体)  


[文献]
・『岩波数学辞典』83行列B(p.220);
・永田『理系のための線形代数の基礎』1.8(p.43);
・藤原『線形代数』2.1(p.28);
・高橋『経済学とファイナンスのための数学』(p.14);
・グリーン『計量経済分析』2.2(p.11)

 

※実行列は
   RnからRmへの線型写像 
   実ベクトル空間から実ベクトル空間への線形写像
 を表す(→定理/定理)。
 だから、実行列のタイプが論じられる際には、
     それに対応する線形写像のタイプに思いをめぐらせるのが、肝要。
 この「対称行列」というタイプの実行列は、
     Rn上の対称変換
     実ベクトル空間上の対称変換
 というタイプの一次変換を表す。 

定義

対称行列とは、自らの転置行列等しい行列のことをいう。
つまり、

対称行列であるとは、 
   
ということであるが、
これは、
A行数列数が一致し(m=n、ゆえにA正方行列)であり、
かつ
A成分が対角線に対して対称であること(aij=aji)を意味する。

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定義:交代行列alternating matrix,歪対称行列skew-symmetric matrix, 反対称行列antisymmetric matrix   
 [『岩波数学辞典』83行列B(p.220);永田『理系のための線形代数の基礎』1.8(p.43);
  斎藤『線形代数入門』2章§1(p.37);藤原『線形代数』2.1(p.28)]



  


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(reference)
日本数学会編集『岩波数学辞典(第三版)』 岩波書店、1985年、項目83行列(pp.219-)
線形代数のテキスト
永田雅宜『理系のための線形代数の基礎』紀伊国屋書店、1986年、1.4行列と一次写像(pp.23-6)。
佐武一郎『線形代数学(第44版)』裳華房、1987年、I.ベクトルと行列の演算§2行列の演算(pp.4-7)。
砂田利一『現代数学への入門:行列と行列式』2003年、§2.2一般の行列(pp.54-60).
藤原毅夫『理工系の基礎数学2:線形代数』岩波書店、1996年、2.1行列の定義と演算(pp.21-29)。
斎藤正彦『線形代数入門』東京大学出版会、1966年、第2章行列§1行列の定義と演算(pp.31-40)。

ホフマン・クンツェ『線形代数学I』培風館、1976年、一次方程式(pp.1-27)。
志賀浩二『数学30講シリーズ:線形代数30講』朝倉書店、1988年、17講線形写像と行列(pp.107-112)。


数理経済学のテキスト
西村和雄『経済数学早わかり』日本評論社、1982年、2章線形代数§2行列と行列式(pp.46-72)。
神谷和也・浦井憲『経済学のための数学入門』東京大学出版会、1996年、5章行列(pp.161-199):一次写像の行列表現を中心にしている。
高橋一『経済学とファイナンスのための数学』新世社、1999年、1.2ベクトルと行列(pp.6-25).
計量経済学のテキスト
William H. Greene(斯波・中妻・浅井訳) 『経済学体系シリーズ:グリーン計量経済分析I:改訂4版』エコノミスト社、2000年、第2章行列代数2.2行列の用語(pp.10-12);2.3行列の算法(pp.12-21)。
岩田暁一『経済分析のための統計的方法(第2版)』東洋経済新報社、1983年、12.1行列の演算(pp.269-277);12.4.2逆行列(pp.294-5)。


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