関数の左極限を単調増大列の収束へ言い換える定理

  [加古『自然科学の基礎としての微積分』3.2節連続関数:定理3.1(注意)における示唆(p.31);伊藤『ルベーグ積分入門』定理4.2証明中の利用例.]

以下の命題Pと命題Qは互いに言い換え可能(つまりPQ)。

命題P: x0におけるf(x)左極限A
     すなわち、f(x)A ( xx0−0)

     あるいは、

 lim f(x) = A

xx0−0

         
命題Q:xn x0  (n→∞)  (つまり x0収束する)
                 ※x0は後出の数列 { xn }の第0項という意味ではないので注意
      かつ
    ・ x1x2x3<…<xn<…<x0 (つまり、狭義単調増加列で、任意のnN についてxnx0
    を満たす限りで任意につくった(どんな)数列{ xn }={ x1 , x2, x3,…}に対しても、
    f (xn)A (n→∞)  (つまり数列 { f ( xn ) }={ f ( x1 ) , f ( x2 ), f ( x3 ),…}がA収束する)

cf. 普通の極限/右極限の場合、
※利用例:関数の左連続性を単調増大列の収束へ言い換え、     [加古『自然科学の基礎としての微積分』3.2節連続関数:定理3.1(注意)における示唆(p.31);]


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[証明:PQ]

   命題P関数の左極限の、数列の収束への言い換えの命題Qここで証明すべき定理の命題Q  

[証明:QP]

仮定Q:・f (xn) A n→∞ )        …(1)
     ただし、数列 { xn }は、
       
xnx0 n→∞ )       …(2)
       x1x2x3<…<xn<…<x0   (3)
     を満たす限りで任意の数列(をどのようにとってもよい)
結論P:  f (x)A (xx00)        …(4)
(方針):QPを示すために、その対偶、すなわち「Pが不成立」⇒「Qが不成立」を示す。
 結論
P(4): f (x)A (xx00)」が成り立たないなら、
 仮定
Q(1): f (xn)A n→∞ )({ xn }は、(2)(3)を満たす限りで任意の数列)」も成り立たない、 
 ことを示す。
本論
(step1) Pが成り立たない」「(4)が成り立たない」という仮定の確認。[中内『ろんりの練習帳118-122]
(4): f (x)A (xx00)が成り立たない」と仮定する。
この仮定は、
左極限の定義を用いて正確にとらえると、
  任意の(どんな)実数ε0に対して(でも)、
          「 −δ<
xx0 0ならば、 | f(x)A|<ε0 」
      すなわち「 
x ( x0−δ, x0 )ならば、 f(x) ( A−ε0,A+ε0)  」
  を任意の
xについて成り立たせる、ある実数δが存在するということ
否定、すなわち、¬ ( ( ε0 0 ) ( δ>0 ) ( x ) ( −δ< xx00 | f (x)A|<ε0) ) となる。
 
* * * 
これは、

      「 −δ< xx0 0ならば、 | f(x)A|<ε0 」
  すなわち「 
x ( x0−δ, x0 )ならば、 f(x) ( A−ε0,A+ε0)  」
  を任意の
xについて成り立たせる、ある実数δが、
  任意の(どんな)
実数ε0に対して(でも)、存在するとは限らない
ということを意味するので、
      「 −δ< xx0 0ならば、 | f(x)A|<ε0 」
  すなわち「 
x ( x0−δ, x0 ) ならば、 f(x) ( A−ε0,A+ε0)  」
  を任意の
xについて成り立たせる実数δを存在させないような実数ε0(少なくとは一つは)存在する
と書き換えられる。
厳密に言えば、前の論理式を、
¬ ( A(x) x P(x) )(A(x) x) (¬P(x) )が言い換え可能であることを用いて、  
( ε00 ) ¬ ( ( δ>0 ) ( x ) (−δ< xx00 | f (x)A|<ε0 ) )
と書き換えられる、となる。
 
* * * 
「…を成り立たせる正の実数δを存在させない」というのは、「どんな風に正の実数δをとっても…を成り立たせない」といっても同じことなので、先の命題は、
      「 −δ< xx0 0ならば、 | f(x)A|<ε0 」
  すなわち「 
x ( x0−δ, x0 )ならば、 f(x) ( A−ε0, A+ε0)  」
  を任意の
(すべての)xについて成り立たせることを、
  
どんな風に正の実数δをとっても成り立たせない実数ε0(少なくとは一つは)存在する」
と書き換えられる。
厳密に言えば、前の論理式を、
¬ ( A(x) x P(x) )(A(x) x) (¬P(x) )が言い換え可能であることを用いて、
( ε0 0 ) ( δ>0 ) ¬ ( ( x ) ( −δ< xx00 | f (x)A|<ε0 ) )
と書き換えられる、となる。
 
* * * 
「『…を
任意の(すべての)xについて成り立たせること』を成り立たせない」というのは、「…を成り立たせないxが少なくとも一つ存在する」といっても同じことなので、先の命題は、
      「 −δ< xx0 0ならば、 | f(x)A|<ε0 」
  すなわち「 
x ( x0−δ, x0 )ならば、 f(x) ( A−ε0, A+ε0)  」
  を
成り立たせないxを、どんな風に正の実数δをとろうが、少なくとも一つ存在させる
  
実数ε0(少なくとは一つは)存在する」
と書き換えられる。
厳密に言えば、前の論理式を、
¬ ( A(x) x P(x) )(A(x) x) (¬P(x) )が言い換え可能であることを用いて、
( ε00 ) ( δ>0 ) ( x ) ¬ ( −δ< xx00 | f (x)A|<ε0 )
と書き換えられる、となる。
 
* * * 
    「 −δ<
xx0 0ならば、 | f(x)A|<ε0 」
すなわち「 
x ( x0−δ, x0 )ならば、 f(x) ( A−ε0,A+ε0)  」
を成り立たせ
ない、とは、
    「 −δ<
xx0 0なのに | f(x)A|<ε0 でない
すなわち「 
x ( x0−δ, x0 )なのに  f(x) ( A−ε0,A+ε0) でない
という命題が
成立することであるから、
先の命題は、
      「 −δ< xx0 0なのに、 | f(x)A|<ε0 でない
  すなわち「 
x ( x0−δ, x0 ) なのに、 f(x) ( A−ε0, A+ε0) でない
  を
成り立たせるxを、どんな風に正の実数δをとろうが、少なくとも一つ存在させる
  
実数ε0(少なくとは一つは)存在する
と書き換えられる。
厳密に言えば、前の論理式を、
¬(AB)A∧¬(B)が書き換え可能であることを用いて、
( ε00 ) ( δ>0 ) ( x ) ( −δ< xx00 かつ ¬( | f (x)A|<ε0 ) )
と書き換えられる、となる。
 
* * * 
 「 
| f(x)A|<ε0 でない」すなわち「f(x) ( A−ε0,A+ε0) でない」は、もちろん、
 「 
| f(x)A|≧ε0 である」すなわち「f(x) ( A−ε0,A+ε0) 」 のことだから、
先の命題は、
      「 −δ< xx0 0なのに、 | f(x)A|≧ε0 」
  すなわち「 
x ( x0−δ, x0 )なのに、 f(x) ( A−ε0,A+ε0) 」
  を成り立たせる
xを、どんな風に正の実数δをとろうが、少なくとも一つ存在させる
  
実数ε0(少なくとは一つは)存在する」
と書き換えられる。
厳密に言えば、
( ε00 ) ( δ>0 ) ( x ) (−δ< xx00 かつ ( | f (x)A|≧ε0 ) ) (5)
 * * * 
先の命題は、
  | f(x)A|≧ε0 すなわち f(x) ( A−ε0,A+ε0) 
  を
成り立たせるx( x0−δ, x0 )、どんな風に正の実数δをとろうが、少なくとも一つ存在させる
  
実数ε0(少なくとは一つは)存在する
と書き換えられる。
厳密に言えば、前の論理式を、
( A(x) x ) P(x)と∃x ( A(x) P(x) )が書き換え可能であることを用いて、  
( ε00 ) ( δ>0 ) ( x( x0−δ, x0 ) ) (| f (x)A|≧ε0)
と書き換えられる、となる。
 これは、
 δを調整して
( x0−δ, x0 )をどうとっても、
 
( A−ε0 , A+ε0)の範囲からf(x)を飛び出させるx( x0−δ, x0 )を少なくとも一つ存在させるε0が存在する
 ことを、意味している。
以上、「
P(4): f (x)A (xx00)』が成り立たない」という仮定の正確な意味を書き下していった。
(step2-1) Pが成り立たない」「(4)が成り立たない」という仮定のもとで、ある数列が存在する。
Pが成り立たない」「(4)が成り立たない」という仮定は、(5)で示したように、
ε
0をうまく選べば、「−δ< xx00 かつ | f (x)A|≧ε0 を満たすxが、その具体的な値などは不明であるもののとにかく、δをどんな正数にしようとも、確かに存在することを意味していた。
すると、このε
0のもとで、「−δ< xx00 かつ | f (x)A|≧ε0を満たすxばかりをあつめて並べた数列というのも、δ>0が何であれ、存在することになる。
δはどんな正数でもよいというのだから、たとえば、δ
=1/n(n1以上の自然数)としても、このことは成り立つ。
つまり、
(5)が存在を保証する一定の正数ε0のもとで、
  各自然数
n1に対して、
    「−
1/n xnx00」すなわち「xn ( x01/n, x0 )」を満たし、…(6)
     かつ
    「
| f(xn)A|≧ε0」すなわち「f(xn ) ( A−ε0 , A+ε0)」を満たす  …(7)
  ようなxnが存在する。
厳密にいえば、「
(4)が成り立たない」という仮定のもとでは、(5)はδ>0任意として成立するのだから、
  
(5)にδ=1/n(自然数n1)を入れて、
           
( ε00 ) ( xn ) ( 1/n < xnx00かつ ( | f (xn)A|≧ε0 ) )
      すなわち、 ( ε00 ) ( xn ( x01/n, x0 ) ) (| f (xn)A|≧ε0)
  としても「(4)が成り立たない」という仮定のもとで成り立つことになる     
だから、
(5)が存在を保証する一定の正数ε0のもとで、(6) (7)を満たすxnを選んできて、
それを、
x1, x2,xn,…というように並べてつくった数列 { xn }というのも存在することになる。
なお、
数列 { xn } (6)を満たすことから、
      
xnx0 n→∞ ) かつ 任意nN についてxnx0  …(6')
   も満たすことを、ここで確認しておく。
(step2-2) Pが成り立たない」「(4)が成り立たない」という仮定のもとで、ある単調増大列が存在する。
上記の数列 { xn }は、単調増大列とは限らない。
たとえば、
x1= x00.1, x2= x00.4 で、x1 x2 となるような数列 { xn }も、
 
(7)についてはともかくとして、(6)は満たす。
ここでは、上記の
数列 { xn }から、下記の選別ルールにしたがって、一定の項を排除し、一定の項を残すことで、単調増大列となる部分列m}を作る。
  
(選別のルール)
  ・
nよりも小さな任意の自然数kに対して、xkxnを満たす
            
(つまり、xnxn-1, xn-2,, x3, x2, x1より大きい)
   数列 { xn }の項だけを残し、
  ・
nよりも小さな任意の自然数kに対して、xkxnを満たさない
            
(つまり、xnxn-1, xn-2,, x3, x2, x1よりも小さいか、等しい)
   数列 { xn }の項を排除する。
ここで、
数列m}の性質を確認しておく。
・λ
m x0 n→∞ )…(8)
  なぜかというと、
  
(6')より、数列 { xn }はx0に収束する
  
収束する数列の任意の部分列は収束するから、
  
数列 { xn }の部分列である{λm}もx0に収束する。 
・λ
1<λ2<λ3<…<λn<…<x0    …(9)
  なぜかというと、
  
(6')より、任意のnN についてxnx0  
  ここから、上記のルールで選別して、
単調増大列となるから、
  
(9)がえられる。
(5)が存在を保証する一定の正数ε0のもとで、全てのmに対して、f (λm)は、
 「
| f (λm)A|≧ε0」すなわち「f (λm ) ( A−ε0 , A+ε0)」を満たす  …(10) 
  なぜかというと、
  
数列m}の全ての項は、もともと数列{ xn }の項。
  そして、
数列{ xn }の項はすべて(7)を満たす(というか、(7)を満たすものだけを選んだのが{ xn })
  だから、
数列m}の全ての項は、(7)を満たす。
(step3) Pが成り立たない」「(4)が成り立たない」という仮定のもとで存在する「ある単調増大列」が「Qが成り立たない」ことを証明する。
(5)が存在を保証する一定の正数ε0のもとで(6) (7)を満たすxnを並べた数列 { xn }から、
step2-3でつくった部分列m}は、(8)より(2) (9)より(3)を満たしている。
しかし、その
fによる f (λ1), f (λ2),…を並べた数列{ f (λm) }(10)より
  
(1): f (λm)A n→∞
  すなわち、
任意実数εに対して、
            
「 nNならば、 | f (λm) A |ε 」
       を成り立たたせるある
自然数Nが存在する 
を満たさない。
数列{ f (λm) }は、(5)が存在を保証する一定の正数ε0のもとで| f (xn) A |εとなるxnをわざわざ選んできて並べた数列の部分列なのだから。
 
* * * 
Qは、(2)(3)を満たす全ての数列に対して(1)が成立することを主張する命題であるから、
(2)(3)を満たすのに(1)が成立しないという反例が一つでもあれば、否定される。
(5)が存在を保証する一定の正数ε0と、
そのε
0のもとで(6) (7)を満たすx1, x2,xn,…を並べた数列 { xn }の部分列m}の存在は、そのような反例となる。
 
* * * 
以上から、
QPの対偶、すなわち、
 結論
P(4): f(x)A (xx00)」が成り立たないなら、
 仮定
Q(1): f (xn)A n→∞ )({ xn }は、(2)(3)を満たす限りで任意数列)」も成り立たない、 
が示された。
ゆえに、
QP、すなわち、
 仮定
Q(1): f (xn)A n→∞ )({ xn }は、(2)(3)を満たす限りで任意数列)」が成り立てば、
 結論
P(4): f(x)A (xx00)」も成り立つ、
が示されたことになる。


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