2011年10月31日(月)〜11月4日(金)ナイロビ
水銀条約第3回政府間交渉会議(INC3)
化学物質問題市民研究会 参加報告


報告:安間武 (化学物質問題市民研究会)
掲載:2011年11月8日(第一報)
更新:2011年12月30日
「14条 汚染サイト」当研究会メモ/意見を更新
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/INC3_CACP/INC3_Report.html


水銀条約条約の制定に向けた政府間交渉委員会第3回会合(INC3)2011年10月31日(月)〜11月28日(金)ナイロビ、ケニア
各国政府代表、国際機関、NGO、オブザーバーが約130ヵ国・地域から約600名参加

 内容

  1.はじめに
    ■水銀条約制定の経緯
    ■INC3 概要
    ■INC3 会議議題
    ■UNEP条約ドラフト・テキスト
    ■IPEN及びZMWGの見解
    ■毎日の典型的なスケジュール
    ■INCの進行プロセス(11/12/03)
    ■開催期間中のプログラム/イベント概要

  2.発言/討議内容/結果
    ■INC3 の論点 (11/12/03)
      ◆全体 (11/12/03)
      ◆主要項目 (11/12/03)
    ■水銀条約第3回政府間交渉会議(INC3)IISD レポートの紹介
      ▼地域グループ/各国/NGOの一般的意見
      ▼条項毎の地域グループ/各国/NGOの発言/第1条〜第22条bis.
      ▼INC3の簡潔な分析 (11/12/03)
    ■第13条 廃棄物(IPEN 意見)
    ■第14条 汚染サイト
      ▼当研究会メモ/意見 (11/12/27)
      ▼IISD報告抜粋
      ▼IPEN 意見

  3.国際NGOの参加
    ■参加NGO
    ■NGO 発表資料
    ■本会議におけるNGOの発言
    ■NGO準備会合
    ■IPENブース(写真)
    ■ZMWGブース(写真)
    ■IPEN キャンペーン:金の真のコストは何か?(11/11/15)
    ■参加 NGO ウェブサイトにリンク(レポート、写真など)

  4.テクニカル・ブリーフィング
  5.報道/報告



1.はじめに

■水銀条約制定の経緯

 国連環境計画(UNEP)は2001 年以来、水銀問題に対応するための活動を展開しています。2002 年、世界水銀アセスメント報告書を発表したUNEP は、水銀の放出はヒト健康に有害影響を及ぼし、環境生態系と経済を損なうかもしれないと言及しました。この重要な報告は、水銀汚染への世界の継続的な取り組みをもたらしました。
 管理理事会(GC)における様々な決議を経て(注1)、2009年の第25回管理理事会(GC25)において、水銀に関する世界的な法的拘束力のある文書を準備するためにの政府間交渉委員会(INC)を召集すること及び2013年の第27回管理理事会/グローバル閣僚級環境フォーラムまでに完成させることという目標の下に、下記スケジュールで2010 年に作業を開始しました。

注1:当研究会報告書「水俣と世界水銀条約」3.水銀条約について(12〜15頁)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/Shiryou/Minamata_and_Global_Hg_Treaty_jp.pdf

2009年2月UNEP 第25回管理理事会:法的拘束力のある条約制定とINC召集を決定
2010年6月7日〜11日第1回政府間交渉会合(INC1):ストックホルム、スウェーデン
2011年1月24日〜28日第2回政府間交渉会合(INC2):千葉、日本
2011年10月24日〜11月4日第3回政府間交渉会合(INC3):ナイロビ、ケニヤ
2012年6月25日-29日第4回政府間交渉会合(INC4):ウルグアイ(プンタ・デル・エステ)
2013年初め第5回政府間交渉会合(INC5):スイス又はブラジル
2013年2月UNEP 第27回管理理事会へ報告
2013年後半外交会議(条約採択/署名):日本

■INC3 概要
  • 2011年10月31日(月)から11月4日(金)まで、ケニアのナイロビで、UNEPによる「水銀条約条約の制定に向けた政府間交渉委員会第3回会合(INC3)」が開催され、各国政府代表、国際機関、NGOs、オブザーバーが約130の国・地域から約600名が参加しました。
  • INC3開始前日の30日(日)には同じくUNEPによる「テクニカル・ブリーフィング」が開催されました。
  • INC3開催期間中の毎日、本会議開始前の1時間、関連地域会合(注2)が開催されました。
  • INC3開催期間中、重要条項を専門的に討議するコンタクト・グループ(注3)が設立され、ランチタイム及び本会議終了後の夜、精力的に討議が行なわれました。
  • これらの会議には、NGOの参加が許されました。
  • NGOsは、これらの会議に先立つ10月29日(金)に、NGO準備会合を開催しました。

注2:地域・グループ会合
アフリカ地域、アラブ地域、アジア・太平洋地域、中央・東ヨーロッパ地域、ラテンアメリカ・カリブ海諸国地域(GRULAC)、西ヨーロッパ・その他の地域、JUSCANZ グループ(日、米、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド)

注3:コンタクト・グループ
、[1]人力小規模金採鉱(ASGM)、[2]水銀添加製品及び製造プロセス、[3]大気への排出・水及び土壌への放出、[4]保管、廃棄物及び汚染サイト、[5]資金及び技術・実施支援、[6]普及啓発、研究及びモニタリング、情報の伝達の6分野、及び、法律専門家グループ(リーガル・グループ)

■INC3 会議議題

  1.開会
  2.組織事項
  (a)議題採択
  (b)作業組織
  3.水銀に関する法的拘束力のある文書の準備
  4.その他の事項
  5.報告書の採択
  6.閉会

■UNEP条約ドラフト・テキスト

 会議議題のうち、「3.水銀に関する法的拘束力のある文書の準備」が中心議題であり、UNEP事務局が準備した水銀に関する法的拘束力のある新たなドラフト・テキスト(*)の条項にそって討議されました。
 (*)UNEP(DTIE)/Hg/INC.3/3 水銀に関する法的拘束力のある国際的文書への 包括的で適切なアプローチのための新たなドラフト・テキスト (英語版日本語訳版
 このドラフト・テキストはINC2及びその後の各国の意向を取り込んでいるために、多くのオプション・代案が複雑に入り組んでいました。INC3では、このドラフト・テキストを討議してオプション・代案の範囲を絞り込み、条約案を固めることが大きな目標でした。事務局はINC3の結果と、その後に各国から寄せられる文書によるコメントに基づき、次回INC4での議論のための条約案をINC4開催前に作成します。

A 前文 
B はじめに 
C 供給Annex A 水銀供給源
D 水銀の国際貿易Annex B 国際貿易措置対象
E 製品とプロセスAnnex C 水銀添加製品|Annex D 製造プロセス
F 人力小規模金採鉱Annex E 人力小規模金採鉱
G 大気排出と水と陸地への放出Annex F 非意図的大気排出|Annex G 水及び陸地への水銀放出源
H 保管、廃棄物、汚染サイトAnnex H 環境的に適切な保管に関する[ガイダンス][要求の策定]
I 財源と技術的及び実施支援 
J 意識向上、研究と監視、情報伝達 
(以下省略)

■IPEN及びZMWGの見解

 ドラフト・テキストについて、IPEN と ZMWG は、INC3に先立つ10月上旬に、それぞれ組織としての見解と勧告を発表しので、当研究会は日本語版を下記ウェブページに掲載しました。尚、当研究会は汚染サイトに対する IPEN の見解作成に参加しました。
■毎日の典型的なスケジュール

 毎日の典型的なスケジュールは下記の通りであり、早朝から夜遅くまでの非常にハードなスケジュールでした。
  • 8時〜9時:NGO会議
  • 9時〜10時;各地域会合(当研究会はアジア太平洋地域会合を傍聴)
  • 10時〜13時:本会議
  • 14時〜15時:分野毎の専門グループ会合(当研究会は、保管・廃棄物・汚染サイト及び製品・プロセスの会合に参加)
  • 15時〜18時:本会議
  • 20時〜23時:分野毎の専門グループ会合(当研究会は、保管・廃棄物・汚染サイト及び製品・プロセスの会合に参加)
■INCの進行プロセス (11/12/03)
 INC会合前後を含めた進行プロセスは、概ね下記のように示すことができます。
  1. 事務局:条約のテキストを準備(3か月前)
  2. 各国政府及びNGO:このテキストをINCまでに精査 (当研究会による日本語訳)
  3. NGO:見解書作成(1ヶ月前)(IPEN / ZMWG) (当研究会による日本語訳)
  4. NGO:発言者をNGO戦略会議で決定
  5. 各国政府及びNGO:本会議で条項毎に代表が発言
  6. 重要条項にコンタクト・グループ”立ち上げ
  7. 集中的にその条項を討議し、意見を事務局に提出
  8. 事務局:コンタクト・グループからの意見、及びINC後の各国からの意見を取りまとめて、次回のINCでの討議のために、新たな条約テキスト案を作成
■開催期間中のプログラム/イベント概要
  • 10月29日(土)午前:ZMWG準備会合
  • 10月29日(土)午前:IPEN準備会合
  • 10月29日(土)午後:NGO全体準備会合
  • 10月29日(土)夜:NGO夕食会(IPEN/ZMWG主催)
  • 10月30日(日)朝:NGO会議 午前:テクニカルブリーフィング
  • 10月30日(日)午後:各地域会合、NGOブース設営(IPEN、ZMWG、その他NGO)
  • 10月30日(日)夜:パーティ(スイス政府主催)
  • 10月31日(月)朝:NGO会議 午前/午後:本会議/NGO発言 夜:コンタクトG会議
  • 10月31日(月)夜:パーティ(ケニア政府主催)
  • 10月31日(月)IPEN 及び ZMWG プレスリリース発表
  • 11月1日(火)朝:NGO会議|地域会合 午前/午後:本会議/NGO発言 夜:コンタクトG会議
  • 11月2日(水)朝:NGO会議|地域会合 午前/午後:本会議 夜:コンタクトG会議
  • 11月2日(水)ランチタイム:Gold Coin Action (IPEN)夕方:NGOブース撤去
  • 11月3日(木)朝:NGO会議|地域会合 午前/午後:本会議 夜:コンタクトG会議
  • 11月4日(金)朝:NGO会議|地域会合 午前/午後/夜:本会議 午後/夜:コンタクトG会議
  • 11月4日(金)ZMWG プレスリリース発表
  • 11月5日(土)IPEN プレスリリース発表

2.発言/討議内容/結果
■INC3の論点 (11/12/03)

◆全体 (11/12/03)
INC3 の全体を支配する大きな論点は次の2点に絞ることができる。
  • 条項は義務的か?/自主的か?
    • 途上国:義務的な規制措置は社会経済的な現実に責任を持たず、不適切であり非現実的である。
    • 先進国:条約は法的拘束力のあるものとして意図されている。自主的な措置は水銀の大排出のような条約の極めて重要な領域の成功を危うくする。
  • 資金メカニズムは条約遵守の条件か?
    • 途上国: 財政的援助がなければ条約を遵守することは難しい。
    • 先進国: 財政的援助がないことを条約不遵守の理由にすべきではない。
◆主要項目 (11/12/03)

▼水銀供給と貿易
  • 一次採鉱からの水銀輸出は禁止か? 条件付で許可するか? (NGOは禁止を支持)
  • 中国は水銀貿易の廃絶に反対。
▼製品とプロセス
  • リストされていなければ、すべて禁止か?リストされていなければ、許されるか?(NGOはリストされていなければ全て禁止するネガティブ・リスト・アプローチを支持)
  • 水銀含有量で規制すべきか?
  • ワクチン中の水銀は規制すべきか?
▼大気排出と土壌及び水への放出
  • 排出と放出は二つの個別の条項にすべきか? 又はひとつの条項に統合すべきか? (NGOは統合を支持)
  • 著しい総水銀量による規制"は人口の多い国に不利と、インド、中国などが主張
  • 中国は、段階的な自主的削減を主張
  • 石油及びガス・プロセスは排出源として含めるか? 否か? (多くの途上産油国は含めないを支持、NGOは含めるを支持)
▼ASGM(人力小規模金採鉱)
  • 財政援助と連動する自主的な水銀規制か? 義務的な規制か? (NGOは、国家行動計画に基づく義務的な規制を主張)
▼廃棄物
  • 水銀廃棄物管理はバーゼル条約に任せるのか? 水銀条約で管理するのか?(NGOは、水銀条約での管理を主張)
▼汚染サイト
  • NGOは、汚染者負担の原則に基づき、汚染サイトと被害者に対する責任を明確にし、修復と補償を義務付け、コスト負担を汚染者に求めた。
  • コンタクト・グループの結論では、汚染サイトの修復は自主的なものとし、被害者への責任と補償の記述は削除された。
  • ちなみに、このコンタクトグループの共同議長を務めたカナダは、日本の水俣病と同様に、オンタリオ州にパルプ工場がもたらした有機水銀汚染サイトと先住民の有機水銀中毒被害の問題を抱えている。
■IISDレポート紹介
 INC3における本会議でのドラフト・テキストの各条項の討議内容を報告したInternational Institute for Sustainable Development (IISD)の報告書の一部を抜粋/抄訳して IISD レポートとしてまとめたので紹介します。

地域グループ/各国/NGOの一般的意見
条項毎の地域グループ/各国/NGOの発言
  ▼第1条 目的
  ▼第1条 bis.  他の国際的な合意との関係
  ▼第2条 定義
  ▼第3条 供給
  ▼第4条及び5条 水銀の国際貿易;及び水銀の非締約国との貿易
  ▼第6条 水銀添加製品
  ▼第7条 水銀が使用される製造プロセス
  ▼第8条 bis. 途上国の特別な状況
  ▼第9条 人力小規模金採鉱(ASGM)
  ▼第10条、第11条、第11条alt. 大気排出;水と陸地への放出;非意図的排出と放出
  ▼第12条 保管
  ▼第13条 水銀廃棄物
  ▼第14条 汚染サイト
  ▼第15条 財源とメカニズム(11/11/22)
  ▼第16条 技術的援助(11/11/22)
  ▼第16条 bis. パートナーシップ(11/11/22)
  ▼第17条 実施(11/11/22)
  ▼第18条 情報交換|第19条 公開情報、意識向上、教育|第20条 研究、開発、監視(11/11/22)
  ▼第20条 bis. 健康の側面 (11/11/22)
INC3の簡潔な分析(11/12/03)
  ▼条約文書のスリム化 (11/12/03)
  ▼断層線(11/12/03)
  ▼オーナシップ(11/12/03)
  ▼ここからどこにいくのか? (11/12/03)


■第13条 廃棄物
▼IPEN 意見
(IPEN What Happened at Mercury INC3? より抜粋)
  • 水銀条約にバーゼル条約の”全て”の条項を適用するのか、又は”関連”条項を適用するのかについて合意に達しなかった。テキストは、水銀条約の下に新たなガイドラインを策定するのではなく、むしろバーゼル・テクニカル・ガイドライン(BTG)を修正する方向にある。
  • カナダの共同議長は、バーゼル条約に全ての責任を持たせる方向に物事を進めようと動いたが、廃棄物に関するバーゼル・ガイドラインをどのように適用するかについて合意に達しなかった。
  • 水銀含有廃棄物の発生を最小にする又は防止するという条項がない。本件は、フィリピンにより作成され、スイスにより支持された提案をINC4で検討する時に再び審議されるであろう。
  • 責任と補償に関する措置がない。
  • 汚染者負担の原則の適用がない。
  • 廃棄物に関する国家実施計画(NIP)の要求がない。ドラフト・テキストにはあったが、コンタクト・グループにより削除された。
  • 全体としてドラフト・テキストは弱められ、”自主的”及び”実行可能なら”というアプローチの方向に動いている。
■第14条 汚染サイト
▼化学物質問題市民研究会メモ/意見 (11/12/30)更新

  • ドラフト・テキストの概要
    • サイトを修復するよう努力しなくてはならない(shall endeavour to)という自主的な要求、又は、サイト修復をしなくてはならない(shall)という義務的な要求のどちらかの選択を提案している。
    • 汚染サイトを特定し、評価し、優先付け、修復するための戦略及び方法論を開発し、実施するために、協力 [してもよい(may)] という自主的な要求、又は、[しなくてはならない(shall)]という義務的な要求のどちらかの選択を提案している。
    • [利用可能な最良の技術及び最良の環境的慣行] 又は[汚染サイト管理の原則] に関する ガイダンスを開発しなくてはならないとしている。
    • ドラフト・テキストには、水銀汚染被害者及び汚染サイトへの責任と賠償に関する記述がない。

  • NGOの提案(当研究会)
    • 汚染サイトの目録作成と汚染状況を明らかにすることを義務付けること。
    • 汚染サイトの修復コストと被害者に対する適切な補償を支払うことを義務付けること。
    • リオ原則10:情報へのアクセス;リオ原則13:汚染の被害者とその他の環境ダメージのための補償;リオ原則16:汚染者負担原則−を含むこと。
    • 水銀汚染物質が汚染サイトの修復のために除去されるときには、それらが引き続き汚染源となることを防ぐために、環境的に適切な方法で収集され、運ばれ、処理され、管理されること。
    • 汚染サイト修復の結果として生成される廃棄物の安全な管理のために、ガイダンスが開発され、第13条(廃棄物)に従う修復廃棄物の安全な管理がなされること。
    • 150万立方メートルの汚染スラッジが"仮埋立地"ということで水俣湾にまだ存在する現在の水俣のサイトにも適用されること。

  • コンタクト・グループの討議の結果:大きく後退
     当研究会は、このコンタクト・グループの会合を全て傍聴し、11月3日(木)には第14条に義務的な補償と修復を含めることを求める発言をしました。しかし、このコンタクト・グループの討議の結果は、下記に概要と詳細を示すように、当初のドラフト・テキストよりさらに大きく後退したもので、大変失望させられました。

  • コンタクト・グループ提案の概要:(11/12/27)更新
    • 汚染サイトの修復についての記述が削除され、汚染サイトの特定/評価のため戦略を開発するよう努力しなくてはならないという自主的な要求だけへと大きく後退した。
    • 汚染サイトによるリスク削減は、[適切なら]汚染による人と環境へのリスクを反映しつつ、環境的に適切な方法で実施されなくてはならないという具体性のない曖昧な表現が付け加えられた。
    • 義務的な汚染サイトの調査は求めず、汚染サイトの特定/評価はオプションとする汚染サイト管理の原則に関するガイダンスの採択又は開発を求めるだけである。
    • 水銀汚染被害者及び汚染サイトへの責任と賠償/汚染者負担の原則の適用に関する要求が含まれていない。
    (注)コンタクト・グループ 共同議長:アン・ダニエル (カナダ) 、アビオラ・オラニペクン(ナイジェリア)
    メンバー:オーストラリア、カナダ、ジャマイカ、日本、メキシコ、ナイジェリア、ノルウェー、アメリカ

  • コンタクト・グループ提案の詳細:(11/12/27)追加
    第14条 汚染サイト
    1. 各締約国は、水銀及び水銀化合物で汚染されたサイトを特定し、評価するための適切な戦略を開発するよう努力しなくてはならない。

    2. そのようなサイトにより引きこされるリスクを低減するためのどのような行動も、[適切ならば、]サイトが含む水銀及び水銀化合物からの人の健康と環境へのリスクの評価を反映しつつ、環境的に適切な方法でなされなくてはならない。

    3. 代案1 締約国会議は、汚染サイト管理の原則に関する指針を[採択しなくてはならない][開発してもよい]。

    3.代案2 締約国会議は、下記を含む汚染サイト管理の原則に関する指針を[採択しなくてはならない][開発してもよい]。

    (a) [適用可能なら][実行可能なら][、参照値及び濃度制限値の使用を通じることを含んで]汚染サイトを特定し、評価すること。

    [(a) bis 実行可能なら、地域及び国家の参照値及び濃度制限値及び[曝露レベル]を開発するための方法論。

    (b) 水銀汚染の拡大を防止すること。

    (c) 汚染サイト、特に人と環境に著しいリスクを呈するようなサイトを管理し、実行可能で経済的に見込みがある場合には、修復及び回復すること。]

    4. 締約国は、能力構築、財政的及技術的援助の条項[に従い][を通じることを含んで]、汚染サイトを特定し、評価し、優先付け、管理し、[適切なら]修復し回復するための戦略と方法論を開発し実施することに協力[しなくてはならない][してもよい]。

  • 第14条 汚染サイトの議論に対する当研究会の意見(11/12/30)更新

    • 水銀条約は、被害が起きた後の対応を含めて、このような悲劇が二度と起きないようにするために「水俣の教訓」を反映した条約となるべきはずのものである。

    • しかし、”汚染サイトへの責任と修復”、”被害者への責任と補償”、及び”被害の全貌解明のための徹底的な調査”が述べられていない条約は、「水俣の教訓」が反映されていないということであり、このような条約に「水俣条約」と命名することは、水俣の被害者の尊厳と水銀条約の権威を損なうものである。

    • しかし、日本政府はINC3において、これら「水俣の教訓」を第14条に反映すべきと要求しなかった。また、「水俣の教訓」が反映されないコンタクトグールプの結論に反対することもなかった。

    • このような結果となったのは、日本を含んで資金提供(ドナー)国が汚染サイトの修復及び犠牲者への補償のために発生するコストを危惧したたこともひとつの大きな要因であると考えられる。

    • 日本政府は先の幕張でのINC2のオープニングセレモニーで水俣の被害をハイライトしたが、これは「水俣の教訓」を条約に生かすという決意の現われではなかったのか?

    • 日本政府は「水俣の教訓」をどのように理解しているのか改めて問い質すとともに、「汚染サイト」の条項に、汚染者負担の原則に基づき、”汚染サイトへの責任と修復”、”被害者への責任と補償”、及び、”被害の全貌解明のための徹底的な調査”という「水俣の教訓」が反映されるよう、最大限の努力をすることを強く要望する必要がある。

    • 次回INC4(2012年6月ウルグアイ)に向けて、国際NGOとともに、この条項を強くすることを改めて強く主張する必要がある。

    • このままでは、水俣の被害者に対する責任と補償、水銀汚染ヘドロの埋立地及び八幡プールの汚染の義務的な修復、及び水俣病の全貌を解明するための徹底的な調査は、水銀条約の下ではカバーされなくなる。すなわち、水俣の補償問題はほぼ解決し、水俣の汚染はよく管理されていると主張し、「水俣条約」の命名を掲げる日本政府の思惑通り、このままでは、これらを条約の下に実施する義務がなくなる。したがって、たとえ水銀条約の要求がなくても、これら水俣の未解決の問題を必ず解決するよう国、県、チッソに強く求めていく必要がある。

▼IISD 報告
(IISD 報告より抜粋)
  • EU、ペルー、アメリカ、アフリカG、アルゼンチン、日本は、オプション1 に賛意を示したが、そこでは、締約国は特に、汚染サイトを環境的に適切な方法で修復することを求め;財政的及び技術的援助を通じることを含んで、修復のための戦略の開発及び実施への協力を求め、締約国(COP)が汚染サイトを特定し評価し水銀汚染を防止し、汚染サイトを管理するためのガイドラインを開発することを求めている。

  • 日本は、汚染サイトの修復、復帰、封じ込め、又は”管理”は個別のケース毎に行われるべきであると述べた。

  • イラクは、ヨルダンに支持されて、汚染サイトの目録を求め、これらの目録の開発を促進するために財政的及び技術的援助の必要性を強調した。アジア太平洋Gは、財政的及び技術的援助が汚染サイトの問題に対応するために必要であることを強調した。

  • アメリカは、汚染サイトの義務的修復のどのような提案も実施するのにコストがかかり過ぎ、他の重要な分野、特に大気排出に向けるべきリソースを取り上げることになるであろうと言及し、汚染サイトのための国家レベルでの規制を求めた。

  • ”汚染者負担原則”に関してギニアは、いくつかの途上国では汚染者が国を去ってしまい、彼らは最早汚染サイトに責任を持たないことを政府代表者らに伝えた。日本の化学物質問題市民研究会(Citizens Against Chemicals Pollution)は、廃棄物と汚染サイトに取り組む時には”汚染者負担の原則を適用することの必要性を含んで、”水俣の悲劇の経験を適用することを政府代表者らに求めた。

  • ルグリス議長は、Anne Daniel (カナダ) と Abiola Olanipekun (ナイジェリア) を共同議長とする保管、廃棄物、汚染サイトに関するコンタクト・グループを立ち上げた。同コンタクト・グループは、火曜日、水曜日、木曜日に会合をもった。金曜日に共同議長ダニエルは、同グループは共同議長のテキストを議論のベースとして使用したことを強調しつつ、共同議長への提出文書のアネックス(UNEP(DTIE)/Hg/INC.3/CRP.21)(訳注1)を含む同グループの作業を発表した。彼女は、INC3 後に対応すべき未解決の問題は、作業がバーゼル条約と重複しない又はそれに反しないこと;”処分”という用語を定義すること、及び”廃棄水銀以外の水銀”という言い回しを再検討すること含むと述べた。彼女は、これらの問題は、INC4で解決されるであろうと述べた。共同議長オラニペクンは、著しい進捗が得られたと言及し、政府代表者らがコンタクト・グループでの作業で示した協力的な態度に感謝の言葉を述べた。

  • ルクリス議長は、アネックス中で示される新たなテキスト(訳注1)は現在のドラフト文書中のテキストに置き換えることを提案し、政府代表者らは同意した。
▼IPEN 意見
(What Happened at Mercury INC3? より抜粋)
  • 政府代表者らは、汚染サイトに対する自主的なアプローチに同意した。第1節のテキストは、”各締約国は、水銀及び水銀化合物により汚染されたサイトを特定し評価する適切な戦略を開発するよう努力しなくてはならない”となった。これは、ストックホルム条約の文言より著しく弱く、非常に失望するものである。資金提供国はコストを考慮してこの立場を主張し、義務的条項を守る開発途上国もなかった。
  • リスクを削減するための行動が健康評価を含むべきかどうかについて合意はなかった。
  • 汚染サイトの管理に関するガイドラインが開発されるべきかどうかについて合意はなかった。
  • サイトの浄化のための義務的な行動は求められなかった。実際にオプションの言い回しは、”協力しても良い”と”適切に”実施するである。
  • 汚染者負担の原則を含めることを提案し、擁護する国はなかった。
  • 被害者への補償に関する文言はなかった。
  • 汚染サイトに関する全体のセクションは非常に弱く、INC4でもっと強く圧力をかける必要がある。

3.国際NGOの参加

■参加NGO
  • NGOの参加リストによれば、26ヶ国/51人が下記に示す関連NGO団体から参加しました。

  • 参加 NGOは概ね下記のNGO連合体に分類されます。当研究会は、IPEN 及び ZMWG 双方のメンバーとして積極的に活動しています。
    • IPEN:国際POPs廃絶ネットワーク(様々のWGがあるが、水銀は重金属WGが対応)
    • ZMWG:ゼロ・マーキュリー・ワーキング・グループ(水銀に専門性を持つ団体/個人)
    • HCWH:ヘルス・ケア・ウイズアウト・ハーム(医療関係者の団体)
    • その他の団体(歯科アマルガムに取り組む団体、先住民族の団体、人権団体など)

  • NGO参加国:アルゼンチン、アルメニア、バングラデシュ、ベルギー、ブラジル、カメルーン、カナダ、クック諸島、コートジボアール、チェコ共和国、エジプト、グリーンランド、インド、インドネシア、日本、ケニア、 レバノン、モーリシャス、メキシコ、パキスタン、フィリピン、スペイン、南アフリカ、タンザニア、アメリカ、アメリカ領ヴァージン諸島

■NGO 発表資料

  • 10月29日(土)IPEN戦略会議:当研究会パワーポイント発表資料(英文)「Update on Minamata Issues
  • 10月30日(日)〜11月2日(水)IPEN及びZMWGが各ブースでポスター/資料等展示
  • 10月31日(月)ZMWG プレスリリース ZMWG プレスリリース NGOsは世界の政府に強い水銀条約を交渉するよう強く求める日本語訳版英語版
  • 10月31日(月)IPEN-IEN プレスリリース 条約会議参加代表者ら 水銀の真のコストへの対応に取り組む−高い金価格と児童労働及び有害汚染サイト 日本語訳版英語版
  • 11月4日(金)ZMWG プレスリリース 「水銀条約交渉 断続的に前進」(日本語訳版英語版
  • 11月5日(土)IPEN プレスリリース 「条約会議参加代表者ら 水銀の真のコストへの対応に取り組む」
    日本語訳版英語版
■本会議におけるNGOの発言
IPEN グループ
  • Opening_Statement by IPEN (Manny C. Calonzo) 英語版|日本語訳版
  • Opening statement by ISACI (Imogen Ingram) 英語版|日本語訳版
  • Joint Statement IPEN, Human Right Watch and Global Indigenous People Caucus On ASGM and large-scale mining 英語版|日本語訳版
  • IPEN Statement on Mercury Trade Related to ASGM 英語版|日本語訳版
  • IPEN intervention on Waste (under Article 13) 英語版|日本語訳版
  • IPEN - ZMWG joint intervention on Storage (Dr. Shahriar Hossain) 英語版|日本語訳版
  • CACP Intervention on Article 14 Contaminated Sites (Takeshi Yasuma) 英語版日本語訳版(第14条 汚染サイト 安間武/化学物質問題市民研究会)
  • IPEN GAIA HCWH ISACI WFPHA GIPC Joint Intervention on NIPs 英語版|日本語訳版
  • GIPS Statementunder Articles_20-20bis Health Aspects 英語版|日本語訳版
ZMWG グループ
  • ZMWG INC3 Intervention on Articles 3-4 Supply and Trade 英語版|日本語訳版
  • ZMWG Intervention Points for Article 6 Products and Processes 英語版|日本語訳版
  • ZMWG Statement Article 7 Processes 英語版|日本語訳版
  • MWG Statement Article 8 Exemptions 英語版|日本語訳版
  • ZMWG Statement Article 10 Emissions 英語版|日本語訳版
  • ZMWG Statement Article 13 Waste 英語版|日本語訳版
  • ZMWG Statement Article 15 Financial 英語版|日本語訳版
  • ZMWG Statement - Awareness raising, research and monitoring, communication and information (Articles 18-23) 英語版|日本語訳版
  • SDPI-ZMWG Statement on Article 22 Reporting 英語版|日本語訳版
■NGO準備会合
2011年10月29日(土)
ZMWG INC3 戦略会議
08:30-10.30
Comfort Gardens

IPEN INC3 戦略会議
11:00-13.00
Comfort Gardens

当研究会発表
Update on Minamata Issues

INC3 NGO 合同会議
15:30-18.00
UN Complex

ディナー
19:00-21:00
サファリーホテル

■NGO会議
毎朝8:00-9:00 UN Complex

右端左女性:エレーナ・リンベリディ(EEB/ZMWG コーディネータ)、右端右男性:マニー・カロンゾ(GAIA/IPEN共同議長)

■IPENブース
Photos by Jan Jamanek, Arnika 右上のポスター:Minamata, Japan (クリックで拡大)

■ZMWGブース
Photos by Richard Gutierrez, BAN Toxics 右下のポスター:ZMWG CACP Japan (クリックで拡大)

IPEN キャンペーン:金の真のコストは何か? (11/11/15)


クリックで拡大
▼小規模金採鉱(ASGM):アジア、アフリカ、南米を中心に、世界で1,000万人近くの貧しい人々が水銀を大量に使用する小規模金採鉱(ASGM)に従事している。
▼児童労働:アフリカでは18歳未満の子どもが小規模金採鉱(ASGM)での全体労働力の30%-50%を占めている(ILO 2005)。
▼IPENはチョコレートの金貨付きカードを配付。”金の真のコストは何か?”
▼小規模金採鉱(ASGM)は、金取引業者には甘いが、子どもたちには苦い。
▼金の価格:健康、地域の汚染、児童労働の悪影響のコストは含まれていない。
IPEN 10月31日プレスリリース 条約会議参加代表者ら水銀の真のコストへの対応に取り組む


Photo by Jindrich Petrlik, Arnika

Photo by Jindrich Petrlik, Arnika

■リラックスするNGOs (11/11/15)


■参加 NGO ウェブサイトにリンク(レポート、写真など)

4.テクニカル・ブリーフィング
2011年10月30日(日)09.00〜12.30

Oil and Gas (石油とガス)
Vinyl Chloride Monomer Production(塩ビモノマー製造)
  • Current VCM situation in China and Moving toward alternative catalysts
    Sun Yangzhao, MEP China (Presentation to be made available soon)
Artisanal and Small Scale Gold Mining(人力小規模金採鉱)
Waste, Storage and Contaminated Sites(廃棄物、保管、汚染サイト)
Health(健康/水銀問題一般とチメロサールの問題)

5.報道/報告


化学物質問題市民研究会
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